にじか・ざ・えんどれす! 作:虹夏曇らせ概念
これで、何回目?
「に、虹夏ちゃんがバンドやる理由は売れて武道館ライブ……ですよね…?」
この繰り返しに、意味はあるの?
「……、うーん……本当の夢はその先にあるんだけど、……」
───この悪夢に、終わりはあるの?
「……でもまだ、ぼっちちゃんには秘密だよっ!」
悪夢───そう、これが悪夢なら、どれだけ。
「じゃっ、明日よろしくねーっ!」
そう言って、私は駆けて行く。
───駆けて行く?
それは何故?
私は見慣れた夜道を、ただぼんやりと小走りする。
───ぼんやりと?
何故ぼんやりと駆けて行く?
私は曲がり角に入って。
そして私は。
私は。
───そうして視界がふっと、暗転する。
眼を開ける。
視界には、見慣れた光景。見慣れた部屋。私の部屋。
また私に朝が降る。
頭がズキズキと痛む。
あの暗闇を思い出して、吐き気に襲われる。
でも、出てこない。出てくるのは、咽せ返るような胃酸の匂いだけ。
胃酸が喉元まで襲ってきて───喉を灼いてまた胃に戻る。
ああ、そうだ。
私はあの夜を、越えられない。
/
「なんだ虹夏、今日はやけに起きるのが早いじゃ無いか」
「別にー、お姉ちゃんが早すぎるだけだよ」
お姉ちゃんとのこのやり取りももう、何回目だろう。
少なくとも、既に両手には収まりきらない程であることは確かだ。
だから機械的に、もう嫌と言うほど繰り返したから、意識せずとも次の言葉が出てくる。
「はいはい、お姉ちゃんは座っててー。どうせキッチンに居ても邪魔になるだけだから」
「おまっ、その言い方じゃまるで私が料理できないみたいじゃ───」
「───じゃあ今日はお姉ちゃんに作ってもらおっかー!」
「……きょ、今日は気分悪いから虹夏に任せようかなー?」
「はいはい分かりました。だからお姉ちゃんは大人しく座ってて」
「おう……」
適当にあしらって、私はキッチンに向かう。
さて、何を作ろうか───と考える事もなく、朝ごはんを作る。
もとより朝ごはんなんて、昨日の作り置きか、そこら辺にあるレトルト食品で十分だし、そもそも───今日の朝作るものは
私は冷蔵庫からまた、昨日作って措いた肉じゃがを取り出して、レンジで温める。その間に炊飯器からご飯を二人分よそって、レトルトの味噌汁も同時に作る。と言ってもポットに水を注いで、スイッチを押して待つだけだけど。
そうしている内にレンジの音が鳴ったので、肉じゃがを取り出す。二人分の皿に取り分けて、沸いたお湯をレトルトの味噌汁に注ぐ。
出来た。
お姉ちゃんのところに持っていって、一緒に食卓を囲む。
そうして食べているとまた、お姉ちゃんが話しかけてくる。
「お前今日ライブだろ?ちゃんとメンバーとで合わせてるだろうな」
「もっちろーん!……と言いたいとこだけど、実はギターの子とまだ一度も合わせられてないんだよね……あはは」
「おいおい、大丈夫なのかそれ。いつものらりくらり逃げられてるんだろ?」
「……うーん……、……悪い子じゃ無いんだけどねー……」
あはは、と笑って誤魔化す。確かに、ライブ直前なのに一度も皆んなで合わせられていないなんて、お姉ちゃんからしてみれば不安だろうな、とは思う。だってお姉ちゃんはツンツンツンツンツンツンツンツン……デレだし。
お姉ちゃんの不安は、確かに的中する。喜多ちゃんは直前でバックれてしまうのだけれど、私はそれに不安は抱いていない。
だって、
「───おい虹夏、もう時間だぞ」
「あっ、ホントだっ!お姉ちゃん、行ってきますっ!」
「いってらー」
「食器片付けといてねーっ!」
「おーっす」
……普通に遅刻するところだった……危ない。
お姉ちゃん、ありがとう。
/
私は何故か、この朝を繰り返している。理由は分からないけれど、こうなる事はもう諦めるしかないだろう。どう足掻いても、あの夜に私は暗闇に落ちてしまうのだから。
「虹夏、今日お金無いから奢って」
「……お弁当は?」
「忘れた」
「えー……もう仕方ないなー……今回だけだよ?」
「虹夏……好き」
「あーもうそんなに感謝されたらこっちが居た堪れなくなるじゃん!」
今回だけ。この言葉を何度使ったことか。何度繰り返してもリョウはお金が無いし、結局私が購買で奢る羽目になる。
……リョウに八つ当たりするのもなんだけど、流石に一回くらい自分で買ってくれないか。……言っても仕方ないけど。
ちょっとやるせない。
「おいしい……虹夏、好き」
「はいはいどうせ私は都合のいい女ですよーだ」
「そんなことない。虹夏は歴とした、私のライフライン」
「なんじゃそら………」
そうやって二人で喋りながら食べていると、私たちのロインの通知音がした。
相手は絶対───、
「郁代からロイン来た」
「喜多ちゃんから?なんてー?」
「えっと、ふむふむ」
「そんなに頷くようなロインが……?!」
「郁代───、」
「うんうん」
「バンド抜けるって」
「───嘘っ!?」
やはり今回も、喜多ちゃんはバンドをバックれた。
「どうする?」
「お、おおおおお落ち着いて、そ、そうだ、リョウが腕4本になれば───、」
「待て、虹夏の方が冷静じゃない。私にそんな化け物になる度胸はない」
「で、でもどうしたらっ!」
「落ち着け、私に案がある」
「な、何っ!?」
「それは───、今から考える」
「もうっ!全然案ないんじゃん!」
結局リョウからは案は出なくて、私が軽音部の子とかに声を掛けてみたが、全員断られた。そりゃそうだろうな、と思った。誰だって知らないライブハウスで演奏なんかしたくないだろうし。
そうして、放課後。ライブまであと数時間。私は焦りに焦る───こともなく、あの公園に向かった。
あの子の居る、あの公園に。
居た。
「あなた〜ごめんね遅れちゃって」
「パパ〜!」
「よーし飯食いに行くか〜!」
あ、幸せな家庭の光景に当てられて項垂れてる。
……よし。
「あ!ギターーっ!」
私は彼女に───ぼっちちゃんに近づいて。
またいつものように、この言葉を。
言葉を。
「それ、ギターだよね、弾ける───」
「───虹夏ちゃん?」
「───え?」
え?
ちょっと自分で書いててくそつまらないと思ったけど、供養。