にじか・ざ・えんどれす! 作:虹夏曇らせ概念
この繰り返しの10回目に、ふと、奇妙な感覚に襲われたのを、今でもはっきりと思い出せる。
まるで誰かが描いた物語を、上っ面だけなぞっていくような。
なぞってまた増えていく、劣化したレプリカの集まりが、私にまたのしかかって来るような。
薄氷の上を歩いて行くような、そんな危うさを感じた。
感じていたのに。
もしかすると私は、気が抜けていたのかもしれない。
慣れのようなもので、慢心していたのかもしれない。
もしかして私は、何か間違えてしまったのか?
薄氷を叩き割るような、何かを。
だから。
震えた思考が、止まらない。
『───虹夏ちゃん?』
彼女のその言葉が頭の中で反芻する。
彼女と私はこの時はまだ初対面の筈だ。
だから彼女が私の名前を知ってるだなんて、そんなこと、ある訳が。
まさかぼっちちゃんまで───?
───薄氷のその下へ、凍える
狂ったようにしか思えないその行動が、その冷水が、図らずとも私の思考を冷静にさせた。
今すぐにでも逃げ出したい気持ちを抑えて、彼女に問う。
問おうとして。
「なん───」
「あっご、ごごごごごめんなさいっ!初対面なのに、あの、えっと、なんか急に思い浮かんだというか、な、なんというか、とっ兎に角ごめんなさい!」
……呆気に取られた。
いやしかし、ぼっちちゃんがぼっちちゃんしてくれたお陰で、迷子になりかけていた私が引き戻ることができた。
彼女のしどろもどろながらも、怒涛の勢いで溢れた言葉をどうにか整理するに、つまり……。
「……えーっと……、……私たち初対面ってことでいいよね?」
「はっはいっ!」
「……本当の本当に、会ったことも、見たこともないんだよね?そのー……ごめん、名前教えてくれる?私、下北沢高校2年、伊地知虹夏」
「ご、後藤ひとりです」
「そう…、……ひとりちゃん、私たち、会ったことも、見たこともないんだよね?」
「は、はい、そうですけど……?」
念押して聞いてみたが、どうやら彼女は本当に何も知らないらしい。
他の人なら上手く隠している可能性があるけど、ぼっちちゃんにはそんなこと、到底出来ない。
もし仮に彼女が隠し事をしようものなら、あまりの挙動不審でそもそも隠す事が出来ないだろう。
「そ、そかそか!変なこと聞いちゃってごめんねっ!」
「あっだ、大丈夫です、わ、私になんかにわざわざ話しかけてくれてありがとうございますすみません」
「だ、だいじょぶ?」
「あっな、なんでもないですっ!すみません!」
……うん、一先ず思考は後回しにして、目の前の彼女と会話することにしよう。
やっぱりぼっちちゃんはぼっちちゃんだった。
目を合わせようとすれば目にも止まらぬ速さで逸らされるし、ずっと地面のほう向いていて猫背気味だ。
……何より……その……、……ちょっとカビ臭い。
「それギターだよね?弾けるのっ!?」
「あっ………」
「……おーい?」
いつも通りぼっちちゃんが固まったので、かくかくしかじか説明して、無理矢理連れて行くことにした。
此処まではいつも通り。
───じゃあ、さっきのは、一体?
さっきぼっちちゃんは私を見て、確かに「虹夏ちゃん」と言っていた。
この段階では私たちはまだ、知り合っていなかった筈なのに。
何故彼女は私の名前を知っていた?
さっき彼女は「頭に急に思い浮かんだ」と言っていたけれど、何故?
……一旦落ち着こう。慌てるな、私。ようやく見えてきたかもしれない、この繰り返しから抜け出す方法。
それをふいにしない為にも、落ち着け。
……先ずは今朝からの私の行動を思い出そう。そこに何かあるかもしれない。
えーっと……いつも通り、私の部屋で目覚めて、お姉ちゃんと話して、学校に行って、リョウに購買でお昼ご飯を奢って、喜多ちゃんがライブバックれて……うーん?何か不自然なとこあったか?全部全部、今までとおんなじ流れのような……、……唯一違うところは、危うく遅刻しかけたってことくらいだけど……それは流石に関係ないよね……うーん?
堂々巡りだー……。
「私は武道館をも埋めた女……」
「これが本来あるべき女子高生の匂い……」
………。
そうこうしている内に、ライブハウスに、STARRYに着いた。
「リョウー、この後藤ひとりちゃんが今日のライブのギター入ってくれるって!」
「ほーん……」
「へ、へぅっ、す、す、すみません!」
「………?」
「ひ、ひとりちゃん!この子山田リョウ!何にも考えてないだけだから安心して!」
「虹夏?」
「ほ、ほらっ、じゃあ皆んなで一回合わせようか!」
「はっはいっ」
「虹夏?」
……いけないいけない。さっきの出来事の衝撃が結構効いてるみたいだ。
自分で言うのもなんだけど、らしくない。
ふう、とため息を吐きながら、3人してスタジオに向かう。
スタジオに向かう途中、ぼっちちゃんに気に掛けていると、リョウがこちらをじっと見てきていることに気がついた。
「……?リョウ、どうかした?」
「……別に」
「そう?」
変なの、と呟いて、そうしているといつの間にかスタジオに着いていた。
「これ、今日私たちがする曲の楽譜。私たちインスタントバンドだから」
「はっはい!」
そう言うとぼっちちゃんは食い入るように楽譜に見入っていた。
ちょっと張り切り過ぎな気もするけど……まあ、いっか。
どうせこの時のぼっちちゃんの演奏は……、……ド下手だし。
「───じゃあ、行っくよーっ!」
これを書くきっかけはある知人との会話の中で生まれたんですが、その知人に第1話を送ったところ、後で見るとだけ言われてからまだ一向に音沙汰がありません
その悲しみをぶつけたら自分でもよく分からない国語2くらいの文章が出来ましたが、元よりプロットなしの行き当たりばったり小説だからいいよね!ってなったので許してください
と言うことで失踪します