使命を帯びたTSダンマスは引き籠もる   作:片玉宗叱

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8 城壁補修の現場で

 シンはストリクタと連れ立って、城壁補修の現場へ向かって歩いていた。

 

「この辺は昔は工房街があったらしくてな。今じゃ建物も古くなって取り壊されて空き地だらけだ」

 

 道すがら町の実情なんかを聞きながらである。

 

「へぇー、鍛冶屋さんとか木工屋さんとかですかね」

 

「一軒しかなかったらしいがガラス工房なんて珍しのもあったらしいぞ。主に土産として売られてたみたいだがな」

 

 そう言えば、とシンは思い出す。ギルドもそうだったが町中でガラス窓を見掛けていない。

 知識を漁ると、この世界(惑星)でのガラスの製法は砂、珪石、石灰、草木灰(ソーダ灰)を木炭の炉で溶かして作る物で、地球の古代からある製法とそう変わりは無い。

 しかし何故か宙吹き法*1が発明されておらず、ガラス製品は鋳物のように型に流し込んだり押し当てたりする型押し法で作られている。

 また成分調整や不純物の除去も甘いので、例え色付きでも透明感のあるものが偶然に出来ると宝石と同等に扱われていた。

 

「じゃあガラスの原料とか近くで採れたんですかね?」

 

「それが工房が製法も材料も秘密にしてたらしくてな。工房ごとこの町を出ていっちまったから誰も知らねえときたもんだ」

 

 ふむふむと、シンはこれは良いネタになるかも知れないと考えた。問題は燃料だけど、これもダンジョンでなんとか出来ると思う。

 

 そんな四方山話をしながら歩いて行くと作業現場が見えてきた。

 現場には既に作業員が集まっており、現場監督と思しき男性がこちらを見て手を振っている。

 

「おーい、ストリクタ! ここだ!」

 

 ストリクタは小走りで彼に声を掛けた人物へと向かうと詫びを入れる。

 

「おう! ディレクデ! 済まん、遅れたか?」

 

「いや大丈夫だ。それで、そっちの別嬪さんは? まさかお前にイロじゃないだろな」

 

 ストリクタに続いてやって来たシンを見て、ディレクデは小指を立てる。それを見たシンは、こっちでもそう言うサインなんだと感心する。

 

「バカ言ってんじゃねえよ。昨日、冒険者登録したばかりのシンだ。登録したばかりと言っても相当に腕の立つ魔法使いだぞ。腕前は俺が昨日この目で確認したからな、保証するぜ。シン、こいつがこの現場の責任者でディレクデだ」

 

 紹介されてシンはディレクデに挨拶する。

 

「はじめまして。シンと言います。今日から宜しくお願いします」

 

「ディレクデだ。宜しくな」

 

 ペコリと頭を下げたシンを見て、慌ててディレクデも挨拶を返した。

 

「それでシンさん、あんた魔法属性はどうなんだい? ストリクタが連れて来たって事は最低でも土の使い手だとは思うんだが」

 

「ディレクデ、ちょいと耳貸せ」

 

 ストリクタがディレクデに耳打ちをしてシンが全属性を使える事とその腕前の事を伝えると、ディレクデは瞠目してシンを見た。

 

「マジかよ、おい」

 

「くれぐれも内密にな」

 

「あの、何か問題でもあるのですか?」

 

 何がとは言わずにシンは二人に質問するとストリクタが声を落としてその問いに答えた。

 

「ああ、シンの魔法属性と腕前が知られるとな、下手すりゃ王宮からスカウトが来るレベルなんだよ」

 

 その横でディレクデが頻りに頷いている。

 

「ふーん。強制徴用みたいのもあるんですかねぇ。もし来たら私は逃げますけど。それよりも仕事の内容を教えて貰えませんか?」

 

 シンがそう言って促すとディレクデが説明を始めた。

 補修は城壁の内側で崩れかけている部分を行う事。外側はしっかりした石組みなのだが、この崩れかた内側部分は過去の手抜き工事のせいらしい。

 彼が言うには、元々魔法使いの確保は諦めていて、ここに集めた石灰*2と砂を混ぜて水で練り、補修用の充填材として城壁内側の石と石の間に詰めて急場を凌ぐ予定だったらしい。

 しかし魔法使いのシンが作業に参加する事で砂の量を多くすると石化による強度を増せるので、より強固に城壁を補強が出来るし、工期の短縮も見込めると考えているとの事だ。

 

「まあ、手順としては俺たちが石灰と砂を捏ねて詰めるから、それを魔法で石化して貰って元の石材と一体化してくれりゃ良いんだが出来るか?」

 

 シンは、細補材のみでの石灰の使用に不安を持つ。スキルの図書館でざっくりと調べてみたが、結果は芳しくない。

 

(石灰って酸化カルシウムか水酸化カルシウムだからなぁ。変性させても配合している材料が適当だとコンクリートみたいに固くならないし、そうすると成分調整する事になるんだけど精神エネルギーの消費がなぁ)

 

 魔法使いが確保出来ずに、元々は城壁の隙間への充填材として使う予定だった物は準備されている補材が河原の砂だけとか適当すぎた。

 シンなら用意された石灰を使って現代地球で使われているセメントやコンクリートと同じ成分にも出来るのだが、それだと元素変換や元素生成が発生するので如何せん精神エネルギーの消費が大きくなる。

 そんな事をする位なら、その辺の土砂*3だけで十分に岩石化が出来るし余分な成分調整が不要な分、寧ろその方が精神エネルギーの消費は少ない。

 

 そこで、いきなり本番に挑むのではなく、どのようになるかを少量で試すべきだと提案した。

 

「私には初めての事ですから、どうなるかを最初に少しの量で試してみて良いですか? 幾つか配合を試して一番良いのを選んで施工したらどうかな、なんて」

 

「ふむ、それも道理か。じゃあ少しずつ変えて試してみるか?」

 

「お願いします。あ、土とか砂だけの物も用意しておいて頂けますか? 昨日試したのはギルドの裏庭の土だけでしたから」

 

「本当か? そりゃ凄えな。よし、シンさんのその案に乗ってみるか。よし、お前らは少し休憩でもして待っててくれ。それとシンさん、ちと施工範囲を洗浄してくれねえかな? 雑草とか苔とかが生えちまっててな。手作業で大体のとこは取れたんだが……」

 

「手の届かない所ですね。大丈夫ですよ」

 

 ディレクデは作業員に声をかけ、シンに施工範囲の洗浄を依頼すると、材料の準備に取り掛かった。

 

「それじゃ今から施工範囲を洗浄してきますね。って何処から何処まで?」

 

「シン。それなら俺が知ってるぞ。こっちだ」

 

 ストリクタが知っているらしい。シンは彼に案内されて範囲を教えて貰う。大体長さ三十メートル程度の範囲だ。よく見るとその範囲では城壁のあちこちで積まれた石材が崩れかけて隙間が開いている。

 

(これは下手に水洗で高圧洗浄すると崩れかねないね。表面の有機物限定で高温にするか熱風を送るかして焼いた方が良いかも)

 

「ストリクタさん、水洗だとちょっと崩れそうで危ないから高温で焼いてみます。どっちにしても危ないので城壁から離れてて下さいね。他の皆さんも下がっててくださーい!」

 

 シンはストリクタと、見物しようと集まっていた暇をしている作業員達にも注意喚起して下がらせる。

 

(いきなり壁の隙間の中の温度を上げると空気の膨張で破損を進めてしまうか。外から空気を送ってそれを徐々に高温にして行く感じが良いかな?)

 

 一応、魔法使いらしく杖を構えてまずはスキルで計測する。すると城壁内部は砂礫や石礫で充填されているのが分かった。

 

(これ以上崩れない様に中を固めておこうかな。ああ、砂礫と石礫で内部に染み込んだ水分が溜まらない様にしてるのと、それの水分も利用して中を締めているんだ。考えられてるなぁ)

 

 これでは折角締まっている部分の水分が蒸発すると困るので迂闊に熱風は送り込めない。

 

(炭素と水素が結合しているケースだけを選択的に酸化させるかな。苔や雑草はそれで処理できそうだ。その方がエネルギーコスト低いし、後は灰化した残滓はカリウムとかカルシウムが殆どだからそのままでも良いか。巻き込まれる小動物や昆虫はごめんなさいだ)

 

 範囲内に存在する水素・炭素の結合した分子に空気中の酸素が結合する、つまり酸化する事をイメージしながら魔法を行使する。燃焼と同じなので一瞬で終わらせると急激な発熱で残る水分が水蒸気となり小爆発を起こすのも嫌なのでシンはゆっくりとそれを行った。

 

 派手な魔法が見られると今か今かと待っていた見物人達には苔や雑草だけ(・・)が徐々に縮れて灰になって行くように見えた。

 普通の魔法使いが『焼く』と言ったら火魔法で炎を出して文字通り『焼く』ので、見た目は派手で熱気を感じる。

 

 あらかたの苔と雑草を灰にすると、シンは空気を操り強めの風を送り、それらを城壁外の上空に吹き飛ばしていく。

 さて、その時の風向きだがシンの背後から城壁に向かってやや斜め上に強風が吹いた訳である。

 吹き上がる風に煽られてローブごとスカートが捲れて、申し訳程度の布で隠された(殆ど隠れていない)形の良いシンのお尻が丸見えになった。

 シンの後ろで見物していた見物人達から「おお」とか「うひょお」とか声が上がる。

 目撃した見物人達(全員、作業で集まった男ども)は大興奮である。

 

「おい! シン、見えてるって!」

 

 慌てたストリクタがシンの後ろに駆け寄りガードした。

 

「あ、見られちゃいましたね」

 

 何事も無かったかの様に魔法行使を終えて、ペロっと舌を出すシン。

 シンが今日穿いているのはレースのO バックショーツだ。ヒップ部分は足ぐりとサイド部分にしか布が無く、お尻の割れ目が丸見えになっている。

 逆に言えばサイドとフロントとクロッチにしか布が無い。しかもクロッチ以外は透けたレース生地。よくもまあ、そんな物を自作したものである。

 

「みなさーん! ヤる気は起きましたかぁー?」

 

 シンのその声に若干前かがみになってた男どもから雄叫びが上がる。

 

「うおおお! 俺はやるぜ! 俺はやるぜ!」

 

「ちきしょうめー! あんなもん見せられたら別なヤる気が起きちまうじゃねえかよ!」

 

「よく見りゃあの嬢ちゃん、ローブの上からでも分かるくらいにデカい乳してるぜ」

 

 やいのやいの騒ぎ出す作業員達を見てシンが一言。

 

「お駄賃の先払いしたんだから、頑張ってお仕事して下さいねー!」

 

 それを聞いた男どもはドッと笑う。

 

「いやあ、先払いのお駄賃とは恐れ入ったぜ」

 

「魔法どころか、もっと良いもん見せて貰った分は頑張んねえとな」

 

 思い思いの事を口にしながら作業員達は持ち場へと散って行く。そしてシンは満面の笑顔で手を振っている。

 そんな彼女にストリクタは呆れたように言った。

 

「シン、お前、見られると喜んだりするのか? 昨日だって……」

 

「あれはストリクタさんが、あんなのを見せつけてきたのがイケないんですよ? それにお尻くらい見られても減るもんじゃないし、それで皆さんやる気になったなら良かったじゃないですか。それに偶々私の立ってた場所が風の通り道だっただけですよ。さ、私もディレクデさんとこに行って材料ごとの石化を試さないとね」

 

「俺のせいだったのか!? あ、おい。待てよシン!」

 

 そそくさとディレクデが色々混ぜてる場所へと小走りで向かうシンと、それを慌てて追いかけるストリクタ。

 

「ふふ、ストリクタさん、また宜しくね(・・・・・・)

 

 近づいてくるストリクタの気配を背中に感じながら、シンは小声で呟いたのだった。

 

*1
 パイプ先端に溶かしたガラスを巻き取り息を吹き込んで成形する技法。地球の歴史では紀元前一世紀頃には発明されてた。

*2
 ここで使われているのは主に漆喰等に使われる消石灰である。

*3
地表・地殻で一番多く存在する二酸化ケイ素や酸化アルミニウムが主成分。




 主人公の痴女化が止まらない。どうしたものか。

 そんな訳でアンケートなるものを使ってみました。次々話の投稿まで有効にしておきます。

主人公の痴女化について

  • 正直どうでも良い
  • 健全路線にして欲しい
  • 現状維持で
  • いいぞもっとやれ
  • 麻呂はR-18を所望するでおじゃる
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