Pair Migrant   作:明田川

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第三話 教団狩り

 契約を組んでから数日、彼女が乗るヘリに積まれていた換金性の高いものは粗方売っぱらって場所を開けた。高価な電子機器が積まれていたヘリの貨物室は、今やAC用の武器弾薬と補修用の部品が置き換わっている。

 

「四脚の奴らはやり易くて助かる」

 

 襲いかかってきた教団の機体は高く売るために四肢への損傷は抑えられ、コックピットのある胸部だけが致命打を負っていた。幾つもの弾痕とブレードにより切り裂かれた装甲が痛々しい。

 

『回収業者を連れて来ました、機体はどうしますか?』

 

「胸部以外は綺麗なもんだ、丸ごと持っていってくれと伝えてくれ」

 

 その手の業者と渡りをつけ、彼女を追う教団の機体を売っては儲けていた。何も全員が弱いという訳ではないが、それでも万全の体制が整った今ではかなり楽な相手だ。

 

「これで3機目、まあまあのペースだな」

 

 ビーハイヴ教団に襲われた連中が賞金をかけていることもあり、その場合はいい収入になる。面子勝負の業界であるため、報復を行なっただとか落とし前をつけただとかは重要なのだ。

 

『一ヶ月も経たずに増援が送り込まれるなんて、少し驚いています』

 

 彼女が操縦するヘリに吊り下げられ、最寄りの拠点へと向かう。隣を飛ぶ回収業者は同型の大型ヘリを運用しており、撃破したACの回収や買取が主な業務だ。

 

『毎度どうも、こっちも稼がせてもらって有難い限りでさぁ』

 

「お互い様だ、アンタらは適正価格で買い取ってくれるしな」

 

 いつもならこの地域を離れているのだが、留まっている理由は彼女の意向だ。最下級のワーカーがこれだけ撃破されれば、より上位のビーハイヴ機が来るだろうと考えているらしい。

 

「…ちょいと流され過ぎかね、同じ場所で戦うなんて柄でもない」

 

『機体のデータは遠隔で受け取りました、帰還しましょう』

 

 彼女はビーハイヴ教団を潰す、というよりも何か別の思惑を持っている気がする。より上位の者に話を聞く、或いは問いただしたいのかもしれない。中々危ういような雰囲気を出している時があり、なんというか放って置けないのだ。

 

「なあ、どうして最近は焦ってるんだ?」

 

『焦って…ますか、私は』

 

「そう見えるな、大抵こうなるのはヤバいサインだ」

 

 核心に迫ろうと躍起になっているのだろう、恐らくは親玉が教団を捨てて逃げてしまう前に。最下層を狩り過ぎると教団は稼げなくなり、このペースが続けば損切りを判断する可能性はゼロではない…とでも思っていそうだ。

 

「今は待ちの姿勢で行こうぜ、今までで焦って良いことは無かったさ」

 

『ありがとうございます、では数日は整備でもして過ごしますか?』

 

「いいね、そろそろ機体も大規模な整備をする次期だ」

 

ーーー

ーー

 

 回収業者の面々は鹵獲したACから原型を留めていない死体を引き摺り出し、燃料をぶっかけて燃やしている。すぐさま売る予定の商品を清掃することから始めるあたり、かなり手慣れているのだろう。

 

「頭部は耐熱型ですが内部の状態が悪くてですね、少々値が落ちるかと」

 

「具体的にはどの部位です?」

 

「情報伝達系ですね、動力系はまだ綺麗なんですが…」

 

 値段の交渉も細かく行わなければならない、撃破して回収した後だからこそ機体の状態が詳しく分かるのだ。交渉は彼女に任せている、自分でやるつもりだったが彼女の方が話が上手かったのだ。

 

「にしても綺麗にやりましたね、コア以外は殆ど傷つけてないでしょう」

 

 手持ち無沙汰な業者の一人がこちらに話しかけてくる、コックピット周り以外を破壊しなかった方法について興味津々のようだ。

 

「まあね、コレが俺の相棒だからな」

 

そう言って機体の手に保持されたブレードを指差す。

 

「へぇ、銃を使わないとは相当珍しいお方だ」

 

「そうなのか?」

 

「そりゃあもう、レーザーブレードですら珍しいんですよ?」

 

 レーザーブレード、膨大な熱エネルギーを帯びたバーナーで装甲を溶断するという兵器だ。自分の物理ブレードと比べてリーチで勝り、耐熱装甲を持つパーツでなければバターのようにされること間違いなしの威力を持つ。

 

「レーザーブレードか、久しく見てないな」

 

「気になるのであれば幾つか在庫がありますが」

 

「いやいや、大丈夫だ」

 

 商魂逞しい彼らはAC用の装備となると食いついてくる、品質が良いため下手すると本当に買うことになってしまうのが憎いところだ。

 

「交渉終わりました、ざっとこんなものかと」

 

「…相場から見て高い方だ、言い値で買ってもらったな」

 

「ですね、四脚は高く売れるとかで」

 

 脚部のアンカーで機体を固定することができ、砲撃や狙撃に最も向いた性能を持つ四脚の需要は高い。特にACの機動力であれば一般兵器相手に縦横無尽に動き回り、反撃を受けずに砲撃を行うことが出来るだろう。

 

「ヘリの調子はどうだ、ACはまあ良くも悪くもいつも通りだが」

 

「あの子は頑張ってくれてます、今のところは通常の整備で問題ないかと」

 

 回収業者はガレージの一角を整備区画として貸し出しており、最近はそこで整備を行なっている。愛機はAC三機と戦ったとなると無傷では済まず、装甲には至る所に弾痕が残っている。

 

「…センサは無事となると、装甲の張り替えよりも推進系の整備を優先した方がいいか」

 

 今日のところは整備で時が過ぎてしまいそうだ、なんて考えていると日が暮れていた。機体は各所の装甲板が取り外され、内部が顕となっている状態のままだ。

 連戦で思わぬ箇所が損耗しており、普段はあまり手を入れないような場所を整備する羽目になった。運び屋もヘリがACを輸送することで増えてしまった負荷を気にしているようで、自分と同じように黙々と整備を行なっていた。

 

「なあ、休憩しないか」

 

「ですね」

 

 ゆっくり夕暮れを見るなんていつぶりだろうか、偶々手に入れた即席コーヒーを啜りながらそう思う。彼女はいつの間にかスープを用意して来ており、二つ器を用意してくれていた。

 

「あっすみません、もう用意されてたんですね」

 

「コーヒーでよければあるぞ、スープとは合わないかもしれんが」

 

 良い機会だ、聞こうと思っていたことを幾つか質問しようと思った。しかしそれは彼女も同じだったようで、何やら話したそうな様子だ。

 

「先どうぞ」

 

「…そんなに分かりやすいですかね、私は」

 

 彼女は相性の悪いスープとコーヒーを見て、自ら持って来たスープを一気に飲み干してから話し始めた。

 

「貴方は何故、ここまで付き合ってくれるのかと考えていまして」

 

「そうかい」

 

「逃げた先で出会ったのは歴戦の傭兵、それも教団の機体をものともせずに倒せるほどの…なんて出来過ぎです」

 

「そう言われるとそうだな」

 

 確かに彼女は自分の境遇をある程度話してくれたが、自分は話していなかったような気がする。このなんとも言えない空気感を打破するため、身の上話でもさせてもらおう。

 

「実を言うと俺もグループから逃げた口でね、まあ放り出されたという方が近いが」

 

「そうだったんですね」

 

「ボロボロのACに乗せられて敵陣にポイ、信じられねえだろ?」

 

「えっ!?」

 

 昔話をするのは初めてだ、話す機会も聞かせる相手も居なかったからだ。太陽が完全に沈むまでの短い間だけは、こんな話に花を咲かせてもいいだろう。面白おかしく自分の境遇を話そうとしたが慣れないことは難しく、何度か吃ってしまう。

 

「すまん、話すのは苦手だったらしい」

 

「いえ、とっても面白いですよ」

 

彼女にはもう少し前のような焦りや緊張が入り混じった表情はなく、年相応の笑顔を浮かべていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

ーーー

ーー

 

 整備を終え、ビーハイヴ教団の機体が確認されたと言う都市の廃墟に向かった。それは四脚ではなく二脚だと噂されており、それが本当であれば階級が一つ上のソルジャーが乗っているということだ。

 

「何か有益な情報を知ってると良いんだがな」

 

『無理に生け取りにしようなんて考えないで下さいね』

 

「そんなリスキーなことしねえって、命大事に行かせてもらいますよ」

 

 腹を割って話をしたお陰で、彼女との距離が少し縮まった気がした。

廃ビルの上に機体を切り離してもらい、周囲を見渡すが何も確認出来ない。

 

「上からは何か見えるか?」

 

『センサに反応はありません、目視で確認してもそこまでは…』

 

 そう簡単に見つかるとも思えない、地道に行くしかないだろう。リコンを射出し、建物の影に隠れつつ半ば水没した街を歩く。旧世代に整備された高速道路網は水位が上がった今でもACが活動可能な面積を提供しており、崩れかけたビルは遮蔽や足場となる。

 

「ここはACの独壇場だ、建物を蹴って飛び回れば戦車なんざ手も足も出ないからな」

 

『その通りだ、よく調べているな』

 

 突如入った通信、思わず足を止めてしまう。運び屋や即座に発信源の特定に入るが、相手はお構いなしに話を続けた。

 

『…足を止めてくれて感謝する、傭兵』

 

 崩れたビルの合間から放たれた砲弾は、真正面から飛来し着弾した。飛び散る火花、歪む装甲板、吹っ飛ぶ装備品。その一瞬は数十秒ほどに引き伸ばされており、スローモーションになったコックピット内で飛び散る液晶ディスプレイの破片を浴びながら走馬灯を見た。

 

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