ロンメルの本気   作:星野林(旧ゆっくり霊沙)

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大阪杯 最終ミーティング

 マーチステークスはコアランタンが無事に勝利し、高松宮記念と合わせるとG1 6勝に重賞19勝

 

 出れば勝つと思わせるその大活躍に注目だけでなく嫉妬や畏怖をも混じり始めていた

 

 この動きに中堅のトレーナー達が学生連合の快進撃を止めるため、チーム毎に同盟や協定、アシスト、練習での協力等が活発化しつつあった

 

 一方、若手の弱小トレーナーのごく僅かは一度チームを畳んでロンメルトレーナーに指導を受けるべきではないかという考えが芽生え始めていた

 

 が、両方の思考ともに芽生えたばかりでありそこまで大胆な行動を取る者も居らず、有力な新入生の確保に動くこととなる

 

 その頃学生連合はヤクルトガッツの最終調整に入っていた

 

 坂路併走、チームの選手での模擬レース、レースシュミレーション、ゲート訓練等を行い不安事項を消していく

 

「ふぅ、僕疲れたよ……ロンメルご飯は?」

 

「用意しますので、最後プールで300メートルほど泳いで今日は終了です。フェンリル、サクセスも参加で」

 

「「はい!」」

 

「それとスプリームさん、そろそろ復帰です。再来週の白鷺特別に行ってください」

 

「……わかった。なぁ私はG1を取れるか?」

 

「正直に言いましょう無理です。走れるようになっただけでも奇跡だと思ってください。それだけ脳がダメージを受けていたのですから……今私が強烈な殺気を飛ばしているのわかりませんよね」

 

 ロンメルはスプリームに殺気を飛ばしているが、スプリームはけろっとしている

 

 これでは精神的アプローチからの領域へ入ることは愚か、脳が危険に対して鈍感になっているのに体がレースへの恐怖を蝕んでいる

 

 よって前のように全力で走ることはできなくなっていた

 

 全集中の呼吸により脳が回復してこれであるので、これ以上の回復は期待できない

 

 まあそれを言ったところで諦める様であれば頭を包帯でグルグル巻きの状態で無所属選抜レースなんかに普通出ない

 

「だからと言って諦められるわけないだろ! 勝利を!」

 

「何とかオープンで勝ち負けできるレベルには持っていきますから、とりあえず復帰戦の白鷺特別に出ましょう。大丈夫です。焦ってはいけません」

 

「……」

 

「失ってしまったレース感は戻りません。それに劣化の兆しが見え始めてます」

 

「劣化!?」

 

「良くて年内です。来年は保障できません。それでも走りたいのでしょう」

 

「あぁ、私はそれでも走る……私を見捨てたチームや手のひらを返した連中を見返す為に」

 

「ヌルフフフ、復讐心という黒い感情でレースをするのは辞めなさいと言ったハズです。もっと純粋に勝負を楽しんでみては?」

 

「甘ったるいんだよロンメルトレーナー、だからあんたも8戦目落としたんじゃないの?」

 

「スプリーム、そこまでだ」

 

「ミッションタイマーさん……」

 

「八つ当たりしてもどうしようもない、前をもっとも見ろよ、そして力を抜け、レースだけが全てじゃねぇ」

 

「ヌルフフフ、ミッションタイマー先輩は成長しましたね」

 

「うっせぇ」

 

 ロンメルはキッチンに移動してヤクルトガッツ達の為に料理を始めた

 

 ディープバレットに料理を教えながら

 

「私だってわかってるんですよ。学力等は回復してもレース感が失われてしまったことは……」

 

「まぁ、なんだ、スプリーム……ロンメルはお前に最適なプランを出してくれるのは間違いねぇんだ。もっと笑顔になれよ! かわいい顔が台無しだぜ!」

 

 ミッションタイマー先輩はスプリームのことをデコピンすると柔軟するために二階に上がっていった

 

 スプリームは後を追うように二階に上がっていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 部室の会議室にチームのコーチやサポーターをロンメルが集めた

 

 メンバーはロンメルに、武内サブトレーナー、クロロさん、ブルチさんにマンシュタイン

 

 それに大阪杯を走るヤクルトガッツである

 

 後学の為にミッションタイマー先輩も後ろで聞くらしい

 

「いつもはしないのですが、今回は皆さんの為にもどの様に大阪杯を勝たせるかというのを理解しておいた方が良いと思い、会議を開きました。律、プロジェクターを起動して資料を映して」

 

『わかりました』

 

 律の手により資料がスクリーンに映し出された

 

「まず大阪杯の舞台阪神レース場の特徴からわからない人も居るのと最終確認もかねて説明します」

 

 スクリーンに阪神レース場が映し出される

 

「まず大阪杯は芝2000メートルの中距離戦でコースは内回りの右回りとなります。スタート位置は正面スタンド前であり、スタートと同時に120メートル間に約1.8メートル登る勾配がありますが、日本の坂ではこれが普通となります。他のレース場だと2メートル以上が殆どですし……話が逸れました」

 

「登りきって少し進むとコーナーがありるけれどドバイのようにバンクは無く、外のウマ娘が不利になりますが、コーナリングがキツくトップスピードで走ることは難しいでしょう」

 

「これがレース場の特徴です。何か質問はありますか?」

 

「はい! サウジの芝との違いはありますか?」

 

「サウジの芝が理想的な芝とするなら、日本の芝は剥がれにくいのが特徴です。オーバーシード……野芝と洋芝のブレンドもそうですが、更にエクイターフという種類の芝が混じったことで剥げにくい芝となっています。ただ芝の長さはサウジ、ドバイと一緒であり、違いは芝の下がサウジは砂、砂利、石灰岩なのに対して土、砂、砂利と言う風になっています。これが乾燥すると高速バ場になりやすい原因でもあります。軽い芝とも言われますね」

 

「ありがとうございます」

 

「続けます。まず皆さんは領域と言うものをご存じでしょうか」

 

「知りません」

 

「申し訳ない」

 

「領域?」

 

「かじる程度なら」

 

「では武内トレーナー、少しで良いので話してください」

 

「一部の選ばれたウマ娘が人間で言うゾーンと呼ぶものに近い状態になると言われています……すみませんこれぐらいしか知りません」

 

「大丈夫です。まず領域はこれまで時代を作るウマ娘が入ると言われてきました。三冠ウマ娘は勿論、G1を多数勝つ様なウマ娘や記録を作ってきたウマ娘は皆これに入っています。そうですねぇ……多くて5から6人日本に居れば良い方でしょうね。これは劣化すると使えなくなります。名残は劣化しても使えますが全盛期には及びません」

 

「まあもっと詳しく話すとフローやピークエクスペリエンス等とも呼ばれる超集中状態……これが領域であり、強いウマ娘が時折見せるでしょ、異次元の末脚だとか笑っちゃうような加速力、驚異の逃げみたいなの……あれらは領域に入って初めてできます」

 

「領域の入り方も様々で、感覚だけで入れる者、強者との戦いの中で開花する者、一瞬に全てをかけたがゆえに一回こっきりだが領域に入る者……それこそウマ娘の数ほど入り方は様々です」

 

「まぁ、これを人工的にほぼ全てのウマ娘に定着する方法を私は身に付けました。それが快進撃の要因の1つなのですが……」

 

「この際言ってしまうと私の育成は領域、呼吸、壊れない体……この3つが主です」

 

「領域はウマ娘を壊れやすくするというデメリットがあります。鋼のウマ娘だとか鉄のウマ娘だとか言う壊れないウマ娘は壊れないが為に領域を捨てているウマ娘も居ます……また実力差があればあえて領域をしないケースもあります……まあそれは仕方がないことです」

 

「まずは領域から更に詳しく話すと肉体的アプローチか精神的アプローチ……ミッションタイマー先輩やヤクルトガッツ先輩は両方のアプローチを去年の夏合宿に経験したと思います。限界の先の先……狂気の約330キロの走破と北岳山頂付近での死の恐怖……懐かしいですねぇ」

 

「あー、あれねぇ」

 

「補足だが、まじで5日で330キロ走破したのと限界を超える感覚を嫌と言うほど叩き込まれた。そこで一皮剥けるって言うのか? 限界の上限を突き破った感覚と魂と語り合うみたいなスピリチュアル的なのも有った」

 

「ミッションタイマー先輩ありがとうございます。まぁ普通そんなことをすれば壊れるのでまず壊れない肉体を作ること、これは皆さんにも覚えてもらっている全集中の呼吸にも繋がってきます。全集中の呼吸が使えれば肉体はより強靭に、栄養なども吸収されやすくなりますからね。あと脳のスタミナも上がります」

 

「肉体的限界か精神的限界かまたはその両方の過度なストレスをかけることにより生存本能を刺激して強制的に領域に入る……これが今の学生連合の強さの秘訣です」

 

「どうすればロンメルトレーナーの力を借りないでできますか?」

 

「そこら辺は探していますが、呼吸を常時扱えるようになれば自ずと領域に入りやすくなるのは確認済みなので呼吸をとにかく覚えましょう。それではここまで長々と領域について話したかというとドバイでもそうでしたが、核の3人はこの領域を高次元で扱ってくるのを確認しています」

 

「まぁドバイでも一流と呼ばれたウマ娘達は皆使っていましたし、高松宮記念でもタカタノソラ先輩が使えていました。フェンリルは使う前に包囲されてドボンでしたが……」

 

「まぁ核の3人を倒すにはこちらも領域をぶつける必要があり、しかも領域の先に行ける可能性を秘めている人物こそヤクルトガッツ先輩、あなたなのです」

 

「僕~? って言いたいけど領域の先はスカイプラザが行ったよね」

 

「ええ、スカイプラザ先輩が神域にいち早く到達しましたが、ヤクルトガッツ先輩も負けず劣らずです。今回のレースで覚醒する可能性も高いと感じています」

 

「では今回のレースで注意すべきこと……それは相手を神域に到達させないこと」

 

「どうやって? って僕はまえに教えてもらったけどあの作戦で良いんだよね?」

 

「ええ、領域はだいたい最終コーナー終盤から直線で発動します。これは超集中状態は長時間の維持が難しいからです。脳のスタミナが関係してきます。全集中の呼吸は脳のスタミナを常時することにより日に日に増えていきます。なので学生連合の皆さんに先行や逃げ、ロングスパートが多いのは脳のスタミナが他の選手より多いからなのです」

 

「勿論肉体のスタミナも多いですが」

 

「ならよロンメル、ロンメルがたまに口にする適正距離ってのは何だよ。スタミナが増えるんだったら皆長距離走れるようになるんじゃないか?」

 

「走り方と筋肉の比率です。例えばミッションタイマー先輩はステイヤーで適正距離は2200から4000です。逆にヤクルトガッツ先輩は1600から2000までです。この違いは双方の走法……ギャグじゃなく、本当にこれと筋肉の付きやすさで変わってきます」

 

「ミッションタイマー先輩は疲れにくい筋肉が発達しており、逆にヤクルトガッツ先輩は瞬発力に優れた筋肉が発達しています」

 

「マラソンならまだしも長くても3600メートル以内ですと筋肉の比率こそが適正距離を分けてきます。タカタノソラ先輩みたいに超ピッチ走法みたいに長距離を全力で走るのは体の作り的に不可能な人も居ますし……マンシュタインさん」

 

「はい!」

 

「あなたはなんとなくですがそれを見分けられますよね?」

 

「ええ、あー、なるほどそれも有ってのスカウトだったんですね」

 

「ええ、まぁもっとも私の場合は筋肉を皮膚を透かして見ることができる透視能力があるので直ぐにわかるのですが」

 

「「「おい!」」」

 

「おいって突っ込んでますがスカイプラザ先輩は私と同じ透視能力を身に付けましたよ。ヌルフフフ、呼吸を極めれば透視能力も身に付けられるかもしれません」

 

「話を戻して、作戦ですが大外を分回す! ヤクルトガッツ先輩は最高速度では核の3人に劣りません。それどころか超えてるとも思っています」

 

「なのでいち早く最高速度に持っていく必要があるのですが、今回核3人は先行逃げなのでハイペースが確定しています。2番手を取りツアーリボンバーと他の2名の間に割り込むこと、最終コーナーで膨らんで視界から消えること、3人の意識が3人で固まったところを大外を通り僅かの差でかわす。これが作戦です」

 

「11レース、しかもレース場切り替わり前の4月なので基本荒れていますが、当日の天気は雨、しかも土砂降りの予定です。いつも以上に荒れる反面、視界から消えやすく、大外であれば比較的ましの芝も少し有るでしょう」

 

「意識外からの一撃を食らわせてやりましょう」

 

「僕頑張るね」

 

「ただ今回の作戦で勝てるのは1回限り、天皇賞(春)は実力勝負になるでしょう……ミッションタイマー先輩いけますか?」

 

「実力上等」

 

「ならば良し! スタッフの皆さんはこれから新入生にともないスタッフの数も増えます。先輩として新しく入る人達に負けないように頑張り、1つでも多く私から学んでくださいヌルフフフ!」

 

「「「はい!」」」

 

「では今回はこれで解散です。お疲れさまでした」

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