Pair Migrant   作:明田川

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第一章
第一章 プロローグ


 時はレジスタンス第一次反抗作戦時、シティと呼ばれる大規模組織内での内乱は周囲の勢力にも大きな影響を与えていた。どさくさ紛れに成功を狙うもの、兵器を操り戦力として活躍することを狙うもの、軍需品の高騰を予測し巨万の利益を得ようと画策するもの、兎に角様々だ。

 

自分はその動乱の中、下っ端として働かされていたグループからの脱走を企てていた。過去の大戦で汚染された土地は多く、生存可能な領域を行き来して物資を売りさばく数多く存在していた。ミグラントと呼ばれる行商人は商品となる貴重な物資を奪い合い、土地の取り合いを始める。つまるところ、シティの内乱以外にも争いの種は幾らでもあったということだ。

 

「おいお前、掃除は終わったのか?」

 

「トラックは終わりました」

 

「ならいいが、ACに触ったらぶっ殺すからな」

 

 大きなトラックの荷台に駐機されているのはこの世界における最強の兵器のひとつ、アーマードコアだ。旧世代の遺物であり、戦争の跡が色濃く残る地域から発掘され使用されている。新たに製造することは未だ叶わず、現代の戦争で多用される兵器であるのにも関わらず供給は完全に運任せの発掘に頼っているという稀有な存在でもある。

 

 人の形をしていながら、その雰囲気は戦車や装甲車といった兵器然としたもので、ヒロイックさよりも無骨さが目立つ。人を戦うために最適化すると、その過程でこうなるのかもしれない、見た時にはそう思った。

 

「…見てろよ」

 

 AC以外の兵器は一般兵器と呼ばれ、それらは大抵ACに太刀打ちできない。つまり一機あればこの組織を潰すことすら出来るのだ。過去に所属していた組織を潰され、生き残った自分を奴隷のようにこき使ってくれた恨みはいつか晴らしてみせる。そのためにもACの操縦方法をどうにかして覚えなければ…

 

「ああ、そこに居たのか」

 

 独り言を聞かれたのかと思い勢いよく振り返ると、そこにはこの組織における唯一のACパイロットが立っていた。なぜ声をかけてきたのだろうかと思案するが、心当たりはない。

 

「お前さん、ACに乗らないか?」

 

「は、えっ?」

 

 こうしてACに乗るための日々が始まった、なぜ自分を選んだのかは聞けていない。何故わざわざ10代の子供をACに乗せるのか、立場の弱い自分が何故抜擢されたのかなど疑問は絶えない。しかし自分にとって願ってもない状況であることは確かであり、教えられることは一言一句覚えきるという気概で挑んだ。

 

「お前の機体はこれだ、オンボロだが動きはする」

 

 新たに発見されたACを最低限修復したものが自分に割り当てられた、ここまでボロボロだと幾らACでも価値は低いだろう。教官役のパイロットは自分のACに乗り、監視しながらこちらへの指導を行ってくる。脱走しようとした時は後ろからズドン、ということだろう。

 

「そうだ、こうやってブースターの向きを変えるということを忘れるな」

 

「はい!」

 

 ACが動く様子は毎回ヘリの窓から食い入るように見ていたので、言われたことがどの動作に繋がるのかは瞬時に理解できた。しかし分かると出来るの間には大きな差がある、ペダルを踏んだ後に襲うGに身体は悲鳴を上げた。

 

「がッ!?」

 

 一瞬だけ強くブースターを吹かして機体の軌道方向を瞬時に変えるハイブースト、壁を蹴って大きく立体的に動けるブーストドライブ、どれも人間が耐えられるとは思えない衝撃だ。しかし戦闘中にこれらを用いた回避機動を絶えず行わなければ、機体はあっという間に穴だらけだろう。

 

「見込んで正解だった、お前は確かにAC乗りに向いてるよ」

 

「…ありがとうございます」

 

「そろそろ実戦だな、用意をしておけ」

 

 どうせお世辞だろう、本心からそう感じていないのは理解できた。次の日には相変わらずボロボロのACが自分を乗せたままヘリに係留され、拠点にしていた場所から遠く離れた場所にまで運ばれていく。機体の武装はライフル一丁と、余ったからと持たされた謎の武器の二つだけだ。

 

「お前も災難だな」

 

「はい?」

 

「まあいい、これから投下する場所に居る奴らを殲滅するのがお前の仕事だ」

 

 機体を吊り下げていた装置が音を立てたかと思えば、機体が落下する。事前通告も無しに投下されたことに驚いたが、機体のブースターを使い落下速度を和らげながら降下する。

 

「最後の仕事だ、せいぜい派手にやってくれ」

 

 地上から機体に向かって飛来するのは大量のミサイル、相手の防御陣地のど真ん中に落とされたのだ。反応が遅れたことで運よくギリギリまで引き付けることになり、思い切り推進器を吹かすと軌道の修正が間に合わずにミサイル達が連なって機体側面を通り過ぎていく。ACはガタガタと空気抵抗だけで異音を鳴らすが、自由落下により目指す先にはすでに敵が待ち構えている。

 

「鉄砲玉ってことか、クソ野郎共!」

 

 売っても大した値が付かないACを敵陣に放り込み、被害を与えて更なる利益を得ることが自分に操縦を教えた理由なのだろう。

 

『敵はAC一機、ヘリは撤退した!』

 

『囲んで撃て、あんな機体大した脅威じゃ…』

 

 着地地点の近くにいた防衛型、盾を持った人型兵器モドキに向けてライフルを撃つ。数発は盾に防がれるが、それでも防御しきれず貫通を許し爆散した。そこまで硬い相手ではない、背面や側面なら面倒な盾でも防げないだろう。

 

『一機やられたぞ!』

 

『撃ち続けろ、ミサイルも惜しむなよ!』

 

「駄目だ、ライフルだけじゃ火力が足りな…」

 

 防衛型に囲まれているため、ミサイルを搭載した機体を倒しに向かえばここぞとばかりに集中砲火を受けるだろう。この機体の装甲は運動エネルギーで攻撃する兵器に対してある程度の防御力を持ち、防衛型の放つガトリング砲とは相性が良いのだが…

 

「ぐおっ!?」

 

『やった、当たってるぞ!』

 

『続けて撃て、逃がすな』

 

 装甲の劣化により豆鉄砲すら大きなダメージになり得る、特に機体各所に設けられたセンサー部は防御力が低く容易に破壊されてしまう。先ほどの被弾により足元をみるためのサブモニター用のカメラが吹っ飛んだ、サブモニターが映像を映さない代わりにNO SIGNALと文字を表示するだけになった。

 

「いい気に…なるなよ」

 

『なんだぁ?』

 

「木偶の坊がァ!」

 

 射線が通っていた防衛型をライフルで撃ち、爆散させる。先ほどの被弾で動きが悪くなったこちらの様子を見て油断していたようで、他にも隙を晒している敵機は多い。敵はお世辞にも装甲が分厚いとは言えない、ACが装備できる武装の中でも火力が低いライフルでも充分だ。

 

「一般兵器が、ACに勝てるかよ!」

 

『アイツ突っ込んでくるぞ!?』

 

 推力が安定しないブースターを酷使して機体を左右に振り、ガトリング砲の弾幕を被弾しながらもかいくぐる。そして側面に回り込み、思い切り蹴りをお見舞いした。

 

『ギャッ!』

 

 短い悲鳴が聞こえたが、コックピットを潰すように当てたことで通信機材も一緒に破損してあのような断末魔となったのだろう。頑丈なACの脚部は劣化した装甲が衝撃によって剝がれるが、駆動系はまだ生きている。

 

「回り込んで撃つ、或いは盾で覆いきれない場所を狙…」

 

『クソったれがぁー!!』

 

 ライフルを持っていた腕が被弾し、ライフルを地面に落とす。操縦桿で幾つかの操作を試すが反応が無い、仕方なくもう一つの武器を握る。今となっては扱い方も何も理解でき、思い通りに振るえるだろうという確信じみた何かがあった。

 

『おい、援護はどうなってる!弾はまだあるだろうが!』

 

『ダメです、急に動きが変わって…』

 

 動きが変わったのではない、回避せざるを得ない攻撃をしてくる敵が減ったのだ。もう一度蹴りを行えば今度こそ脚部が持たない、ならば一か八かを試すしかない。最後の武装は乗る前に見たが、恐らくこう使うのだろう。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「合ってたみたいだな、使い方は」

 

 装甲など簡単に引き裂く刃は何故か響いた爆発音と共に、防衛型へ致命傷を与えた。

 

ーーー

ーー

 

 壊滅した敵部隊の残骸を機体に括り付け、近場の交易拠点で売って機体の維持費を稼いだ。これが自分がACに乗って初めて稼いだ際の顛末で、この後もACに乗り続けるのだが…この話はまた今度でいいだろう。

 

「傭兵さん、この物資なんですけど」

 

「ああ、それは確かそっちの方にまとめてある筈だ」

 

 今は何故か運び屋とペアを組み、働くことになっている。彼女は色々と厄介な事情を持っていること、追っ手が来たりする可能性があることも聞いた。

 

「あ、ありました」

 

「次からは分かりやすいように置く場所を決めておく、すまない」

 

 だがまあ、自分のように組織から飛び出したというなら親身になってしまうのも仕方ないだろう。彼女の場合はACではなく大型ヘリを奪い逃走したようだが、操縦や整備が手慣れているのを見るにしっかり教育されていたことが伺える。

 

「…どうかしましたか?」

 

「いや、なんでもない」

 

詳しくは親しくなった後にでも聞こう、そう思うことにした。




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追記
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