スプリームの加入はミッションタイマーのみ難色を示したが、捨てられたウマ娘という境遇から皆はスプリームを受け入れた
「あの……その……ごめんなざい」
ミッションタイマーにもレースでの暴言を謝ると、ミッションタイマーも
「……はぁ、いいよ。これからは仲間だ。よろしく」
と握手して和解した
ロンメルは和解を確認するとスプリームの顔の修正に入った
「はーい、チクッとしますよ」
極細の触手が口の中や傷口から内部に入り、砕けた顎や鼻を治していく
骨をパズルのように組み立てて、触手の細胞で接着剤代わりにして整える
最後に顔の縫い跡を綺麗に治していけば完成である
「ほい、元通りっと」
「え?」
手鏡でスプリームの顔を見せる
「相変わらず凄い外科技術ですこと」
「本当に万能だよな」
「私達も脚を治してもらったからわかるけど、ぐちゃぐちゃだった顔の修復もできるのかよ」
コアランタン、カラスマーチ、ファッションカラーの3人もロンメルにより大怪我を治してもらっているのでスプリームの気持ちがわかるのだろう
「嘘……戻ってる……」
「さて、スプリームさん、あなたは頭に大きな爆弾を抱えています。流石に私でも脳をいじくることは危険ですのでできません。ですが取り除く方法として特殊な呼吸による自然治癒の方法があります。呼吸習得に1ヶ月半、そこからの治癒で5ヶ月……復帰は来年の4月から5月くらいになるでしょう。とりあえず3ヶ月は呼吸以外の練習を禁止します。危ないのでね。その代わりマネージャーみたいな事をしてもらいます。まずは支えることの大切さを学びなさい。貴女に今必要なのは感謝の気持ちです」
性格を補正するのは難しい
一歩間違えればその子の強みや個性も消してしまうからだ
スプリームは顔が治ろうが今までの高圧的な態度故に敵が多い
虐められたりもするだろう
今までしてきた事の報い故に耐えなければならない
辛いだろうが支えるから頑張ってほしいところである
9月某日
「それでは始めてください」
周りの大人達や学生達は困惑していた
そこにトレセンの制服を着たウマ娘が座っていたからだ
ここはURA主催のトレーナー一次試験会場であったからだ
トレーナーになるためには大学卒業レベルの学力と事務処理能力、ウマ娘の体調管理等のウマ娘についての歴史や身体的特徴、スポーツ科学等全12科目の一次試験を合格した後に面接等の二次試験を11月に受け、12月に合否発表となる
トレーナーになるための勉強は中央トレセン学園のトレーナー科を履修したり、一流大学や海外留学等をして知見や技術、学力を得てから全員が同じ一次試験を受ける
今年の志願者数は400人、二次試験に残れるのが例年だいたい20~30名、そしてトレーナーになれるのは15名から20名くらいである合格率4%の超難関資格それがトレーナー免許である
受験資格は中学を卒業していることのみで男女、ウマ娘問わず年齢は54歳まで
トレーナーは70歳(地方だと定年が無いところもある)まで働くことができるので54歳まで受験できるというのは最低15年はトレーナーとして働いてくれないとURAの運営的に困ってしまうためである
ちなみにサブトレーナーは定年が無いし、サブトレーナー資格の免許もトレーナー資格と比べれば簡単であるため強いチームは持ち前の資金力でサブトレーナーを何名も囲ったりしている
閑話休題
さて、そんな難関な試験にロンメルは挑んでいたが
(ふむふむ……余裕ですねぇヌルフフフ)
シュバババハとペンを動かしていく
ロンメルは6月からの3ヶ月間みっちり勉強をしてきたので既に大学卒業レベルの学力は有していた
引っかけ問題等もあったが普通に突破して12科目を無事に終える
「んー、今日は全体練習も家庭教室もお休みにしたから明日から巻き返さないとな」
後日届いた一次試験の結果は合格
ロンメル11月の二次試験に移る
10月になっても学生連合の快進撃は止まらない
勿論全員が勝てるかというとそうでもない
ヤクルトガッツ先輩はロンメルはG1を勝てる器だと評価していたが前が壁に巻き込まれて3着に敗れたり、タカタノソラ先輩は短距離戦スタートをミスして後方となり、末脚を爆発させたけど2着だったりした
しかし10月中旬までに追加で5名が勝ち上がり、更に地方重賞ながらもスカイプラザ先輩が白山大賞典を7バ身差で逃げ切って圧勝し、学生連合史上初の重賞ウマ娘が誕生した
スカイプラザ先輩はチームに帰ってきてから大泣きし、皆で勝利をお祝いした
これでスカイプラザ先輩は浦和記念に駒を進めることとなる
で、今季12勝が確定し、注目度は嫌でも上がる
元々不良や劣等生の溜まり場だったチームがいきなり成績をはね上げてきたので敵チームの偵察が始まる
まぁ直接的な被害は無いので無視するが、ロンメルの次のレースも確定する
来週の土曜日の東京レース場1800メートル、12レースの最終レースだ
勝てるかは正直五分五分である
9月からの資金繰りが良くなったが、それまで食費を削っていたので思うような筋肉が付かなかったのが原因である
「……勝つために」
『電脳アイドル律の明日のレースのコーナーです』
{待ってました! }
{律ちゃーん! }
{明日も学生連合出るのかな? }
{スカイプラザ選手白山大賞典勝利おめでとうございます}
『皆も気になっているみたいだね! 今週は2人学生連合から選手が出ます。どちらも東京レース場で私の友達のロンメル選手と絶望的な怪我から復帰したコアランタン選手です』
{ラーメン屋の店主きゃー}
{独裁者始動}
{え! コアランタン復帰できるの! }
{学生連合の最終兵器}
『今日はなんと! ロンメル選手とのコラボ配信です! ではロンメル選手通話に入ってきてください』
「はい、ロンメルです」
{キタ━(゚∀゚)━! }
{ラーメン屋の店主キタ━(゚∀゚)━! }
{遂に謎のウマ娘始動}
{前回スリーアウト喰らってたって本当ですか}
『はいはい、皆ストップストップ、事前にマシュマロ募集していたのでそこから選んで話していくよ』
{はーい}
{ラジャー}
『ではまずはロンメル選手自己紹介から』
「はい、皆さんこんばんは、学生連合所属ロンメルです。戦績は7戦0勝未勝利クラスですが、8月が終わったのでクラシッククラスの未勝利が無くなったので崖っぷちのロンメルです。どうぞよろしくお願いします」
{自ら崖っぷち言うんか}
{ラーメン屋の店主抜けてるぞ! }
{ロンメルちゃーん}
{未勝利クラスなんか}
『はい、では皆さんからの質問が多数来ていますので読み上げていきます。まずはロンメル選手と私はどこで友達になったの……ですか……同じ師の下で教育を受けていたとしか……』
「律ちゃんはウマ娘じゃないからトレセン所属じゃないのは皆知ってると思うけど、とある人物の下で約1年授業を受けていたんだ。それで友達になったの」
{へー}
{律ちゃんの過去だー! }
{片や電脳アイドル、片やラーメン屋の超人……師も化物なんやろな}
{そうなんだ}
『はいでは次の質問です、ロンメル選手は美味しいラーメンを作れますが、一番得意な料理はなんでしょう? やっぱりラーメンなのですか?』
「一番得意な料理は実は芋料理だったり……特に薩摩芋を使った蒸しパンなんかが一番得意かも」
{以外}
{ラーメンじゃないんか! }
『私も初めて聞きましたよロンメル選手』
「……思い出の……味だから……」
『……では次の質問です。ロンメル選手の得意な距離を教えてください』
「長距離……できれば3000近くあると嬉しい」
『ステイヤータイプってことですか?』
「はい、私の武器は無尽蔵のスタミナなので」
『なるほど! では脚質は何が得意なのですか?』
「前までは先行や差しをしていたと思うけど、大逃げが一番体にあっていると断言できます」
『なるほど!』
{大逃げ! 良いね! }
{明日も沸かせてくれ}
{頑張れ! }
「ありがとうございます」
『それではロンメル選手明日レースなのでここでお別れです……頑張ってください』
「はいよ!」
東京レース場ということもあり、チーム全員が応援に駆けつける
今回の屋台はバカコンビの乳に釣られた熱狂的なファン2名と運転手のおっちゃんと息子さん、それに律に頼んだ
タコ部屋で精神統一をする
呼吸を整える
ロンメルにとって実に60年ぶりのレースである
様々な事を経験し、時には刀を振るい、時には暗殺者となり、時には商人の真似事をし、時には教師をもやったりもした
「12レース出走の皆さん移動を開始してください」
やるべき事をやる
ただそれだけである
「さぁ始まります東京レース場第12レース1勝クラス芝1800メートル。実況は赤嶋隼がお送りします。解説は同レース場同距離の毎日王冠を2回制覇しているサリオスさんですよろしくお願いします」
「解説のサリオスです! デブだの牛だの言わないでください」
「誰も言ってませんよサリオスさん」
「ではでは1番のウマ娘から紹介していきましょう」
・
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「5番ロンメル選手です」
「人気は7番人気か、前回スリーアウトを喰らったウマ娘とは思えないほど人気が高いな」
「ええ、逃げる宣言をしていますが、レースにどの様な影響を与えるか……」
「体が細すぎる。おそらく適正体重じゃない」
「サリオスさん?」
「私は現役時代体重管理に凄い苦労したからわかるが、まだ適正体重よりも全然軽いと思う。筋力が足りないから速度がでない可能性が高い」
「なるほどありがとうございます」
・
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・
「それではファンファーレです」
♪ ~♪ ~♪
「ゲートに入るのが始まりました」
「皆スムーズに入っていくな」
「既に6人ゲートに入りました」
「一番人気の○○○○が入ります。落ち着いています」
「さぁ始まるよ」
「ゲートイン完了……スタートしました! ちょっとまばらなスタート! 5番ロンメルゲートにぶつかったか少し出遅れました」
「緊張していたのかもしれませんね」
「よーい」ガゴン
つぅ!?
早すぎた! ゲートに体当たりしちゃった
出遅れた先頭まで5バ身……いやいや、後方待機の切れ味勝負はまだ無理だ
最速でも3ハロン36秒しかでない
ここから無理矢理にでも前に位置どるしかない
くう! 出遅れが痛い……ちっ! 肩が外れてたか? くそったれ!
ガゴ
よし、ハマった、先頭まで15バ身……縦長の展開
長い直線の今前にポジショニングしないと勝てない
「シィィィィ」
呼吸の出力を強めた
負荷はかかるが致し方ない
透き通る世界に入る
!? まずい
ロンメルは大きく外に進路を取った
次の瞬間ロンメルの8人前を走っていたウマ娘の脚から異音が響き渡った
バキッ
ロンメルはゆっくりとなる視界にこの後最悪の展開が見えてしまった
ゴムボールのように16番のウマ娘の体が跳ねた
真後ろと横を走っていた1番と10番のウマ娘も巻き込まれる
更に4番、2番、9番のウマ娘も巻き込まれ最悪の事故が発生する
ロンメルは異常にいち早く気がついていたため大きく外に進路を取ったので回避したが、先頭まで3秒近くの差がついてしまった
「……ちっ!」
転倒してしまったウマ娘達のことも気になるがロンメルは体勢を立て直してレースに集中する
6人が競争中止となったことによりポッかりと内が空いたのでコーナーは内側に切り込みながら進んでいく
直線に入ると先頭までの差が狭まったが、彼女達もスパートを開始する
差がなかなか縮まらない
ロンメルにとって東京のパンパンの良バ場は苦手なためジリジリとしか前進できない
なんとか3番手になったところがゴール板であった
「くそっ!」
敗因は最初の出遅れである
出遅れで全てが決まってしまった
レース選択も誤りであった
1800メートルだと1ミスで全てが決まってしまう
驕り、慢心、油断……神域どころの話ではない
レース途中の脱臼とアクシデントで集中力が二回も途切れたのも痛かった
ロンメルは広くなったタコ部屋の椅子にドカッと座ると濡れたタオルを頭から被せてため息を吐いた
「上手くいかないな」
おそらく出遅れやあのアクシデントで3着に入れるだけ凄いと言うだろうが、そもそも五分五分の状態で勝負に挑んだのが間違いであった
「ちっ……1からやり直しだ」
領域未満の不完全さに苛立ちながら、心の中に不満を押し込めて、ロンメルはアクシデントの事情聴取を受けた後、解放された
ウイニングライブはアクシデントが出たことにより12レースは中止
ロンメルは1から再スタートすることとなる
後日談であるが骨折して崩れ落ちた16番のウマ娘は予後不良で、入院中にクラス変更の手続きを済ませ、他の巻き込まれたウマ娘達は幸い軽症で打撲や打ち身程度で済んだらしい
これもウマ娘のレースでは稀にある事故である
骨折したウマ娘の怪我の原因は過負荷であった
1ヶ月に2レース、それを8ヶ月もしていたらしい
戦績は24戦1勝……チームの為に少しでもお金を稼ごうと無理した結果とのことだ
弱小チームではこういうことがある
それでも強いウマ娘は這い上がってくるのだが……
ウマ娘の闇は深い……