【完結】性癖全開★魔法少女モドキ    作:烏何故なくの

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殺意の発芽

 「邪魔だなぁ、コイツら! ヘカトンケイル、食っていいぞ!!」

 

 島咲(しまざき)の影から、真っ黒な無数の手が濁流のように這いずり出る。

 それは爆発的に広がり、島咲(しまざき)を取り囲んでいた式神の群勢を瞬く間に飲み込んだ。

 それは式神の後ろに陣取っていた呪い師達も例外ではない。

 

 「なっ、ぐぁぁあああっっ!!?」

 「いぎゃあぁあっっ!!!?」

 「た、食べないでくれぇえええぇええええっ!!」

 

 十人が何も分からずに腕の波に攫われた。

 三人が身近に迫った脅威に気付き、絶叫を上げながら波に飲まれた。

 七人は式神を出して数秒間、腕の波に抗ったが、押し寄せる波に数秒と持たなかった。

 

 「神兵(ローカパーラ)、お嬢を守れ!」

 「了解した、ご主人様(真正)」

 「承知。全て石化させる」

 

 老人は素早く(さえずり)の正面に立ち、枯れ木のような腕を刀にかける。

 滑らかな動きで音もなく抜刀。瞬間、老人めがけて押し寄せた腕の波が、真っ二つに裂ける。

 真っ二つになった腕の波に、星条旗ビキニを身に纏った金髪の女が触れた。

 瞬間。真っ黒な腕が灰色に染まる。

 一瞬で石のオブジェとかした腕達を、警官女の振るうバットが打ち壊していく。

 老人達が津波に抗っている間、遠くから絶叫が溢れた。(さえずり)のスポンサー達が溢れ出た波に飲み込まれたのだ。

 

 数分間の破壊の後、大波はゆっくりと引いていく。

 所狭しと並んでいた店は全てが原型を留めず破壊され、百を超える式神達はヘカトンケイルに全てが飲み込まれた。

 

 「ふーっっっ……。……お嬢、アレなんです? 尋常じゃない化け物ですが……」

 「失敗作だ。封印したつもりだったが……ちっ、忌々しい!」

 

 額に汗を浮かべた老人の疑問に、(さえずり)が舌打ちをしながら答える。

 対する島咲(しまざき)は笑みを浮かべ、両手を地面につけて腰をあげた状態で静止。いわゆるクラウチングスタートの構えだ。

 

 「よぉーい、スタートぉ!」

 

 その声と共に島咲(しまざき)はコンクリートの床を蹴り飛ばす。

 瞬間、陥没する地面。暴力的な身体能力に身を任せ、島咲(しまざき)はその体を弾丸に変える。普通の人間ならぶつかっただけで体がバラバラになる速度だ。

 その射線上にあるのは(さえずり)の体。その一点目掛け、島咲(しまざき)は疾走する。

 

 「死ねぇええぇええっっ!!」

 「誰が死ぬかっ! 来い、神兵(ローカパーラ)!!」

 

 (さえずり)の声と共に、地面が隆起。

 巨大な手が床から突き出し、島咲(しまざき)の行く手を阻む。

 

 「あ?! 手!?」

 

 驚愕して動きを止めた島咲(しまざき)を、巨大な手が握り締める。

 そのまま島咲(しまざき)は地下へと引き摺り込まれる。

 

 「がぁっっ!!」

 

 全身を何処かに叩きつけられ、島咲(しまざき)は辺りを見回す。

 そこは広い洞窟のような場所だった。

 剥き出しの地面が広がっており、地下街の施設ではないらしい。

 

 そこに、一人のメイドが立っていた。白と黒で彩られ、リボンが散りばめられた可愛らしい服に身を纏っている。

 しかし、サイズがおかしい。

 その手のひらは島咲(しまざき)を包み込めそうな程大きく、その足は島咲(しまざき)を踏み潰せそうな程大きい。

 八メートルはあろうかという巨体からは可愛らしいという印象は感じられず、肌を刺すような威圧感があるばかりだった。

 

 「で、デカすぎだろ……」

 「うるせぇええ!! 可愛いに身長制限はねぇんだよ!!!」

 

 身長に見合った声が洞窟に響く。

 それと共に、巨腕の拳が島咲(しまざき)目掛けて飛んできた。

 思わず飛び上がって逃げる島咲(しまざき)だったが、ふと視界がブレる。

 それと共に全身に走る衝撃。

 巨腕の拳を全身にお見舞いされ、ダンプカーに跳ね飛ばされたかのように、島咲(しまざき)の体は宙を舞う。

 宙を舞う島咲(しまざき)の視線の先——そこには手にものさしを構えた、胸元を大胆に曝け出したナース服の女性がいた。

 

 「洗脳なんかされてんじゃねぇよ、バカ四谷(よつたに)!! ヘカトンケイル!」

 

 島咲(しまざき)の影から再び手が溢れ出し、四谷(よつたに)へと迫る。

 

 「さえねぇよ、ご主人様(仮)」

 

 その腕が、大量の手錠によって絡め取られた。

 

 「どんな顔が好きか言ってみろ。固めてやる」

 

 気を取られているうちに、島咲(しまざき)の足は灰色に染まり動かなくなっていた。

 

 「ま、他勢に無勢……って事ですかね」

 

 島咲(しまざき)の脇腹に、熱い感覚が走る。見れば老人が、自分の脇腹に刀を突き刺していた。

 咄嗟に殴り返すが、柳のような動きで躱わされる。

 

 「舐めるなよ、ガキが。錬生に使うガキどもが反旗を翻した時の対策くらいしてあるんだよ。……くたばれ」

 

 (さえずり)の声が、どこからか島咲(しまざき)の耳に届く。

 その瞬間、島咲(しまざき)の右腕が千切れ飛んだ。

 

 

▷▷▷

 

 

 「ちっ、外したか……」

 

 私はそういいながら、担いだ対()物ライフル銃に弾を込め直す。

 このライフルはいざという時、半神どもが反乱を起こした時の為の特別性だ。.50 bmg弾を、ブラフマーストラの神話を元にした術式で射出する。

 一発ずつしか撃てないのが欠点だが、破壊力は対万物(アンチユニバース)を冠するに相応しい破壊力を誇る。

 

 「お、おぉおおっ!!!」

 

 島咲(しまざき)が吠えた。奴の髪の炎が一際大きくなった。

 奴はじじいに体を切りつけられながら、石化した自分の足を自分でへし折った。

 そのまま膝と両腕で四つん這いになり、獣のように這いずって私の方へ突っ込んでくる。

 

 「バカがっ、今度こそ殺して……!?」

 

 は、速いっ!

 四つん這いの体勢の癖に、異様に速い。どんどん加速していく……!

 

 「行かせるかよ、ご主人様(仮)」

 

 島咲(しまざき)が私に噛みつこうと口を開いた瞬間、奴の首に手錠が巻き付いた。

 婦警の格好をした、拘束フェチの神兵(ローカパーラ)だ。お陰で助かった……!

 動きが止まった隙をついて神兵(ローカパーラ)島咲(しまざき)に迫る。

 

 「邪魔するなぁっっ!!!」

 「うぉっ……!?」

 

 島咲(しまざき)は腕の力だけで拘束フェチの神兵(ローカパーラ)を引っ張った。体勢が崩れ、島咲(しまざき)の元に引き寄せられる。

 島咲(しまざき)は獣のような唸り声を上げ、手に持ったトンカチで拘束フェチの神兵(ローカパーラ)の顔面を殴りつけた。

 メギャリ、と嫌な音が辺りに響く。

 

 次の瞬間、拘束フェチの神兵(ローカパーラ)の体が()()()()

 全身から真っ赤な血飛沫を吹き出しながら、二十いくらかの肉片になって体の内側から破裂した。

 

 「は……?」

 

 思わず間抜けな声が出る。

 島咲(しまざき)は再びトンカチを振るう。

 今度は石化フェチの神兵(ローカパーラ)が真っ二つに裂けた。あり得ないくらいに断面から臓物が吹き出している。

 三度、トンカチが振るわれた。

 今度は巨人フェチの神兵(ローカパーラ)が餌食になった。全身に切傷のついた肉の塊になって、私の手札の中で最も強靭な肉体は地面に崩れ落ちた。

 

 神兵(ローカパーラ)が、三人。

 戦闘用に洗脳、調整を施した半神存在が、一国の軍隊でさえ返り討ちに出来る戦力が。

 それが死にかけだったガキに、鎧袖一触でやられてしまった。

 ……バカな!?

 いや、そもそもが神兵(ローカパーラ)には現実改変能力による自動回復がある。単純な外傷でここまで破壊されるなど……!

 ………そうか、これが奴の能力(せいへき)か!!

 

 「じじい! 奴の攻撃は全て躱わせ! 防御はダメだ! ()()()()()()()()()()()!!」

 

 現実改変能力により、触れた相手を死体に改変する。

 それが恐らく奴の能力。恐らく奴はネクロフィリア、生者より死者に興奮するのだろう。

 トンカチによる攻撃だったのに、鋭利な刃物で斬られたように真っ二つにされた石化フェチの神兵(ローカパーラ)の惨状もこれなら説明がつく。

 現実改変による自動回復も、同じ現実改変能力によって打ち消されているのだ。

 もっと言えば、死にかけて素早くなったのも奴の能力(せいへき)だろう。マゾヒズムだ。殴られれば殴られれるだけ、奴はボルテージが上がっていくのだ。

 

 ボコボコという音と共に、島咲(しまざき)の足が生える。

 さすがに腕は、対万物ライフルに組み込まれた呪いの効果で治癒しないらしいが……。

 

 「ヘカトンケイル、僕の腕の代わりをしろ」

 

 島咲(しまざき)の腕の断面から、黒い腕が生えた。

 ………クソっ。ヘカトンケイルを上手く使いやがる。一撃で殺す以外、奴を止める方法は無いらしい。

 先程見つけた()()()()を使って、上手く戦うしかない。

 

 「比較の神兵(ローカパーラ)! じじいの盾になれ!!」

 

 先程の攻撃の中で、一人無事だった神兵(ローカパーラ)

 最近洗脳したばかりの、相手を縮める能力を持つ神兵(ローカパーラ)

 じじいの方向では、こいつは島咲(しまざき)と交友関係にあったらしい。

 攻撃が出来ない訳ではない。先程、島咲(しまざき)はヘカトンケイルにこいつを襲わせていた。

 恐らく、自分の手で攻撃したくないのだ。

 なぜなら、興奮できないから。

 石化フェチの神兵(ローカパーラ)は触れた物を石化するという強力な能力を持っていたが、その異能は女性相手にしか発動しなかった。

 半神の能力は願望の具現化。

 性癖由来の能力は、性欲の対象にしか効果を及ぼさない。

 男の時の姿を知っている相手には、奴は興奮できないのだろう。

 

 「クソっ、纏わりつくな四谷(よつたに)!!」

 

 私の予想は当たっていたらしい。

 島咲(しまざき)は比較の神兵(ローカパーラ)相手に全く攻撃出来ていない。

 ヘカトンケイルに比較の神兵(ローカパーラ)を排除させようとしているが、じじいに邪魔されている。

 

 いいぞ、その調子だ。

 私は倒れ伏す巨人フェチの神兵(ローカパーラ)の影に隠れ、対万物ライフルに弾を込め直す。

 

 「必ず、生き残ってやる……!!」

 

 

▷▷▷

 

 

 「だぁああぁっクソっ! 鬱陶しい!!」

 

 僕は思わず怒声を上げた。

 老人への攻撃は四谷(よつたに)が自分の体を盾にして防ぐし、ヘカトンケイルに四谷(よつたに)を攻撃させると老人がヘカトンケイルの腕を切り落とす。

 そのコンビネーションに僕は太刀打ちできていない。

 

 くっそ〜〜。四谷(よつたに)相手じゃ興奮出来ねぇ……!!

 だってこいつ性格悪いもん!! 嫌い!!

 

 「ふぅ……。少し気になる事があるんですが、よろしいですかね?」

 

 戦いの間、唐突に老人が話しかけてくる。

 ……なんだろうか。僕は思わず動きを止め、聞く姿勢に入る。

 

 「この神兵(ローカパーラ)に攻撃出来ないのは、こいつが好みから外れているから……という認識でよろしいんでしょうか?」

 「……うん」

 「……つまり、逆に言えば。私は……好みの内だと?」

 「? うん」

 

 老人はしわくちゃの顔をさらに歪め、気味の悪い物を見る目で見られた。解せん。

 やっぱ人間は外側より臓物(なかみ)でしょ。

 お腹の中に真っ赤な血と臓物が詰まっているならそれ以上は求めないよ。

 

 ………いや。それだったら四谷(よつたに)がタイプから外れているのはおかしいな。

 なんで四谷(よつたに)に興奮出来ないんだろ。性格が悪いから……ってのもおかしいよね。

 四谷(よつたに)よりアケミ姉さんの方がやばいでしょ。

 

 ………僕って、なんなだろう。

 何を基準に興奮するかどうかを決めてるんだろうか?

 普通にカエル相手でも興奮出来るしな……。

 

 「ぁああぁああああぁっっ!! クソ親父クソ親父クソ親父!!」

 「うるさいなぁ。ヘカトンケイル、もっと気合い入れろよな!」

 

 絶叫を上げながら突っ込んでくる四谷(よつたに)の四肢を僕の影から伸びる手が捕まえる。

 その手を老人が素早く切り飛ばす。さっきからこの繰り返しだ。

 

 ……そう言えば、さっきからあいつ、クソ親父って煩いな。

 なんだろ。家庭環境あんま良くないんかな。

 家庭内暴力とかうけてたんかな。それでいじめとかするようになったんかな……。

 昔の四谷(よつたに)、あんな事する奴じゃなかったもんな。

 

 ……あ。

 ちょっと。ちょっとだけ、四谷(よつたに)に興奮してきたかもしれない。

 死体に上書きするのは出来ないけど、普通に殴り飛ばすのは出来るようになってきた。

 マジでどういう基準なんだろ、僕の守備範囲……。

 

 「?! バカなっ! この短期間で性癖を拡張しただとっ!?」

 

 四谷(よつたに)を殴り倒すと、アケミ姉さんの驚いたような声が聞こえる。

 人を変態みたいに言うのやめてほしいな。傷つく。

 

 今一度、僕に突貫してくる四谷(よつたに)に向き合う。

 四谷(よつたに)の顔は酷い形相だ。髪を振り乱しながら、口の端から泡を吹いている。

 僕は繰り出される拳を捌きながら、思わず四谷(よつたに)に問いかける。

 

 「殺すっ、お前、殺す、殺す!!」

 「………お前さ、何そんなに怒ってんの?」

 「何だとっ!! お前、お前が俺を否定したんだろうが!」

 

 力任せな拳の嵐。僕が質問したと共に、四谷(よつたに)の攻撃が激しくなる。

 う〜ん。これじゃマトモに話を聞けそうにもない。

 ………あ。そうだ。

 

 「ヘカトンケイル、壁!」

 

 僕がそう叫ぶと、ヘカトンケイルの腕がドーム状に変形。

 僕と四谷(よつたに)を覆ってくれた。

 よし、これで多分大丈夫だ。

 僕は襲いかかってくる四谷(よつたに)を地面に押し倒し、頭を鷲掴みにした。そして呪文を唱える。

 

 「はれぇくりしなはれぇくりしな……」

 

 アケミ姉さんの精神支配の魔術。前に姉さんと精神が繋がった時に魔術の知識が流れ込んできたから、僕は幾らかの魔術を行使できる。

 指の先から、糸が飛び出すような感覚がする。その糸は四谷(よつたに)の脳に繋がっていく。

 怒りが、自分の中に入ってくる。悲しみが、自分の中に入ってくる。

 四谷(よつたに)の記憶と感情がダイレクトに僕に流れ込んでくる。

 

 見える。

 四谷(よつたに)が父親に怒鳴ら、殴られている光景が見える。

 

 『お前は俺がいなきゃ生きていけないんだぞ!! お前は壊れてるんだ!!』

 『なんだよこの点数。なんで真面目に生きていけないんだよ』

 『育て方を間違った。お前は失敗作だ』

 

 聞こえる。

 四谷(よつたに)の声が聞こえる。

 怒りも悲しみもあるが、一番強いのは自己否定だ。

 常に能力に父親の罵声が染み付いている。自分を惨めな存在だと思っている。

 

 今分かった。四谷(よつたに)のものさしは、四谷(よつたに)が生きていくための武器なのだ。

 他人と自分を常に比較しているから、相手をちっぽけな存在に貶めないと四谷(よつたに)は呼吸も出来ないのだ。

 

 「誰が失敗作だ! 失敗作はお前だ! 殺す、殺す殺す殺す……」

 

 僕は暴れ出す四谷(よつたに)を抱きしめた。

 全力で、この男を抱きしめたくなった。

 

 「失敗作なんかじゃないよ。僕はお前と出会えて良かったって思ってるぜ」

 

 耳元でそう囁いてやれば、四谷(よつたに)の腕から力が抜けた。

 今、四谷(よつたに)と僕の心は繋がっている。四谷(よつたに)の感情を僕が理解できたように、僕の言葉が本心だって事は四谷(よつたに)に伝わってる筈だ。

 そりゃあ、こいつのイジメとかを肯定する気持ちは無い。ただ、四谷(よつたに)の怒りには意味がある。意義がある。

 四谷(よつたに)の粗野な態度は自分を守る為の行動だ。生きる意思だ。

 そう思えば、愛しさが心の中から湧いてくる。

 

 僕は抱きしめた四谷(よつたに)の体を死体に改変した。

 四谷(よつたに)は袈裟斬りにされたように胴体を切断され、その場に崩れ落ちる。

 

 理解した。四谷(よつたに)の心に触れて、僕は自分を理解した。

 僕は殺人が好きなのでは無い。「価値のある物をぐちゃぐちゃに壊す事」が好きなのだ。

 そして僕にとって価値のある事といえば、「生きる意思」だ。

 

 だから僕はアケミ姉さんが好きなのだ。

 ただ生きる為に外道をひた走る、あの女性に恋をしている。

 だからあの老人にも興奮をしている。アケミ姉さんと組んでいるという事は、あの人も不老不死を求めているのだろうから。死にたくないのだろうから。

 あのカエルに興奮したのもそういう訳なのだろう。動物の生存への意思は、人のそれよりも分かりやすい。

 

 というか、あらゆる生き物は生存の為に活動しているのだ。

 そう考えるともしかして、人類ってエッチなのか? 生物ってエッチなのか……?

 

 ……アケミ姉さんをぶっ殺し終えたら、人類滅ぼそうかな。

 うん。ありだ。

 

 

▷▷▷

 

 

 「神格が、上がっている……?!」

 

 思わず私は唾を飲み込んだ。

 突如、島咲(しまざき)が比較の神兵(ローカパーラ)を自分をヘカトンケイルを使い囲ったと思えば、急激に奴の神格が上がっている。

 

 神には格が存在する。

 そしてその格は、簡単に言えば自分をどう定義するかによって決まる。

 自分にはどんな事が出来るか(何を司るか)苦手(弱点)は何か。自らの魂の性質を観測して、神としてどう在りたいかを定義する。

 

 この気配は……地母神だ。

 島咲(しまざき)は意識的か無意識的か分からないが、あらゆる生命を慈愛を持って抱きしめようとしている。

 そもそも、奴の殺意は怒りや悪意から出力される物ではない。

 私は一度奴の心に触れてしまったから理解している。奴は私の人生に心の底から価値があると認め、その上で殺そうとしてきたのだ。

 死を司る地母神。抱きしめたその胸の中で相手を腐らせるグレードマザー。

 今から産まれようとしているのは、そういう存在だ。

 

 冷や汗が流れる。

 一刻も速く、奴を排除しなければいけない。

 対万物ライフルを構え直し、引き金を引く。

 ヘカトンケイルにより作られた簡易的な結界は粉々に砕け落ち、中から島咲(しまざき)の姿が見えた。

 炎のように流動する長髪はさらに勢いを増し、その笑みは先程より禍々しい弧を描いている。

 

 「………っっ! 悪鬼招来っ!!」

 

 私は無数の札を宙へ投げ飛ばす。札は宙で破裂音と共に赤鬼の姿へと変化する。

 その数、四百八匹。私の呼べる最大の式神だ。

 

 「じじい!」

 「分かっています」

 

 赤鬼の波で私の姿を覆い隠し、その間にじじいと合流する。

 私は自分に札を貼り付け、指を下に振る。縮小化の魔術だ。

 これを使い、じじいの懐に潜り込む。

 島咲(しまざき)は私が対万物ライフルによる援護射撃に徹してると思っているだろう。その隙を突く。

 

 わざわざ動き回るアイツに対万物ライフルを直撃させる必要は無い。

 数年前のように、急急如意令で記憶を封印してしまえばいいのだ。

 今までの人生経験全てを封じ込めた後、赤子のようになった島咲(しまざき)を対万物ライフルで撃ち殺す。

 

 じじいは赤鬼の群れを縫って素早く移動し、忍びのように音もなく島咲(しまざき)の背後へ移動する。

 そして神速の抜刀。

 相手が並の人間、いや半神でもなすすべなく死んでいただろうが今の島咲(しまざき)はそれ以上の化け物だ。じじいの突きを避け、反撃を見舞ってくる。神格が上がった影響か、身体能力、反射神経が大幅に向上している。

 

 死の一撃がじじいを捉える前に、私はじじいのポケットから飛び出し術を解除。

 島咲(しまざき)は突如現れた私に驚いたらしく、一瞬動きを止めるがすぐさま私の胸にトンカチを振り下ろした。

 

 ここだ。

 

 私は再び縮小化の魔術を使用。体のサイズを変え狙いを逸らす!

 完全には避け切れず、トンカチは私の肩を掠めたが問題は無い。

 私は既に「錬生」を自らの体に施している。

 この程度の攻撃では、私の肉体を死体に改変しきる事は出来ない。

 勝った。私は印を結ぶ。

 

 「がががぼ、ばぼ———(急急、にょ———)

 

 ……は?

 なんだ、なんだこれは。

 私が口を開くたびに、水が口の中から溢れ出る。

 呪文が、呪文が詠唱できない!!!

 

 「溺死ってのもいいもんだよね。血が出るのもいいけどさ、それだけじゃ飽きるじゃん?」

 

 こ、こいつ!! 私の動きを読んで……!

 いや、そもそも錬生状態の私の肺を水で満たすだと?! こいつの格は一体どこまで高まるんだ!!

 

 「じゃ、ばいばい」

 

 待て、ぃやだ、やめ——————。

 

 

▷▷▷

 

 

 トンカチを振り下ろす。トンカチを振り下ろす。トンカチを振り下ろす。

 また取り逃したりしないよう、アケミ姉さんの体を念入りに殺し切る。

 

 十発ほど殴っていたらアケミ姉さんは頭から地面に倒れて動かなくなった。頭から、とは言っても頭部はもう原型を留めてないんだけど。

 ……死んだかな? 案外あっさり終わったな。

 嬉しいっちゃ嬉しいけど、やったー! って感じじゃない。

 なんていうか、重い荷物を下ろした時みたいな気持ち良さがある。

 

 『………しんだ?』『死んだかな?』

 「ああ、死んだと思うよ」

 『…………はははあはあははっっ!!!』『やったぁああぁっっ!!』

 『しんだ! しんだ! しんだ! しんだ!』『ざまぁみろざまぁみろざまぁみろっ』

 

 ゲラゲラ、ケラケラ。

 頭の中で子供特有の大合唱が響き渡る。ちょっとうるさい。

 僕よりヘカトンケイルの方が楽しそうなの、ちょっとアレだな。負けた気持ちになるな。

 ま、でもちょっといい事した気分だ。殺人がいい事な訳ないけど。

 んーー。なんていうか。

 

 「消化不良……かなぁ」

 『……え?』

 「ああ、なんていうか……もっと殺したいんだよなぁ」

 

 ザワザワと、頭の中でヘカトンケイルがどよめき始める。

 

 『ま、まだ殺すの?』

 「? うん」

 『……だ、ダメだよっ』『これで終わりでいいじゃん』『殺人は良くないよ』

 『バカっ俺たちがそんな事言える立場かよ』

 

 何やら言い争っているが、僕には関係ない。

 ヘカトンケイルは宿主の命令には逆らえない。僕の殺人を邪魔する心配はない。

 そういう訳で一旦ヘカトンケイルの声を無視し、アケミ姉さんの死体を見て固まってる老人に向き直る。

 

 このお爺さんも、ちゃんと殺さないとな。

 僕はそう思い、トンカチを振り上げて。

 

 「……何をしている? っていうか、どっちだ? (さえずり)か、男子高校生か」

 

 聞き覚えのある声が後ろから投げかけられて、思わず動きを止める。

 振り返れば眼帯をつけた刑事さん達が、神妙な顔をして僕を見ていた。

 

 (ただし)哀悼(あいとう)くんが、刑事さん達の後ろから不安そうな顔でこっちを見ている。

 いいタイミングだ。

 僕は体を四人に方に向け、トンカチを構え直す。

 

 『だ、だめだ!』『友達だろうっ!? そんな事しちゃいけないよっ!!』

 『やめて!』『やめろ』『ダメっ!!』

 

 ヘカトンケイルの声を無視して、僕は舌なめずりをした。

 

 

 

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