時刻は午後六時半。
いつもより早く、僕は待ち合わせの駐車場に集まっていた。昨日有耶無耶になった、
僕と
「すまん、遅れたか?」
「お、来た」
「俺らが早すぎるだけだから気にしなくて良いぜ」
僕と
彼はその場で止まると、肩からかけていたメッセンジャーバッグを開いて封筒を出してくる。
「
「ん? 何これ」
「アニメのレビューをしたためてきた」
封筒を開けば、原稿用紙くらいの大きさの紙が出てきた。中を見れば、イラストなどを交えてストーリーやオススメのポイントが分かりやすく解説してある。
す、スゲェ。写真や図などを巧みに使って伝えたい事が一目で分かるようになってやがる。
見る相手の事をキチンと考えられて作られたデザインだ。文字数がそんなに多くない所が人に読ませようとする意志を感じる。
そういえば
ふと
「ん、
「ああ、これは
「
「果たし状だ」
「!?」
▷▷▷
僕らはTUTAYAに行って、アニメを十話分借りた。
その後両親が居ないらしい
僕はアニメをあまり見ないが、クオリティが高いのは分かった。軽快な話のテンポも心地いい。
ちなみに主人公は
そうして三話目も見ていたが……。
「あれ。電源切れた?」
突然、ぷつりと音を立ててテレビ画面が黒く染まる。
「丁度八時になったんだな。こちら側ではインターネットは繋がらないらしい」
「ちぇー、いい所だったのにな」
「戦わないといけないの、そろそろダルくなってきたねぇ」
正直、この異常現象にも慣れてきた。既に未知は既知に変わっている。
昨日のカエル鬼のような強敵が現れないとも限らないが、全力を尽くせばどうにかなるだろう。僕らは何度も怪物を退けてきたのだ。
僕らはのっそりと立ち上がり、無人の街に繰り出した。
女体化した自分達の跳躍力に任せて、適当な一軒家の上に登る。
屋根から屋根へと飛びながら、無人の街を移動する。
最近発明した見回り方法で、こうした方がより多くの範囲を見渡せる。
「お、三時の方角に象はっけーん!」
その方向には、見慣れた巨象が家屋を破壊しながら移動している様子が見えた。
幸いにも相手は僕らに気づいていないみたいだ。僕はトンカチを構え直し、象へと足を進める。
10m、8m、5m。象の尻と僕の間の距離が近づいていく。
後一息で僕のトンカチがブヨブヨとした皮膚にめり込もうという所で———。
「え?」
———ずるりと。
巨象の首が落ちた。
見間違いかと、僕は瞬きをする。
何度見ても象の首はあるべき場所に無く、過去僕の体を散々打ち据えた怪物は首から赤い紙吹雪を垂れ流すだけのオブジェに成り下がっていた。
自分で自分に問いかけ、その考えを否定する。アイツのものさしじゃ、どうやってもあんな綺麗な切り口にはならない。
「……新しい魔法少女か?」
その可能性が高いだろう。
きっと自分の身に起こった出来事に困惑してるだろうし、なるべく早くこの世界について説明してやらねばならない。
そう思考を巡らしていると、象の体が細切れにされていく。結構グロテスクだ。
あの巨象をこんなにも簡単にズンバラリンしてしまうとは、余程強力な武器を持っているのだろうか。
象の肉体が四散し、その向こう側に立っていた人影が視界に入ってくる。
「………え」
思わず声が出る。
象の肉塊の先には二人の人間が立っていた。
一人は身の丈程ある刀を構えた、漆黒のスーツに身を包んだ姿の女性。
ベリーショートの髪型に鋭い目つきも相まって、デキるキャリアウーマンといった感じだ。
持っている武器からして象を細切れにしたのは彼女だろう。
そして彼女の隣に立っていたもう一人。
190cmはあろうかという巨体を、隣の女性と同じく漆黒のスーツに包み込んだ
太い指で錫杖を抱え、右目に眼帯をつけている。人を数人殺してそうな眼光は、一度見たら忘れられない。
というか、見覚えがあった。
思い起こされるのは数日前、
「刑事さん……??」
そう、僕がヤクザと間違えて殴りかかった刑事さんである。
……な、何故ここに。ここに来るのは男子高校生だけなんじゃなかったのか?
いや、そんな事を考えている場合じゃない。この世界に巻き込まれて困っているなら手を貸さなくては。
「あ、その……」
えーっと、何て声をかけようか。突然トンカチ持った女が話しかけてきたら怖いよな。
「怪しい者じゃありません」とか? いや、逆に怪しいよな。
よし、ここは無難に「こんにちは」で行こう。
今一度刑事さんに向き合う。刑事さんも僕に気づいたようで、視線が合った。
「久しぶりじゃねぇか」
刑事さんの声を聞いた瞬間、ゾクリとした何かが自分の首筋を撫でていった。
思わず一歩足を引いてしまう。
その瞬間、刑事さんの体が目を見張る程の速度で跳ねた。
4m程の高さまで飛び上がり、空中で脚を大きく振り上げる。
人間ではあり得ない身体能力に思わず目を見張るが、ギロチンのように僕に迫ってくる脚にハッと我に帰る。
「そう、りゃぁっ!!」
「うわわぁっ……!」
刑事さんの踵落としが、僕が立っていた場所にめり込む。着弾した所を中心に、コンクリートの屋根にヒビが走っていった。
「てめぇっ、何すんだよ……!??」
「こいつ、人間か!?」
迫り来る光刃の群れを刑事さんは顔色一つ変えずに錫杖で叩き落とした。
「あいと……!!」
僕が喉から声を張り上げるより早く、女性の刀が
ステッキを握った腕が月明かりに照らされながら落下していく。
怒りで頭が真っ白になるが、怒声を放つより先に僕の頬を衝撃が襲う。
刑事さん、いや、刑事の男にぶん殴られたのだ。
思わず地面に倒れ伏しそうになる体を気合いで押し留め、全力でカウンターを繰り出す。
「こんっのぉっ!!」
「ちぃっ」
刑事の男は滑らかな動きで僕の殴打を避ける。しかし僕の方がスピードは上らしく、刑事の男の耳を僕のトンカチが掠めた。
勢いそのままに二撃目を繰り出そうとした所で、僕の視界が上下反転した。
足払いだ。コンクリートの壁を破壊する程の力で僕の足首を蹴り飛ばし、僕をひっくり返したのだ。
「ふ、んっ!!」
「がぁっ」
空中で無防備な姿勢を晒した僕は刑事の男にぶん投げられる。
頭から地面に叩きつけられ思わず声が漏れた。
あまりの衝撃に倒れ込む僕に刑事の男は馬乗りになり、僕の胸ぐらを掴み上げる。
思わず息が出来なくなる。
僕を見下ろす刑事の男はあんまりに冷たい目をしていた。
きっと、殺意というのはこういう物を指すのだろう。
そう思うくらいに真っ暗で、黒曜石みたいな目だった。
僕が何をしたんだよ。
お前は何なんだよ。
言葉にしたいが声にならない。
喉が凍りついたように動かない。
そんな僕に、刑事の男は口を開く。
「久しぶりだな?
あ ?
こいつ、い まなん
て 言っ た?
▷▷▷
「
目の前で切り飛ばされた人形のような腕を見て、思わず絶叫が喉から漏れた。
思わず落下する腕に手を伸ばす。
「
「でっ、でもっ」
「
その声を聞いて、俺は
「久しぶりだな?
な、何を言っているんだアイツ?
……眼帯の男も、
「……
「えぇ。
眼帯の男の疑問に、黒服の女が答える。
……敵じゃ、ないのか? いや、まだ分からない。
俺は銃口を二人に向ける。
「一体、お前ら何なんだ……!」
思わず疑問を投げかける。警戒は止めず、いつでも頭を打ち抜けるようにしながら。
額から思わず汗が流れる。人を、自分が撃つかもしれない事に。震える銃口を根性で止める。
眼帯の男がゆっくりと唇を動かそうと、して。
強烈な破壊音が、左後ろから轟いた。
「あ!? 何———」
後ろを振り向こうとした俺の背に、何かが突き刺さった。
それは凄まじい勢いで俺の腹をぶち抜き、足元に音を立てながら転がった。
「なん、だこれ。———将棋の、駒?」
腹を押さえながら後ろを振り向く。
俺たちから15m程離れたそこに、ソイツはいた。
ゆったりとした踊り子のような紺色のドレスを見につけ、口元を覆い隠すように布を着けている。
最も目を引くのは、彼女の肩の付け根から生えた、三対六本の腕。
黒服の女とは違い首筋には鍵型のアザが付いており、間違いなく魔法少女だ。
多腕の女はゆっくりと体をのけ反らせる。
「………ぁぁああああぁあっっ!!! どいつもコイツも舐め腐りやがって!!!」
爆発。
尋常じゃない絶叫と共に、六つの腕から何十もの将棋の駒を投擲してくる。
ただの将棋の駒じゃない。
一発一発が変身した俺の体を貫通する程の超高速攻撃だ。俺の弾丸より速いんじゃないか。
「ちくしょう!! ちくしょう!!! ちくしょう!!!」
「何だアイツ……!!」
「グッ……!」
多腕の女は癇癪を起こしながら四方八方に攻撃を撒き散らしている。黒服の二人にも俺たちにもお構いなしだ。
周りの家屋や電柱が倒壊し、爆弾でも破裂したかのように崩れていく。
俺たちの体も例外じゃない。俺や
「次から次に……!」
黒服の女が九字を切る。
するとまるで透明な傘でもあるかのように将棋の弾幕が女に当たる前に逸れ始める。
明らかに物理法則を無視した、理外の技だ。
「ぐぁあっ……!!」
「……っ、
黒服の女の技に驚いていると、
見れば
俺は急いで倒れ伏した敏弘を抱える。今すぐこの場所から離れなければ。
なるべく将棋の弾幕に晒されていない家屋を選び、ガラスを蹴破って中に押し入る。
リビングに置いてあった椅子に
「だっ大丈夫かっ
「け、結構キツい……」
返事は返ってくる。目はどこか虚だが、致命的なダメージは負っていないと思いたい。
「な、何で再生しないんだ? 前お前の腕がもげた時は、すぐに新しいのが生えてきたのに……」
「あー………。多分、こま、駒が、刺さったままで……。それが、邪魔なんだと思う。ずっと足の中に、異物感がある……」
息も絶え絶えで声を漏らす
逡巡は一瞬だった。
俺はしゃがみ込んで、ゆっくりゆっくり再生していく
「……取れば、いいか?」
「あー、頼む……」
息を吸い込む。
俺は意を決して、
「うぅあっ………!?」
「……………っっ!!」
ぐちょぐちょと、柔らかい物が指先に絡みついてくる。気持ちが悪い。
聞こえてきた
敏弘の右足の断面には、赤い血肉ではなく青白い光が広がっていた。
その断面の中に不自然に盛り上がった場所がある。俺はそこに、二本の指を突っ込んだ。
冷たいネギトロみたいな感触だ。そこを俺は指でほじくる。
しばらくの後、指先に硬い感触を捉えた。
俺はそれを指で摘み上げ、素早く引き抜く。「と」と書かれた将棋の駒が青色の肉の中から出てきた。
「ああぁあああっ!!!」
「悪いっゆっくりやった方が良かったか?!」
「……いや、素早くやってくれた方がいい。ただ、次引き抜く時は声かけてな」
「分かった。……気遣えずに悪かった」
話している内に、右足は凄まじい速度で再生していく。
まるで動画を巻き戻しているみたいに瞬く間に肉がくっつき、数秒もしない内に傷跡一つない足が現れた。
……よかった。綺麗にくっついた。駒さえ引き抜けば大丈夫らしい。
「左足も、いくぞ」
「了解……。早めにしてくれよ……」
今度は左足に指を突っ込んでいく。
左足は中途半端に再生しているらしく、どこに駒が埋まっているか分かりづらい。
俺はゆっくり、慎重に指をつき入れる。
「……なぁ、
「あ? なんだよ、今集中してるんだけど……」
「いいじゃんか、痛みを誤魔化したいんだよ」
そう言われては反論できない。
俺は指を動かしながら、
「……
「そんな事言われたって分かんねぇよ……。一番そいつに近そうなのは、今んところお前だぞ」
「……本当に、知らないんだ。知らない筈なんだ………」
鎮痛な面持ちで声を漏らす
知らないってんなら、黒服の二人が勘違いしてるって風にしか考えられないんだが……。
……。
俺達が変身した時のこの姿って、性癖を反映してるんだよな。
俺は何となく思った事を口に出す。
「あー、一つ仮説を思いついた。お前、一目惚れしたんじゃねぇか?」
「は?」
「いやさ、俺達の姿って、性癖が反映されてるんだろたぶん。で、俺も
俺はお気に入りのAV女優の姿に。
だったら、お前のその姿にもモデルが居たっておかしくない筈だ。
「街中でお前がその、アケミって女に一目惚れしたとしたらどうだよ。その記憶事態は忘れてたけど、記憶の脳味噌に好みの女のモデルケースとして焼きついた……。とかどうだ? 一応筋は通って……」
「聞こえる」
「は?」
「カエルの、声が、聞こえる」
「…………は? ………なに言ってんだよ」
今のこの街は無人だ。
人っ子一人、生き物一匹もいやしない。俺達以外は。
そもそも今は外からあの多腕の女が暴れ回ってる音が響いてるし、カエルが鳴いてたとしても破壊音でかき消されそうなもんだ。
「きこえる、んだ。たしかに、たしかに、おとが」
「……おい、おい?
思わず肩を揺する。しかし反応がない。
もっと肩を揺すろうとした瞬間。
「手錠はなんのためにある?」
「何っ、がぁっ!!?」
聞き慣れない女の声。
それが聞こえると共に俺は凄まじい力で腕を引っ張られ、床に倒れ伏した。
手首を見れば、そこには手錠が。
手錠の先には、一人の婦警がいた。
常識的な婦警じゃない。スカートの丈は腰までしかないし、上着もへそがもろだし。
その上顔は特上の美人。体つきも扇状的だ。バストはどう見積もっても100以上ある。
明らかに二次元の世界にしか存在しちゃいけない、どスケベ警官である。
首筋には鍵型のアザが光っている。魔法少女で確定だ。
「逃がさないためにあるんじゃあない! 屈服させるためにあるッ! ……お前は果たして、私を屈服させられるかな? ご主人様(仮)………」
「マジで何言ってんだよお前……!」
婦警が腕を引けば、俺は凄まじい力で引っ張られ民家の壁に叩きつけられる。
俺の体は壁を貫通し、外に叩き出される。全身がバラバラになったみたいに痛む。
「うっぐ……!! な、めてんじゃぁねぇーーーっっっ!!」
ライフルの銃口を手に持ち、手錠の鎖を目印に婦警に殴りかかる。この距離じゃ狙撃なんか無理だ。
婦警は俺に鼻っ面を殴り飛ばされ、呻きながらたたらを踏む。
俺は追撃をしようと腕に力を込め、
「ぶっふっっ………!?」
「良いぞご主人様(仮)……!! 私をもっと楽しませろ!!」
婦警に先程の意図返しのように鼻っ面を木製バットで殴り返された。
「こんんのぉっっ………!!」
「はは!! いいぞ!! お前の全てをぶつけてこい!!」
俺と婦警は超近距離で殴り合う。
バットとライフルが何度もカチ合い、相手の意識を刈り取らんとうねりを上げる。
「ぐ、おおおぉっっ……!」
こ、コイツ!! 一撃一撃が尋常じゃなく重い!!
信じられねぇ握力だ。殴られるたびにカエル鬼の水弾くらいの衝撃が体を襲う。
しかもコイツ、全然俺の攻撃を回避しねぇ。全部の攻撃を頭で受け止めやがる。
スピードも威力も向こうが上。回避行動をしない分手数も上だ。
常識外の威力でぶん殴られ続けて、だんだん俺が押し負け始める。
「こ、こんのぉっ……!! マゾ野郎が……!!」
「大正解だぜ、ご主人様(仮)」
体重を乗せられた一撃を鳩尾に見舞われ、俺はたまらず倒れ込む。
手足が動かない。全身が痛い。頭が割れそうだ。
右手に感じた圧迫感が無くなる。婦警が俺の手から手錠を外したのだ。
「じゃあな、ご主人様(落第)。お前は俺を満足させられないみたいだ」
そう言って婦警は、俺を放って部屋の奥に向かう。
そこには地面に倒れ伏す、
「お、おい!!
「…………声、声が………」
「
「カエル…………うるさい、うるさい………」
「おい!! 聞いてんのか、おい!!!」
ダメだ。
婦警はそんな
「ぁあ……?!」
魔法少女による、魔法少女の誘拐。
今日は全くもって意味の分からない事ばかりだ。
心の中でそう愚痴りながら、這いずって外に出る。
見れば婦警は
それを止めようと
「くそ………!! 退け!!」
「黙れ!!! 黙れ!! 黙れ!!!」
濡れ羽色の影と多腕の女が正面かが轟音と共にぶつかり合う。
「っ………! 俺の姿を見ろ!! 希望たり得る俺の姿を見ろ!!」
「俺の腕を讃えろ!! 無双たる俺の腕を讃えろ!!!」
二人の足元から、同時に亀裂が走った。
それは地面に、家屋に、空間に。無尽蔵に走り回り、辺りを侵食し合う。
「おおおおおぉおおおおおっ!!!」
「あああぁあああああぁあっ!!!」
リボンの津波を空に落ちる落雷が焼き尽くしていく。
焼き尽くした残骸を物ともせず、無数のリボンが雷を食い破っていく。
展開された二つの世界は、押し合い食らい合いお互いを侵食し始める。あまりのエネルギーのぶつかり合いに空間が悲鳴を上げた。
「おーおー、大変な事になってら……。おい、姉ちゃん! とりあえず話通じそうだからアンタの方を助けるぞ!」
「えっ?」
世界の終わりの様な光景に、似つかわしくない軽い声が一つ。
横を見れば、眼帯の男が俺を見下ろしていた。その隣には黒服の女もいる。
「思ったより大変な事になってますね……。全く、生きて帰れるんでしょうか」
「ごだごだ言ってないでいくぞ、オラ!」
黒服の二人は深呼吸を一つ。次の瞬間、風のように走り出した。
「ああぁあっっ……? ………勝負の、邪魔するなぁぁぁっっ!!!」
多腕の女は迫り来る人影に気付いたのか、紫電を二人の方に投げる。
先行する黒服の男は焦りもせず、回避行動もせず。
ただその場で九字を切り、一言唱えた。
「祓へ給え 清め給え」
瞬間。紫電が曲がった。
まるで空間が歪んだかのようにも、雷が自分から男を避けた様にも見えた。
先程も黒服の女が使っていた、道理の外の技だ。
多腕の女もまさか雷の軌道が曲がるとは予想外だったらしく、一瞬意識が止まる。
その一瞬が致命的だった。
眼帯の男の背から、紫電に負けない速度で黒服の女が飛び出した。
まさに電光石火。うねる雷の嵐を掻い潜り、一息で多腕の女の懐に潜り込み一閃。
紫電が収まり、地面に走ったひび割れが消えていく。それで決着がついた事が俺にも分かった。
袈裟斬りにされた多腕の女は胴体を斜めに切断され、唖然とした表情でその場に崩れ落ちる。
「ふぃー、怖かったー」
「うい、お疲れ」
黒服の女のぼやきに眼帯の男が答える。
……人の形をしたものを切って置いて、この気の抜けよう。
それは、どこか俺達とは別の世界で生きている事を感じさせられた。
無意識に手に力が籠る。
婦警にボコボコにされた体は、既に癒えてきた。いざという時は抵抗出来る筈だ。
そんな俺を見て、眼帯の男が口を開く。
「そんなに怖い顔色すんなよ姉ちゃん。俺らはここで何が起こってるか知りたいだけなんだ」
「……そりゃありがたいね。俺達も意味不明な事ばっかりで困惑してるんだ。とりあえず自己紹介して貰えるか?」
「俺は
「誰がガキだ殺すぞ不細工」
俺は慌てて今にも喧嘩をし始めそうな二人に声をかける。
「お、おい! 今警察って言ったか!?」
「おう、そうだよ。警察手帳見るか? 俺らは「公安所属霊的兵器」。この街で起こっている行方不明事件の調査、及びこの事件に黒幕と思われる魔術師、
そう言って