前の話で混乱させてしまって申し訳ない
限界というのはどういう時に超えられるだろうか
それは生命の危機を感じた時、強敵と出会った時、極限の集中をしたとき、感情が爆発した時等に起こる
北岳合宿3日目……19人のウマ娘達は限界に近づいていた
空気がどんどん薄くなっていく北岳の山頂付近でロンメルは立ち止まると全員を集めた
「では今から呼吸のレベルを上げましょう」
全員きょとんとした
辛い呼吸は今している……いや、いつの間にか辛いとも感じなくなっていた
「これからやるのは恐怖の訓練です。鬼ごっこをしましょう……ここから皆さんは死に物狂いで山頂に逃げてください。今から生命の危機を強制的に煽ります。頑張って逃げましょう」
「何言ってるんだロンメ……ル?」
ロンメルの姿が変わっていく
いや映像等では変わってはいない……オーラ、殺気である
ロンメルは恩師により気配の扱い方を覚えた
大正時代の鬼滅の時代や戦国時代にて本気の命のやり取りをしてきた
全員が一歩……また一歩と後退して疲れきっている体を無理矢理動かして山頂目指して走り始める
「なんだあれ!」
「知るかよ! 喋ってねーで走れ! あれはマジでヤバい」
「化け物じゃねぇか」
「ひっひっひっ!」
「あぁ、あれが神……神だぁ」
「スリームーン戻ってきなさい! あれは先生よ! 神なんかじゃないから!」
「サンライズ口より足を動かしやがれサクセス後ろどうなってる」
「見えるわけないじゃんフェンリル! 呼吸音が聞こえてくる! 絶対に近づいてる!」
俺らは恐怖を感じていた
逃げる瞬間ロンメルは笑っていた
そして体が徐々に見えなくなった
そして強烈な殺気が飛んできた
それはもう生命の危機を感じるには十分すぎた
コアランタンが石につまづいて転んだ
「コアランタン!」
「立ち止まるなぁ! 走れ!!」
「お、置いてかないでぇ……あ、ぁぁぁ! ギャァァァぁぁ!」
コアランタンの転倒を横を全員が避けて逃げる
普通目の前のウマ娘が転倒した場合後ろにいたウマ娘は巻き込まれるのだが全員が避けられた
まるでコアランタンの動きがゆっくりになっているかのように
「これ……走ま灯……」
視界が徐々にクリアになっていく
音が聞こえなくなり、世界から色が消えていく
ビュン
横を何かが通りすぎた
つぅーっと頬から血が垂れる
「……血?」
横を通りすぎたのを目で追うと触手であった
怪物が真後ろにいきなり現れた
ゆっくりとゆっくりと触手が前を塞いでいく
嫌だ! 死にたくない! 死にたくない! 助けて!
その瞬間何かが見えた
牛のような胴体にアルパカの様な頭、それが俺の横を走ってやがる
「それは馬だ」
怪物が後ろから話しかけてくる
「異世界の魂がそこにはいるハズだ。見えるだろう見えるだろう……」
馬は俺と目を合わせるとゆっくりと近づきぶつかると思ったら魂が合わさるような……そんな感覚を覚えた
すうっと息を吸い込み吐くと俺の足から炎がドンドン溢れてくる
周りの奴ら水だったり雷だったり風だったり、砂だったりが足からドンドン溢れてくる
力が沸いてくる
これなら怪物だって……俺は後ろを振り向いた
そこには漆黒があった
死という概念だけがそこにはあった
間違えた、振り向くんじゃなかった……喰われる……そう思った時怪物が言った
「はい、ゴールおめでとう」
「へぇ?」
そこには怪物ではなくロンメルが居た
コアランタンを頭の触手でぐるぐる巻きにして
「ムームー」
「どうでしたか死と会った感想は」
「……はは、ハハハ」
俺はその場で腰が抜けてしまった
そのまま大の字で寝そべる
「……スゲー怖かったけど……色々見えたわ」
「コアランタン先輩以外は合格! コアランタン先輩もう少し臨死体験しましょうねぇ」
「ムー! ムー!」
泣いてこっち見てるが皆腰が抜けて無理だ。諦めてくれコアランタン
「むぅぅぅぅぅ!!」
白目になって全身が震えだして鼻水と涙、あと失禁したコアランタンはゆっくりと地面に降ろされるとびくんびくんと打ち上げられたマグロみたいに跳ねていた
「これガチで死んでねぇよなロンメル」
「教え子を殺すように見えますか?」
「いや、これ死ぬよりやベーだろ」
「まぁトラウマになるくらいの殺気を浴びせましたが大丈夫でしょう」
「大丈夫って……」
「さて、皆さんは死を乗り越える事ができました! おめでとうございます! 私は乗り越えるまでに60年近くかかりましたが、どうでしたか? 濃縮された死は……見えたでしょう貴女方の魂が……あれは馬と呼ばれる生き物で、私達の本来の姿です」
「あの牛とアルパカを合わせたみたいなのがか?」
「はい、あれがウマ娘の由来の馬なのです……さて皆さんおめでとう領域に入れましたね」
「領域……?」
「時代を作るウマ娘は必ずこの領域に入ることができる。限界の先の先、ゾーンへ……昔のウマ娘であるシンボリルドルフ大先輩の残した著書に領域のことが書かれていました。タマモクロス先輩の残した著書の天皇賞(秋)のことをまるで世界がウチ一人になったみたいだと書かれていました」
「ディープインパクト先輩は領域の先が僅かに見えたと天皇賞(春)に言いました。アーモンドアイ先輩は数秒先の未来が見えたとジャパンカップで世界レコードを出した時に言いました……不思議ですよね、皆領域のことを言っているのに少しだけ内容が違うのです。ただしディープインパクト先輩以外領域の先についての言及がありませんでした……なぜか? それは沈黙の日曜日に答えがありました。限界の先の先の更に先……領域の先は破滅なのですが1人だけはその場に入ることができたウマ娘が居ました。香港ヴァーズ、ステイゴールド先輩です。あの時最後の200メートルに確実に領域の先……神域に到達することができました」
「あれから30年以上たってもブラックボックスとかした神域ですが、実は別のアプローチで私は知ってしまったんですよねー、皆さんはエクリプスとマンノウォーというウマ娘を知っていますよね……彼女らと私は会った事があると言えば何をバカなと言いますよね。だけど確かに私は彼女らに会い、神域の秘密を知っていた。ただそれだけの話です」
「エクリプスもマンノウォーもウマ娘にとって神様みたいなウマ娘だぞ……神様に会って啓示でも受けたってか?」
「いえ、神域のアプローチは2方法、ステイゴールド先輩のように一度神域を見た状態で再現する方法、そしてもう一つは人生を何度も繰り返す事で蓄積する経験です」
「ステイゴールド先輩も凄いですが、何も見ずにその領域に入って壊れたサイレンススズカ先輩や神域を触れる事ができたディープインパクト先輩はやはり化け物でしょう。私はただ裏技を使ったまでに過ぎませんのでねぇ」
「じゃあさっき俺らが見たのが……神域か?」
「いえ、あれはまだ領域の段階ですが僅かに触れましたよね。魂が合わさるような感覚を」
「あれか!」
「それを更に研ぎ澄ませば行けますが、それだけではサイレンススズカ先輩の二の舞になるでしょうね」
「じゃあどうすれば良いの? 先生」
「スリームーンさん、それには強靭な肉体と異常を回避できる視界が必要になります」
「……! この呼吸ってのはもしやその神域ってのに踏み込むのに必要だからなのか!」
「ミッションタイマー先輩大正解、呼吸を極めると呼吸1つで細胞を蘇生させたり活性化させたり栄養を肉体に吸収しやすくしたりと色々ありますが、とにかく体がウマ娘の壊れやすい肉体から全く壊れない頑丈さを得れるようになります」
「そして皆さんにはこの世界を見て欲しい……接続しますよ」
ロンメルの触手が目に触れる
すると世界が透け始めた
「見えますか? これが私の見ている世界です。透き通る世界と言います」
ゴホゴホっと咳き込んでしまう
全員が苦しそうだ
「体が慣れてないので受け付けないのでしょうね、頑張って透き通る世界が見えるようになれば後は最後の一押しです……五感を解放してあげましょう。肉体がかけているリミッターです。呼吸、透き通る世界、強靭な肉体この3つの要素があって初めてリミッターを外しても行動可能となります」
「ヌルフフフ、領域には極論誰でも到達可能です。現に奈瀬トレーナーが領域の入り方をトレーニングに組み込んで居ますからねぇ……それに勝つには神域に入るしかありませんよ」
「す、凄い……凄いです! これが神域……神の領域……先生……いや! 神に私は一生着いていきます!」
スリームーンは目の前でロンメルの事を神と言った
俺らも本物の神に出会ったみたいだ
集団トリップだの洗脳だの言われるかも知れないが、あの場には本当に神が居た
「ヌルフフフ、授業を続けましょう。次は呼吸の属性についてです」
合宿5日目
ロンメル達は休まずに100キロの道のりを走破した
皆の目の色が変わっている
弱者の顔つきではない
歴戦の猛者の顔つきだ
大きな達成感と充実感、幸福感が押し寄せているハズだ
「では皆さんゆっくりと休みましょう。呼吸を続けるのだけは忘れないように……」
「「「はい!!」」」
こうして合宿は学生連合を次のステージへと押し上げた
神域に魅居られた者はその輝きを最後まで追うだろう
私はそれをただ壊れないように支えれば良い
そして私の野望の達成の為に利用させてもらう
「誰も見ていない見るハズもないスリーアウトのウマ娘が」
「誰もなし得なかった事をやる」
「神域の先を見つけよう」
「それで初めてエクリプスとマンノウォーを超えられる」
「待っていろよ……世界……!」
夏休みも後半を過ぎ、続々と学園に生徒達が夏休みのリフレッシュを終えて帰ってくるなか、夏の大一番札幌記念が近づいていた
成長を実感できた時ほど次なる成長を欲する物である
1日しっかりと休んだ皆はバイトの子以外は全員がしっかり集まり練習を開始する
とりあえず今日はプールトレーニングにして負荷を減らす
5日で330キロ走破したのだ、1日休んで全快できるほど皆の呼吸の練度は高くない
が、炎や水みたいな動きに変化が現れた
ただ泳ぐのでもそうだ
炎の様に苛烈に、水のように流れるように、岩の様に力強く、風のように素早く、雷の様に加速する
皆新たな力を1日休んだことで認識したのだろう
「ロンメルこれは!」
「全集中の呼吸の属性化だ。極めれば極めるほどドンドン変化していくよ……例えば」
ロンメルは水の上を走る
「水の呼吸を極めれば水の動きに合わせて無駄を極端に無くすことでこの様に水の上を走ることだってできる!」
「「「おお!」」」
「炎、水、雷、岩、風……これが呼吸の基礎の5つの型だ。それを変化させれば!」
ロンメルは指を弾くとポポポポと破裂音がプールに向かって進み、プールに触れると爆発した
「霸の呼吸だ」
「すっげぇ!!」
「呼吸は肉体を次のレベルに押し上げてくれるがむやみに振る舞ってはいけないよ。さっきみたいに危険と隣り合わせでもある。そして呼吸にも更に上が有るけどそれは教えない」
「何でですか!」
「死ぬから」
「「「!?」」」
「寿命の前借りを行ってしまうのだ。使ったら最後寿命が大幅に縮む。呼吸は再生の力が有るが、一定水準を超えると体を蝕み始める。強大な力と引き換えにね……まぁ呼吸を極めて更に限界を超えて酷使して初めてその領域になるから心配しなくて良いよ」
「「「はい!」」」
「よし! じゃあ泳ぐぞ!」
市民プールで泳ぎまくる
泳いで泳いで泳いで……
全員くたくたになるまで泳いだら家庭教師の為に借りている家で食事会である
「へいおまち! ロンメル特製豚骨醤油ラーメントッピング全部乗せ!」
「美味! 美味!」
「麺のコシが凄い! 幾らでも食べられそうです!」
「スープが豚骨醤油だけど油ぽくない! サッとしていて飲みやすい」
「チャーシュー旨い」
「味玉スッゴい味がしみてる! ご飯に乗せておお!」
「半熟の味玉がご飯に絡み付いてるじゃん! ロンメル先生味玉追加お願いします」
「うちも味玉とメンマ追加」
「替え玉お願い!」
「はいよ! チャーハンいる人!」
「「「はい! はい!」」」
「一杯食べろー」
腹一杯になったら勉強会である
皆疲れてはいるがテストで良い点取る嬉しさを知ってしまったので勉強も真面目にこなしていく
21時に解散なのだが、トレセンに戻るのがめんどくさくなった面々が住み着き始めた
「バカ2人帰れ帰れ!」
「ヤダヤダ! ここに住む! ロンメルに養ってもらう」
「バカ言ってないでさっさとトレセンに帰れ! こっからは明日の資料作りがあるんだよ!」
「「ビェェェェン」」
「嘘泣きするな! 近所迷惑だろ! 考えろバカ2名!」
「ほら、帰るぞお前ら」
ズルズルと他のメンバーに引きずられるベストエンジェルとマスターハリアー
「たく! さーて、風呂入るって律の手伝いもしないと……」
こうしてロンメルの夏休みは終わっていった
札幌記念も強いチームが独占し、1着のウマ娘が凱旋門に挑戦するって少し話題になったくらいだ