運び屋を名乗る少女と出会ったは最近のことだ、あれは半年ほど前の話だったか。
あの時は確かACを運ぶための足を探して交易拠点をうろついていて、その時に周りよりもひと際綺麗な大型ヘリを見つけたのだ。整備が行き届いていて、修理痕もあるが綺麗に補修されているなと思ったことは今でも思い出せる。
こうして思い出してみると怪しいにも程があるが、その時は彼女以外に碌な候補が居なかったのだ。このことが長い付き合い、そしてとある教団との戦いに繋がるとは、思ってもみなかったのである。
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「いい仕事をする、見かけ倒しならここまで丁寧に仕上げないな」
ヘリにはACを吊り下げで運搬するための装備もあり、外部に武装も追加されていないことから輸送能力に特化した性能を持たせた機体であることが伺える。他にも大小さまざまなヘリが駐機されているが、最近はシティの崩壊と共に逃げ出してきたレジスタンス残党が多く状態の悪い機体がほとんどだ。
「すまない、このヘリの持ち主は居るか?」
「…は、はい、ここに」
「機体の輸送をお願いしたい、別の拠点であればどこでもいいんだが」
機体の陰から出てきたのは身長がそこまで高くなく、ガスマスクで顔を隠したヘリパイロットだった。声はくぐもっていて細かくは聞き取れないが、中性的なものに思える。
「移動予定はありますので、その、西の方でいいですか?」
「かまわない、むしろ助かるよ」
ACを使った仕事の後はしばらくその周辺から離れることにしている、今回のように移動する予定がある運び屋についでで運んでもらうのが楽でいい。ACも軽量な部類に入る機体なので問題ない筈だ、機体一つで活動しているがために括り付けてある荷物は多いが…。
「何か商品を扱っていたりするか?」
「もちろんです!」
そそくさと取り出されたのは商品のリストらしく、目を通すと中々珍しいものも混ざっていることが分かった。それでも大部分は食料品や生活必需品、または換金しやすく価値の高い電子機器で占められているのには違和感を感じる。
大抵は補給の需要を鑑みて燃料や武器弾薬は積んでおくものだが、そのような営業スタイルはとらない主義なのだろうか。
「これと、これを3つづつ貰えるか?」
「分かりました」
最近補給出来ていなかった携帯食料を買うことにし、駐機してあるACのどこに積もうか考えていた時のことだった。周囲がざわめきだし、何やら店を出していた者たちも逃げる準備を整えようとし始めた。
『ACが第二駐機場から逸脱し走行中、商業エリアの皆様は避難を行って下さい』
「また馬鹿が暴れてるのか、すぐに機体を持ってくる!」
「わ、わかりました!お待ちしてます!」
運び屋もヘリのエンジンを始動させるべく機内へと走った、自分の機体はヘリと同じ駐機場に停めていたために距離は目と鼻の先だ。第二駐機場は少し距離があるため、件のACがこちらに来るのにはもう少し時間がかかるだろう。
「さあいい子だ、立ち上がってくれよ~」
『メインシステム、戦闘モードを起動します』
最悪の場合に備えて戦闘可能な状態で機体を起こす、乗せてもらえるヘリが襲われた際には助けてやらないと足が無くなってしまうからだ。
『聞こえますか、こちらはえっと…運び屋です!』
「聞こえてる、乗せてもらいたいんだがどうすればいい?」
周囲は混乱しており、大小さまざまな航空機が入り乱れている。少し離れた場所でACとヘリのドッキングを行った方が衝突事故のリスクは少なく済むだろう。
『商業区画を抜けて、整備関係の施設がある方向に移動してから機体を繋げましょう!』
「あっちなら開けた場所があるか、了解した」
機体のブースターを吹かし、滑るように機体を動かす。駐機場に停まっている他の車両や兵器を避けながら、開けた場所へと向かおうとしたが、発砲音と共に駐機されていた他のACが攻撃された。
「うおっ!?」
暴れているというACだろうか、黄色と黒の塗装がなされた四脚のACが銃をぶっ放している。それはACに対してのみ行われているように思えたが、おもむろに空を見た後移動中のヘリに狙いを定めようとした。
「やめな馬鹿野郎、聞こえてるなら銃を下ろしな」
傍若無人な行いを続ける黄色のACにライフルを向け、動けば撃つぞと脅しをかけるがこちらを見る様子すらない。しかし数秒の沈黙の後、四角い頭部をこちらに向けた。
『やはり争いの種になるというお言葉は本当だったようですね、神託を受けた私にACが立ちふさがるとは…』
「何言ってんだお前、イカレてんのか?」
『黙りなさい人類の腫瘍がァ!』
激高した相手は上に向けようとしていた銃をこちらに向けなおす、何も持っていなかったもう片方の手にも肩に吊り下げていた別の武器を構えて完全な戦闘態勢だ。
『…私としたことが熱くなりすぎました。いつも通りいきましょう、世に平穏のあらんことを』
「ンだと、このカルト野郎が!」
乗る予定のヘリを庇ったら大変なことになった、恐らくコイツは最近勢力を拡大しているという教団の構成員だろう。ACを集中的に潰して回っているという噂はなんとなく聞いたことがあったが、実際に見ると呆気に取られてそうと分かるのに時間がかかってしまった。
『あの、機体が見当たらないのですが』
「カルトACに絡まれた、少し待ってくれ!」
まだ逃げ切れていない者も多くいる、銃を使って流れ弾でも出せば最悪この交易拠点を出入り禁止にされてしまうだろう。補給地点を一つ失うのはごめんだ、ならばと銃をある武器と持ち変える。
それは堅牢な金属で出来たブレードであり、敵機を切り裂く近接格闘用の兵装だ。
「ええい、躊躇なく撃ちやがって」
カルト野郎はこちらに向けて砲弾を放ってくるが、少し回避機動を行うだけで簡単に避けられるような攻撃しかしてこない。ただ引き金を引いているだけだ、興奮状態にでもなっているのか機体は直進しかしてこない。
「やりやすくて結構!」
刃を振るい、バカスカと五月蠅いライフルの砲身を切断する。ACの装甲すら両断可能なこの武器が鋼の筒を切断するなど、造作もないことだ。
『な、何が』
「先に謝っとく、悪いな!」
ハイブーストにより加速を刃に乗せ、思い切りコックピットのある機体胸部にアッパーの要領で叩きつける。すると金属がぶつかる音と共に何故か爆発音が響いたかと思えば、刃は深々と機体を切り裂いていた。
『が、ぐぁふ』
通信には何かを吐くような音がノイズ交じりに届いた、斬った場所からしてパイロットの下半身は装甲ごと切断されたか押しつぶされたと思われるので無理はないが。
「俺は綺麗に即死させられるほど、コイツの扱いが上手くないんだ」
MURAKUMOと銘打たれたこの刃は、昔から自分の相棒だ。
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「いや、悪かったな」
『…いえ、気になさらないでください』
あれから機体を適当に引き渡しヘリの下へと急いだ自分は、約束通りACごと別の拠点まで運んでもらっていた。運び屋の操縦は上手い方で、今のところ不快に感じるほどの揺れは感じていない。
『お強いんですね、びっくりしました』
「いやいや、相手との相性が良かっただけさ」
褒められて嫌な気はしない、むしろ大歓迎だ。というのもこの業界は評判勝負であり、誰々は強いだの弱いだのという噂に自身の価値は大きく左右されてしまうのだ。だからこそいい評判というのは大切にしたい。
「にしても困ったもんだな、カルト教団なんてのが大手を振って活動してるとは…」
『そこまで問題になっているのですか?』
少し食い気味に運び屋が質問を投げかけてくる。急に話題へ食いついてきたことに少々驚いたが、まあ最近のニュースに敏感であるのはいい運び屋である証拠と言えるだろう。
「ACを襲ってパーツを根こそぎ持ち去っちまうんだよ、奪われた機体がマーケットに流れてるって噂もあるし相当闇は深いだろうがな」
『…やっぱり、金のために』
何やら不穏な空気が漂っている、運び屋は何か教団に対して因縁でもあるのだろうか?
身内や知り合いが被害に遭っていたのなら軽々と話した自分も悪いだろう、何か地雷を踏んでしまっただろうか。
『すみません、少し考え事をしていました』
「大丈夫だ、それよりもここら辺の渓谷は危ないから気を付けてくれよ」
ヘリが壁に激突して墜落したり、潜伏していた者が通るヘリを襲うなんてことは往々にして発生している。しかし渓谷の谷を通らなければいい的、中に入れば危険と隣り合わせという嫌な場所だ。
「大丈夫です、何度か通ったことが…」
谷に入った瞬間にACのセンサーが捉えたのは、照準用のレーダー照射だった。それは確実にこちらに向けられており、何故かここを通ることが分かっていたかのような布陣だ。
「回避しろ、狙われてるぞ!」
『は、はいっ!』
それはヘリ側でも分かっていたのか、欺瞞用のチャフとフレアをばら撒いて狭い谷の中で回避を行った。すると待ち伏せをしていたであろう方向から放たれた砲弾は運よく外れ、ヘリに当たることはなかった。
「俺を切り離せ、ACを吊ってちゃあ動けん!」
『で、ですが』
「乗せてもらう礼だ、アイツらは俺が片付ける」
回避したことで大きく揺れるヘリからの投下、谷の壁面へと叩きつけられるコースで切り離された愛機の脚部をタイミングよく動かした。すると機体の足が壁を蹴りつけ、ベクトルは無理矢理前へと向けなおされた。
「いいスタートダッシュだ、感謝する!」
やっと見えた敵は一連の行動に呆気に取られたようで、狙撃用の大口径砲を撃っては来なかった。隙を見せてくれたことへの感謝を交えつつ、空中でガトリング砲を相手に向けて引き金を引いた。