「邪魔だなぁ、コイツら! ヘカトンケイル、食っていいぞ!!」
それは爆発的に広がり、
それは式神の後ろに陣取っていた呪い師達も例外ではない。
「なっ、ぐぁぁあああっっ!!?」
「いぎゃあぁあっっ!!!?」
「た、食べないでくれぇえええぇええええっ!!」
十人が何も分からずに腕の波に攫われた。
三人が身近に迫った脅威に気付き、絶叫を上げながら波に飲まれた。
七人は式神を出して数秒間、腕の波に抗ったが、押し寄せる波に数秒と持たなかった。
「
「了解した、ご主人様(真正)」
「承知。全て石化させる」
老人は素早く
滑らかな動きで音もなく抜刀。瞬間、老人めがけて押し寄せた腕の波が、真っ二つに裂ける。
真っ二つになった腕の波に、星条旗ビキニを身に纏った金髪の女が触れた。
瞬間。真っ黒な腕が灰色に染まる。
一瞬で石のオブジェとかした腕達を、警官女の振るうバットが打ち壊していく。
老人達が津波に抗っている間、遠くから絶叫が溢れた。
数分間の破壊の後、大波はゆっくりと引いていく。
所狭しと並んでいた店は全てが原型を留めず破壊され、百を超える式神達はヘカトンケイルに全てが飲み込まれた。
「ふーっっっ……。……お嬢、アレなんです? 尋常じゃない化け物ですが……」
「失敗作だ。封印したつもりだったが……ちっ、忌々しい!」
額に汗を浮かべた老人の疑問に、
対する
「よぉーい、スタートぉ!」
その声と共に
瞬間、陥没する地面。暴力的な身体能力に身を任せ、
その射線上にあるのは
「死ねぇええぇええっっ!!」
「誰が死ぬかっ! 来い、
巨大な手が床から突き出し、
「あ?! 手!?」
驚愕して動きを止めた
そのまま
「がぁっっ!!」
全身を何処かに叩きつけられ、
そこは広い洞窟のような場所だった。
剥き出しの地面が広がっており、地下街の施設ではないらしい。
そこに、一人のメイドが立っていた。白と黒で彩られ、リボンが散りばめられた可愛らしい服に身を纏っている。
しかし、サイズがおかしい。
その手のひらは
八メートルはあろうかという巨体からは可愛らしいという印象は感じられず、肌を刺すような威圧感があるばかりだった。
「で、デカすぎだろ……」
「うるせぇええ!! 可愛いに身長制限はねぇんだよ!!!」
身長に見合った声が洞窟に響く。
それと共に、巨腕の拳が
思わず飛び上がって逃げる
それと共に全身に走る衝撃。
巨腕の拳を全身にお見舞いされ、ダンプカーに跳ね飛ばされたかのように、
宙を舞う
「洗脳なんかされてんじゃねぇよ、バカ
「さえねぇよ、ご主人様(仮)」
その腕が、大量の手錠によって絡め取られた。
「どんな顔が好きか言ってみろ。固めてやる」
気を取られているうちに、
「ま、他勢に無勢……って事ですかね」
咄嗟に殴り返すが、柳のような動きで躱わされる。
「舐めるなよ、ガキが。錬生に使うガキどもが反旗を翻した時の対策くらいしてあるんだよ。……くたばれ」
その瞬間、
▷▷▷
「ちっ、外したか……」
私はそういいながら、担いだ対
このライフルはいざという時、半神どもが反乱を起こした時の為の特別性だ。.50 bmg弾を、ブラフマーストラの神話を元にした術式で射出する。
一発ずつしか撃てないのが欠点だが、破壊力は
「お、おぉおおっ!!!」
奴はじじいに体を切りつけられながら、石化した自分の足を自分でへし折った。
そのまま膝と両腕で四つん這いになり、獣のように這いずって私の方へ突っ込んでくる。
「バカがっ、今度こそ殺して……!?」
は、速いっ!
四つん這いの体勢の癖に、異様に速い。どんどん加速していく……!
「行かせるかよ、ご主人様(仮)」
婦警の格好をした、拘束フェチの
動きが止まった隙をついて
「邪魔するなぁっっ!!!」
「うぉっ……!?」
メギャリ、と嫌な音が辺りに響く。
次の瞬間、拘束フェチの
全身から真っ赤な血飛沫を吹き出しながら、二十いくらかの肉片になって体の内側から破裂した。
「は……?」
思わず間抜けな声が出る。
今度は石化フェチの
三度、トンカチが振るわれた。
今度は巨人フェチの
戦闘用に洗脳、調整を施した半神存在が、一国の軍隊でさえ返り討ちに出来る戦力が。
それが死にかけだったガキに、鎧袖一触でやられてしまった。
……バカな!?
いや、そもそもが
………そうか、これが奴の
「じじい! 奴の攻撃は全て躱わせ! 防御はダメだ!
現実改変能力により、触れた相手を死体に改変する。
それが恐らく奴の能力。恐らく奴はネクロフィリア、生者より死者に興奮するのだろう。
トンカチによる攻撃だったのに、鋭利な刃物で斬られたように真っ二つにされた石化フェチの
現実改変による自動回復も、同じ現実改変能力によって打ち消されているのだ。
もっと言えば、死にかけて素早くなったのも奴の
ボコボコという音と共に、
さすがに腕は、対万物ライフルに組み込まれた呪いの効果で治癒しないらしいが……。
「ヘカトンケイル、僕の腕の代わりをしろ」
………クソっ。ヘカトンケイルを上手く使いやがる。一撃で殺す以外、奴を止める方法は無いらしい。
先程見つけた
「比較の
先程の攻撃の中で、一人無事だった
最近洗脳したばかりの、相手を縮める能力を持つ
じじいの方向では、こいつは
攻撃が出来ない訳ではない。先程、
恐らく、自分の手で攻撃したくないのだ。
なぜなら、興奮できないから。
石化フェチの
半神の能力は願望の具現化。
性癖由来の能力は、性欲の対象にしか効果を及ぼさない。
男の時の姿を知っている相手には、奴は興奮できないのだろう。
「クソっ、纏わりつくな
私の予想は当たっていたらしい。
ヘカトンケイルに比較の
いいぞ、その調子だ。
私は倒れ伏す巨人フェチの
「必ず、生き残ってやる……!!」
▷▷▷
「だぁああぁっクソっ! 鬱陶しい!!」
僕は思わず怒声を上げた。
老人への攻撃は
そのコンビネーションに僕は太刀打ちできていない。
くっそ〜〜。
だってこいつ性格悪いもん!! 嫌い!!
「ふぅ……。少し気になる事があるんですが、よろしいですかね?」
戦いの間、唐突に老人が話しかけてくる。
……なんだろうか。僕は思わず動きを止め、聞く姿勢に入る。
「この
「……うん」
「……つまり、逆に言えば。私は……好みの内だと?」
「? うん」
老人はしわくちゃの顔をさらに歪め、気味の悪い物を見る目で見られた。解せん。
やっぱ人間は外側より
お腹の中に真っ赤な血と臓物が詰まっているならそれ以上は求めないよ。
………いや。それだったら
なんで
………僕って、なんなだろう。
何を基準に興奮するかどうかを決めてるんだろうか?
普通にカエル相手でも興奮出来るしな……。
「ぁああぁああああぁっっ!! クソ親父クソ親父クソ親父!!」
「うるさいなぁ。ヘカトンケイル、もっと気合い入れろよな!」
絶叫を上げながら突っ込んでくる
その手を老人が素早く切り飛ばす。さっきからこの繰り返しだ。
……そう言えば、さっきからあいつ、クソ親父って煩いな。
なんだろ。家庭環境あんま良くないんかな。
家庭内暴力とかうけてたんかな。それでいじめとかするようになったんかな……。
昔の
……あ。
ちょっと。ちょっとだけ、
死体に上書きするのは出来ないけど、普通に殴り飛ばすのは出来るようになってきた。
マジでどういう基準なんだろ、僕の守備範囲……。
「?! バカなっ! この短期間で性癖を拡張しただとっ!?」
人を変態みたいに言うのやめてほしいな。傷つく。
今一度、僕に突貫してくる
僕は繰り出される拳を捌きながら、思わず
「殺すっ、お前、殺す、殺す!!」
「………お前さ、何そんなに怒ってんの?」
「何だとっ!! お前、お前が俺を否定したんだろうが!」
力任せな拳の嵐。僕が質問したと共に、
う〜ん。これじゃマトモに話を聞けそうにもない。
………あ。そうだ。
「ヘカトンケイル、壁!」
僕がそう叫ぶと、ヘカトンケイルの腕がドーム状に変形。
僕と
よし、これで多分大丈夫だ。
僕は襲いかかってくる
「はれぇくりしなはれぇくりしな……」
アケミ姉さんの精神支配の魔術。前に姉さんと精神が繋がった時に魔術の知識が流れ込んできたから、僕は幾らかの魔術を行使できる。
指の先から、糸が飛び出すような感覚がする。その糸は
怒りが、自分の中に入ってくる。悲しみが、自分の中に入ってくる。
見える。
『お前は俺がいなきゃ生きていけないんだぞ!! お前は壊れてるんだ!!』
『なんだよこの点数。なんで真面目に生きていけないんだよ』
『育て方を間違った。お前は失敗作だ』
聞こえる。
怒りも悲しみもあるが、一番強いのは自己否定だ。
常に能力に父親の罵声が染み付いている。自分を惨めな存在だと思っている。
今分かった。
他人と自分を常に比較しているから、相手をちっぽけな存在に貶めないと
「誰が失敗作だ! 失敗作はお前だ! 殺す、殺す殺す殺す……」
僕は暴れ出す
全力で、この男を抱きしめたくなった。
「失敗作なんかじゃないよ。僕はお前と出会えて良かったって思ってるぜ」
耳元でそう囁いてやれば、
今、
そりゃあ、こいつのイジメとかを肯定する気持ちは無い。ただ、
そう思えば、愛しさが心の中から湧いてくる。
僕は抱きしめた
理解した。
僕は殺人が好きなのでは無い。「価値のある物をぐちゃぐちゃに壊す事」が好きなのだ。
そして僕にとって価値のある事といえば、「生きる意思」だ。
だから僕はアケミ姉さんが好きなのだ。
ただ生きる為に外道をひた走る、あの女性に恋をしている。
だからあの老人にも興奮をしている。アケミ姉さんと組んでいるという事は、あの人も不老不死を求めているのだろうから。死にたくないのだろうから。
あのカエルに興奮したのもそういう訳なのだろう。動物の生存への意思は、人のそれよりも分かりやすい。
というか、あらゆる生き物は生存の為に活動しているのだ。
そう考えるともしかして、人類ってエッチなのか? 生物ってエッチなのか……?
……アケミ姉さんをぶっ殺し終えたら、人類滅ぼそうかな。
うん。ありだ。
▷▷▷
「神格が、上がっている……?!」
思わず私は唾を飲み込んだ。
突如、
神には格が存在する。
そしてその格は、簡単に言えば自分をどう定義するかによって決まる。
自分には
この気配は……地母神だ。
そもそも、奴の殺意は怒りや悪意から出力される物ではない。
私は一度奴の心に触れてしまったから理解している。奴は私の人生に心の底から価値があると認め、その上で殺そうとしてきたのだ。
死を司る地母神。抱きしめたその胸の中で相手を腐らせるグレードマザー。
今から産まれようとしているのは、そういう存在だ。
冷や汗が流れる。
一刻も速く、奴を排除しなければいけない。
対万物ライフルを構え直し、引き金を引く。
ヘカトンケイルにより作られた簡易的な結界は粉々に砕け落ち、中から
炎のように流動する長髪はさらに勢いを増し、その笑みは先程より禍々しい弧を描いている。
「………っっ! 悪鬼招来っ!!」
私は無数の札を宙へ投げ飛ばす。札は宙で破裂音と共に赤鬼の姿へと変化する。
その数、四百八匹。私の呼べる最大の式神だ。
「じじい!」
「分かっています」
赤鬼の波で私の姿を覆い隠し、その間にじじいと合流する。
私は自分に札を貼り付け、指を下に振る。縮小化の魔術だ。
これを使い、じじいの懐に潜り込む。
わざわざ動き回るアイツに対万物ライフルを直撃させる必要は無い。
数年前のように、急急如意令で記憶を封印してしまえばいいのだ。
今までの人生経験全てを封じ込めた後、赤子のようになった
じじいは赤鬼の群れを縫って素早く移動し、忍びのように音もなく
そして神速の抜刀。
相手が並の人間、いや半神でもなすすべなく死んでいただろうが今の
死の一撃がじじいを捉える前に、私はじじいのポケットから飛び出し術を解除。
ここだ。
私は再び縮小化の魔術を使用。体のサイズを変え狙いを逸らす!
完全には避け切れず、トンカチは私の肩を掠めたが問題は無い。
私は既に「錬生」を自らの体に施している。
この程度の攻撃では、私の肉体を死体に改変しきる事は出来ない。
勝った。私は印を結ぶ。
「
……は?
なんだ、なんだこれは。
私が口を開くたびに、水が口の中から溢れ出る。
呪文が、呪文が詠唱できない!!!
「溺死ってのもいいもんだよね。血が出るのもいいけどさ、それだけじゃ飽きるじゃん?」
こ、こいつ!! 私の動きを読んで……!
いや、そもそも錬生状態の私の肺を水で満たすだと?! こいつの格は一体どこまで高まるんだ!!
「じゃ、ばいばい」
待て、ぃやだ、やめ——————。
▷▷▷
トンカチを振り下ろす。トンカチを振り下ろす。トンカチを振り下ろす。
また取り逃したりしないよう、アケミ姉さんの体を念入りに殺し切る。
十発ほど殴っていたらアケミ姉さんは頭から地面に倒れて動かなくなった。頭から、とは言っても頭部はもう原型を留めてないんだけど。
……死んだかな? 案外あっさり終わったな。
嬉しいっちゃ嬉しいけど、やったー! って感じじゃない。
なんていうか、重い荷物を下ろした時みたいな気持ち良さがある。
『………しんだ?』『死んだかな?』
「ああ、死んだと思うよ」
『…………はははあはあははっっ!!!』『やったぁああぁっっ!!』
『しんだ! しんだ! しんだ! しんだ!』『ざまぁみろざまぁみろざまぁみろっ』
ゲラゲラ、ケラケラ。
頭の中で子供特有の大合唱が響き渡る。ちょっとうるさい。
僕よりヘカトンケイルの方が楽しそうなの、ちょっとアレだな。負けた気持ちになるな。
ま、でもちょっといい事した気分だ。殺人がいい事な訳ないけど。
んーー。なんていうか。
「消化不良……かなぁ」
『……え?』
「ああ、なんていうか……もっと殺したいんだよなぁ」
ザワザワと、頭の中でヘカトンケイルがどよめき始める。
『ま、まだ殺すの?』
「? うん」
『……だ、ダメだよっ』『これで終わりでいいじゃん』『殺人は良くないよ』
『バカっ俺たちがそんな事言える立場かよ』
何やら言い争っているが、僕には関係ない。
ヘカトンケイルは宿主の命令には逆らえない。僕の殺人を邪魔する心配はない。
そういう訳で一旦ヘカトンケイルの声を無視し、アケミ姉さんの死体を見て固まってる老人に向き直る。
このお爺さんも、ちゃんと殺さないとな。
僕はそう思い、トンカチを振り上げて。
「……何をしている? っていうか、どっちだ?
聞き覚えのある声が後ろから投げかけられて、思わず動きを止める。
振り返れば眼帯をつけた刑事さん達が、神妙な顔をして僕を見ていた。
いいタイミングだ。
僕は体を四人に方に向け、トンカチを構え直す。
『だ、だめだ!』『友達だろうっ!? そんな事しちゃいけないよっ!!』
『やめて!』『やめろ』『ダメっ!!』
ヘカトンケイルの声を無視して、僕は舌なめずりをした。