8月に入ると合宿開始まで13日となり、皆の顔色が不安に変わる
そんな皆に寄り添いロンメルはマッサージや付属には書けなかったが、買っておいたら合宿がより楽になる物なんかをロンメルが作って配ったりもした
例えば靴である
本来であれば蹄鉄の部分を強化樹脂と触手を練り合わせて作り、普通の蹄鉄よりも強度がありつつ軽いトレーニング用蹄鉄を作ったり、インソールを工夫するためにサポート科の資料を読み込んで、スポーツ科学に乗っ取った衝撃吸収かつ蒸れにくいインソールを作ったり、靴下を足の血流や圧迫感、蒸れをなんとかする物を編んだ
後はリュックサックなんかも高いので45Lリュックサックを作って配ったりもした
で、デザインも各自どんなのが良いか聞いてから作ったのでまぁバカウケ
「靴めっちゃかっけぇ!」
「ウマDasの最新モデルに似てるから普段のトレーニングで使っても違和感ない!」
「めっちゃ軽いじゃん! これコンクリート走るとき普通の蹄鉄だと足痛くなるけどこれなら全然大丈夫だ」
「リュックでけぇ」
「45Lって普通に買うと2万位するよね」
「先生どこで買ったのこれ?」
「自作ですよ」
「「「ヤバ!!」」」
で、皆の仕上がりはというと、とりあえずフルマラソンは時間を気にしなければ完走できるという感じだ
家庭教師組もとりあえず1日目は大丈夫そうだ
問題は5日間あるということである
逆に言えば2ヶ月でウマ娘という種族的優位性はあるとはいえ、フルマラソン完走ができるくらいの体力が付いたというのは大きな成果だ
全集中の呼吸が体に馴染み始めている証拠である
で、練習終わりに全員のマッサージを手と触手を器用に使い、全身をほぐしていく
強いチームは専属のマッサージ師や針師を数名雇いケアをしているらしいが、そんな金は無いのでロンメルがマッサージも針治療もなんなら故障箇所のケアも行う
「気持ちぃぃぃ」
「ミッションタイマー先輩は柔軟もしっかりやってるからこっちとしてもほぐしやすいですよ」
「お! わかるか」
「ええ、血行の流れ、リンパの流れも良いですし、最近は冷え性もよくなってるんじゃないですか?」
「確かに足先や指先の冷えが最近無いな」
「全集中の呼吸が体に馴染んできた証拠ですよ」
「呼吸呼吸っていうがそんなに凄いのか? このめっちゃ辛い呼吸は」
「ええ、覚えるのと覚えてないのでは雲泥の差ですよ」
「……まぁ信じるが……良かったのかサマーシリーズ誰も出場させなくて……普段よりも選手層が薄くなるから俺らみたいな弱いチームはここで稼ぐんだが」
「【入着しないと賞金でない】でしょオープン戦と重賞以外は……下手に遠征して返り討ちにあってモチベーション下がるのなら9月以降の秋や冬に力を付けて挑んだ方がまだ良いんですよ」
【入着しないと賞金がでない】……ウマ娘の世界には特別手当てという制度が存在しない
その為レースで入着(5位以内)にならないと賞金が貰えないのである
これがオープン戦だと10着まで、重賞だと9着まで、G1だと御祝儀として失格やタイムオーバーにならない限り全員に賞金……御祝儀が配られる
その為オープン戦未満でレースをする場合5位以内に入らないと赤字が確定するのである
そもそもレースをするのに必要な費用を計算していこう
まず移動費とホテル等の宿泊費
レースを盛り上げるためにグッツを作らなければならないのでグッツ販売の諸経費、ウイニングライブのチケットがノルマ以上売れなかった場合の積み立て金がある
移動費と宿泊費は絶対にかかるものだから仕方がない
レースを盛り上げるためにグッツの販売費等は弱小チームやサポート科にとってお金を稼ぐ腕の見せ所である
レース場に来てくれたお客様の為に食事を作ったり、所属チーム選手の情報を乗っけた雑誌や新聞を作ったり、ぬいぐるみやキーホルダーを売ったりして少しでもチームの活動費を稼ぐのである
ただこれも強いチームはその道のプロや会社と契約するのでやっぱり強いチームはその手の売り上げも高いのであるが……
で、問題はウイニングライブのチケット販売である
というのもウマ券と呼ばれる……異世界だと馬券にウイニングライブのチケットが付いてくる
で、上位3人が基本ウイニングライブをするので彼女等はウイニングライブのお金を貰える側なのだが(レースによっては5人だったり全員がバックダンサーとして出れるレースもある)、出れないウマ娘達はチケットにノルマがある
まぁあんまりにも誰も買われないとウマ券をチーム内で買う必要があるのだ
これが当たれば高額ウマ券となり全てをペイどころか賞金も合わせると1年分のチーム経費が賄えるくらいになったりもするのだがそんなのは稀である
近年だとアカイイト先輩のエリ女やドゥラエレーデ先輩のホープフルステークスなんかがチームでウマ券を買っていて大勝したと聞いている
ちなみにだがチーム(所属しているウマ娘達)は買えるがトレーナーはウマ券は買えない
ここら辺色々と過去のURAで色々あったらしい
ではG1の御祝儀はいくら貰えるのかと言うと一律30万である
じゃあ皆G1にこぞって出るのではと思うかもしれないが、出走ウマ娘は基本賞金順である
例外は宝塚記念と有馬記念の人気投票のみなので実力あるのに怪我や賞金が足りていなかったりするウマ娘はここを狙う
そして皆そこに行くからサマーシリーズや年末や年明けの重賞が空き巣となりこちらを狙うなどのチームでの駆け引きが存在する
そんな駆け引きをしなくて良いのは全体でも10人居るか居ないかである
ちなみに学生連合の現在の人気は居たら即切りである
トレーナーも居ない弱者が傷をなめあっているような弱小チームがレースに出ても勝てないからだ
だからそんな環境の中でも2勝しているミッションタイマー先輩はロンメルが来るまでチームリーダーをしていたし、一定の説得力ってのがある
「さてと、ロンメルのお陰で体が軽いからこのまま勉強しようかな」
「ヌルフフフ、その意気込みは良しですよ」
「……なぁロンメル、俺は走り続けて正解なのかな?」
「不正解などはありません。それはあなたが決めたことなのだから正解なのです。やった事が正しい」
ロンメルは窓際に腰をかけると
「恩師の受け売りですが、良い先生というものは常に悩むそうです。それを生徒には見せないで毅然としてこれが正しいという姿を見せなければなりません。決して迷いが悟られぬように堂々と……それを見た生徒達は憧れや信頼を抱くのです。ミッションタイマー先輩は成人している大人です。貴方は私が言うだけの事を素直に受け入れるだけではなく迷いながらも自分なりの正解を探さなければならない立場です。よく迷いなさい。よく悩んでから答えを出しなさい。そしてその答えに反省はしても悔やんではいけません。それが大人の成長ってものです」
「……ケッ、何歳なんだよお前は……15のそこらの娘が20の大先輩に人生のアドバイスしてんじゃねぇよ!」
「ヌルフフフ、そうですねぇ、ですが心に浸みたでしょう」
「まぁな……はー、数日後の合宿が楽しみにしてるぜ」
「ええ、頑張りましょうね」
さて、合宿が始まる13日となった
合宿は13日から17日までの4泊5日、皆荷物をぎっしり詰め込んだリュックサックを背負いトレセン学園前に集合した
周りから奇妙な目で見られているが、気にしないで集合時間まで待つ
ガラガラガラと台車を引いてやって来たのはロンメル
中には大型テント4つや飯ごう等のキャンプで必要な物が入っていた
「えー、19名全員が出席できたことに感謝します。これより強化合宿を開催します」
ロンメルはサングラスを頭にかけて白い鉢巻きで髪を束ねて居るようだ
「まずコースと休憩ポイント、今日の工程の確認だ」
時速は約20キロで1時間走ったら30分休憩、これを今日は5工程繰り返して100キロ進む
昼は1時間半の休憩で道中にある道の駅兼レストランで昼食
合計8時間半で1日の工程が終わりとなる
その後スーパー銭湯にて入浴及びストレッチやマッサージ、そして少し移動してキャンプ場にてテントの設営や料理を作って自由時間をとって22時就寝というのが一日目の流れである
現在時刻は朝の7時
「全員スマホは緊急時以外使わないこと。気分が悪くなったらスマホを使って律に報告する事、今日は幸い曇りの天候のため気温が30度をちょっと超える位ですむけど熱中症にならないように気を付ける! 良いね」
「「「はい!」」」
「じゃあ私が先頭でペースメーカーするから最後尾はミッションタイマー先輩よろしくお願いします」
「あぁ、わかった」
「よし、じゃあスタート」
とりあえず40キロの第二工程が終了し、全員のメディカルチェックを行う
速度を落としていたこともあり余裕がまだある
疲れないように工夫した靴類やリュックサックも肩だけじゃなくて腹や腰に重量が分散されるように作ったので肩が痛くて辛いみたいな意見は出てきてない
呼吸も教えた呼吸が全員この合宿前にだいぶ馴染ませてきてきたお陰か疲れで動けないみたいな人はまだ出てきていない
怪我組の3名(コアランタン、カラスマーチ、ファッションカラー)は足を一度壊しているため入念に確認したが大丈夫そうである
「第三工程いきます!」
国道を走りながら今日の目的地の甲府目指して進む
「「「ゼーゼー」」」
最終工程が終わると全員膝から崩れ落ちた
甲府の外れにあるスーパー銭湯まで到着し1時間の休憩である
ロッカーに荷物が入らないのでお店の人に荷物を一時的に預かって貰い入浴タイムである
「しっかし2ヶ月で皆筋肉付いてきたね! 合宿が終わったらマイルや中距離の調整しないといけないけど!」
「せ、先生どんだけ元気あるんですか……私達喋るのも辛いんですけど」
「スリームーンもそのうち慣れるよ。というか呼吸ができるようになれば疲れない様になるから」
「ほ、本当ですか……」
「現に私がなってないじゃん」
「プクプクプク」
「わぁ! サンライズが溺れてる」
「ほいほいっと」
ロンメルは触手でサンライズを浴槽外に仰向けで寝っ転がせて安静にさせる
流石に100キロを45キロの荷物を背負いながらだと疲れるか
風呂で綺麗になったロンメル達は今日は特別にと皆はバスを使ってキャンプ場に先に移動し、ロンメルはスーパーで食材を買った後、キャンプ場にてテントの設営や調理を1人で行い、死にかけの皆が食事をしていく
本当はカレーの予定であったが予定を変更して食欲そそるスタミナメニューに変更した
ごはんは飯ごうで炊いて、豚バラ肉を使った卵とにらの炒め物、豚肉とにらは一緒だが、胡麻油とキムチのピリ辛豚にら炒め、ニンニク鶏レバーの煮物と豚汁、トドメにとろろ芋、卵、オクラ、キムチ、納豆のスタミナごはんのお供を出した
ゾンビみたいに割りばしを持ち食べ始める
「ノルマ最低2杯!」
なんとか食べ終わる皆で、残り物をロンメルが全て食べたらやっと自由時間である
現在時刻は6時30分
大半は疲れきってしまい直ぐにテントで寝たが、一部メンバーは持ってきたお菓子を使って賭けトランプをしたりしている
ロンメルは律と相談しながら明日はペースを落とし北岳の手前にある山小屋(ここから40キロ地点)で休むことにした
「ふー、とりあえず今日の工程は終わり」
「ロンメル乙ー」
現れたのはスカイプラザ先輩である
「にゅにゃ? どうしましたかスカイプラザ先輩?」
「いや、純粋に労いに来ただけ……7時だけどロンメルはこれからどうするの?」
「どうするってこれからトレーニングですよ」
「ウソ! マジ!?」
「マジですよ。筋繊維がブチブチになるまでトレーニングしないと」
「……手伝おっか?」
「本当ですか! ありがとうございます!」
スカイプラザ先輩がストップウォッチを持ち、ロンメルは近場の直線50メートルダッシュを行っていく
「ううーん、ロンメル速いんだか遅いんだかわからないな」
「最高速度が頭打ちになってるんですよ。速度出そうにもストライド走法の歩幅が関係してくるのでね」
「あとずっと気になってたんだけどロンメルさぁ、走り方変じゃね? 音が全くしないんだけど」
「ナンバ走りですね。手足が一緒になって動いているように見えますが、少しズレています。腰の動きに連動しているので無駄無く走れるのですよ」
「へぇ、じゃあうちも真似しようかな!」
「辞めておいた方が良いですよ。この走法をすると歩幅が狭まるので」
「??? じゃあストライド走法じゃなくてピッチ走法になるんじゃないの?」
「それをストライド走法に補正したんですよ私は。蹴る筋力が弱くてなかなか最高速度が上がりませんが、時間が全て解決してくれます」
「ほーん、なら尚更真似した方が良いんじゃね?」
「補正に1年、形になるのに1年、それに適正の問題もあります。合ってない人がこれをやったら体のバランスが崩れますよ」
「ウェイ……わかった辞めておくよ」
「さあ、あと50本やりますよ!」
「頑張るねぇ……な~んでそんなに頑張るのか……何でうちらを強くさせようって思ったの?」
「……私の根底は弱者、武士、成長の3つで成り立っています。弱者は這い上がる為に何でもします。武士は勝つためなら何でもします。成長するためなら私は何でもします。私は聖人君子ではありません。皆さんを強くさせるのも私が強くなるためのデータと居場所が欲しいってのと……落ちこぼれ達を強くさせたら私の名声が上がるじゃないですか」
「うへ、凄い欲望全開だった……」
「嫌ですか? スカイプラザ先輩」
「いや、安心した。ロンメルもれっきとしたウマ娘なんだって……触手出したり、ナイフ食べたりと何でもこなす超人に見えてたけど、それ聞いて逆に安心しちゃった……私もね成績不振でここまで落ちちゃったのよ……うちって実はアグネスタキオン大先輩の系譜なのよ……で、タキオン製薬って今も大手製薬会社じゃん、その親族だから成績不振でも頭さえ良ければそこに就職できるんだけど……うち昔は神童って呼ばれるほど頭良かったのよ、だから親族皆にアグネスタキオンの後継者って言われてたんだけど……結果はご覧の通り」
「周囲の重圧に押し潰されてレースで散々、でストレス発散の為に遊びまくったら学力も落ちて……でなんとか1勝はしたけどこれ以上は見れないって……学生連合に入っても腐ってズルズルとレースに出てもう3年目……正直来年引退して卒業しようかなーって思ってたらロンメルが来て……久しぶりだよテストで学年順位10番以内に入ったの」
スカイプラザ先輩は頭が良い
それこそ学生連合の中で現在はロンメルを除いて1番良い
「スカイプラザ先輩は結局どうしたいのですか? 勉強はこのまま頑張れば医学部や薬学部に入ることも夢じゃありませんが……狙ってみますか? G1」
「うちがG1?」
「正直全員が重賞をチャレンジできるくらいの実力は身に付けられます。でもねG1となれば甘くはない……選りすぐりのエリート達がしのぎを削る魔境だ。私はこの学生連合の中で可能性があると思っているのは……ミッションタイマー先輩、ファッションカラー先輩、ヤクルトガッツ先輩、そしてあなただスカイプラザ先輩」
「へぇー、中等部組は違うの?」
「申し訳ないがあの2人は早熟タイプで今が実はピークだったりする……来年は走れるが成長と衰えで相殺されかねない」
「マジか……」
「その点スカイプラザ先輩は筋肉をマッサージでこねくり回しましたが……【覚醒タイプ】ですね」
「はあ!? うちが!?」
【覚醒タイプ】……トレセンで真しやかに囁かれている都市伝説の1つ
ある時に急激に成長し、それが長期持続するというウマ娘の事である
このタイプと思われる(いた)ウマ娘は過去にカンパニーとかオジュウチョウサン、ステイゴールドなんかだが、オジュウチョウサンは覚醒ではなく持続型で劣化しないように過酷な自己鍛練をしていたというのが判明してからはカンパニーとステイゴールドの2人が覚醒型の代表例である
が、解析不可能と言われていることといつ覚醒するか全くわからないため自身が覚醒タイプだと知らないで引退してしまうウマ娘が殆どである
「スカイプラザ先輩には秘策を用意してあります。とりあえずこれからはダートいきましょう。狙うは来年の川崎記念なんてどうでしょう」
「おいおい地方交流G1じゃん! うち芝しか走ったことないけど!」
「本来スカイプラザ先輩の走り方や力ならばダートの方が成績が残せるハズですよ……芝にこだわるのはアグネスタキオンという偉大な大先輩の後を走るように言われ続けてきたかでしょう。我々は弱者だ。プライドなんか捨てましょう」
ロンメルはニヤニヤしながらスカイプラザ先輩を煽る
「あなたはダートで1時代を作ることが可能な巨大な原石です。先生が丁寧に磨かせてください……ヌルフフフ」
「……わかったよ。うちも全面的にロンメルのこと信用するから頼むね先生」
「ヌルフフフ、任せなさい」
合宿1日目はこうして終わる
スカイプラザ先輩の馬としての血統
父サウンドスカイ
父父ディープスカイ
父父父アグネスタキオン
母ミヤマトーキー(架空)
母父シルバーステート
母父父ディープインパクト