悪の頂点の筈なのに何故かうちの喫茶店で魔法少女達が居座っている件 作:鉄血
彼等が日常に戻る前───事件発生してから三日後に少し時間を遡る。
「・・・・居心地が悪い」
「そう?ボクはそう思わないけど」
街の凍結事件が起こってからはや三日。
慎一郎は夜、ラインハルトに呼び出された。
高級料理店にモノと一緒に呼び出された慎一郎は椅子に背を預けながら周りに視線を向けた。
エリート層の人間が周りのテーブルを囲うように座って楽しく食事をしている。
と、そんな中で一人の男性の姿が見えた。
慎一郎と同じ金髪に整った顔に鋭い目つき。美形と言えば美形だが、顔の右半分は酷い火傷痕が異様に目立つ。
この男こそがラインハルト本人だった。
周りの視線がラインハルトに寄せられる。
普通の人にはない威圧感がラインハルトから発せられているのだ。目立つ見た目とその威圧感には誰もが目を引くだろう。
「待たせた」
「珍しいな。お前が人前で仮面を被らないなんて」
「食事の場だぞ。仮面を被っていては楽しめるものも楽しめん」
そう言ってラインハルトは椅子に腰かけると、メニュー票を手に取りすぐに閉じる。
「二人はもう頼んだのか?」
「俺はお前が来るまで待ってたんだよ」
「ボクは頼もうとしたけど、シンに止められた」
「そうか。今回呼び出したのは俺だ。支払いは持つ。好きに頼め」
「そうこなくちゃね」
「すまん」
モノは嬉しそうに答え、慎一郎は申し訳なさそうに言う。
「気にするな」
謝る慎一郎にラインハルトはそう答え、ワインと魚料理を頼む。
モノも遠慮をすることなく、かなりの値段がする肉料理と酒を頼んでいた。
慎一郎も適当な料理を一品頼むと、ラインハルトに顔を向けて言った。
「それで?今日はどうしたんだよ。こんな時間に呼び出すことなんて滅多にないだろ」
慎一郎の質問にラインハルトは答えた。
「まあな。だが、今回で“彼女”を此方に引き込んだだろう。その彼女が引き起こした“被害報告“だ」
そう言ってラインハルトはタブレットを慎一郎に渡す。
慎一郎はタブレットの画面をスクロールしていくと街の被害総額にあの場にいた犠牲者───数百人の情報が並んでいた。
「346人って・・・嘘だろ」
事件の死者数に慎一郎は動揺を隠せない。あの一瞬でそれだけの犠牲者が出ていたということに、慎一郎は恐怖を覚える。
「それでこれが“DMK部隊が目撃者を殺した人数“だ」
「52人・・・346人のうち294人は柊が・・・」
これを彼女に見せるわけにはいかない。もし、これを見せてしまえば彼女が壊れてしまう。
息を呑み込む慎一郎に、ラインハルトは何か思い出したかのように慎一郎に言った。
「確か───〈凍土の騎士〉と“同じ学校の生徒“が死にかけだった所をC3が無断で保護したと話も上がっていてな。だが、その生徒の身体の殆どは氷漬けにされたことで壊死しまっているらしい。俺は食事の後、その生徒に会う予定だが・・・モノはどうでもいいとしてお前はやめておくか?慎一郎」
そう言うラインハルトに慎一郎は顔を隠すように手を当てて、頷く。
「・・・ああ、止めておく。間接的にとはいえ“俺のせい”でもあるんだ。こんな作戦にサインをした俺に───」
「・・・シン。それ以上口にしたら怒るよ」
慎一郎の自己嫌悪に発した言葉に、モノは言った。
「俺のせいじゃない。“ボク達のせい”でしょ。この作戦を提案したのはボク達なんだからさ。何でもかんでも自分だけ背負い込むのはシンの悪い癖だよ」
「・・・・モノ」
モノの言葉に慎一郎は彼女の名を小さく溢す。
そしてそんな慎一郎にラインハルトは注文し、届いたワインをグラスに注ぎながら言った。
「それに彼女は“まだ死んではいない”。俺は提案をするだけだ。お前の“妹”と同じように。“アンドロイド”として生きていくか───な」
そう言って笑うラインハルトにモノは眉を顰める。
「趣味悪いよ」
「俺は“提案”をしているんだ。その女がどのような答えを出すかは知らんが、アンドロイドになるのなら俺の駒になるだけだ。特別なのはお前の妹だけだ。俺とお前の仲だ。いつでも無償で彼女の身体をメンテナンスをしてやるし、好きに生きてくれても構わない」
ラインハルトはそう言って、グラスに入ったワインを口に含む。
そして慎一郎に言った。
「“俺達の目的───まだ忘れてはいないな?“」
「分かってるよ。“俺はこの腐り切った世界を変える為“。“モノは誰にも縛られない自由を手に入れる為“。お前は───“自分を見殺しにした大統領・・・いや、父親に復讐”をする。それが俺達の最終目的だ」
そしてラインハルトに渡されたグラスに注がれたワインを慎一郎は一気に飲み干す。
その味は喉に焼き付くようにいつまでも残り続けた。