Pair Migrant   作:明田川

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第二話 契約

壁を蹴って加速し、一般兵器である狙撃型へと接近する。敵機は急な空中での制動を追いきれず、こちらを狙うにはもう数秒の時間が必要だろう。まあ、それは自分が動いていなかった場合だが。

 

「よくもまあ舐めた真似を」

 

『ACだと!?忌み子に協力者が…』

 

狙撃型は二本の足の上に大きな大砲を乗せたような形をしており、見た目通り機動性は皆無だ。つまり接近中の自分から逃げる術は無い。

 

「してくれやがったなァ!」

 

ガトリングガンは脚部に連続して命中、立ち上がることすらままならない敵機にブレードを叩き込む。ACと比べてかなり装甲の薄い狙撃型が刃を受け止められるはずもなく、パイロットは文字通り斬り飛ばされた。

 

「…狙撃型一機だけか、リコンにも反応がないな」

 

射出式の無人機が機体上空を旋回し偵察を行なっているが、この機体以外に敵機は見つからない。この機体のコックピットから情報でも得ようかと思ったが、加減せず丸ごと破壊したのを思い出した。

 

『大丈夫ですか…?』

 

「ああ、なんともない」

 

ブレードに付いた機械油を振り払い、刃を納める。一人で逃げずに迎えに来てくれた運び屋の誠実さに感謝しつつ、機体をヘリに固定してもらうべく移動を始めた時だった。

 

「反応!?」

 

探知範囲外ギリギリに居たのだろう、気付くことが出来なかったのが悔やまれる。急速に接近してくる敵機を見ると、低空にまで降りて来たヘリに狙いを定めようとしている。

 

「もう一回逃げろ、ACが来やがった!」

 

『は、はい!』

 

牽制射撃で意識をこちらに向け、肩部コンテナからミサイルも発射した。流石に無視出来なかったようで、ヘリを狙っていた筈のACはこちらに攻撃する目標を変えた。

回避したため命中はしなかったが、着弾した地面は膨大な熱量を受け赤熱していた。

 

「レーザーか、厄介だな」

 

『同志をよくも殺してくれたな、引導を渡してくれる!』

 

敵機が手に持つのはレーザーライフル、熱エネルギーにて対象を破壊するという類の兵器だ。自分の機体とははっきり言って相性が悪く、一撃で致命傷になり得るだろう。

 

「…だがまあ、バカそうで助かる」

 

『世に平穏のあらん事を!』

 

その機体は手に持つ武器と予備の武装合わせて四つともレーザーライフルを持っていた、セオリー通りであれば敵に合わせて相性の良い武器に持ち変えるのだがそれも知らないようだ。

 

「ソイツは発射までに長いチャージ時間がある、喋ってねぇでサッサと撃ちゃあ良かったんだよ阿保が!」

 

しかも敵機は四脚型、愛機の二脚型と比べて機動力は段違いだ。ガトリングガンを肩部に保持していた別の武器に持ち替え、エネルギー兵器の本当の使い方を見せてやると言わんばかりに敵へと向けた。

 

『あ、当たれ!何故当たらん!』

 

「こっちの回避も読めないで、よく今まで生き残れたな」

 

あっという間に距離を詰め、手に持ったエネルギー兵器の引き金を引く。それはパルスマシンガンと呼ばれる武器であり、低威力の電磁弾を連射出来るものだ。相手は耐熱性の高いパーツを装備しておらず、どこに当たっても効果を発揮するだろう。

 

「引導はお前に渡してやるよ、喰らいな!」

 

相手はレーザーライフルをこちらに向けようとしたが、それより前に砲身が溶けて歪んでいた。そのまま右側面に回り込むように撃てば、あっという間に装甲が溶けて内部まで破壊されていく。

 

『あああ、ああッ!』

 

「もう少しお勉強をしてから乗るんだったな」

 

四つある足の右二つを破壊され、身動きもままならない敵機を横から蹴飛ばす。金属が思い切りぶつかる音の後、熱でダメになっていたのか右腕が外れて転がった。

 

「いかんいかん、またぶっ壊す所だった」

 

先程はコックピットを丸ごと破壊したため、何も得られなかった。ここは情報収集のため、ACを鹵獲するのが最善だろう。

 

「気が変わった、死にたくなかったら今すぐ機体を捨てな」

 

『…えっ、あ』

 

「気が変わっちまうぞ、ほら早くしな」

 

パルスマシンガンをコックピットのある首元に押し付けたのが決定打となったのか、コックピットが開いて脱兎のごとく教団のパイロットは逃げていった。

 

「あーあー、何も持たずに逃げちゃってまあ…」

 

 野垂れ死ぬのは時間の問題だが、まあ殺そうとして来た相手にこれ以上の情けをかける必要はないだろう。

 

「今度こそ大丈夫だ、サッサとここを離れよう」

 

『分かりました、その、ありがとうございます』

 

「気にするなよ、教団の奴らは何もアンタだけを狙ったわけじゃないんだ」

 

『…そう、ですか』

 

 教団の機体に乗り込み、各パーツを強制的にパージするコマンドを打ち込んでバラバラにした。愛機と共にコックピットのある胸部だけをヘリに吊り下げ、先を急ぐのだった。

 

ーーー

ーー

 

 渓谷を抜けた先にある補給拠点にて、ヘリへの給油を行っていた。今日一日はここで過ごす予定であり、機体の整備も最低限行うつもりでいる。自分は今愛機のコックピットの中であり、撃破した機体のデータを読み込ませているところだ。

 

「…これが奴らが使ってる周波数で、こっちが機体に入ってた位置情報ログか」

 

 機体が辿ってきたルートが示されている。渓谷内には多くの狙撃型が配置されており、どれかが敵を確認すればACが急行するという作戦だったようだ。

 

「面倒なことしやがる、そこまでしてACを狙ってんのか?」

 

 しかしそうではない気がする、教団のパイロットは戦闘中になにやら興味深い言葉を残していた。最初の機体は信託と言い交易拠点を襲い、狙撃型は忌み子と言い放っていたからだ。

 

「忌み子がACのことではないとしたら、もしや個人を狙ってるのか」

 

 だとすれば上空を飛ぶヘリを狙おうとした最初の機体のとった行動にも合点がいく、彼らは教団のやり方から逸脱してAC以外を狙っていたのだ。

 

『あ、あのー!』

 

 機外のマイクが音声を拾う、この声は恐らく運び屋だろう。機体の足元を映すサブモニターを見ると、確かにこちらへと呼びかける姿が映っていた。

 

「何かあったのか?」

 

「お話があります、ヘリの中で話しませんか」

 

 なんとも真剣な雰囲気だった、肯定以外の返答が出来ないと思うほどに。

機体から降りてヘリの貨物室へと入り、ハッチを閉めたことで密室となった場所で対談は始まった。

 

「先程の敵は私に教団が差し向けた追っ手です、訳あって追われていまして」

 

「うんまあ、そんな気はした」

 

 運び屋はいそいそとガスマスクを取り始め、顕になったのは凛々しい少女の顔だった。印象に残る美人というべきだろうか?

 

「私はビーハイヴ教団のトップである次期クイーンビーとして育てられました」

 

「…へ、へぇ、そりゃ凄いな」

 

 彼女から渡されたタブレット端末にはビーハイヴ教団についての情報が載っており、最初のページには教団の階層構造がイラスト付きで解説されていた。

 

「最下層の構成員はワーカーと呼ばれ、四脚のACで統一されている。これは知らなかったな、四脚が多いとは聞いてたが」

 

「はい、ワーカーの上がソルジャー、さらに上がキング、その上がクイーンというピラミッド型の階層構造をしています」

 

「成る程、女王様は確かにアンタと似てるな」

 

 教団勧誘の資料に写真が載せられていた女王様と彼女の特徴はある程度一致する、彼女が実の娘だと言われれば納得するだろう。

 

「教団については大体わかったが、本題はなんなんだ?」

 

「私と一儲けしませんか、貴方の腕を私は頼りたい」

 

 撃破したACの輸送と販売に全面的に協力する、取り分はACとヘリで8:2。破格の条件で提示されたその契約だが、彼女の目は本気だった。

 

「…7対3にしろ、そのかわりヘリの格納庫に武器弾薬を載せてくれ」

 

こうして奇妙な二人組は誕生した、というわけだ。

 

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