使命を帯びたTSダンマスは引き籠もる   作:片玉宗叱

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 スキル説明と服を作るだけで一話使うとか……。


3 終わりと始まり(2)

 気が付くと彼女(・・)は胡座の姿勢のまま宝玉(コア)を抱えて俯せになっていた。

 

『マスター、お目覚めですね。あれから一日半経過しています。知識の定着は私が確認した上では問題無しです』

 

 コアの言う事が本当なら、こんな姿勢で長時間居たら普通なら身体が固まって大変な事になっている。

 しかし彼女(・・)は身体に異常を感じられなかった。

 起き上がり暫く惚けていた彼女(・・)だが、自分の中に知らなかったはずの知識がある事に気付く。

 

「ああ、確かにしっかり在るのが分かる。まずは色々と確認してみるよ」

 

 彼女(・・)は早速、得た知識を使って意識する。

 

(ステータス)

 

 すると彼女(・・)の目の前に半透明のウィンドウが現れた。

 そこには彼女(・・)の現状を示すステータスや、地球で生前に得ていた能力等が表示されている。

 まず、彼女(・・)の目に留まったのが以下の部分だ。

 

=========================

名前 未設定

年齢 0

性別 女

=========================

 

 年齢がゼロなのは世界に生まれたばかりなので、これは仕方ない。

 しかし、名前が未設定となっていた。

 

「いや、名前が未設定って、()の名前は……、あれ? 名前が思い出せない!? なんで?」

 

 必死になって自分の名前を思い出そうとするが、全く分からない。妹の名前は思い出せるし、結婚後に変わった姓も分かる。しかし、自身に関係する妹の旧姓が分からない。

 

『マスターは存在が変化し、また私からこの世界の知識を受け取った事で魂も変質しました。生まれ直しと同じなので前世(・・)の名前は消える事になり、新たな名が必要になります』

 

「新たな名って……。自分で決めるのか?」

 

『現状では名付けを行う者が居ないのでそうなります』

 

 むむむ、と腕組みをして彼女は考える。

 

「貴方、()の生前の名前知ってるよね? そこから取って名付けるのってOK?」

 

『問題ありません。マスターの生前の名前はシンザキ・シンヤです』

 

 それを聞いた時に彼女(・・)は自分が男であった事を思い出した。

 

「性別の女って部分、自然と受け入れてたよ……。貴方の言う通り魂から変質しちまったかぁ。しかし、シンが二つもあるのか。現地語で輝くとか照らすとか、そんな意味があったな」

 

 ふむ、と彼女は頷くとコアに宣言する様に言う。

 

「私はこれからシン(輝き)シン(照らす者)と名乗ろう」

 

 その瞬間、表示されていた名前の部分にシン・シンとして反映される。

 名前の事は片付いたので、次の項目とその種族スキルに目をやる。彼女は頭を抱えた。

 

=========================

種族 1.ダンジョンマスター

   2.淫魔種

 

種族固有スキル

 ・不老(1)   Fixed

 ・域内不死(1) Fixed

 ・域内転移(1) Fixed

 ・地脈吸収(1) Fixed

 ・吸精(2)   Fixed

 ・飛行(2)   Fixed

 ・隠蔽(2)   Lv0

 ・幻惑(2)   Lv0

 ・魅了(2)   Lv0

 ・誘惑(2)   Lv0

 ・催淫(2)   Lv0

 ・淫夢(2)   Lv0

 ・性技(2)   Lv0

 ・淫乱(2)   Lv0

=========================

 

「女の淫魔種、つまりサキュバスかーい」

 

 そう言ってシンは力無く肩を落とす。

 淫魔種は社会性を持つ知的生命体ではあるが半妖精であり、特にその種族特性からエルフを始めヒト種からはヒトとして認められていない種族である。

 何故かダンジョンマスターはヒト種からは選ばれない。選ばれる種族の中でヒト種に外見的に最も近いのが女淫魔種であるから、シンに与えられた使命を考えたら妥当なのかも知れない。

 

「問題は次か」

 

=========================

特殊スキル

 ・国立国会図書館 Updateable

 ・万能計測分析  Fixed

 ・万能能工巧匠  Fixed

=========================

 

 これらは女神が「元の世界の神々の意見」を参考にして新たに作ったスキルらしい。

 

 スキル国立国会図書館は、日本国立国会図書館の全ての収蔵物の閲覧が可能。随時更新あり。*1

 

 スキル計測分析は、度量衡はおろか全ての物質とその構成、全てにの物理量・化学量などについての正確な情報を得る事が可能。極端な話であるが、現代物理学では未だに確定出来ていないニュートリノの質量などもシンなら測定出来てしまう。

 

 スキル能工巧匠は、あらゆる物を正確に加工製作が出来る能力。計測分析と併せると、これも極端な話ではあるが、シンならナイフ一本でナノメートルの精度で加工が出来てしまう。

 

 

「一人産業革命でもやれと言うのかね、これは。ああ、服を作るのにスキルと魔法を使えばと言った意味が分かったよ……」

 

 シンは前世のラノベ知識から服くらいはダンジョンコアの能力で作れるだろうと思っていたのだ。しかしダンジョンコアの能力は飽くまでもダンジョンの管理であり、ラノベにあるようにダンジョンポイントなる物を使って希望の物をポンポンと出せるような能力は持ち合わせていなかった。

 

「ダンジョンの管理機能で草なり木なり生やして、それを魔法で繊維にして、私のスキルで加工法を調べて加工しろと言う事か。道具も同じ要領で作れって事ね……」

 

『はい、マスター。その通りです』

 

「じゃあ管理機能使いたいからメニュー出してもらえるかな?」

 

『まだダンジョンの設定が出来ていませんので、そこからの開始になります』

 

 前途多難である。

 

 シンは取り敢えずダンジョンの設定をする事にした。

 取り敢えず、現在の岩室の隣に土で出来た床の部屋を一部屋作り、そこに採取可能設定で植物を作り、片隅に鉄鉱石が採掘場所を設定。

 スキル国内国会図書館(以後、長いので単に図書館と表記する)を検索参照しながら、魔法の練習を兼ねて生やした草を毟って繊維の取り出しにチャレンジした。

 

 そして知識を蓄えながら試行錯誤しているうちに気付く。

 

「これ、魔法で分子構造を弄れるどころか合成繊維とかも作れるじゃないか」

 

 それは全くの偶然だった。取り出したセルロース繊維を撚って糸にしている時である。

 シンは細切れの繊維がもう少し長ければ撚り易いのになと思いながら、スキルでセルロースについて調べていた。

 そこに掲載されていたセルロースの構造式を見ながら、魔法は想像力と知識だと言う事を思い出した。

 そこで試しに細切れになっている繊維の端と端の構造が繋がる様にイメージして魔法を行使した。

 ここで意図せずにスキル万能計測分析と万能能工巧匠が自動的に反応し、シンはその変化の詳細を感知(・・・・・)する事が出来たのだ。

 そして出来上がった一本の長い繊維を見ながら言ったのが先の言葉である。

 

 それからシンは服作りそっちのけで化学関係の資料を読み漁る。化学の勉強なぞ高校生の時以来であった。

 それはもう、裸のままで寝食を惜しんで*2学習した。

 シンの新しい頭脳は記憶力も理解力も元の肉体を遥かに凌駕していて、いつしか難解な有機化学の論文にまで手を出していた。

 

「よし! これで何とかなるかも」

 

 勉学の合間合間に毟った草は元からあった岩室から溢れ出んばかりにぎゅうぎゅう詰めとなっていた。

 ダンジョンの吸収設定をしていなかった為だ。

 

 植物はその殆どが炭化水素で出来ている。それを原料に合成繊維を作り出そうと言うのだ。

 セルロースを繋いでいるときに分かったのだがイメージがしっかりしていれば、足りない元素は魔法が生み出してしまう。

 

 作るのはナイロンとポリエステル。ついでにアラミド系も作る。これが上手く行けば次は合成ゴムを作ると決めている。

 

 植物と空気と水を原料に魔法でちまちまとシンは繊維を作って行く。

 精神エネルギーはそう消費しないが兎に角、根気の要る作業を進めて行った。

 

「でーきたー!」

 

 3ヶ月程掛けて、必要量より多いくらいの合成繊維と合成ゴムが出来上がったが、これで終わりではない。

 ここから布地を作り裁断し縫製して行かなくてはならないのだ。

 

「肌着は伸縮性があってフィットした方が良いよな」

 

 自らハードルを上げて行くスタイルである。

 シンは男性であった頃はボクサーパンツを愛用していた。ピッタリと肌にフィットしないトランクスは文字通り肌に合わなかったのだ。

 さて、伸縮性がありフィットするような布地と言えばニットである。

 ニットは厳密には織物ではなく編み物であり、肌着の生地の様に編み目の緻密な物はなかなか手間がかかる。

 

 シンは次に編み機と織機の製作にかかる。

 草を生やした部屋の何ヶ所かに鉄鉱石以外の鉱物を産出出来るようにダンジョンを設定したのだ。

 クロム鉄鉱と輝水鉛鉱である。この二つからはそれぞれクロムとモリブデンが精製出来る。ステンレス鋼とクロムモリブデン鋼を作り、これを原材料として編み機と織機を作るのだ。

 その為にはまず工具や加工用の冶具作りである。

 

 スキルと魔法をフル活用して製作を続けて、編み機と織機が完成したのが三年後である。いくら資料があり明晰な頭脳と有用なスキルを持っていても、失敗や不具合によりそれだけ時間が掛かってしまったのだ。

 

「ここまで来ると手縫いではなくミシンにまで手を出したくなるのが人情だよね」

 

 目的と手段が入れ替わってしまうシンの悪い癖である。前世の若い頃はこの悪癖で何度か仕事でやらかしている。

 

 結局、ミシンは単純な足踏み式の物を二年かけて完成させた。

 贅沢言わずに普通の機織り機と手縫いなら、もっと早くに下着を含めて簡素ながらも服は完成していたはずだ。

 

 いよいよ服作りに掛かるその前に、前世を含めてシンは裁縫などした事が無かった。取れたボタン付けさえ歳の離れた妹に頼むくらいだったのを思い出し、結局スキル図書館で手芸関係の雑誌を漁るハメになる。

 ついでにデザインの参考にしようとファッション誌なども漁ったので余計に時間を食う事になった。

 

 そこでシンは絶望する事になる。女体化したからか、はたまた淫魔種の本能なのか、際どいデザインの、平たく言うとエッチなデザインの下着や服の方が無難な物よりも琴線に触れまくるのである。

 

「ぐぬぬ」

 

『マスター、諦めて下さい』

 

「いやしかし」

 

『それが淫魔種の本能なのですから』

 

 元男の矜持と淫魔種の本能のせめぎ合いである。

 ならば試しにと無難なデザインと琴線に触れたデザインの下着を作り着てみる事に。

 無難な方はセ○ール等のカタログに載っているような物、方や布面積が極端に少なくショーツの後ろが割れていたりするセクシーランジェリー等と言われる際どい物である。

 

 試着して、ダンジョンコアの機能にある第三者視点を鏡代わりにして確認する。

 幼さの残る妖艶な顔立ちに頗る付きのセクシーボディのシンには、明らかに際どいセクシー系の方が似合っていて、彼女本人もしっくりしすぎていて逆に落ち込んだ。元男の矜持の敗北である。

 暫しの落ち込みの後に、裸よりはマシだと開き直ったシンはゴシック系サキュバスのコスプレ衣装や二次元キャラのデザインを参考に何パターンか作り、それらを着回す事にした。

 尚、染色されていない無地の白生地なので、変な清楚さもあって余計にアレな感じになっている。

 

 一段落ついて落ち着いたシンは、服作りだけでも六年以上も引き籠もっていて、ダンジョン運営も使命を果たす為の準備も全く行っていない事に、今更ながら気が付いたのである。

 

*1

 国立国会図書館は法律で日本国内で刊行される全ての出版物を納める事になっている。これは書籍だけに限らず音声や映像についても収蔵されている。なお国会図書館からの収蔵物の貸出は行われておらず閲覧するか、研究目的であればコピーも許可される。但し申請してそれが通ればであるが。

*2

 飽くまでも比喩である。シンは種族が淫魔種且つダンジョンマスターとなった事で基本的に睡眠も食事も必要としないのである。




 準備回と言うか説明回と言うか。なかなか筆の進みが良くなりません。
 一応推敲はしていますが、誤字脱字や表現がおかしいなど御座いましたら、お知らせ頂けると非常に有り難く思います。
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