使命を帯びたTSダンマスは引き籠もる   作:片玉宗叱

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第一章 出逢い
4 本当は怖い魔法の世界


 服作りを通じてシンはある事に疑問を持った。

 この世界の魔法は、生き物の想念と精神の持つエネルギーによって物理現象を起こすものだ。

 そしてシンは合成繊維や合成ゴムを作る課程で足りない元素が精神エネルギーにより生み出されている事が確認出来た。

 調べてみると現地ヒト種が使う魔法に水を生成したり、石礫を生成し飛ばす物がある事が分かった。

 精神エネルギー*1の消費は前者が少なく、それに比べて後者は遥かに多くなる。

 そこで彼女は現地ヒト種がイメージしている方法で実際にやってみる事にした。勿論スキルの万能計測分析を使いながら観測する事も忘れない。

 その結果、水の生成は空気中の水分を凝縮する事で、後者は何も無い所からイメージした石が現れたのである。

 前者は分かるが、後者は訳が分からない。

 そこで生成された石をスキルで分析すると酸化シリコンを主成分として酸化アルミニウムと酸化鉄、酸化カルシウムが混ざる玄武岩だと分かった。

 シンは何となく前世で河原にあった石をイメージしただけである。それが具体的な物質として生成されたのだ。

 

「もう少し詳しく生成される瞬間を観るか。原子単体、いや中性子一個とかでも観測が出来るかな?」

 

 それからシンはスキル図書館の文献とイリザと名付けたダンジョンコアからの知識と照らし合わせて前世の世界とこの世界の物理法則が殆ど一致している事を確認した。

 そしてものは試しとばかりに、シンは中性子一個だけの生成をスキルで観測しながら試みた。

 もちろんアップクオーク、ダウンクオーク、グルーオンや色価もきちんとイメージしてだ。

 

「……マジか。真空からクオークとグルーオンが生まれて来るとこが観測分析(・・・・)出来るとか、しかも中性子のベータ崩壊まで観られた(・・・・)し何にこの反則スキル」

 

 更にシンはスキル万能計測分析を使い、手元にある物質を観測分析していく。

 

「真空の構造とか、余剰次元での紐の振動モードまで観えるとか何だよこれ……」

 

 より詳細が分かると物質生成に掛かる精神エネルギーの消費が減るのも分かってきた。

 生成と観測を続けていくうちにシンは気が付いた。

 

「魔法ヤバすぎる。文明が発達発展して化学や物理学が進歩して物質の本質の探求に向かうとホントにヤバい。何がヤバいって魔法で核子変換したら簡単にウラン元素とか超ウラン元素が作れてしまうし核融合するのに大規模施設なんか要らないし反粒子なんかわざわざ生成しなくても粒子の質量とスピンはそのままで他を反転させるだけで簡単に出来るし。ヤバいマジでヤバい下手に文明の進歩なんてさせたら下手するとこの世界(惑星)は破滅する。どーすんだよこれ。私の手に余るぞ」

 

 シンは頭を抱えた。

 

「よし、決めた。特に期限とか切られてないし引き籠もろう。引き籠もって暫く様子を見よう。うん、そうしよう。イリザ、問題無いよね?」

 

『確かにいつまでとは期限は明示されていませんから、問題は無いと判断できます。しかしダンジョン運営だけはお願いします。マスターのサポートの為に生み出された私ですが、やはり本質はダンジョンコアですので』

 

「ダンジョン運営か……。この近くに人里とかあるの?」

 

『はい、私に与えられた情報に、歩いて半日ほどにスツルタと言う城塞都市がある、とあります。詳細は不明です』

 

「ダンジョン作って引き籠もる前に一度は偵察に行ってみるべきか。いや、もし淫魔種とバレたら討伐対象なんだっけ?」

 

 普通のダンジョンマスターはダンジョンから出られない。しかしシンには使命がある為に自由に動けないと不便であろうと、女神によりその制限は解除されていた。

 

『マスターの身体は神が直々に創造された特別製の身体です。その辺りの有象無象では傷一つ付けられないでしょう』

 

「荒事前提にすんなし。この身体って淫魔種の特徴が無いんだよね。格好にさえ気を付ければ紛れ込めるかな」

 

 シンは自分が着ている布面積が少ない服の裾を摘まんで言う。

 淫魔種の特徴はこめかみに渦巻き状の角と細い尻尾、肩甲骨の辺りから生えた薄い羽状の飛行用器官である。

 シンにはこの特徴の全てが備わっておらず、外見はどこか見てもこの世界で多数派を占める獣人の無尾猿族*2の美少女である。

 

「この上にローブを羽織っただけじゃダメだろなぁ。何かの拍子にはだけでもしたら痴女か街娼に思われてしまうぞ」

 

 服飾作りが一段落後、シンはレース編みにも挑戦していた。今彼女が着用しているのはレースが潤沢にあしらわれ、染料も合成出来たので初期の白一色からは脱している。しかし相変わらず露出過多だ。特にレースを使う用になってからの下着はゲフンゲフン。

 前世の男の矜持は完全に消え去ってしまっていた。

 

『マスター、外に行くならサブコアを製作して所持して行く事をお勧めします』

 

「サブコアか。それでその心は?」

 

『私をダンジョンから出す事が出来ないのが理由の一つです。それとサブコアの機能により限定的ですがダンジョンマスターのスキルのうち、域内不死と地脈吸収が限定的ですが使用可能となります』

 

「イリザは連れ出せないのか。外出するとなるとダンジョン開放しないと出入口が作れないし、そうなるとダンジョンの防衛とかイリザの置き場所とか考えないと。そう言えばイリザって私のスキルでも解析出来ない謎物質なんだよね。サブコアもそうなの?」

 

『基本的には同じですが密度が違います。故に強度も落ちるので脆くはありますね』

 

「それなら持ち歩くなら何かで保護しないとダメかね。サファイアガラス*3で良いかな。何ならダイヤモンドでコーティングする?」

 

『サブコアはダミーとしても使いますから大きさは私と同じですよ。身に付けていても非常に目立つと思いますが』

 

「その辺も含めてどうするか考えてから外出しないとならんね……」

 

 何か新しい事をしようと検討を始めると、次から次へと仕事が増える。前世とあまり変わらないなぁ、やることリスト作って工程表でも組むか、とシンは思いながら遠い目をした。

 

 それからシンはダンジョンコアのイリザと検討を始めた。

 ダンジョンコアの機能にある仮想コンソールにより作業を進めて行く。

 ダンジョンの規則として、必ずダンジョンコアが設置してある部屋まで辿り着けなければならないと言うものがある。

 更に一階層当たりの床面積を増やしたり、階層を増やしたりするとエネルギーコストが掛かる。

 

「侵入を防げないなら途中で諦めたくなるようにしない? 通路が延々と続くとか。それなら一階層だけだし同じ床面積で部屋を作ったりトラップ仕掛けたりするよりはコスト掛からないし、それに狭い通路で天井を低くしたら持ち込める荷物とか食料に制限を掛けられるよね」

 

『マスターが理解し易いように前世の単位を使いますが直径三千メートルの円の中で通路幅と壁を一メートルにしても長さが三千キロメートル以上の通路を作れる事になりますが』

 

「三千キロとか私の移動……は域内転移が使えるから問題無さげだね。半径、小さくしても大丈夫っぽいね。半径一キロで通路幅一メートル壁厚み二メートルにしようか。壁は不壊だけど万が一があるといけないから厚みを増して。それで全長は五百キロ位にしとく? 水の補給とかもし難いようにダンジョン全体の湿度を下げるのは?」

 

『気温を上げて相対湿度を下げるしか方法が無いので、気温を上げる為に地脈エネルギーを消費するのでお勧めは出来ません』

 

「ホントはヒカリゴケとか要らないんだけどな。デフォルトで設置されてしまうから削ると逆にコストかかるとか」

 

『仕方ありません。ダンジョンはヒト種に対しての恩恵でもありますから』

 

 こうして仕様を決めていった結果、総延長は五百キロメートルで渦巻き状に緩やかに地下へと向かう幅百センチメートル天井高さ百五十センチメートルの通路が続くだけのダンジョンにする事になった。

 天井をデフォルトよりも低くした為にその分コストが掛かったがトラップのある多階層ダンジョンよりは遥かに低コストで維持できる。

 

「ダンジョンはひとまずはこれで良いとして、後はイリザの台座と外着にサブコアの偽装かな」

 

『マスター、提案です。万が一の為にボス部屋だけは作っておきませんか?』

 

「地脈エネルギーとの収支に余裕あるかな。あるなら作っておこうか。その奥の方に距離を離してコアルームを配置かな?」

 

『コアルームまでは二から三キロメートルを通路に、コアルーム直前にも少し広めの空間を作っておけば、そこで最終防衛での戦闘が行えます』

 

「そうだね。空間が無いとこちらも動き難いか。私が留守中にもしそこまで侵入されたら適当に強力なモンスターを召還するのを許可しとくよ」

 

 こうしてダンジョンの基本的な構造は決まったのである。

 

*1

 現地では魔力と呼んでいる。

*2

 彼ら自身は『自分達は獣人ではなく普人族と言う独立した別種である』と言い張っている。

*3

 酸化アルミニウムの結晶で無色透明。時計の文字盤のカバーガラス等に使われている。含有される不純物により色が付く。天然ではコランダムやサファイア、ルビーとして産出する。




 次話から痴女い主人公のお出かけ予定。
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