謎の通信が入り足を止めた瞬間、狙撃された。
『傭兵さん!』
コックピット内を様々な部品が吹っ飛び、飛び散り、跳ね回った。着込んでいた防弾装備の合間に破片が刺さり、そこまで重症では無さそうだが出血している。
「…こいつは中々、重いのを喰らったな」
破片が刺さり割れてしまったゴーグルを外し、肉眼でひび割れつつも未だ機能しているメインモニターを見据える。第二射を撃たれる前にブースターを使って遮蔽となる廃ビルの陰に滑り込み、血で滑る操縦桿を握り直した。
「離れてろ、撃ち落とされるぞ」
『ですが回収は』
「ACを倒さないと無理だ、再度通信を行うまで来るんじゃあない!」
モニタは左右と正面で三つに分割されているが、右側のモニターは砲弾が貫通するギリギリまで機体内を進んだ影響で固定部から吹っ飛んだ。そのため視界の三分の一が失われており、死角に潜り込まれると相当面倒だろう。
「…お喋りなスナイパーだな、沈黙を保つのが狙撃手の基本だぞ?」
『生憎本業は狙撃ではなくてな、我が教団の看板に泥を塗った報いを受けてもらう』
リコンが敵機を感知したが、とんでもないスピードでこちらに接近して来ている。廃ビルを蹴り、その反作用で大きく加速しているのだ。
「…手練れだな」
『世に平穏のあらんことを』
大きく胸部を損傷しつつも尚動かせる機体の頑強さに感謝しつつ、手に持つガトリングガンをパルスマシンガンに持ち替える。機動力に特化した機体は大抵重量が嵩む耐熱装甲を持つパーツを避ける傾向にあるからだ。
「喰らえ!」
双方は射程内に入った瞬間に引き金を引いたが、有効打となったのは敵方の攻撃だった。敵は増加する重量というデメリットを受け入れ、胸部に耐熱装甲を持つパーツを採用していたからだ。
「読み負けたッ、完全に!」
『やはり神は私に味方しているようだな、馬鹿正直に胸部を狙いおってェ!』
耐熱装甲に対して有効性が低いパルスマシンガンは殆ど防がれていた、コックピットのある場所を狙ったのは大きな間違いだったのだ。対して相手はこちらに有効な化学エネルギー弾を放つバトルライフルを装備しており、今の一撃で脚部の装甲に穴が開いた。
「…それに厄介な武器を持ってるよな、勘弁してくれよ」
『貴様らの首を機体ごと落とすにはもってこいの一振りでな、便利に使わせて貰っている』
敵がバトルライフルと共に手に持つのはレーザーブレード、その中でも高出力を誇るものだ。月光の名を冠しており、その名の通り刀身は三日月を描いている。
『貴様の機体は耐弾装甲重視、この刃を止められはしまい』
「ご丁寧にどうも!」
左右に機体を振り、出来る限りランダムに回避するが被弾は増えている。先程の砲撃で機体の機動力を担うブースターのうち一つが破損しており、機体の機動性は大きく低下してしまっているのだ。
「久々のピンチ、こんな状況に陥るのもいつぶりかね」
ボロボロの機体で敵地に放り込まれた時を思い出す、あの時はいつの間にか頭が冴えていた。激しい戦闘と痛みを伴う衝撃、それがあの状態のトリガーだった。
「…久しぶりだよ、本当に」
ビルを蹴り、急な角度で敵機に接近する。それを敵機はレーザーブレードで迎撃しようとするが、目の前には思い切り投げつけたパルスマシンガンが迫っていた。
『なっ!?』
相手は斬らないことを選んだが、ぶつかった衝撃で少しばかり機体が揺れる。空中であるため足場もなく、その揺れは無視出来ないものだろう。
「これでおあいこだな」
叩きつけた右腕のブレードは相手が振った月光よりも早く届き、ACの全重量と推進器による加速を足した衝撃は機体を背後に吹っ飛ばした。それにより月光が開放した熱エネルギーの刃は空を切り、愛機に届くことは無かった。
『…お見事、ワーカーでは相手にならん訳だ』
しかし渾身の斬撃を受けても敵機のパイロットは無事であり、敵機の肩部装甲が開いてミサイルが放たれた。超近距離で放たれたそれを避けられる筈もなく、爆炎が視界を覆った。
「こりゃあ、不味いな」
幸いミサイルの弾頭は化学エネルギー弾でもなく、熱エネルギー弾でもなかった。装甲が最大の能力を発揮できる物理エネルギー弾頭だったからこそ一命を取り留めたが、こちらの損傷はかなりのものだった。
『おあいこと言ったか、貴様と私が同じ土俵に立てるなどと思い上がるなよ』
「…なるほど、その胸部装甲は相当分厚いらしいな」
斬撃は深々と傷痕を残していたが、それはコックピットに達していなかったようだ。軽量な耐弾装甲系のパーツとは大きさから違う耐熱系パーツは、耐久力も桁違いだったようだ。
『だが貴様の持っていたパルスマシンガンを自ら捨ててくれたのには感激したよ、安心してミサイルが撃てたさ』
「誘爆が怖くて撃たなかったわけか、こいつはとんだ…」
パルスマシンガンは着弾時に電磁波と熱エネルギーの爆風を発生させるため、近距離においてはミサイル迎撃にも使えるのだ。まあ失った今ではもう関係のない話だが、それよりも相手の思考が少し理解出来たのは大きかった。
「臆病者だな」
開幕の狙撃、多すぎる会話、自分の武器を見せつけ誇示するような態度。それはどれも本来臆病な性格を覆い隠すための行動なのかもしれない、ならばその鎧を引っ剥がすまでだ。
『…ほお、今にも死にそうな奴が吼えるものだな』
「何一瞬黙ってんだよ、図星か?」
機体の状態は向こうが上、だが精神力はこちらが上だと思いたい。どうにか揺さぶり、隙を窺ってもう一度刃をぶつけてくれる。
「ならトドメを刺してみろ、こんな死にかけに手間取る程度の腕か?」
こちらが放つガトリングガンの弾幕は耐弾性の低い胸部装甲を少しづつだが削っている、それに装甲の薄い相手には豆鉄砲でも脅威な筈だ。だから攻めあぐねている、相打ち覚悟で攻めに転じられる度胸は奴にない。
『貴様の口車に乗るとでも思ったか、そのまま惨めに死ね』
「機体の動作が一瞬単調になった、やっぱり精神力は無いな」
『出鱈目なこじつけをいけしゃあしゃあと、二度と喋れなくしてやろうかと言っているんだぞ!』
相手はこちらが接近戦を仕掛けてくるという恐怖から、頼みの綱のレーザーブレードを手放せない。そうすると相手が使ってくるのは比較的弾速の遅いバトルライフルであり、この立体的な戦場で避けるのは難しくない。
「まあ、あと二発は耐えるかな」
回避しながらも温存していたエネルギーを推進器に回し、一気に加速する。相手は無論迎撃すべくバトルライフルを撃つが、その程度死ななければ安いと言わんばかりの突撃を一丁だけでは止めるには至らない。
『叩き切ってくれる!』
リーチはレーザーブレードの方が上、それにほんの少しでも当たれば機体は融解してしまうだろう。だがそれを恐れるほどマトモではない、ブレードを持つ手の代わりに前に出したのはシールドを装備した方の脚部だ。
『脚ッ!?』
「斬られても死なんよ、ここならな」
耐弾装甲ながらも分厚いシールドはレーザーブレードの溶断をほんの少しだけ遅らせるに至り、足先は敵機に接触した。
『イかれてるぞ、お前は!』
膝下を失った左足などは気にしていない、それよりも次の一手の方が大切だ。全身のブースターを全力で噴かし、一度目の斬撃に合わせるように二撃目を叩き込む。
「今度は届いたか」
一撃では貫けない装甲を二度の斬撃と一度の蹴りで突破する。ACにとって重要な脚部を犠牲にしたが、肉を切らせて骨を断つとは正にこのことだ。
『…馬鹿、な、こんな…ことが』
「生きてんのかよ、しぶとい奴だな」
片足では殆ど動けないが、手に持ったガトリングガンを撃つことは出来る。地面に落下した敵ACに向け、躊躇なく引き金を引いた。
『やめろ!やめろ!』
相手はもう動けないようで、砲弾によって分厚い胸部装甲が削られていくが抵抗する様子はない。連続した発射音と共に排出される薬莢は山となり、敵は段々と装甲が意味をなさなくなってきている。
「…悪いが、弾はたんまりあるんだ」
聞くに耐えない悲鳴を聞かないため、煽るためだけに繋いでいたオープン回線の通信を切る。そのまま撃ち続けると重要部を破壊したのかACは爆発炎上し、内側から吹っ飛んだ。
「敵機撃破、回収頼む」
反応はない、彼女も逃げた先で襲われたのだろうか。だとしたら少し悲しい、初めて組んでいたいと思えるパートナーだったのだが。
『…ソルジャー様、遅かったとは』
「増援か、こりゃあ無理だな」
最下級のワーカーなのだろう、接近してきたACは四脚の機体だった。だが自分の愛機は既に大破同然であり、マトモに戦うことは出来ない。
「来てくれよ、運び屋」
縋る、というより来るだろうという確信が心の中にはあった。短い付き合いだが、彼女は信じるに足る人物であったからだ。
『せめてあのACは私が破壊しましょう、世に平穏のあらんこ…』
四脚が居た場所が吹っ飛んだ、高速道路だったものは爆炎と共に海へと沈んでいく。一瞬何が起きたのか分からなかったが、特徴的な風切り音から察するに砲撃であることを遅れて理解出来た。
『砲撃は継続!こちらが指定する座標に撃ち続けて下さい!』
「運び屋!」
上空に現れたのは見慣れたヘリだ、恐らくあの砲撃も彼女が手配したものだろう。ヘリには誘導装置が取り付けられており、砲弾の終末誘導は彼女自身が行なっているのだろうか。
『すみません、敵機の襲撃に遭い遅れました』
「…逃げても良かったんだぞ、馬鹿野郎」
ヘリには幾つもの弾痕が付いている、恐らく彼女も襲われていたのだろう。だがそれを潜り抜け、砲撃までも手配して戻って来てくれた。
『逃げません、貴方が死ぬ時は私が死ぬ時です』
「ハハ、言うなぁ」
『傭兵さんは私に命を賭けてくれました、ならば私も同じです』
ヘリはACを流れるように固定し、即座に戦域を離れる。ボロボロの機体からは色々と外れて落ちていくが、彼女の操縦ならば生きて帰れるだろうという根拠のない安心感がコックピットを包んでいた。
『貴方は死なない、そう思ってましたから』
「…ありがとう。ここまで他人を信じたのも、信じられたのも初めてだ」
廃墟だけがあるこの海上で、空虚な感情以外を抱いたのもまた初めてのことだった。
以前出た女の子のイラストは柴川ってTwitterアカウントの人が描いてます。
具体的には
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