2人のヒーローが居た
片方は世界を相手に
片方はその姿を見続けてきた
最初で最後の交差がいま始まる
俺はレースでの成績が悪かった
要領も悪かった
チームのメンバーとも仲が悪かった
レースの成績が悪い俺をクラスの奴らがイキり散らしたので顔面を思いっきりぶん殴ってやった
その暴力行為で俺は停学及びチームからの除籍処分となった
行く宛も無く……そういった問題児を集めたチームがあるという話を生活指導の先生から聞き、俺は学生連合に加入した
掃き溜めも掃き溜め
昼間からタバコは吸うわ、酒盛りはするわ、トランプでギャンブルをするわで荒れ果てていた
怪我で動けない先輩方は鎮痛剤を飲みながらリハビリをしていたり、神に祈ると言って聖書を暗唱していたりと本当に様々だった
そんなチームで半年過ごしていたら俺もまぁ腐りきったよな
食費稼ぐためにバイトをしていてろくに練習できなくなっていた6月……ロンメル先生が来た
圧倒的な武力を持って制圧し、支配下に俺らを組み込み、一からチームを建て直しを始めた
バイトで首が絞まっていた俺に対しては食費をロンメルがある程度負担してくれたこと、バイト先のシフトを調整してくれたことでちゃんと練習が出来るようになった
そこから呼吸を覚え、夏合宿をし、自身の限界を越え、秋には初めての勝利、12月には重賞まで勝つことができた
更には海外重賞まで勝つことができたが、俺の絶頂期はそこで終わってしまった
ドバイでは3着とロンメル先生からは健闘したと言われたが、成長が止まってしまったのがわかった
劣化……俺はどうやら早熟だったらしい
ただどうしても俺はスカイプラザ先輩に勝ちたかった
間近であの輝きを魅せられてしまった俺はどうしても最後に戦いたかった
ロンメルはその願いを叶えてくれた
俺もここまで調子が良いのは初めてだ
勝てるという勇気が沸いてくる
無念の引退をしてしまったフェンリルの分まで俺は……戦う
パドックにて観客達はサクセスの姿を見て驚きを隠せなかった
全身がピカピカに輝いて見える
肌は熱でほんのり赤みをおび、前走からプラス4キロの体重も体つきを見れば成長分だとハッキリとわかる
「ここまで完璧な仕上げは20年近くウマ娘を見てきたが初めてだ」
年配のおじさん達が声を揃えてそう話す
それはまるで芸術品の様にも見えてしまう
本気でスカイプラザを倒しに来ているとひしひしと伝わってくる
サクセスのオッズはみるみる下がり3.9倍まで下落した
3番人気のウマ娘には45倍という単勝が付いている故に完全なる2強となった
6万人もの観衆が詰めかけた大井レース場
今レースが始まる
サクセスがこのレースに並々ならぬ思いがあるのは間近で見てきたうちは良くわかる
覚醒型の私とは違いサクセスは早熟
私は世界を取り、サクセスは道半ばで脱落を余儀なくされた
もし、この時期に海外にシニアのダート戦が有ればロンメルは間違いなくうちとサクセスを別のレースに分けただろう
しかし、サクセスはうちとの勝負を選んだ
だったら全力で叩き潰すまで
昔とは違う
私は世界最強のダートウマ娘
負けることは許されない
だから……うちが勝つ
スタートと同時に領域に入る
スカイプラザ先輩も勿論領域に入る
本来俺は差しウマ娘だが、スカイプラザ先輩に勝つにはスカイプラザ先輩の逃げにある程度着いていきながら脚を溜める必要がある
スカイプラザ先輩もそれがわかっているから溜めさせないように全力で逃げる
バ場は前日の雨で稍重になっているため、いつもより速度が出る
スカイプラザ先輩との差は約4バ身
後続は俺とスカイプラザ先輩の速度に着いていけずに既に10バ身近くの差が出来ている
俺の体内時計が正確なら半分の1000メートルを通過した今のタイムは俺が57秒ジャストくらい
スカイプラザ先輩は56.1~56.5くらいで1000メートルを通過したことになる
次元が違う
いつもの俺なら諦めるかもしれないが、これが最後のレース
息を深く吸い込む
残り800メートル
時間にして40秒ちょっと
無呼吸状態で突っ走る
サクセスは生半可な逃げでは差されるとわかっているうちは、ペースやセオリーなんかを無視して走る
適度なラップを刻みながら走るのが疲れ難いし、走りやすいのであるが、そんな悠長な事は言ってられない
ドバイでサジタリウスと激突した時よりも今の方がプレッシャーを強く感じる
足音からして差は3~6バ身
残り1000メートル
ギアを1段階上げよう
ひび割れた空間を蹴破り、神域へと踏み込む
神域【天上の調律者】
さぁサクセス、あなたの最後の力をうちに見せてくれ
シィィィィと言いう息を吐く音が響き渡る
サクセスは息を少しずつ吐き出し続けている
目は血走り、こめかみやおでこは血管が浮き出ている
その姿はいつものかわいい姿とはかけ離れており、般若の様な顔になっていた
スカイプラザのギアが上がる
サクセスの視界にひび割れは存在せず、神域に至る気配はない
が、1歩……また1歩とジリジリとスカイプラザとの差が縮まっていく
サクセスの限界は優に超えている
選手生命とも言える脚は強烈な負荷で悲鳴をあげ、毛細血管の一部は負荷に耐えられずに内出血を始めている
しかしサクセスは走り続ける
視界は真っ白と線の世界となり、領域が今……完成となる
【成功の末脚】
このレースは後世まで語り継がれるであろう
「神域はぁ! 世界王者はぁ! そんなに簡単に破られる程甘くないんだよ!」
美しい世界が加速していく
私の心の色に合わせて美しく薄暗い世界に強烈な光が差し込む
神域は更にスカイプラザに力を与える
人々は言う
三段階目の加速と
サクセスがあと3歩まで迫った瞬間にスカイプラザは更に加速した
残り100メートル
サクセスにもう一片たりとも余力は残っていなかった
人々はスカイプラザの強さ、それに迫ったサクセスの勇姿を目に焼き付けた
掲示板にはレコードの文字
サクセスとは1バ身半の差
サクセスと後続とは5秒以上も離れた決着となった
スカイプラザ、サクセス共に走り終わったあと少し歩いてラチにもたれ掛かるように崩れた
立ち上がる余力すら無くなった戦いのタイムは伝説となる
1.55.0
アメリカのダートの伝説のウマ娘、スペクタキュラービッドの1.57.8よりも
芝のトーセンジョーダンの1.56.1よりも1秒近く速いその時計は観客の度肝を抜いた
そしてこの帝王賞をもって観客達はスカイプラザを世界一のダートウマ娘だとハッキリと認めた
「ハァハァハァ……敵わねーか」
「ハァハァハァ……いい線行ったと思うよ」
「先輩、もう1歩も歩けねーや。肩貸してくれませんか」
「うちも無理、喋るだけで精一杯だわ」
「……出しきったわ……これで負けたんだ。悔いはねぇ」
「そりゃハァハァ……良かった」
「ウイニングライブできます?」
「しなきゃまずいっしょ……踊れる元気は全く無いけど」
「俺もっす……ハッハッハッ……楽しかった。今日で終わりかぁ! 実に楽しいレースだった」
「それは言えてる」
「スカイプラザ先輩……」
「何?」
「ロンメル先生には勝てますか?」
「わかんにゃい」
「そこは勝つって断言するところでしょ」
「いやー、あの化け物の事だから毎回こんなレースさせられたら私も壊れるよ……でも1度は必ず土付ける事は約束するよ」
「観客席で見てますよ」
「楽しみにしてな」
ウイニングライブはスカイプラザとサクセスは椅子に座りながらという形で行われたが、誰も文句を言う人は出なかった
あんな激走を見せられて文句が言えたらそれは勇者である
通常のウイニングライブが終わった後、運営にロンメルが頼み込んでもう一曲スカイプラザとサクセスの2人だけで歌わせてもらった
曲名は【成功者達】
約5分の曲であったが終わった後歓声と連合コールが鳴り響いた
【世界的偉業 帝王賞にてスカイプラザ選手がG1級5勝目】
先日行われたjpn1帝王賞ダート2000メートルにて世界最強のスカイプラザ選手が同チームのサクセス選手の猛追を防ぎ防衛に成功
スカイプラザ選手はダートを走るようになってから負け無しの8連勝目
サウジカップやドバイワールドカップを勝つ等して獲得賞金はなんと約27億円にもなる
所属チームのロンメルトレーナーによると次走は南部杯を予定しているとの事で、アメリカ遠征のプランは無いようだ
驚くのはそのタイム1分55秒0……大井レース場の従来のレコードを5秒縮め、芝ダート問わず2000メートル世界最速のウマ娘となった
これで1800メートルと2000メートルの世界レコード保持者となった
今回のレースにより国際ウマ娘レース機構が最新のレーティングを発表その数値はなんと140
これでダート芝問わず歴代1位タイとなる
2話前のダート歴代1位タイという表記を訂正