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領主夫妻から話を聞き終えたシンは、彼等の思い止まるようにと言う懇願を無視して、夜になるのを待たずしてスツルタへと飛行して帰還した。
領主館の庭先での換装であったが、隠蔽と幻惑のスキルを使った為に、その姿が目撃される事は無かった。
「ストル、これ読んで。王と王妃の連名での召喚状」
シンが差し出したそれにストリクタざっと目を通す。
「随分と大仰に書いちゃいるが、シンを王の妾に差し出せって事じゃねえか。んで拒否したら俺達を処刑とか、笑わせてくれる」
そう言って凄味のある笑みを見せるストリクタのコメカミには青筋が浮かび上がっている。彼も怒り心頭の様子だ。
「ただね、少しだけ引っ掛かるんだよね」
ここで少しだけ冷静にシンが言う。
「何がだ?」
「フューダさんが王妃に言われたのは『シン殿を王宮へと連れて来て、王妃殿下に拝謁させろ』なんだってさ。それがどうして『私を王に差し出せ』になるのか意味が分からないよ」
「確かにな。でもシン、どの道カチコミかけんだろ?」
「そうだね。王と王妃の名前で出されてるんだから、こんなの寄越した責任を取ってもらいましょうか。どうやって分からせてやろうか……」
「小細工無しで正面から乗り込むで良いんじゃねえのか?」
「騒動起こしてる間に逃げられたらイヤじゃない。王城、王都ごと消し飛ばす事も出来るけどターゲットはあくまでも王族。無辜の人達まで巻き込むつもりは無いよ。それに私達に手出ししたらどうなるか吹聴して貰う人は居ないと同じ事が繰り返されると思う」
「お前そのうち魔王とか呼ばれるんじゃないのか?」
「魔王ねぇ。私はストルと生きて行ければそれで良いんだけどな。スツルタの再興だって、あなたの願いを叶える為にやってるんだもの。取り敢えずダンジョンに行って作戦を考えようよ」
そう言ってシンはストリクタにしなだれ掛かり、頭を彼の肩に預けた。
さて、召喚状がどうしてあの様な内容になってしまったのだろうか。
フューダ達との面会を終えた翌日、王妃は王にシヨリノの所有する宝飾品の素晴らしさ、うら若き冒険者を生業としている娘がそれの製作者である事、その冒険者の実力は話を聞く限りでは国内随一である事等を語って聞かせた。そして王太子の婚姻式は、その宝飾品でプリシノを飾りたいとも伝えた。
それを聞いた王は軽い気持ちで言う。
「ならば、その者に冒険者ギルドを通して指名依頼でも出して作らせれば良かろう。それにしても魔法の腕前も凄まじいとか、国軍に欲しいものであるな。しかし若い娘で夫が居るとなると、士官は無理であろうな」
「ただ依頼を出すのでは無く、プリシノに似合う物を作らせたく思いますので、一度は王城に呼んで彼女に会わせようかと」
「ふむ、では市井の者に対しては異例ではあるが
そう言って王は豪快に笑う。
「マルジェンティレ、聞いておったな? 略式で良いから、そのシンと申す冒険者への
「畏まりました」
この国の言葉では『招待』と『召喚』は発音が似ている。少し舌の位置と母音の一つが変わるだけで意味が変わってしまうのだ。そう、王は言い間違えたのだ。
更に悪い事に、略式で出される招待状や召喚状には、本来であれば王宮と言う組織からの物となる為に、王や王妃の名が記される事は無い。迂闊にもこれも王はそれを指示してしまったのである。
慣れた侍従なら、その場で内容を一言一句復唱し、王の不興を買わない言い回しで、王の言い間違いや略式でも記名が必要なのかを確認するものだ。
しかしこの侍従には問題があった。侍従に上がって間もない彼は王直々の申し付けに舞い上がり、忖度したつもりになって王と王妃の言葉を曲解した。
そこには彼の妄想も付け加えられて
更には出来上がった文面の確認して貰う事を侍従が怠った。王と王妃の連名で出されるのであるから、本来なら侍従は出来上がった文面を王に見せて確認をするべきである。
結果、フューダには侍従から命令調で伝えられ、そして曲解された妄想が含まれた最悪の内容の召喚状がシンに届けられる事になってしまったのだ。
ほぼ、この新米侍従の過失であるのは明白なのだが、王達は気付いていないし、シン達にとってはそんな事は与り知らない事である。
王と王妃はの自分達に危機が迫っている事に気付かずに過ごしていた。
さて、シンが去った後、多少混乱したものの、元々聡明であったフューダも口頭で受けた命と召喚状に書かれていた事の差異に気付いていた。
彼は不敬覚悟で急いで王と王妃に対する召喚状の真意を問う内容と、事ここに至ってはシンの出自を明かすしかないと思い併せてそれについて記した同じ内容の
これには金に糸目を付けずに、昔の日本で言うところの飛脚便と、自らが所有する船を使った。これなら飛脚便なら最速で六日、船便でも最速七日で王都へ手紙が届くはずである。二つの手段を用いたのは、万が一にもトラブルが生じたとしても、片方が無事なら確実に届けられる。
それと同時に彼自ら、再度シンを説得し思い止まらせる為に馬を飛ばしてスツルタへ向かう。
王国の危急存亡の時である。形振り構っては居られない。
そんな彼が夕刻に着いたスツルタの冒険者ギルドで見たのは、無情にも次の様な貼り紙だった。
『急用につき暫く留守にします。御用のある方は御足労をおかけますが冒険者ギルド・グランダルボ支部までお願いします』
フューダは絶望してその場に膝を付いた。
スツルタでフューダが頽れたその頃、シンとストリクタはシンのダンジョンの最奥に作られた二人だけの寝室に居た。
お出掛け前に約束した通りに一戦交えた後であり、シンはストリクタ厚い胸板に頭を預けて彼の上にうつ伏せになっている。
「ねえ、ストル。このままダンジョンに籠もっちゃおうか?」
猫が甘える様に頬や額をストリクタの胸板に擦り付けるシン。
この半年でシンには月のものが来るようになった。
その事はストリクタを喜ばせた。しかし彼らには無限と言える時間があるのでそう急ぐ必要が無いのも事実。二人で相談した結果、子供はスツルタの件が落ち着いてからと言う事になった。
一戦交えて気持ちが落ち着いたシンは、ストリクタさえ良ければこのままダンジョンに籠もって彼と子作りに励んで子供を産んで、彼と子育てをして過ごすのも良いかななどと思っていた。
彼女にとってはストリクタが全てである。この国がどうなろうと知った事ではない。スツルタの復興だって彼が望んだ事だから取り組んでいるに過ぎない。
「いや、ケジメは要るだろう。たとえ王だろうが人の嫁を奪おうってんだ。お前だってあんなに怒ってたじゃねえか」
ストリクタは節榑立った手でシンの髪を優しく撫でながら怒りの籠もった声で言う。シンにとってストリクタが全てであるように、彼にとってもシンは全てである。
彼の気持ちを撫でられながら感じて目を細めてシンは微笑みながら言う。
「正面からやっちゃおうか」
「正面からやっちまおう。逃げられたらそん時はそん時だ」
どうにも『やる』に『
「そうと決まれば正面戦闘向きに装備をちょっと弄ろうかな」
「
「幾つかパターンがあった方が格好良いじゃない。勿論、ストルのも少し変えるよ? コンセプトは姫騎士とそれを守る戦士って感じで。人前で見せる装備だから露出は少なくするから安心してね*1」
王城への訪問は、作戦も何も無い正面からのカチコミと方針は決まった。
果たしてフューダが王都へ出した警告を伴う詰問の手紙は、シン達の襲撃前に間に合うのか?
間に合ったとして、それを王族はどう判断するのか?
運命のカウントダウンは始まってしまった。
結局、暴れる所までは行けませんでした。