「……自分の性癖通りの姿になる空間、だぁ………?」
巨象を撃退した僕らは馬鹿みたいな顔で突っ立ってる
「……まぁ、今の所は納得しといてやる。それで、バケモン倒さなきゃ帰れないんだろ。俺どうすんだよ。変身出来ねぇぞ」
「あえて殺される必要も無いだろう。お前の事は俺達が守ろう」
値踏みを続けるみたいな、嫌な視線で僕らを一瞥する。
「……あー、いいわ。怪物の攻撃で死ねば、俺は戦えるんだろ? 別に守んなくていいよ」
「しかし、いいのか。生き返るだろうとはいえ、死ぬんだぞ?」
「いいよいいよ。誰かにおんぶに抱っこってのもしょうに合わないし」
「……だが」
食い下がる
烏の濡れ羽色の魔法少女が思わず怯んだ隙に
「
おいおいおいコラ、流石にライン越えだぞ……!? 尋常じゃなく神経を逆撫でしてくるなコイツ。な〜〜にが偽善じゃカス。どうせ善意の定義もあやふやな癖によぉ………。
ふと、
流石にこれ以上好き勝手言わせる訳にはいかない。僕は
「お前なぁ、僕らと敵対して何の意味があんだよ。行方不明者が多いって話、しただろ? 最近休みの人も多いしウチのクラスだって最近
「お前らが考えすぎなんだよ。学校休む理由がこの異常現象のせいだとは限らねぇだろ。……
何故僕とクラスの違う筈の
何故そんな、自分の手柄を誇るような嫌な笑みを浮かべているのか。何となく、嫌な予感がした。
「アイツが学校来なくなったの、俺が虐めてたせいだし」
一瞬の思考の空白の後。グ、と脳みその奥が熱くなる。
この感情は、きっと失望だ。一応は友人であった相手に対する、失望と怒り。
何言ってんだよ。何やってんだよ。気分悪いのはこっちだよ。楽しそうに自分の悪行誇りやがって。
自分の中から溢れ出てくる罵倒はしかし、言葉にならずに消えていく。感情が飽和して何をしたらいいか分からない。
「……聞いていて不快だ。イジメなんぞやめろ」
「あ? 何でお前に指図されなけりゃ行けねぇんだよ。……オナニーに他人付き合わせてんじゃねぇよ、異常ペド野郎が」
「…っっ!! ……俺は、俺はおかしくなんかない!!!」
親しい関係になってまだ四日の短い付き合いだが、僕は彼がこんなに大声を出すのを初めて見た。そんな彼が拳に力を込めるのが視界の端に映った。
止めるべきか迷って……即座に今の自分達の膂力に思い至る。
思わず、
「俺はおっぱいが好き!!!!」
は?
「年上のお姉さんが好きだ! バニーガールも好きだ!! あと、あれだ、おっぱいビンタも好きだ!! 乳房で撲殺されたい!!」
「あ、ぁあ? 何言ってんだ変態野郎」
「そう! 俺は変態! そしてこの場には変態が三人!!! 民主主義的に異常野郎が正義だ!! どうぞマトモな
何言ってんだこの
しかし意味不明かつ唐突な猥談に毒気を抜かれたらしく、
後に残ったのは怒りの矛先を失った
……クソっ。全く。
こういう所が、気に入ったんだよなぁ………。
酷く奇っ怪な物を見る目で見てくる
「……なんだっけ、おっぱいビンタ? 半分くらいギャグじゃね?」
「うるせぇ掘り返すな別にいいだろギャグ入ってる方がヌけんだよ!! ……いや、そのさ、アイツ斜に構えてるっていうか。何言っても皮肉で返されそうだからさ、な? 意味不明な言動で翻弄するしかねぇかなぁって。……分かるだろ?」
「狂人の真似とて大路を走らば……」
「うるせぇなぁ! 時と場合によるだろ!! 今のはかなり正気の狂気だったろ!!」
「はいはい立派だった立派だった」
「褒め方が雑ぅ!!」
いやまぁ、雑に褒めたが嘘を言ったつもりもない。
何も出来なかった僕に比べて、荒事慣れしてない癖して声を張り上げた
言わないけど。
絶対言わないけど。
「……凄いな、
ポツリと、低い声が会話に挟まってきた。
「それに比べて俺は。……情け無い」
「あー、まぁ急にあんな事言われたら腹立つだろ。気にすんなって……」
「そうだよ。僕だって変身してる状態じゃなかったら殴ってるよアイツの顔面」
僕がしゅっしゅっとシャドーボクシングのように拳を放つ。
そうしたら
そのまま数分間駄弁っていると、自分の首筋のアザが青く発光していくのが分かった。戦いが終わって現実世界に帰る時の合図だ。
気づけば僕らの正面には車が止まっていて、大音量でクラクションを鳴らされた。急いで歩道に出る。今度からアザが光り出したら歩道に出る事を心がけなければいけない。
僕らは数分間喋った後、今日は解散する事にした。
何処からかカエルの鳴き声が、僕を慰めるみたいに鳴り響いていた。
▷▷▷
『あいとうくん、へんなの!』
小さい頃の、幼稚園の頃だろうか。
魔法少女のごっこ遊びをしている彼女達の仲間に入れて欲しくて、俺は必死に頼み込んで。返ってきたその言葉に、前後不覚になるくらいの衝撃を覚えた。
変。おかしい。
そんなことは自分でも分かっている。
だんだん子供らしい物からは卒業していく同い年の子供達。両親の視線。
好きな物を好きだと叫んではいけないのか。そんな事を考え反発すればする程、自分に自信が無くなっていく。世界が自分を受け入れてくれないように感じる。
偶然触れたネットの世界で知った、ロリコンのレッテル。
自分がそれに該当する人種である事も、大きくなるにつれ、性欲を知っていくにつれて何となく分かってきて。
ただ俺は、俺が彼女達を好きだった理由が、性欲という言葉で塗りつぶされる気がして。自分が酷く悍ましい存在に感じられて。
認めたくなくて、自分が異常じゃない事を誰かに分かって欲しくて……。
「……アツっ」
沈んでいた思考が、頬に感じる熱で現実に引き戻される。
隣を見れば、コーンポタージュの缶を両手に持った
「へへ。最近まだ寒いしさ、買ってきたんだ。飲むか?」
「……すまないな」
「謝んなくていいって。俺が好きで買ってきたんだし」
気遣わせてしまったな、と思う。
今はその気遣いが少し嬉しくて、少し申し訳ない。
スマホを見て時間を確認する。「19:44」の文字を確認して電源を切る。
いつも集まっている駐車場の横にある公園のベンチに座り込み缶の蓋を開けた。
缶を煽れば、仄かな牛乳ととうもろこしの味がゆっくり口内に広がっていく。
コーンポタージュを一口に含んだ所で、
「なんか顔暗いけどさ、どしたん?
「……ああ」
会って間もないが、俺はもう
根も葉もない事を声高々に言われたからじゃない。むしろ、アイツの言葉は俺の本質をピタリと言い当てている。
異常なのも、自己満足の為に他人に手を差し伸べているのも事実だ。偽善だと罵られるのも仕方のない事だろう。
「うーす、二人とも……。あ! コーンポタージュだ! いいなぁ!!」
「今真面目な話してるんだよ! 自分で買ってこいやコンコンチキが!!」
明るい声によって沈んでいた意識が逸らされる。
……二人の明るい声を聞いていると、なんだか悩んでいる事が馬鹿らしくなってきた。
「……話の途中ですまんかった。話、続けようか」
「いや、もういい。お前達の声を聞いていたらなんだかどうでも良くなってきた」
「えぇ……? そんな事ある? ……なんか納得できない事が、あったんじゃないのか?」
納得出来ない事、か。
……しかし、そのフレーズには引っかかる物がある。
記憶を探れば納得出来ない事は、確かにあった。納得出来ないというより、納得したくない事が。
「……俺は、所謂魔法少女系のアニメが、まあ、好きなんだが……」
言葉は自分でも驚くくらい、するりと口から溢れた。
まだ一週間程の短い付き合いだが、
二人が善人である事もそうだが、自分が魔法少女好きである事が既にあの空間のせいでバレてしまっている事も要因の一つだろう。
思い返せば二人は自分がロリコンである事を肯定してくれていた。否定しなかった。
……心の底から信頼出来る友達ができたという点では、この意味不明な現象にも感謝していいかもしれない。
「……大きくなるにつれて、彼女達を、その。……スケベな目で見てる自分に気づいてな。……もしかして、俺が彼女らに感じていたあの熱はただの性欲だったのか、ただの異常性の発露なのかと……。そう、悩むようになってな。
言っているうちに、自分の頬が熱くなっていく事が分かった。
自分でも小さな事に悩んでいると思う。溜まっていた物を吐き出したような感覚と、それなりの羞恥心が俺を襲う。
どんな反応をされるだろうか。呆れられたりしないだろうか。
そうやって羞恥に悶える俺に、
「んじゃ、レビューしてよ」
「え?」
「いやさ、自分の好きが性欲由来なのかどうか不安なんだろ? じゃあさ、何処をどう面白く感じたとかかを言語化してみて、僕らに説明してくれればいいんじゃない? ……あ、そうだ。今日の戦いが終わったらTSUTAYA行こうぜTSUTAYA。魔法少女系のアニメ借りよう。僕そういうの見た事ないからさ、見所とか解説して欲しいな」
何気なくかけられたその言葉に、じわりじわりと胸が熱くなる。
自分の言葉を真っ直ぐに受け止めてくれた事に。何より、自分の好きな事を否定せず、興味を持ってくれた事に。
「……いいのか? 俺は今日、財布を持ってきていない」
「あ、僕も持ってねーや。じゃ、明日ね」
「そうだな。……明日、借りに行こう」
明日という言葉を口に転がして噛み締める。上がりそうになる口角をなんとか抑える。
こんなに約束事を楽しく感じるのはいつぶりだろうか。小さい頃は、友達と遊ぶ時は常にこんなにわくわくしていた気がする。
先程とはまた少し違った恥ずかしさに襲われる。
「……ま、俺としてはそもそも性欲で好きになってもいいと思うけどな。エロいから好きってのは、非難されるような悪い事じゃないだろ」
「……だが、胸を張れる事じゃ無いだろう」
「いやいや、俺達男子高校生だろ? エロさとイタさは標準装備、どう足掻いても切り離せねぇって。みんなそんなモンだよ……」
みんなそんなモン。言葉にされれば簡単だが、本当にそうなのだろうか。
そこまで考えて、昨日の
「……エロさとイタさは標準装備、か。ふ、確かに
「いやそれは普通に悪口だろ」
頭を叩かれた。痛い。
「おら、そろそろ八時だぞ。馬鹿やってないで戦う準備しろ〜〜」
数秒の後、街から一切の音が消えた。虫の羽音も、やたらと車道を走っていたエンジンの音も、不自然に聞こえなくなる。
この辺は交通量もそこそこあるから、異界に巻き込まれた時には直ぐに分かる。ここを集合場所に選んだのは正解だった。
ステッキを握る力に手が入る。とっとと怪物を倒して、「魔法少女ナイトゴーン」のオススメポイントを紙にしたためねばなるまい。
▷▷▷
絹を裂くような悲鳴、とはまさにこの事だろう。
数分間無人の街を歩き回っていた俺達の耳に、絶叫が聞こえてきた。
数秒の後、悲鳴は怒号に変わる。
間違いなく戦闘の音だ。
戦ってる相手は恐らく、
「助けに行こう」
そう声を出した俺を、
「いいんだな」と確認するような目だ。
俺は笑って頷きを返す。
『嫌いな貴方だけど、助けずにはいられないの。私が私である為にはね』。
魔法少女ナイトゴーンの主役、テスのセリフだ。
24話のこのセリフは気合いの入った作画と合わさってめちゃくちゃカッコいいのだ。あとでレビューポイントとして後でメモしておこう。
住宅街を変身の力で強化された足を持って一気に駆け抜ける。
邪魔な一軒家や川は飛び越える。家を飛び越える際に少し屋根を壊してしまったが、この無人の街で壊した物は現実に反映されたりはしないようだから、多少傷つけたとしても問題はない。
そうして最短距離を駆け抜けて、俺達は悲鳴の音源。小学校のグラウンドへと辿り着いた。
グラウンドには二人の人影が立っていた。
一方は女性だ。胸元を大胆に曝け出したナース服を着ており、綺麗な茶髪が月光に反射している。
荒い息をしており、立ってるのも辛そうな印象を受ける。
恐らく
問題はもう一方の人影だ。
人影とは言ったがその身長は3mはあるだろうか。かなりの猫背であり、正確な所は分からない。
右手には斧を抱え、左手には小学生の身長程はあろうかという長い爪が並んでいる。
頭から突き出る角と青い肌は、五日程前によく戦った青鬼を思い出させる。
頬はぷくりと膨らんでおり、突き出た目も合わさってカエルのような印象を受けた。
「……ちょっと可愛げのある顔してるな」
……正直よく分からないセンスだ。
とりあえず今はあのカエル鬼を倒さなければいけない。
俺はステッキを振り、光刃を飛ばしながら
カエル鬼は俺の光刃に不意を突かれたようで、雄叫びを上げながら後方にジャンプをした。上手く
……なんて声をかけたらいいんだろうか。あんなに散々馬鹿にした相手に助けられれば、プライドも傷つくという物だろう。
取り敢えず無難な感じで挨拶でもしておくか。あんまり
「こんばんは。……いい夜だな?
「嫌味かテメェ!!」
む。怒らせてしまった……。
やはり俺はダメだな。
「……シカトこいてんじゃねぇ!! ぶち殺されたいか!?!」
むむ。さらに怒らせてしまった……。
今の
しかし昨日のような軽薄さというか、余裕が無い。やはりあのカエル鬼に苦戦している事は間違いないようだ。
「……やはり苦戦してるようだな、手を貸そう」
「………っっ!! そんなモンいらねぇよ!! 引っ込んでろ!!」
「そうはいかない。アレを倒さなければ、俺達は元の世界に帰れない」
相手を見据えて、ステッキを振るう。
星形の光刃が相手の首目掛けて飛んでいくが、カエル鬼は素早くステップを踏んで回避する。
俺を無機質な瞳で見つめるカエル鬼の視線からは、今までの怪物達と違いこちらを見定めようとする意思が伝わってくる。
「おおおぉおっ!!」
地面に転がる
間違いなく今がチャンスだ。ステッキを振るい光刃を飛ばす。
怪物はのけ反った視線のまま動けない。間違いなく当たる筈だ。
光刃が相手に当たる瞬間、カエル鬼が此方を向いた。
「ビュっっ!!」
突如として奇妙な鳴き声をカエル鬼が上げる。その瞬間、俺は全身に衝撃を感じながらグラウンドの端まで弾き飛ばされた。
「か、は……?!」
遅れて走る、鈍い痛み。
口から酸素が抜けていく。思考が纏まらない。自分が上を見ているか下を見ているかすら分からない。
気づいた時にはカエル鬼は目前まで迫っていて、その巨大な足を俺に振り下ろそうと——。
「おっ、らあ!!」
怒声と共に、突如カエル鬼の背丈が縮んでいく。
手足の比率はそのままに。その体が縮小していく。
体のサイズが変わった事により、踏みつけ攻撃は俺の少し前にズレた。
二分の一程まで体を縮めたカエル鬼を、
「グギ……!」
蹴り飛ばされたカエル鬼は油断なく
その隙に
「情けねぇなぁ。どの面下げて手を貸すなんて言い出したんだよ」
口角を歪ませ、
「……今の現象は、
「あ? ……教えて欲しけりゃ教えて下さいって土下座しろ」
「……協力しなければ、勝てない」
「じゃあ協力して下さいだろ? 上から目線でペチャクチャ喋ってんじゃねぇよ」
……こいつ。もしかして、俺の口調が気に食わないのか?
そういえば、俺が守ると言った時も不機嫌そうにしていた。さてはコイツ、相手が自分より下の立場じゃないと気に入らないのか?
ワガママな態度にストレスは感じる。
こいつの発言に反抗心も沸いてくる。
だけど。
俺は躊躇い無く膝をつき、頭を地面につける。
所謂土下座の体勢だ。グラウンドの砂が額に当たって痛い。
「協力して下さい。俺達三人を、あのカエル鬼から助けて下さい。……お願い、します」
俺達が今こうして悠長に会話が出来ているのは、
もしかしたら、俺達三人ならカエル鬼を倒せてしまうかもしれない。こんな性格が終わってる奴相手に頭を下げる必要なんか、無いのかもしれない。
でも、倒せないかもしれない。負けるかもしれない。……誰か、死んでしまうかもしれない。
そんな事、あっていい筈は無い。すでに明日の予定は埋まっている。みんなで生きて帰る為なら俺は土下座でも何でもしよう。
俺はチラリと
「……分かったよ、助けてやる。それで文句ねぇだろ」
「本当か?!」
よし、俺の推察は正しかったらしい。
これからも適度にヨイショを続けていれば、
「……ものさし?」
「俺の能力を説明しておくぞ。このものさしを相手に投げつけりゃ、相手は小さくなる。それだけだ。最大で二分の一くらいまで小さく出来る。ものさしはいくらでもポケットから出てくるし、伸ばす事も出来る。そしてアイツの能力だが、口から高速で巨大な水の塊を飛ばしてくる」
言われてみれば、俺の体は何かの液体で濡れている。てっきり出血したのかと思っていたが……。そういえば、
「俺の能力なら、水の塊を小さく出来る。これで敵の攻撃はある程度凌げる」
「なるほど、相手を小さくする……。自分を大きく見せたがる、お前らしい能力だな」
「テメェ土下座した時の殊勝な態度はどこ行ったんだコラ!!」
しまった、口が滑った。
貶すつもりは無かったんだが……。
……しかし、もしかしてそういう事なのか?
変身したと時にいつの間にか持ってる武器は、俺達自身の性質によって決まる……? 俺達が何を武器としているか、そういう事が関わってるのか……?
「ったく、とっとといくぞ!」
カエル鬼の能力で厄介なのはその俊敏性だ。まずは足を狙うべきだろう。
俺は青色の足に向けてステッキを振るう。カエル鬼は機敏な動きで光刃を避けるが、ステップを踏んだ瞬間を見計らって
一瞬動きを止めたカエル鬼に、
1.5m程まで縮んだカエル鬼の脳天に
「グゲッ!! びゅっっ!!」
「痛ったいな! 何すんだよぶち殺すぞ!!」
カエル鬼は負けじと口から水弾を放つが、
そのまま二人は至近距離で殴り合いを続けるが、段々とカエル鬼の身長が戻っていくに連れて
「一旦離れろ! 俺が撃ち抜く!」
カエル鬼は島咲の体を盾のように胴体の前に構える。俺達は攻撃を一瞬躊躇って硬直してしまい、その間にカエル鬼は
「うぉおあああっ!?」
「ぐぇえええっっ!!」
二人は塊状態になって地面をゴロゴロと転がっていく。
無防備な姿を晒した二人に、カエル鬼は水弾を叩きつけた。
「があっああぁああぁっ!!?」
「いっだぁああああぁあああっっっ!!!?」
轟音と共に二人は校舎の中まで吹き飛ばされた。ガラスの割れる音が嫌に耳に残る。
「二人ともっ、大丈夫かっ!!?」
「人の心配してる場合か! 来るぞっっ!!」
水弾の予備動作だ。
水弾だったらこれで対処出来ただろう。しかし。
「……びゅううううぅうううっっっっ!!!」
「な、にっ!?」
カエル鬼の口から放たれたのは、巨大な水の柱だった。
点ではなく、線の攻撃。一発限りの弾丸では無く、絶え間なく浴びせられるレーザー光線。
それは
まるで巨大な滝に放り込まれたような衝撃を全身に感じたかと思えば、俺はなすすべなく校舎の壁へと叩きつけられていた。
「ぐぅううっ………!!」
勢いそのまま、俺の体はコンクリートで出来た校舎の壁をぶち抜き、誰の物かも分からない机に何度も叩きつけられてようやく止まった。
後頭部を酷く打ち付けたからか、頭が痛い。視界がボヤける。
全身が痺れと倦怠感に襲われて、もう動けない。動きたくない。
首だけを動かして、辺りを見渡す。……
巨大な人影が、月光を背に此方へ近づいてくる。
らんらんと光る突き出た目が何処か笑っているようにも見えた。
………怖い。
怖い。怖い。怖い。
今までは漠然としていた、死への恐怖。
それが俺の背中を這いずっているのが分かる。
口から放たれる水弾か。それとも爪か。斧か。もしくは足で踏み潰されるのだろうか。
嫌な想像が頭をよぎる。
数秒、数分後があまりにも怖い。
怖い。怖い。怖い。怖い——。
『……こんな状況下で逆転勝ちしたら、めっちゃくちゃにカッコいいよね!』
——ふと。
こんな状況下に相応しく無い、明るい声が響いた。
「アル、カ……」
アルカ・コアトル。「魔法少女ナイトゴーン」に登場する、主人公のライバルキャラ。
落ち着いた性格の主人公、テスと違いそそっかしくて慌てん坊。物語をかき乱したりする時もあるが、ピンチの時はその持ち前の明るさで最善の未来を掴み取る女の子。
俺の手に握られている
……何となく。
自分が何故これを持っているか、分かった気がする。
俺に取って彼女達の輝きは、きっと武器なのだ。
現実に負けない為の武器。未来の不安に負けない為の力。このステッキは、その力の象徴だ。
周りを見ろ。
目の前には巨大な怪物。
そして絶対絶滅の
逆転勝ちにはこれ以上ないシチュエーションだろう?
腕に力が籠る。
足の震えが止まった。
やろう。あの日入れてもらえなかった、ごっこ遊びの続きをしよう。
物語の花形、主人公はーーー俺だ!!
そう決意した所で、足音が聞こえてきた。
それと共に、聞き慣れた声も。
「ぉぉぉおおおおおりゃああっっ!!!」
カエル鬼の顔面を咆哮と共に殴り飛ばしたのは、
何度もカエル鬼の攻撃を喰らって居るのにピンピンしている。二発攻撃を喰らっただけでふらふらな俺とは大違いだ。
「
「生きてる、大丈夫だ……」
……そうだ。俺には仲間がいるじゃないか。
「なぁ、
「……ごっこ遊びでも、それで僕らが助かったのは事実だよ」
「フフ……そうか。……これからも、俺のごっこ遊びに付き合ってくれないか?」
「良いよ。仲間でしょ?」
……ああ、全く。最高の返答だ。
予感がした。
俺は今、何かしらのステージに上がった。
無意識に身を任せて体を動かす。根拠は無い。理屈も無い。意味があるかも分からない。
ただただ体が、「自分を解放しろ」と俺に囁いていた。
俺は現状を打開させる一歩として——首のアザに、指を突っ込む。そして捻る。何回も繰り返した、変身の動作だ。
変身状態で、更に変身。何が起こるかはさっぱり分からない。しかし恐れは無い。高揚感だけが俺を満たしていた。
「俺の姿を見ろ。希望たり得る俺の姿を見ろ」
青い光の線が全身に走るのを感じる。
そしてそれは俺の足を伝って教室の床、そして壁に。その線を起点にして、空間が「開いて」いく。
「さぁ、第二ラウンドだ」
▷▷▷
「さぁ、第二ラウンドだ」
えっっちょっちょっちょっと待って待って待って???
なんか右も左も凄い事になってるんだけど。何これ。これ何??
ねぇさっきの詠唱っぽいやつなんなの? それも魔法少女ネタなの?? ねぇこれなんなの怖いんだけど!!