【完結】性癖全開★魔法少女モドキ    作:烏何故なくの

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胎動

 「あ!? ………お前ら男子高校生なの!!?」

 

 思わず声が漏れた。

 ………この街に、行方不明者事件を調査しにきて数日。

 ようやく街に張られていた結界の中に入れたと思ったら頭の痛くなる事ばかり起こる。

 目の前の、フリフリした……ゴスロリというんだったか。全身真っ黒な、人形みたいな少女に状況を説明させて数分。

 「男から女に」「性癖の姿に」「一度殺されてる」………。

 全くもって、聞きたくない情報が出るわ出るわ。

 

 「(ひいらぎ)。つまりこの子達、全員神性を付与されて………」

 「ああ、それも格が尋常じゃねぇ。もう半神と同レベルだ」

 

 眼帯の下の俺のくり抜かれた筈の目玉が、ゆらゆらと揺れるコイツらの魂を捉えている。

 どいつもこいつも尋常じゃねぇ。特にさっき(やじり)が斬り飛ばした多腕の女が一番魂の格が高い。こりゃしばらくすれば復活するな。殺し切れん。

 まぁ話を聞く限り、あの多腕の女もこの空間の被害者らしい。そう考えるといくら本気で殴っても死なないってのはありがたい。

 

 「………どういう意味だ、分かるように話せよ」

 「あー、………簡潔にいえば、お前らはなんかの生贄にされそうになってんだよ」

 

 性別を転換させる魔術は、魂の格を上げて生贄の質を上げる方法としてメジャーだ。

 男女二つの性を持つという事は、アルダナーリーシュヴァラ、オメテオトルといった神に代表されるように、正反対の属性を兼ね備える完全な存在……。「神」として魔術世界では定義される。

 こいつらが一度殺されたっていうのも、正反対の属性を兼ね備えさせ神性の格を上げる為だろうな。

 昼は男で夜は女。死んでいるのに生きていて、現実を生きていながら理想の姿である……って所か。

 そもそも現実を理想で上書きするってのは神性保有者の特権だ。

 こいつらの肉体が傷ついても元に戻るってのも上書きの一部だろう。こいつらは自分で自分の肉体を「理想の異性」に上書きし続けているんだ。

 

 「……行方不明になってた奴は、全員男。って事は、連中の目的は男の属性を兼ね備えた女?」

 「おそらくだが、何かの苗床にする気だろうな」

 

 バニーガールの女の疑問に答える。

 イザナミ神は子宮からはもちろん、自分の血から、尿から、吐瀉物からさえ神を産んだ。

 ハイヌウェレ神は自分の尻から宝物を排出し、その死体からは食糧が生じた。

 女神はあらゆる方法で、あらゆる物を生み出す。

 食物も、宝も、概念も、神だって。肉の一欠片だって使い道がある。

 俺の話を聞いてバニーガールの女がサッと顔を青ざめさせた。

 

 「じ、じゃあ敏弘(としひろ)は、これから………!?」

 「………どうだろうな。さっきも言ったが、その島咲(しまざき)って男には何かがある。わざわざそいつだけを攫ったって所からもそれは確かだ」

 

 先程見た女の顔は間違いなく(さえずり)だった。

 数年前、大規模な失踪事件を調査していた際に一度見たっきりだが……。アイツの顔を間違える訳は無ぇ。

 

 「……(さえずり)アケミって女はな、日本の癌って二つ名がつくくらい物騒な魔術師なんだよ。もう何百年も……。江戸時代から、人を攫っては人体実験をしてる。………場合によっては、(さえずり)島咲(しまざき)って人間を騙ってたって事も考えられる」

 「……そんな事」

 「無いって言い切れるのか?」

 「無い。アイツは人を傷つけられるような人間じゃない」

 

 俺の言葉を、真っ黒な少女が真っ向から切って捨てる。

 澄んだ宝石みたいな目は、俺を正面から見据えて目を逸らさない。

 ちょっと若いが育てばいい女になるな、こいつ。……あぁ、男なんだっけか。もったいない。

 

 「……よくよく考えれば、(さえずり)が今も昔と同じ顔をしているとは限りません。自分は整形をして、自分とは全く関係のない少女を影武者にしている……という事も考えられます」

 

 (やじり)がバニーガールの女を励ますように口を開く。おぉ、バカのくせに今日は比較的頭回ってんじゃねぇか。

 ………まぁ、その可能性は低いがな。

 本当に(さえずり)が無関係な男子高校生を自分の影武者にしてたってんなら、俺らが偽(さえずり)に注意を引きつけられてられてる間にもっとちゃんと殺しに来た筈だ。

 これは推測だが、多腕の女と露出狂婦警は島咲(しまざき)ってガキを捕まえに来たんじゃねぇかって思う。動き方から考えて、その方が自然だ。自分とそっくりな容姿をした、得体の知れない不安要素を捉えにきた使いっ走りって感じか?

 

 「………あの婦警のコスプレをしていた女には、俺の式神をくっつけてある。俺らは今から、あの女を追跡しなきゃいけん。俺個人としては、お前らにゃ今すぐにでも家に帰って宿題してて欲しいんだが………」

 

 バニーガールの女は握ったライフルを胸に掲げ、真っ黒な少女は静かに息を吐き出す。

 ……そうだよなぁ。コイツら無鉄砲な高校生のガキだもんなぁ。しかも戦えるだけの力持ってるし。

 目の前でダチ攫われてじっとしてられる訳ねぇよなぁ〜〜…………。

 

 「……俺達はこの夜を何回も乗り越えてきました。戦いの心構えは出来ています」

 「俺らは未成年のガキを戦わせる心構えが出来てねぇんだよ………」

 

 いやまぁ俺らはその未成年のガキに思いっきり殴りかかったワケだが。本当にごめんな。

 真っ黒な少女に闘志たっぷりな宣言をされて、思わずため息が出る。

 ……どーすっかなぁ。このままじゃ無理矢理ついてくるだろうし。

 これから日本最悪の魔術師と戦うってのに、半神を二体も相手してらんねぇよ。

 ど〜〜〜しょっかなぁ。

 

 「……一応言っておくが、マジで命の保障はできねぇぞ。死んでも責任取れねぇからな」

 「大丈夫だ」

 「そのくらい、覚悟している」

 「……(やじり)、コイツらのお守り頼めるか?」

 「はぁ、この状況じゃ仕方ないですね。いいですか二人とも。基本的に私の後ろを離れない事、それさえ守ってくれればついてきてもいいですよ。……いざって時は、頼らせてもらいます」

 

 (やじり)の言葉に、ガキどもは顔色を明るくする。

 ……もしもの時は、すまねぇ。俺はお前らを見捨てるだろう。

 内心に生まれた罪悪感をおくびにも出さず、俺は声をかける。

 

 「……。式神が地面に潜った。地下鉄……にしては広いな。地下街か? ともかく、そこが敵の本拠地だ。ガキども、案内頼むぜ」

 

 

▷▷▷

 

 

 「お集まりの皆様。……そもそも、魔術世界(我々の業界)における神の定義とは何か……ご存知でしょうか?」

 

 無人の地下街に滔々と、女の声が響く。

 まるでセールスのように澱みなく話される言葉をかけられたのは、強面の男達だ。

 十五人程の男達は、見るものが見れば全身に途方もない金額の品を身に纏っている事が窺えただろう。

 数千万もするスーツやネックレス、腕時計。服に着られず、堂々とそれらを着こなす男達は当然それに見合った立場についている。

 暴力団の組長、マフィアの党首、後ろ暗い者とも関わりの深い国会議員。

 ここにいるのは、所謂裏社会の人間達だった。それも特上の、浴びるように金と血を貪り、地獄行きが決まりきっているような。

 彼らは(さえずり)のスポンサーだった。彼らの存在があるから、(さえずり)は街一つを対象とした強力な結界を張ることが出来たのだ。

 男達の中でも一際若そうな男が声を上げた。

 

 「ふむ………。信仰されている事、などですかな?」

 「それも一つの見方ではありますが、違います。……神とは、現実を塗り替える能力を持つ者を指します」

 

 自身たっぷりに、女———(さえずり)アケミは、そう告げた。

 

 「自分の内面世界を現実に出力し、世界を思う通りに上書きする超越者。なんでも出来る……という訳では有りませんが、おおよそ万能に限りなく近い存在です。二百年以上をかけた私の研究は、神の肉体こそが我らの願い……不老不死への道だと指し示しました」

 

 不老不死。

 チープで、有り溢れていて、もはや耳にタコが出来る程に聞き慣れた悪役の願望。

 しかし(さえずり)アケミはそれを必死に追い求めていた。その為に全てを捧げてきた。

 

 「神への変転。太古から魔術世界では研究されてきた物事であり、自らの魂に神性を施す方法は数多くあります。先程鎌山(かまやま)様が言われたように、大勢から信仰を集める事も一つの方法ですね。他にも自らを性転換させる、神話の再現を行う……。しかしこれらは不老不死には程遠い。魂が強くなろうとも、それに相応しい肉体を得なければ永遠には届きはしない。……私の編み出した方法は簡単に言えば、人の肉体を神の肉体に変転させる技術です」

 

 (さえずり)は誇るように、自らの偉業を謳う。

 しかしその技術を編み出す為にどれほどの血を流したか、一般人であれば顔を顰めざるを得ないだろう。

 

 「まず、男子高校生を私の結界へと取り込みます。そうして式神で命を刈り取り、私の編み出した術式を埋め込む。埋め込まれた男子高校生は、高い神格を持った女神として生まれ変わります」

 

 (さえずり)の言葉と共に、一人の少女が前に出た。

 見事な金髪に、アメジストのような青い瞳。年齢は高校生程だろうか。

 顔つきに不相応な大きな胸を星条旗ビキニで覆っており、彼女が歩くたびに豊かな果実が肉感的に揺れる。男達から下品な声が飛んだ。

 下半身にはダメージジーンズを履いており、健康的な足が見え隠れしている。

 

 「彼ら……いえ、彼女らと言った方が正確でしょうか。彼女らは、自分の内面世界を現実に出力する力を得ます。……しかし、精神の力で物理的な事象に影響を与えられるという事は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。このように、式神を用いて安全かつ簡単に洗脳する事が出来ます。男子高校生を対象にしたのはここにあります。思春期の揺れ動く心は繊細で壊しやすく、攻撃的だ。弄り方によっては戦神として兵器としても転用出来る」

 

 閑話休題、と(さえずり)は一呼吸を置く。

 

 「彼女らに、我らの肉体を産んで貰います」

 

 おおぉっ、とどよめきが男達に広がった。

 

 「彼女らの精神を弄り、神を産むことに特化させる。女神のリソースをふんだんに使い、特上の神の肉体を産んで貰う。これが私の編み出した不老不死の技術、二百年の集大成。私はこれを、転生ならぬ「錬生」と呼んでいます」

 「おお………!! ついに、ついに……!!!」

 「やったぞ!! もう、死に怯えなくとも良いのだ!!」

 

 歓声が無人の地下街に走った。

 それもその筈、ここに集っているのは誰も彼もが不死を求める俗物達。

 その為に人の情もまともな肉体も捨てた魔人ども。外見からは想像出来ないが、平均年齢は百五十を超えるだろうか。彼らが死に怯えた夜は千を越えるだろう。

 

 そんな彼らの歓声に水を差すように、下駄の音が鳴り響いた。

 (さえずり)はそちらに顔を向ける。そこにいたのは一人の老人だった。

 顔に刻まれたシワは深く、年齢は七十歳だろう。背筋はピンと伸びていて老いを感じさせない。

 深緑のコートとチェック柄のズボンには似つかわしくない、一本の刀を腰に佩いている。

 

 「どうした、じじい?」

 「良い知らせが一つ。先程使いに出した神兵(ローカパーラ)が、目的の物を持ってきました」

 

 老人が指を後ろにやる。

 そこには大胆な改造制服を身に纏った婦警が、一人の女を引きずっている。

 その女は、(さえずり)と瓜二つの顔をしていた。

 

 「……報告に上がっていた不穏分子か」

 「はい。それと悪い方向が。使いに出した神兵(ローカパーラ)は二人。一人帰ってきません。それに、帰ってきた一人はこんな物をくっつけて帰ってきました」

 

 老人が手を差し出す。

 その手のひらには、小さな小さな鳥が握られていた。

 鳥の胸には穴が開き、そこから真っ赤な紙吹雪が溢れ出ている。

 

 「式神……雁もどきか。公安だな?」

 「ええ。おそらく、(ひいらぎ)が来ています」

 

 チッと(さえずり)は舌打ちし、先程まで計画を説明していた男達へと振り返る。

 

 「お集まりの皆様、誠にすいません。公安の手先が入り込んできました。一時地下街の奥へ避難を!」

 

 (さえずり)の声に従い男達はゾロゾロと地下街の奥へと避難していく。

 いれ違うように二十人程の男達が地下街の奥から現れた。

 彼らは男達の財力で雇われた呪い師達。

 街を覆う程の結果を張れたのも、毎日のように式神を使い哀れな男子高校生達を追い詰めていたのも彼らの仕事である。

 

 「話は聞いていたな? こちらの居場所はバレている。仕事だ、守りを固めろ!!」

 

 (さえずり)の号令に従い、呪い師達が札を投げる。

 札は空中で徐々に人の形に変わっていき、数秒後には筋骨隆々の赤鬼と化した。

 赤鬼、青鬼、天狗、大ガマ、巨象……。瞬く間に百鬼夜の軍勢が姿を表し、地下街を目一杯に埋め尽くす。

 

 「ふむ、このお嬢と瓜二つの子供はどうします?」

 「……相手が攻めてくるまでまだ時間はあるだろ。どうせ一瞬だ」

 

 懐から真紅の液体が入った小瓶を取り出し、(さえずり)は自分と瓜二つの女に近寄る。

 この小瓶はネッソスの血と言われる薬であり、理性を溶かす媚薬なのだ。これを相手に盛れば、戦う意志も蕩け落ち自慰に浸るだけの木偶の坊と貸す。特に精神の力を使い戦う半神らにとって致命的だ。

 (さえずり)は自分と瓜二つの女がぶつぶつと何か呟いている事に気付き、足を止める。

 

 「聞こえる………声が聞こえる………」

 「なんだ、何を言っている?」

 「さあ。先程からカエルだかなんだか」

 「……カエル?」

 

 老人のその言葉を聞き、(さえずり)の足が止まる。

 思い出されるのは過去のトラウマ。命からがら逃げたした屈辱の思い出。

 二百年に渡って逃げ続けた、魔人の直感が警告を鳴らした。

 

 「……何故、コイツが……。いや、まさか………」

 

 目の前の女の正体に思い至り、(さえずり)の動きが一瞬止まる。

 

 その瞬間だった。

 目の前の女の陰から小さな腕が伸び、ネッソスの血を奪い取る。

 そして手は小瓶の蓋を開け、女の口に中身を流し込んだ。

 

 

▷▷▷

 

 

 自分が溶けていく。

 心が溶けている。

 ……僕ってなんだっけ。

 なんなんだっけ。

 

 「がまんしなくていいんだよ」「しなくていいんだぞ」

 「力はある」「僕らが与える」

 

 声が。

 声が聞こえる。

 沢山の、子供みたいな高い声が聞こえる。

 

 やりたい事?

 やりたい事って、なんだ?

 ……そう思った瞬間、自分の腹の底から熱い物が込み上げてきた。

 

 ああ、これは炎だ。

 自分が大事にしていた物が、全部燃やされていく。

 何もかもが燃えて、燃え尽きていく。

 もう全部、どうでも良くなってきた。

 

 やりたい事。

 やりたい事か。

 

 ………ある。

 たった一つだけ、ある。

 

 したい。

 したい。

 したい。

 

 

 エッチな事が、したい!!

 

 

▷▷▷

 

 

 「あははははあっっははっっ!!!」

 

 目の前の女が笑い声を上げたのを見て、(さえずり)は顔を青ざめさせた。

 突如溢れ出した死の気配に、(さえずり)の心臓が早鐘を打ち始める。

 げろげろげろ。

 途方もない熱気と、カエルの声が女の肉体から溢れ出して地下街を満たしていく。

 

 「くそっ、島咲(しまざき)…………!! あのガキが、なんでここに!」

 

 (さえずり)は自分の失態に下唇を噛むが、最早全ては遅かった。

 島咲(しまざき)は自らの足で立ち上がり、笑いながら(さえずり)を見つめていた。

 

 「……本当に、アケミ姉さんだ」

 

 そう呟いた瞬間、島咲(しまざき)の肉体が炎に包まれた。情欲の炎だ。島咲(しまざき)の心で燃え上がった炎が現実に影響し、体を発火させているのだ。

 炎は煌々と燃え上がり、島咲(しまざき)の髪に纏わりついていく。

 髪留めが燃えつき、ポニーテールがほどける。

 炎のように流動し熱を持った長髪を振り乱し、島咲(しまざき)は笑い続ける。

 

 「おいっ呪い師共!! 防衛はもういい!! コイツを殺せっっ!!」

 

 顔を青ざめさせながら唾を飛ばす(さえずり)を見て、隣にいた老人は驚きを隠せない。

 常に余裕を崩さず、安全な立場から人を痛ぶる女がここまで取り乱すのを初めて見たのだ。

 (さえずり)の怒号を受け、百鬼夜行の軍勢がすぐさま島咲(しまざき)を取り囲む。

 島咲(しまざき)はそれでも笑い続けた。島咲(しまざき)の視線はただ一人、(さえずり)だけを見つめていた。

 

 「……五年前みたいには行かないぜ、アケミ姉さん。今度こそ、確実に、殺す」

 

 そう呟いた瞬間、島咲(しまざき)の陰から無数の腕が這いずり出た。

 

 「邪魔だなぁ、コイツら! ヘカトンケイル、食っていいぞ!!」

 

 

 

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