若干リマスター
エリザベス・マクスウェル公爵令嬢が婚約破棄をされたのは、学院主催のパーティーの最中であった。婚約者である第二王子エドワードが別の令嬢を連れて出席したことに始まり、周囲にいた彼の学友と共に彼女を責め立てたのだ。
彼の傍らにいる令嬢に嫌がらせを繰り返し、ついには傷付けた。そのことを問い詰めると、彼女は怪訝な表情を浮かべた後、はっきりと違うと言い放った。それは、自分ではないと言ってのけた。
勿論彼はそんな彼女の言葉に耳を貸すはずもなく。証拠は揃っていると告げ、これらをエリザベスの父親である公爵に突き付けると呆れたように溜息を吐かれたと続けた。そうした後、謝罪もされたと、そう述べた。
それをエリザベスは静かに聞いていた。それが本当なのかは知らないけれど。そう返し、エドワードの表情が変わるのを気にすることなく、彼女は溜息と共にそれで結局どうすればいいのかと問い掛ける。
エドワードは睨みつけるように彼女を見ると、この空間にいる皆に宣言するかのように言葉を紡いだ。自身と彼女との婚約を破棄すると。わざわざ、どこから調達したのか知らない正式な書類を掲げながら、堂々と宣言した。
それと同時に、彼はエリザベスを兵士に拘束させた。彼女の行った嫌がらせ、そこにはれっきとした犯罪も含まれている。禁制の薬や、違法の品々を用意した証拠も上がっている。別の書類を同じように掲げ、彼は彼女に指を突き付けた。お前は、第二王子の婚約者どころか、公爵令嬢としても相応しくない。それを締めの言葉にしたかのように踵を返すと、兵士にエリザベスを連行するよう命令した。
そうしてパーティーの断罪劇は幕を閉じる。エリザベスは公爵家から捨てられ、ただの罪人として裁判にかけられた。そうして、王太子を惑わした悪役令嬢として、スムーズに処刑が決められた。
ドレスから罪人の着るような質素な服へと変わり果てても、エリザベスは美しかった。蜂蜜のようなとろける金髪も、宝石のような碧い瞳も。そして飾り気もない服になったことによってより強調されるようになった抜群のプロポーションも。そのどれもが、男を魅了して止まない。だからこそ、余計に貼り付けられた罪状が真実味を帯びた。間違いなく傾国の悪女だと人々は頷いた。それに異を唱えるものもいたが、結局数の多さに流されていく。
国に蔓延った悪令嬢。処刑方法はギロチンと決まった。手枷をはめられたエリザベスは、連れて行かれるその日の朝、髪を首より上に結い上げて欲しいと頼む。その要求に怪訝な表情を浮かべた看守に向かい、彼女は薄く微笑みながらこう述べたのだ。
――長い髪が素敵だと言ってくれた人がいたの。だから、まとめて切り落とされるのはごめんですわ。
そうして、彼女の長い髪が切られることなく、その首だけがきれいに落とされた。美しい髪を持ったまま、エリザベスの首は処刑台に設置されていた籠に落ちた。最後まで泣きわめくこともなく、彼女は静かに処刑された。淑女たるもの、弱みを見せてはいけない。かつて教えられたそれを、彼女は最期の最期まで貫き続けたのだ。
「ん……?」
エリザベスの意識が浮上する。目をパチパチとさせ、一体どういうことだと彼女は思考した。自分は間違いなく処刑され、首を落とされた。だというのに、何故。
そんなことを思いながら視線を動かすが、見えるのは薄暗い天井のみ。見覚えのないその場所は一体どこなのか。それを確認しようと顔を上げようとしたが、何が起きているのか、さっぱりきっぱり動かない。首を動かし周囲を見渡そうにも、まるで錆びついた蝶番のように緩慢な動きしかできない。
どういうことだ、と彼女は思う。自身の体がどうなっているのか確認しようと手を眼前に持ってこようとするが、やはり動かず。自由にできるのは首から上の部分のみ。それも、首そのものはかろうじてというレベルだ。これではまるで。
「わたくしは、どうなって……」
呟く。そんな彼女の視界の端で何かが動いた。なんとかそれを見ようと首を動かし目的のものを視界に入れると、彼女は悲鳴をあげることこそなかったが思わず目を見開く。
《あ、目が覚めた?》
「……っ」
椅子に座っているそれは、ぺらりと何かを読んでいた。否、読んでいる振りをしていた。少なくともエリザベスはそうとしか思えなかった。
なぜなら、そこにいるのは。
《おはよう、首から上》
「わたくしの、体……?」
見間違うことはない。生まれてこの方ギロチンで泣き別れるまで一心同体だったものだ。それが、何故か呑気に、自分の意思とは無関係に読書をしている。
《あれ? 意外と驚かないんだ》
「……驚愕が振り切れただけよ。あとは、そうですわね。淑女たるもの、弱みを表に出してはいけない」
《誰もいないけどね》
「それでも、ですわ。たとえあなたが、わたくしの体だとしても」
真っ直ぐに体を睨むエリザベス。そんな彼女を見た体は、どこか面白そうに肩を震わせた。そうでなくちゃね、と笑った。
ところで先程から、当たり前のように会話をしているが、体は当然声を発していない。体の周りに薄く漂っている靄のような何かが、大衆娯楽の本、漫画の吹き出しのように文字を浮かび上がらせているのだ。どうやらその靄が体の失っている部分の補填をしているようで、だから読書も問題なく出来ているのだろう。
「体がそこで読書をしているということは……わたくしは今」
《そ、首だけ。確認してみる? 一応鏡持ってきたけど》
ええ、とエリザベスは肯定する。了解と体は彼女の首をひょいと持ち上げ、部屋の片隅にあった机の上に置いた。そうして持ってきた鏡に、それを映す。
机の上に置かれた生首が、鏡越しにじっと見つめていた。ああ、本当に首だけなのか。そんなことを思いながら、エリザベスは小さく溜息を吐く。
《落ち着いてるね》
「取り乱したところで何も事態は好転しませんでしょう? ならばまず必要なのは現状確認」
《うわぁお、クールー》
「先程も言ったでしょう? 驚愕が振り切れただけだと。それで? わたくしの体は、一体どこまで把握しているのかしら?」
《いやほとんど》
「使えないっ……!」
ちぃ、と思い切り舌打ちする。弱みを表に出さないとか言ってなかったっけ、と体が問うと、エリザベスは鼻で笑いながら先程お前が言っただろうと返した。ここには誰もいない、と。
《へーへー。まあいいや、あたしの知ってる部分だけでもとりあえず話そうか》
「そうして頂戴」
《ついでにあたしの身の上、聞いとく?》
「それが必要な情報ならば」
《……それは聞いてから判断してみて》
ほんの少しだけ言い淀んだ。それに気付いたが、エリザベスは何も言わない。その代わり、話す前にして欲しいことがあると体に告げた。
「髪を解いてくれませんこと?」
《あー。そうだね。それが一番『らしい』もんね》
何かを知っているようなその口ぶりに眉が動く。が、それもこれから話すのだろうとエリザベスはと沈黙を続けた。
物部須美香は、オタク気質のどこにでもいる大学生であった。今日も今日とて、ボイスチャットをしながらゲームに勤しんでいるような、そんな生活を行う程度の、ごく普通の少女であった。
成人したからと遠慮なく飲むようになったチューハイの缶を煽りながら、彼女は画面の向こうの相手にくだらない話を行っている。やれ大学生活がどうだの、バイトがどうだの。
ベスさん溜まってるね、と向こうの苦笑するような言葉に、あたぼうよと彼女は返した。ベス、というのは彼女がゲームなどで名前を付けるときに毎回使っている名前だ。ものの『べす』みか、だから、ベスである。
そんなことをしながらネットゲームでクエストをこなしている最中、ふと最近の流行りのネタについての話題となった。そのものずばり、異世界転生するならどんな感じが良いか、である。チートがどうとか、悪役令嬢ものがどうとか、追放ものがどうとか。そんな会話をフレンドとしながら、須美香も自分の思っていることをそこで呟いていた。
「そうだなぁ。まあとりあえず、スタイルのいい体になりたいかな」
現実の須美香はちんちくりんである。服装によっては中学生に間違えられるほどだ。だから抜群のプロポーションという言葉にちょっと憧れを持っていた。だからこそ、どうせ転生するならそういう感じになりたいと語った。当然雑談の一部であり、本気ではない。
だから、ふと目覚めたら突然スタイルのいい巨乳に変貌している時は何がどうなったのか本気でワケが分からなかった。周囲も自分の部屋ではなく、どこか薄暗い空間で、ドッキリ企画とかそういうレベルではないのは一目瞭然。そもそも何をどうするとちんちくりんがエロボディになるのか、エステってレベルじゃねぇぞとツッコミ入れること請け合いだ。
となるとこれは異世界転生。そしてこの流れからするとおそらく。そんなことを思いながら、須美香はゆっくりと体を起こした。起こして、何だか妙な違和感を覚えた。何か頭軽くない? そんなことを思った。
まあいいと気を取り直して立ち上がった彼女は、なにはともあれ自分の姿を確認しようと鏡を探す。だが周囲を見渡してもそれらしきものはなく、何やら四角い箱が並んでいるばかりだ。人が一人入りそうなその箱には嫌な予感がしたので触れず、部屋の隅にある扉へと歩く。幸い鍵は掛かっていなかったようで、すんなりと部屋の外に出られた。
時刻はどうやら深夜。建物には誰もいないようで静まり返っていた。暗がりを、何故か気にすることなく歩き続けた須美香は、とある部屋でようやく鏡を見付けた。そして、見た。
《な、なんじゃこりゃぁぁぁぁ!》
首がない。抜群のプロポーションを誇る体であったが、それだけであった。首から上は存在しておらず、薄く漂う靄のようなものが自分の五感を補っている。それが現在の須美香の姿であった。ついでに驚きの叫びもその靄が吹き出しとして表現してくれていた。
《いや確かに、スタイルのいい体になりたいって話してたことはあったよ? でもさ、それは要素の話であって、存在の話じゃねーんだよー!》
がぁ、と一通り吹き出しで叫び散らした須美香は、肩を落とすと部屋に置いてある本を二・三冊ほど手に取った。とりあえずこの世界のことを知るための取っ掛かりにでもしよう。そんなことを考えたのだ。
そうして戻ってきた彼女は、自分が起き上がった場所まで歩くとそこに椅子を置き腰を下ろす。見ないふりをしていたが、ここは遺体安置所だ。建物の感じからすると、教会か何かだろう。首がないのは誰かに殺されたか、あるいは。
《あ、そうだ。この体の首はあるのかな?》
処刑されたのならば、一緒に置いてあるだろう。そう思い自分の納められていた箱を覗き込むと、そこには美しい少女の生首が一つ。それを見た須美香は思わず固まった。イラストとは若干の差異があるが、この首は間違いなく。
《悪役令嬢、エリザベス……!?》
須美香が須美香であった頃にプレイした乙女ゲームに出てきた、ヒロインに立ち塞がる敵役、それがエリザベス。
ということは、ここは乙女ゲームに酷似した世界と見て間違いないだろう。そのもの、と断言しない理由は一つ。間違いなく乙女ゲームには首無し令嬢は登場しないからだ。
ううむ、とエリザベスの生首を眺めていた須美香であったが、そこでふと気付く。この首、やけに瑞々しい。死体特有の青白さに近いものはあるが、それにしては血色が良すぎるのだ。そこまで考え、そして自分の置かれた状況を鑑みると。
《……首だけのエリザベスも、そのうち起きそう》
幸い自分は謎のアンデッド(仮)。時間など文字通り腐るほどあるし、夢ならそうしているうちに覚めるだろう。そんな楽観的なことを考えながら、彼女はとりあえず当初の目的通り読書を開始するのだった。
「成程……本気で使えませんわね」
《ボロクソ!?》
須美香がここで目覚めてから今に至るまでを説明し終えると、エリザベスは吐き捨てるようにそう述べた。そんな彼女を見て須美香は思わずショックを受けたようなリアクションを取るが、まあそれもしょうがないかと思い直しつつ肩を落とす。
現状、この世界のことを分かっているのは間違いなくエリザベスの方だ。須美香では精々が乙女ゲームに近い世界であることと、悪役令嬢は既に断罪済みであることくらいしか分からない。
そこまでを考えて、ああそうだと彼女は生首を見た。
《エリザベスは一体何やらかしたの?》
「呼び捨てとは、随分と偉そうな物言いですわね」
《あたしボディですからね! 同一存在同一存在!》
「はぁ……分かりました、許しましょう。それで、わたくしが何をしたか、でしたね」
そうは言っても別に大したことはしていないとエリザベスは述べる。自身の婚約者に寄ってきた薄汚い雌豚を排除しようとしただけだと言い切った。
《……紛うことなき悪役令嬢……》
「ふん、そんな市井の娯楽書物に出てくる脇役と一緒にしないでくれるかしら?」
《えー……? じゃあ何がどう違うの?》
「わたくしはあれをこの手で始末せんと動きましたわ」
《……んん?》
彼女曰く、みみっちい嫌がらせなど愚の骨頂、やるならばしっかりと息の根を止めるべきだと真正面から件の令嬢を害しに掛かったらしい。アウトである。
《断罪されるべくしてされたかぁ……》
「何を言っているのだか。極刑にされた理由はわたくしの身に覚えのないものばかりでしてよ」
《例えば?》
須美香の問い掛けに、エリザベスはげんなりとした表情を浮かべる。いわゆる悪役令嬢らしいみみっちい嫌がらせの数々と、それと相反するような犯罪に手を染めた証拠の数々。それらを使って、婚約破棄と断罪が行われたのだと述べた。そこに別段元婚約者達相手の特別な感情は見受けられず、納得がいかない理由も須美香の思っているそれとは随分違うように思えて。
だからだろう。須美香は思わず彼女に尋ねていた。ちょっと聞きたいんだけど、と言葉にしていた。
「何かしら?」
《エドワードのことは、いいの?》
「別に愛し合っていたわけでもなし。別に、本気でわたくしよりあの雌豚を選んだのならば、それはそれで構わないわ」
《お、おう……》
何だこの悪役令嬢。須美香はそんなことを思ったが、口にはしない。が、そこで彼女はふと疑問に思った。それならば、何故。
何故、アンデッド(仮)になってまで彼女は現世に留まっているのか。
「でも、そうですわね」
そんなことを思った矢先、エリザベスは少しだけ遠い目をして言葉を紡いだ。強いて心残りがあるとすれば。
「わたくしの断罪に関わった連中をぶちのめしたい、というのは否めないわ」
《復讐!?》
「人聞きの悪い。ちょっとした、そうね、仕返しですわ」
殺す気はない。言外にそう言っているような気がして、須美香はほんの少しだけ安堵する。現在の彼女はエリザベスの体。このまま復讐の殺戮劇に巻き込まれるのは勘弁願いたかったのだ。
さて、とエリザベスが息を吐く。空気が変わったのを感じ取ったのか、須美香も首のない体を思わず強張らせた。
「とりあえず、ここを出ましょう」
《首なし死体が街を闊歩してたら大問題じゃん……》
「乗せればいいでしょう? ほら」
やれ、と言わんばかりに彼女が目で促す。いや乗せてもすぐ落ちると思うんですけど。そんなことを思いながら机の上の生首を持ち上げた須美香は、ガタンという音に動きを止めた。
ここは死体安置所。罪人の死体が一時的に置かれている場所だ。当然、こんな深夜に生きた人間がいるはずもなし。もしいるとしたら死体あさり目的の盗人か何か。
あるいは、生きていないのに動くものか。
「……ふむ。わたくし以外にも動き出す死体がいたようですわね」
《言ってる場合かー! ここ乙女ゲームの世界だよね!? 死にゲーアクションRPGじゃないよね!?》
「わけの分からないことを言っていないで。幸い動いているのは一体、手早く片付けましょう」
《ごっつ冷静ですね!? 公爵令嬢の死体がゾンビ相手に何出来るっつーのよ!》
わたわたとテンパる須美香に対し、エリザベスはあくまで冷静に、緩慢な動きで一歩ずつ歩いてくるゾンビを見やる。そうしながら、何を言っているのかと呆れたような口調で言葉を紡いだ。
その体はこのエリザベス・マクスウェルのもの。であるならば、あの程度の存在恐るるに足らず。
《マジか……》
「出来ないの? わたくしの体の癖に」
《いやちょっと待って!? ……えーっと、あー、確かに何かすげースペック高いのは分かる。分かるけど》
きちんと動かせるかは話が別だ。どれだけ高性能マシンでもパイロットがへっぽこならば意味がない。一応やけくそでゾンビに向かってヤクザキックを打ち込んだらアクション映画みたいに飛んでいったが、それくらいである。
「役立たず」
《そうですね! あーちくしょう、どうすれば――》
ん、と周囲の靄を見る。これが自身の五感を補ったりしているのは知っているが、では何故知っているのか。そこに思い立ったのだ。この体になった時点で、最初から分かっていた理由があるとすればそれは。
アンデッドとしての、己の本能ともいえる部分だからではないか。
「ん?」
生首を掴む手に力が入った。両の手でそれをしっかりと固定させると、須美香はゆっくりと首にあてがう。外れていたパーツをつけ直すように、そこにカチリとはめるように。
靄が首に、エリザベスと須美香の境界線に集まっていく。それは一つの輪となり、装飾の施されたチョーカーに変わった。手を離しても、エリザベスの首は落ちない。試しに首を回してみても、勢い余って転がることもない。
「やれば出来るではないですか」
「いやぁ、ダメ元だったんだけどってあれ?」
エリザベスの口から、異なる口調の言葉が発せられる。目を細めて確かめるように声を上げた後、彼女は須美香にも喋るように促した。結果は思った通り、須美香の言葉が、エリザベスの口から飛び出す。
「繋げるとそういう弊害があるようね」
「弊害は酷くない?」
「一人芝居で会話をするなど、ただの狂人でしょう?」
「いやもう動く死体な時点で今更じゃないかなぁ……」
同じ口から言葉が出ている程度、他の要素に比べれば随分とマシだ。そう言われてしまえば、エリザベスといえども頷かざるを得ない。まあいい、と気を取り直すと、体を自身の思い通りに動かせることを確認した。繋がったことで主導権を得ることに成功したのだろう。
「あ、でも多分あたしはあたしでこの体動かせるよ」
「そう。では動く必要がないならば大人しくしてなさい」
「へいへーい……」
文句がないとは言わないが、元々これはエリザベスの体だ。先程の言葉は動きたければ動けという意味にとっても問題ないため、須美香はとりあえず素直に頷く。
そうしながら、あのゾンビはどうするのと問い掛けた。ゆっくりと起き上がり、再びこちらに迫ってくるそれを、見た。
「どうするもなにも」
足に力を込める。一足飛びで距離を詰めたエリザベスは、躊躇うことなく首をへし折る勢いで回し蹴りをぶっ放した。ゴキリと嫌な音を立て、ゾンビの体が吹っ飛んでいく。が、相手は死体。その程度で動きを止めるはずもなし。
はぁ、と彼女が溜息を吐く。タン、とステップを踏むような動きで舞い上がると、ゾンビの顔面に踵落としをねじ込む。幸か不幸か、彼女の死装束はきちんと靴が履かされていた。おかげで死体の顔面を蹴り潰しても負担が少ない。再度倒れたゾンビの頭を踏み潰して肉塊にする時も同様である。
「さて」
「ちょちょちょ!」
「なんですの鬱陶しい」
「何なん!? 何でそんな冷静にゾンビ始末できるわけ!?」
自身の口から溢れ出る須美香の言葉に、エリザベスは溜息を吐いた。何故も何も、と呆れたような表情を浮かべた。
「淑女の嗜みとして当然でしょう?」
「あたしの知ってる淑女じゃない……!」