最弱の1勝ウマ娘と言われたのはいつからだったか……
11歳でトレセンに編入した時は皆暖かく迎え入れてくれたが、1勝した辺りから暗雲が漂った
私はとにかくバカだった
がむしゃらに練習すれば必ず勝てると信じて練習を続けたが、出るレースはたまに惜しいレースはあれど全然勝てなくなり、二流、三流、駄バにとどんどん転げ落ちていった
見返してやろうと言う思いだけが空回りして、最後にトドメを刺したのは疎かにしていた勉強によって留年の末にチームから追い出された
学生連合にたどり着いた時にはボロボロであった
最初は腐らないと決めてバンバンレースに出ていたが、その度に屋台をやってくれたのは同じバカでレースへの情熱を失ったマスターハリアーだった
私がレースに出たいと言えば嫌な顔しないで屋台をしてくれるからこそ私はマスターハリアーに勝利をプレゼントしたかった
しかし40戦を超えると惜しいというレースすら無くなり、移動費ばかりがかさむ赤字レースとなっていた
貯金を切り崩しながら、バイトをしながらレースへで続けた
バカだからそれしか生きがいが無かったのだ
バカだから努力し続ければ報われると
「うん、努力の方向性をまず直しましょうか。とりあえず4ヵ月はレース禁止です。わかりましたかベストエンジェル先輩」
なんだこいつはとロンメルと初めてまともに話した時にそう思った
私の、私達の今までの努力は間違っていると言われたのだ
それがどうしようもないくらい頭にきた
バカだから皆が返り討ちにあっているのに、ナイフを使っても勝てない相手なのに、殴りかかってボコボコにされた
「やめて! エンジェルを虐めないで!」
「は、ハリアー」
どこからか見ていたハリアーが私を助けるために怪物の前に立って懇願した
「良き友情ですねぇ……なぜマスターハリアー先輩は走ろうとしないのですか? ……いや、わかっては居ますよマスターハリアー先輩、あなたは走るのが怖いのでは無い、走るやる気がないのでもない。自分より弱い人を見て安心していたのですよ。違いますか」
「……!?」
「は、ハリアー……そうなの……そうだったの……」
「ち、違う! そんなこと無い!」
薄々気がついていた
ハリアーが何で私を助けてくれているのか
友情もあるけど弱っていく私を見て……下の人を見て落ち着いていたんだと
バカな私でも理解した
「では、2人とも一流のウマ娘になれば良いのですよ」
怪物はいきなりそう言い出した
「マスターハリアー先輩は沢山自身より弱い存在ができる。ベストエンジェル先輩は今までの苦労が報われる。それで良いじゃありませんか。こんな私の言葉くらいで友情が壊れるならそんなの友情ではありません。どうですか? ベストエンジェル先輩、マスターハリアー先輩のことは友達ですか?」
「友達じゃない!」
「え、エンジェル……」
「怪物、覚えておけ! 私達は親友だ! ハリアーがどう思っていようと私は親友だと思っている! 私はただハリアーに勝利を届けたいという一心で最近は走っていた!」
「エンジェル……ごめん……本当にごめん……うちはどれだけ愚かでクズで……」
「ハリアーはそれでも私のために屋台を開いて私をレースへ出し続けてくれた! 邪念があろうと本質は優しいウマ娘だと私は知っている! 怪物! 私達は強くなれるか!」
「ええ、勿論、私は君達の先生になる存在ですよ。あなた達を重賞に導いて見せましょう」
「重賞じゃない! G1ウマ娘だ! 私達は2人でG1ウマ娘になる! それが怪物、お前を本心から先生だと認める条件だ」
「よく吠えた! ベストエンジェル! 私はあなたの勇気を、マスターハリアーあなたはどう思おうと行動で優しさを表していた! あなた達を私は導こう!」
その言葉でとりあえずバカなりに怪物……ロンメルは一応信用できるとなぜか思った
今思えば学生連合の皆を発破する着火材として使われた気がするが
一番最年長のミッションタイマー先輩
一番レース歴が長い私
一番レースを見てきたハリアー
この3人が真面目に練習に取り組めば周りもついてくる
バカだバカだと皆にバカにされるがそれも愛嬌の1つだと笑って許そう
ハリアーと2人で見返そうと改めて誓い、ロンメルに頭を下げて歌や踊りも練習時間外に習う
全てロンメルの手のひらの上だとわかっていたし、ロンメルからミッションタイマー、スカイプラザ、タカタノソラ、ヤクルトガッツの4名に比べると才能は1段階劣ると正直に言われた
だけど1つ1つ、ロンメルの言葉に従い、誰よりも愚直に練習をしてきたと思う
弱音を一切吐かず
死の恐怖を感じた夏合宿でも最後尾で皆を守るように走った
地獄の合宿を乗り越え、他のチームがバカンスを楽しんでいるなか私達はロンメルの指示に従って大量の汗と涙を流した
秋に久しぶり勝った時は嬉しかった
今までどんなに足掻いても届かなかった、勝てなかった勝利がポンポンとあちらから転がってくる
あっという間に重賞ウマ娘になり、やる気を取り戻したハリアーとサウジで激突したけど……どうしてもこれだけは勝ちたかった
これは私のエゴである
やる気を取り戻したハリアーにとっては余計なお世話であるが今こそ勝利する姿を見せたいと思ってしまった
私はサウジでハリアーに勝利した
ハリアーはこれまで見せないくらい影でわんわんと大泣きし、私はそれを見つからないように聞いていた
やっていることは最低かもしれない
しかし、私達が次のステップに進むにはこれしかない
私は勝利を
ハリアーは敗北で大きく学んだ
結果、ハリアーはドバイでG1を勝利して約束のG1ウマ娘となった
私は……
ワァァァァ
階段を登りターフに出る
右には欧州のお嬢様達が
前にはアメリカのG1ウマ娘が
左にはドバイや中東のウマ娘達が私の存在に気がついたようだ
数名が近づき私に話しかけてくるが私はバカなので言葉がわからない
わからないが侮辱されていることはわかる
が、私の耳には届かない
瞳はメラメラと燃え上がり、視界が白に包まれる
私は既に領域に入っている
誰にも私とハリアーの友情の勝利の邪魔はさせない
そしてロンメルを本心から認めるために、全てを準備を整えてくれたロンメルに答えるために
私は走る
[……凄いウマ娘がいたものですね]
[メアリー様、極東の駄バのことですか? ]
[あなたは気がついていないのね……シスターマルコーあなたは気がついているのではなくて? ]
[凄いですねメアリー様……彼女はレース前の今既に領域に入っている……普通ならバカと言いたいですが、もし、レース終了まで領域が持続するようであれば……]
[怪物としか言えないわね]
[おい、本国の王女様よ……あの日本人は不味いぞ]
[おい、植民地人気安くメアリー様に話し[やめなさい]……失礼しました]
[あの子をどうにかしないと私達の勝ちは無いわねぇ……包囲しますが協力してくださらない]
[中東の連中もあの日本人の異常性に気がついてるから俺らで包囲網を形成する]
[ではペースメーカーは私の国とフランスの○○○○さんにおねがいしましょう。よろしいですね]
[[は! ]]
[私もイタリア復興の為にこのレースには勝たねばなりません。包囲に噛ませてください]
[問題は同レースに出場する日本人が他にも1人居るが危険性にすら気がついてねぇ、協力は無理だぜ]
[ではその子は私が上手く誘導しましょう]
[頼むぜ腹黒英国王女様よ]
[あらあら、私は腹黒ではありませんよ]
[よく言うよ……]
『G1ウマ娘が7人も揃ったドバイシーマクラシック! このハイレベルなレースに日本から2名が参戦しています。重賞2勝ウマ娘の○○○、そしてサウジ覇者ベストエンジェル……強力なライバル達に勝てるのでしょうか……ただいま第○○回ドバイシーマクラシックスタートです!』
『○○○好スタート、ポジションは前に、おおっとイギリスの○○○○とフランスの○○○○○が先頭争いを行います日本の○○○ハナを取ることを諦めて後退します』
『4番手にアメリカの○○○○、イギリスのメアリーはここ、そしておや! おやおや! これは包囲網だ! ベストエンジェルがまるで鳥籠の様に全方位を他のウマ娘ががっちりガード』
『これは厳しい! 第二コーナーが終わり直線に入ります』
どうやら私の作戦は成功したようね、これで後ろの怪物は閉じ込めたわ
ふふ、イギリス王室に名を連ねる者としてこれぐらいの策謀は簡単だわ
ペースメーカーをしている2人は潰れ、イタリアのシスターマルコーも実力から外のブロックを担当しているけど距離的な不利を被ることになるわよね
アメリカの子は包囲の指揮に怪物ちゃんの後ろについたからよほど実力が抜けていないと無理だわ
さて、こんな即席な包囲なんて各個人の思惑でいくらでも崩れるから……第三コーナーに入るくらいでポジションをあげさせてもらおうかし……え?
世界がは白く、どんどん透明になっていく
世界の美しさを感じながらもレースに集中する
目の前のウマ娘達は私をブロックしようと包囲網を形成している
けれども私にとってこの程度包囲でもなんでもない
内ラチにある僅かな隙間に潜り込み、包囲網を突破すると同時にスパートを開始
【石竹の天使】
この私は止められない
やはり抜けてきましたが
しかし私は余力は十分なのですよ
【
私だってイタリアを再びレース大国にする使命があるのです! ここで負けるなんてできません!
【
『第三コーナに入り超ロングスパートを開始したベストエンジェル! 包囲網を僅かな隙間から突破しました!』
『メアリーに並ぶのか、更に外からシスターマルコーが猛追』
『3人の戦いになった』
『第四コーナをを抜けて最後の直線に入る! 内ベストエンジェルが僅かに前に出た! メアリー必死に食らいつくがついていくのでいっぱいいっぱい』
ピシピシと視界に亀裂が走る
しかしそれはとんでもなく遠くだ
体が直感でわかる……あれがおそらく神域
しかし私との間には30バ身近く差がある
神域なんてどうでも良い
今は勝つことだけだ
花の呼吸の出力を上げる
全集中だ、更に視界を透明に、足を半歩でも前に
あと50メートル!
「うおおおおおお!」
勝利を皆に
勝ち時計2.23.15
メイダンレース場でのレコードタイムを約2秒更新
1位……ベストエンジェル
2位シスターマルコー
3位メアリーと領域を出せる者で表彰台を独占した
ベストエンジェルはレース後掲示板を見て呆然と立ち尽くし、順位が確定した瞬間涙を流した
報われた
私は報われた
ハリアーと共にG1ウマ娘になれた……あぁ、なんて夢心地なんだろう
ベストエンジェルは静かに控え室に戻る
するとハリアーがエンジェルに抱きついた
「良かった」
「ありがとう」
今だけはバカコンビとは言わせない
G1コンビだ