「さぁ始まります天皇賞(春)3200メートルの伝統の一戦……実況は住田主浩と」
「解説のメジロマックイーンですわ」
「マックイーンさんでお送りします。マックイーンさんお元気そうでなにより」
「いや、流石にこの年になると肩こりや色々なところにガタが来ますわ」
「それではマックイーンさん、天皇賞(春)の解説をお願いします」
「はい、元々はエンペラーズカップ、帝室御賞典と鎖国からの開国とほぼ同時期に開催されていたレースから名前や距離、場所を変えて今の天皇賞となりました。天皇賞(春)は春の春秋レースと言われるところになります。基本京都レース場でおこなわれますわ」
「京都レース場の特徴として第三コーナー前に坂があり、淀の坂と呼ばれ第三コーナー途中が頂上、そこから緩やかな下り坂となります。レース場全体はそこ以外は平坦であり、なので坂を下る時に切れる末脚が使いづらい。ヅブイウマ娘にとっては下り坂がアシストしてくれるのでスピードに乗りやすいコースになっていますわ」
「もう一点、約10年前に京都大改修でレース場の改装工事が入り、最終コーナーが緩やかになりました。これによりコーナリングが少しくらい苦手でもスピードが維持しやすくなり、近年レコードが相次いでいます」
「マックイーンさんありがとうございました」
「いえいえ」
「では今回は2強と言われていますが」
「そうね。メルトダウンとミッションタイマーの2名ですわね。まずメルトダウンは中長距離のウマ娘ね。生粋なステイヤーではないけれど、京都のコースの特性上ゴール前に坂が無いからスタミナが持ちやすいの。スピード勝負になれば彼女が勝つわね」
「一方ミッションタイマーは今時珍しい生粋なステイヤータイプね。たぶん2400メートル以上ならばどこでも走れるわ。問題は京都で走るのがこれが最初ということね。もし京都では無く阪神開催であれば間違いなくこちらを大本命にしていたけど……どこでスパートするのかによって勝敗が別れると思うわね」
「なるほどありがとうございます。ではウマ娘入場とファンファーレです」
「よお、始めましてだなメルトダウン」
「……ミッションタイマーですか?」
「そうだ。良い勝負をしようぜ」
「……いいや、この際聞いちゃえ、ミッションタイマー、領域の先って何か知ってる?」
「お、おぉ……随分とズバリと聞くな」
「何でも良いから知ってたら教えて」
ミッションタイマーは悩んだ
嘘を教えて惑わせることはできるが、それをして勝っても自分がモヤモヤするだけ
ならばいっそ教えちまうかと開き直った
「神域だ。領域の限界を更に越えた場所に有るのは神域だよ。見え始めてるんだろ? 俺にも見せてくれよお前さんの神域をさ」
「神域……うん、ありがとう。お姉さん優しいね」
「まー中坊の純粋な質問だからな、敵に塩を送ることになったかもしれねぇが、勝つからにはモヤモヤした不安だったり疑問だったりで本調子でない奴に勝つよりは100%の奴に勝ちたいからな」
「勝つのは私、核の世代最強のメルトダウンだよ」
「じゃあ見せてくれよ最強さんよ」
「ゲートイン完了……スタートしました。ポーンと出たのは5番メルトダウンと13番ミッションタイマー、この2人がペースを作るか……いや、2番の○○○○○に先頭を譲ります」
「両者どちらも実力的には自らペースを作ることができるウマ娘ですが、それを避けたということは互いを牽制していますね」
「隊列はやや縦長の展開となってきました天皇賞(春)、1周目の淀の坂に入ります」
「クリンガーター8番手外から好位を狙います」
まずは出だし上々、3番手に着けることができた
メルトダウンは消耗戦は嫌ったか
幸いだ
俺も今回は急ごしらえの調整でできが8割だからな
さてととりあえずエアポケットに入ることはできた
これで風避けはできるから疲れにくくなる
勝負は2周目の第三コーナーからだ
それまではじっくりさせてもらうぜ
俺の領域はもって1000メートルだからな
スゥゥゥゥハァァァァ
呼吸を整えろ
ミッションタイマーは私の真後ろで追走か
ペースはスロー
前のウマ娘のペースが予定よりも遅い
1000メートル通過タイムが1.02.1
例年よりも2秒近く遅い
バ場はパンパンの良バ場だけど引っ張るのが居ないとここまで遅いペースになるのか
かといって後ろも自分のペースでやってるから隊列を変更しようとしないから縦長になってるぽいし
末脚勝負かな
よし、溜めよう
勝負は2周目の上り坂にしよう
「さぁ前半1600メートルが1.40.9となかなかのスローペースとなりました」
「良バ場では近年稀に見るスローペースですわね」
「こうなってくると後続のウマ娘にもチャンスが出てきますが」
「そうですわね。ただ先行している2強も脚を溜めているように見えます。スパートの位置と末脚の持続力が勝敗を決めるかもしれません」
残り1000メートル上り坂の途中だがそろそろ仕掛けの準備をするかと俺が領域に入った瞬間、目の前のメルトダウンが爆発したような感覚に陥った
「おいおい、嘘だろ」
メルトダウン淀の坂にてスパートを開始
その勢いでコーナー入ったら……いや、改修後でカーブは緩やかになってるから外に比較的膨らまない
ちっ! 結局はスタミナ勝負かよ
「メルトダウン残り900メートルでスパートを開始! 釣られてミッションタイマーも行きます」
「900メートルの超ロングスパート……普通なら持たないと思いますが、あの2人なら持ってしまうかもしれませんねぇ」
「下り坂にさしかかります!」
肺が苦しい……やっぱりスパートが早すぎた
でも勝つためには今しかないと思った
後は自分の限界との勝負!
心を燃やせ……気持ちで負けるな!
脚を前に!
「勝つのは私だ!!」
バチバチと再び空間にヒビが入る
見えた領域の先が……でも遠い!
前に前に進んでいるのにどうしてそんなに遠くにあるの?
私にそこに入らせろ!
俺は呼吸を使って身体を強化しているんだぞ
領域にも入ってる
それでもあと2バ身の差が縮まらない
まさか負ける……この俺が?
いや、あり得ない
ちっ! くそ、神域も何も見えて来ないし、ここが俺の限界なのか?
『限界は己が作る物ですよヌルフフフ』
ロンメルの幻聴が聞こえてやがる
そうだぜ、限界は乗り越える物だ
断じて俺自身が作って良い物じゃねぇ!
【時機到来】
これが俺の領域だぁぁぉ!!
「凄まじい2人のデッドヒート! ミッションタイマー残り1バ身差! しかしメルトダウン更に加速する!」
「素晴らしい集中力……これこそが伝統ある天皇賞(春)にふさわしいレースですわ!」
「残り100メートル抜かすか残すかどっちだぁぁぁぁ!!」
「半バ身差で内のメルトダウンです! メルトダウンが先着です」
「素晴らしいレースでしたわ。拍手を送りましょう」
「会場中から拍手が鳴り響いています。素晴らしい激闘でした」
「メルトダウンさんはこれでG1を4つ目ですわね」
「昨年は逃した年度代表ウマ娘に向けて大きな一歩を踏み出しましたメルトダウン! 素晴らしいレースをありがとう」
「勝利ウマ娘インタビューです。メルトダウンさんおめでとうございます」
「はぁはぁ、ありがとうございます」
「今のお気持ちをお願いします」
「はぁはぁ、もう少しで……もう少しで自分の限界を越えられただけに少し悔しいです……あと少しで神域なるものに到達できたのに」
「神域……それはどういうものでしょうか」
「私にもわかりません。はぁはぁ、でもまだ私は強くなれるとわかりました」
「なるほど……更に強くですか」
「はぁはぁ、はい」
「次の目標はありますか」
「宝塚記念を取りに行きます。必ず……必ず取りに行きます」
神域という単語がウマ娘の口から出たのはこの時であった
様々な憶測を呼ぶことになるが、ロンメルはそのインタビューを見てニヤニヤと笑っていた