ヘクチッ!?
朝起きたらやたらと体が寒い……というか体がダルい
「風邪……そんなまさか?」
ロンメル殺フォン(スマホ)を取り出して熱を測る
『ピピ、39.1度』
「……アカン風邪引いた」
とりあえず律に報告して今日の練習はミッションタイマーが中心となり全体練習Aで、律が監督代行をお願いし、家庭教師組に今日の勉強は自分が風邪を引いたから先輩達や律の指示に従って行動するようにとメッセージを入れた
「うう、こんな季節に風邪とは……病院に行くか」
ロンメルは朝練を辞めて布団で6時まで寝てから食堂で風邪を移すわけにもいかないので旧校舎の家庭科室にて残り物で朝食を作り、学校に休むことを伝えて病院に向かった
「うう、薬効きづらい体質になってるからなぁ」
一応皆のためにと買っておいた市販の熱冷ましの薬を飲んだが、体質で薬が効きづらい(王水や青酸カリを飲んでも無毒化できる)ので、熱も下がらずにとりあえず冷えピタをおでこ貼って町のお医者さんに見てもらうと
「【ウマ娘インフルエンザ】です。完治してから1週間はトレセンに戻ってはいけません」
と言われた
ウマ娘インフルエンザ……それは大流行するとその年のレースが取り止めになるなど猛威を振るう感染症である
現在はワクチンや治療法が確立されているので大きな問題は起きないのだが、ウマ娘インフルエンザが発生した場合チーム全員のウイルス検査が義務付けられていた
で発症したウマ娘はどうなるかというとトレセン外に隔離である
「実家はどこですか?」
「千葉の○○○ってところです」
「母親はウマ娘ですよね?」
「はい」
「とりあえず人には無症状で感染して広がる可能性も高いので指定の病院に隔離です。よろしいですね」
「……はい」
幸いにも皆への感染は無く、ロンメルだけが10日ほど東京の病院が受け入れを拒否したため千葉の大病院で隔離されることとなってしまった
まー、飯が不味いのなんの味が薄くて本当に辛く、治ったと思い筋トレをしたら注意されるしで本当に苦痛だった
瞑想と呼吸を使った超回復訓練しかできず、退院したら体重が10キロも落ちていた
病院の先生達は体重があまりにも落ちているので別の病気を疑ったが、健康そのものであったので無事に解放されるのであった
ロンメル出た瞬間にコンビニに行ってお金を降ろして、レストランで暴食を開始
凄まじい量を食べて10万を使い、そのままフラりと帰る途中船橋レース場に立ちよった
「でろー!」
「イケイケ!」
「差せ!」
中央と違い船橋レース場はローカルシリーズの開催場所であり、千葉ウマ娘船橋トレーニングセンター学園お膝元でもある
船橋トレセンは地方というかローカルシリーズだと結構というか普通に強い方である
中央から同じ関東圏なので中央から下って来やすいというのもある
でそういう中央からのウマ娘の流入が多い故にレースやトレーニング技術の流入も早い
しかもスポーツ推進都市という船橋の地域事情も相まってローカルシリーズの地方トレセンにしては予算が潤沢なのである
あとは客層をなんとかすれば更に良いのだが……昔ながらの昭和や平成初期のザ・レース場のおっちゃんみたいなのが多いこと多いこと
まぁ家族連れとかは近くの中山に行ってしまうので仕形がないと言えばそれで終わりなのだが
「フムフムなるほどなるほど」
で、私の横でペンとメモ帳を片手に熱心にレースを見ているウマ娘がいた
気になったので声をかけてみることにした
「あの……すみません、ずいぶんと熱心にメモしていますがそんなにレースが好きなのですか?」
「あ……はい! レースが好きですし、チームの為に敵チームの偵察をしていまして……むむ、見ないウマ娘ですね、船橋……いや、南関東シリーズのレースに出ているウマ娘ではありませんね」
「わかるのですか?」
「勿論! 南関東圏のローカルウマ娘は全て把握しています」
「へぇ……凄いですね」
「いやいや、これくらい熱意があれば誰でもできますよ……もっとも私レースでの成績はさっぱりでして……」
「そうなんですか?」
「はい、かれこれ20戦走ったのですが勝ち星が付かなくて……正直走るのが辛いのですよ」
「そうなんですか……走るのが辛いか」
「ええ、でもレースを見たり、情報を分析するのは好きなのでこうして毎日レース場に足を運んでまして……」
「中央のウマ娘は興味はありませんか?」
「中央ですか……エリートのボンボン達か行っているイメージが強くて……あ、もしかして中央の選手でしたか?」
「ええ、まぁ……8戦未勝利のダメウマ娘ですがね」
「アハハハ、まだ走る気があるだけ良いですよ! ここに来たのは移籍予定の下見ですか?」
「ええ、まぁそんなところです」
「でしたらこれあげますよ」
渡されたのは手書きの新聞だった
凄く細かく出走するウマ娘の情報が書いてあった
「ずいぶんとまぁ細かく書いてますね」
「まぁ誰にも読まれないですが好きなので……情報を集めたりするのが」
「失礼ですがお名前は」
「私ですか? 私の名前はマンシュタインと言います。もっとも名前負けが凄いですがね」
「私も名前負けが凄いですよ。ロンメルって言います」
「同じドイツの将軍の名前ですね」
「ええ、しっかしこの新聞の情報量は本当に凄いですよ」
「えへへ、人に誉められることが少ないので嬉しいです」
「他にはありませんか?」
「他には……メモ帳ですが見ますか?」
「拝見しても」
「ええ、どうぞ」
そこには体重やら調子やらが事細かく書かれていた
「この体重の情報はどこで?」
「見た目でわかります。筋肉の付き方でね。ロンメルさんは……49.4キロってとこらでしょうか? もう少し筋肉付けた方が良いですよ」
「アハハ、面目無い」
「予想でもしますか? どの子が勝つか」
「良いですね……勝った方が何か1つ約束できることにしません? 今日の夕飯を奢るとかでも良いですし」
「良いですね。負けませんよ」
勝負は3:2でロンメルの勝ちだった
「凄いですねロンメルさん! よくあの子が差しきると思いましたね」
「何か企んでるように思えましたし、筋肉の配列が他の子よりも立派だったのでね」
「なるほど……で、要望はなんでしょうか? あまりお金を持っていないので高いのは辞めて欲しいのですが……」
「じゃあ私が中央のトレーナー試験に合格したら補助をしてください。1年後にはサブトレーナーにしたいので」
「え? いやいや、何年後の話ですか」
「何年後の話ではないよ。来年か再来年の話だ」
ロンメルは写真を見せる
「聡明な君ならこれが本物だとわかるハズだ」
写真にはトレーナー一次試験合格の通知が写っていた
「え……嘘……え?」
「約束ですよマンシュタインさん、あなたの力は中央でこそ輝きますよ。ヌルフフフ」
ロンメルの懐刀と呼ばれることになるマンシュタインとは本当に偶然ここで出会った
このマンシュタインという船橋の落ちこぼれと呼ばれた少女と電脳アイドルと既にロンメルの事を支えていた律、それに来年入ってくるあるウマ娘の4人体制は学生連合黄金期の初期の最高の指導者達と呼ばれることになる
それはもう少し未来のお話……
ロンメルが入院している間にミッションタイマーがアルゼンチン共和国杯を勝利し、学生連合2人目の重賞ウマ娘が誕生し、ヤクルトガッツ、タカタノソラ、カラスマーチとコアランタンといった怪我のリハビリで初動が遅れていた組や1回負けた組も勝利し、今季17勝が確定した
これで勝ってないのはロンメルだけであり、退院後にトレーニングにも力が入る
学生連合の選手達もロンメルの指導者としての素質はもう誰も疑わず
あれだけ噛みついていたディープバレットもロンメルの指導に一目置くようになっていた
そしてロンメルはいよいよトレーナー二次試験の日となり試験を受けるのであった
俺はここの審査員をしている者だ
会場に集まったのは25名の一次試験合格者達
サブトレーナーとして実績ある者や大学を卒業して挑んだ者、海外トレセンに留学して知見を広げた者や中央トレセンでトレーナー科を卒業して来た者、地方でトレーナーを既にしているベテランと様々な人が居た
そんな中に異物が1人
僅か15歳の現役ウマ娘が超がつく難関試験を満点で通過してきたので審査員達の間で話題になっていた
URAとしても現役の選手兼トレーナーは客受けが良いと判断しており期待されているそのウマ娘の名前は……ロンメル
今他のトレーナー候補生と仲良く談笑しているが、片耳程度で聞いていてもトレーナーとしての素養は高いように思える
まずその知識量だ
今会話しているのは海外のトレセンで実際にトレーナーをしていたウイスキー・マキシマム氏で、凱旋門にもウマ娘を送り出したことのある名トレーナーで、彼が日本に来た理由は欧州よりも稼げるからだ
G1賞金は並ぶ物があるが、日本は他のレース……メイクデビューや未勝利戦、1勝クラスなどが別格に高い
それこそ日本のトレーナーが世界の獲得賞金額だと上位10人のうち8人が日本でトレーナーをしている者であり、上位50でも25名が日本トレーナーである
しかも欧州では不況も相まって賞金の減額等が起こっており、マキシマム氏も欧州よりも稼げる日本でトレーナーをしたいとURAにラブコールがあり、それをこっちも受諾した形だ
実績がある海外トレーナーは一次試験の免除があるのでまず落とされることはない
というか地方のベテラントレーナーも一次試験免除の規則があったりもする
話がそれた、マキシマム氏がフランス語で喋ってるのにロンメルさんも普通にフランス語で会話してるし……聞くに欧州と日本のバ場状態の違いについて話しているらしいが、洋芝と1くぐりにするのではなく各国の気象も合わせて話し合っている
日本の軽い芝についてレクチャーしているが、短期でトレーナーをしたことがあるのでわかっていてマキシマム氏はロンメルさんに質問しているようだったが、ロンメルさんの知識量にあのマキシマム氏が圧倒されてないか?
「降参だ! 凄いネロンメル、僕の国のトレーナーでも海外の芝状態をここまで詳しく語れる者は居ないヨ!」
「ありがとうございますマキシマムさん」
がっちりと握手している
続いて地方出身のベテラントレーナーが声をかける
何々レースで勝つために一番必要な事は何か?
うーん、難しい質問だ
ロンメルさんはなんて答える?
「一番は事前準備、勝つためにもう一つあげて良いなら選手の頭の良さ……勉強ではなくレース頭脳と呼べるものの良さ」
と回答した
ベテラントレーナーは事前準備と聞いて納得しているようだがレース頭脳については疑問に思った様で質問している
「レース頭脳はなかなか後天的に身に付けられる物ではありません。スタミナには脳の疲労というものもあります。高度な駆け引きを常に行うレースにおいて距離が長ければ長くなるほど脳の疲労が蓄積されていきますが、それが脳のスタミナとなります。肉体のスタミナはいくらでも後天的に付与できますが脳のスタミナは後天的に付与できる方法は今はまだ見つかってない。それが選手の適正距離となります。それをいかに事前に掴めるかもトレーナーとしての資質だと思いますがどうでしょうか」
ベテラントレーナーも納得したらしく、意地悪な質問をして悪かったと謝っていた
「えー、それでは皆さん二次試験の面接を順次行っていきます。それではロンメルさんからお願いします」
これは年齢順と決まっていたから最年少のロンメルさんからスタートする
ただ、あの会話を聞くにまず間違いなく合格だろう
気になるのは……
8戦0勝ということと学生連合所属ということか
コンコン
「失礼します」
部屋に入ると面接官が3名座っていた
「どうぞお掛けになってください」
「失礼します」
「それでは二次試験を始めさせてもらいます。まずロンメル……日本国籍でのお名前は砂山東狐さんですね。年齢は15歳……生年月日は20○○年3月2日生まれ……よろしいですね」
「はい」
「日本ウマ娘トレーニングセンター学園の高等部レース科……トゥインクルシリーズ所属で所属チームは学生連合……よろしいですね」
「はい」
「まずご家族の構成を教えてください」
「父と母の2名です。姉妹はいません」
「ではなぜトレーナーを志したのですか」
「現在学生連合にはトレーナーが所属していません。今代行の様な形で私が学生連合の指揮をしていますが、海外遠征等を考えるとトレーナー免許が無ければ困ると判断した故にこの度の受験となりました」
「チームの為にと」
「はい」
「学生連合の快進撃の話は聞いております。ロンメルさんが指導していたということですか」
「はい、練習メニューやレース申請の書類作成、作戦の立案等をしておりました。快進撃の理由としましては私の育成方針に選手が答えてくれた事が大きく、私の力だけでは無理でした」
「なるほど……現在ロンメルさんは未勝利のままですので来年にはトゥインクルシリーズを引退しクラス変更を強制されるになります。どのような進路をお考えで」
「まず12月の第3週の日曜日に行われる1勝クラスのレースへの出場がフルゲートを割れており、確定していますのでそちらに勝てば現役続行、負ければトレーナー科に編入しようと思います」
「今回の試験でトレーナー免許を取られてもトレーナー科への編入を希望と」
「まだ学生なので学ぶべき事が沢山あります。例え本やインターネットで資料等を調べることができても私はまだまだ若輩の身故に学ばなければなりません」
「わかりました。では次の質問です」
・
・
・
「これにて全ての質問は終了と致します。お疲れ様でした」
「ありがとうございました」
「これは査定外の質問なのですが……ロンメルさんにとって最終的に目指す場所はどこですか?」
「決まってます……最強です」