なんじゃこれ、とベスは思う。部屋の隅で蹲ってガタガタ震える長身のイケメンを眺めながら、さっきまでのやり取りとか騎士としてのどうたらとか、その辺無意味じゃんと頭を振りながら溜息を吐いた気になった。
《んで? これどうなってんの?》
「アシュトンくんは怖がりなんです」
「マリィ先輩、それは流石に誤解を招く。いやまあ、間違ってはいないが……」
「正確には、幽霊関係の不可思議に弱い、ですわね。……わたくしみたいなアンデッドモンスターなどは、堅物にとって恐怖の対象でしか無いわ」
《いやまあ、普通に考えて知り合いの首取れたら誰でも怖がると思う》
そう告げたベスの指摘は至極真っ当なはずなのだが、どうやらそこにいる二人には微妙であったらしい。あるいは、その対象がエリーゼ――エリザベスだったからかもしれない。こいつなら納得、とかそういう意味合いで。
事実、この二人は驚きはしたものの怖がってはいなかった。王宮のフィリップとグレアムも同様である。
「それで、どうします? アシュトンくんは使い物にならなくないですか?」
《さらっとエグいこと言うなぁこのヒロイン……》
「まあ、マリィ先輩の言うことも一理ある。正直、この状態のアシュトン先輩は構うだけ無駄だ」
《こっちでやっといてその扱いはどうなの……?》
「だとしても。もしこちらに関わるとしたら否が応でもその手の事象は付き纏うわ。わたくしを見た程度でこの有様なら、堅物はただの邪魔よ」
ふん、と生首がそう告げる。その通りとばかりにマリィもニコラスも頷いたので、よく知らないベスは反論のしようがない。彼女がこの世界に来た初っ端のアレのように大量のゾンビと対峙する状況になった場合、こんな様子だと役立たず以外の何物でもないだろう。そう思い返し、確かにそうかもと頷くほどだ。
だが、当のアシュトンは違った。その言葉にピクリと反応すると、震えを止め、ゆっくりとこちらを向いたのだ。
「そ、それは……待っていただきた、ひぃ!」
《ダメだこいつ》
分離したエリーゼとベスを見て再度悲鳴を上げる姿を見て、そうかもしれないという方向性だったベスも間違いないに舵を切った。悪いこと言わないからもう帰れ。心情的にはそんな感じ。
だが、そんな全員の裁定を受けて尚、アシュトンは首を横に振った。顔色青白過ぎやしないかとか、生まれたての子鹿みたいになってるぞとか、そういうツッコミを入れたくなったが、思いの外真剣な表情であったので誰も口を挟まなかった。
「その、姿になった原因は、自分達のしでかしたことだろう……?」
「ええ、そうですわね。あなた達の断罪劇の結果、わたくしは首を刎ねられ、こうして体と分割して生きなくてはならなくなった」
《間違ってはいないんだけどさ。すげー軽い調子ですげーヤバいこと言ってるよこの人》
「生きてないだろう先輩……」
「元気ならそれでいいと思いますけどねぇ」
三人のツッコミはスルー。エリーゼは顔面蒼白のアシュトンを見ながら、そこにいる二人にも語ったこれまでの経緯を口にする。そうして、今は黒幕をぶちのめすために動いているのだと締めた。
まだ細かい話はせずに、彼女は概要を告げた。だから、自分達は勝手に動くから放っておけと、そんな意味合いを込めて、言葉を紡いだ。これまでと違い、協力を強要することは一切なかった。
マリィ達の反応でそのことを察したのだろう。アシュトンは、話を切り上げようとするエリーゼに待ったをかけた。興味なさげに自身を見る生首を、見た。
「……自分にも、手伝えることが」
「あるわけないでしょう。わたくしの姿を見ただけで無様に震えるような男に、一体何が出来るというの?」
「……っ」
俯き、歯噛みする。その通りだ。今までの自分では、絶対にこの件に関わることが出来ない。彼が出来るのはこうしてほんの少しだけでも自分の淀みをマシにして、何もなかったかのように生活することだけだ。
それが、騎士として、彼の歩んできた道としてどういう意味を持つのかも、当然承知の上。アシュトンは、これで都合二回、エリザベスから逃げたということになる。生きている彼女を見捨て、そして死んでから蘇った彼女には見捨てられ。
「……めだ」
爪が食い込むほど拳を握った。震える手を、無理矢理に押し留めた。思い切り奥歯を噛み、絶対に折れてやるかと足に力を込めた。
「駄目だ!」
「あら、何が駄目なのかしら?」
「こ、ここで、これ以上見て見ぬ振りなど、出来るはずがない! 自分は騎士なのだ、二度の逃亡は、認められない!」
「ベス」
《はいはーい》
ばぁ、と首無しの体がアシュトンの至近距離に迫る。ぎゃぁぁ、と叫びながらのけぞったが、あまりにもリアクションが面白かったベスはほれほれともう一歩近付いた。情けない悲鳴を上げながら、元々が部屋の隅にいたためにあっという間に逃げ場をなくしていく。
そうして動けなくなった彼の体に、むにぃ、とエリザベスの強力な二山が押し付けられた。柔らかなそれは、鍛えられたアシュトンの体によってぐにぐにと形を変えていく。
「ぎゃぁぁぁ!」
《おい何で悲鳴あげんだよ。喜べよ、巨乳が当たったんだぞ》
「アシュトンくんは女の人にも弱いんですよねぇ。……あれ? ということは、ひょっとしてわたし女扱いされてなかったんですか? わたしもありますよね、胸」
「その辺りは僕の知ったことじゃ――って持ち上げるな! エリザベス先輩が特別なだけでマリィ先輩も充分あるんだから! そういうことはエドワード先輩にだけやっていてくれ! 僕はあの人に恨まれたくない!」
そんな外野の騒ぎなど聞こえるはずもなし。なにせ、女性のアンデッドによる色仕掛けである。己の中での駄目なものが徒党を組んで迫ってきたことで、アシュトンの中で何かが振り切れた。ぷつりと、何かが切れる音がした。
ぐりんと白目をむいた彼は、そのまま鼻血を垂らしながら糸の切れた人形のようにゆっくりと倒れていく。
「あ、気絶した」
「やっぱり騎士諦めたほうがいいんじゃないですかね、アシュトンくん」
動かなくなったアシュトンを見下ろしながら、エリーゼはさてどうするかと思案する。アシュトンのことではない。こいつはもうどうでもいい扱いだ。他の面々も割と似たりよったりの意見である。
「今回の調査結果をフィリップ殿下に報告するんじゃないのか?」
「それだけだと、わたくしがつまらないのよ」
《知るかよ》
はぁ、と溜息を吐く生首にベスが短く返す。どうせそのうち嫌でも暴れる時が来るだろうに。そんなことを彼女が続けると、それもそうですわねとエリーゼは納得したように言葉を紡いだ。
「仕方ない。今回のところは我慢して――」
「エリーゼさま、ちょっと待ってください」
「何? 雌豚」
そんなわけで。とエリーゼが話を締めようとしたタイミングで、マリィが声を上げる。そちらの方向へと視線を向けると、彼女は倒れたままのアシュトンを見ながら何やら考え込む仕草を取っていた。
ううむ、と暫しゆらゆらと体を揺らすと、彼女はエリーゼへと向き直る。
「アシュトンくんは、協力したいって言ってましたよね?」
「ええ、そうね。それが?」
「でも、こんな状態だと話にならない。と、いうことはですよ」
いいことを思い付いたとばかりにマリィは指を立てた。そして、それをくるくると回した後、倒れたままのアシュトンを指差す。
「テストしてみればいいんじゃないですか?」
《何か言い出したぞこいつ》
「まあいいわ。雌豚、続けなさい」
「はい。アシュトンくんの苦手なものは、女の人とアンデッドです。そしてエリーゼさまは女の人のアンデッド」
苦手なもの全部乗せなこれに対抗出来るのならば、一応連れて行くくらいは出来るかもしれない。そんなことを言いながら、どうですかと言わんばかりに生首を見た。
エリーゼはそんな彼女の目を見て、ふざけて言っているわけではないことを確認して。成程、と口角を上げた。あなたにしては考えたわねと微笑んだ。
「ベス、繋げなさい」
《あいよー》
机の上のエリーゼの首を持ち上げ、体にくっつける。体の自由を取り戻したエリーゼは、そのままアシュトンの額にデコピンをぶっ放した。明らかに指を弾いてだけでは出ないような音が響き、彼の頭が思い切りのけぞる。
うう、と小さく呻き声を上げたアシュトンは、その衝撃からかゆっくりと目を開いた。そうして目の前にエリーゼのドアップがあったことで再度悲鳴を上げる。
「何? わたくしの顔は恐怖の対象だとでも言うの?」
「い、いや、そういうわけでは!」
ちなみに頷きそうになっていたニコラスは視線を逸らし無言を貫いた。そんな背後を気にすることなく、エリーゼはならば怯えていないで立ちなさいと彼に述べる。
そうして立たせたアシュトンに向かい、彼女は先程のマリィの提案を告げた。こちらに協力出来る存在か否か。それを確かめるテストを行うと言い放った。
「別に無理強いはしないわ。やりたくないのならばそのまま帰りなさい」
「僕はテスト以前に強制参加だったぞ」
「先に言い出したのはヒョロガリでしょう? それを差し引いても、あなたは役に立つと分かっているもの」
「……自分は役立たず、というわけだ」
「事実でしょう? 少なくともこの件に堅物、あなたは邪魔でしかない」
それでも協力するというのならば、その証拠を見せてもらわねば。そう続け、エリーゼは彼の返事を待った。少しは悩むか、などと考えた矢先に、アシュトンは分かったと頷く。
その目は真っ直ぐにこちらを見ており、逃げるという選択肢を廃したことを意味していた。その表情は、エリーゼの中で傍観者をしていたベスもようやくそれっぽい顔になったとほんのちょっぴり感心するほどで。
「自分の全力を持って、そのテストを突破しよう」
「威勢だけはいいのね。なら、堅物。あなたが自由に使える訓練場を教えて頂戴」
「あ、ああ」
腐っても騎士団長の息子だ。話し合いに向く場所ではないために先程では話題に上らなかったが、ある程度融通の利く場所を学院でも持ち合わせている。案内しよう、と皆に告げ、研究室を後にした。
再びゾロゾロと歩く集団の出来上がりであったが、授業も終わり大分時間も立っていたので、幸いというべきかこちらを気にするような人はいなかった。時折メイド服のエリーゼに振り返る輩がいるくらいだ。
「それで、何をすればいい?」
そうしてやってきた自分達以外誰もいない訓練場で、アシュトンはエリーゼに問い掛ける。それに対し、彼女は決まっているでしょうと笑みを浮かべたまま訓練場の真ん中へ歩みを進めていった。女とアンデッドに弱いならば、女のアンデッドに対抗出来るかを試せばいい。
つまりは。
「さ、わたくしと戦いましょう」
「……な、ん?」
そういうことである。くいくい、とこちらを呼ぶような仕草を取った彼女は、どこからどう見ても楽しそうであった。
それに対し、アシュトンは戸惑い、思わず後ろに下がった。これは女性に武器を振ることが出来ないとか、令嬢の身を案じてとか、そういう優しげな理由ではない。そして、彼の苦手な要素がセットになっているからでもない。
「ゾンビやごろつきでは、やはり物足りませんでしたのよ。堅物。あなたならば、わたくしの不満を、解消させてくれますわよね」
ペロリと舌で唇を湿らせる。それがどこか扇情的で、アシュトンは思わず視線を逸らした。逸らしたが、ゆっくりと拳を握り込むと、何か言うこともなく、訓練場に用意してある模擬戦用の剣を取り出した。自分の分と、目の前の相手の分を。
「気が利くのね」
「騎士なのでな」
少しの軽口を叩きながら、お互いに模擬剣を構える。アシュトンは正眼に、エリーゼは切っ先の地面に向け半身に構えた。それと同時に空気が変わる。緩んでいた流れが、戦場のような鋭いものに。
そう、先程一瞬躊躇ったのは相手を傷付けてしまうかもしれないという理由などでは決してない。
「さあ、殺す気で来なさい! 既に死んでいるのだから、遠慮はいらなくてよ!」
「心配無用。生きていても、手加減などしない!」
というかしていたらこっちが死ぬ。口にはしないその続きが、彼がほんの少しだけ戸惑った答えが。その二つが込められたそれが聞こえたような気がして、観客の二人は思わず苦笑した。
先手はアシュトン、一足飛びで間合いを詰めると、遠慮なしに剣を振り下ろした。が、エリーゼは持っていた自身の剣で相手の剣の横っ腹を叩くと、そのままコマのように回転して回し蹴りを叩き込む。
どうでもいいが彼女はスカートである。ぶわりと盛大に捲くれ上がり広がったそれは、アシュトンの眼前で惜しげもなく下着を披露させていた。フィリップの用意したメイド服一式は、当然ながら彼の趣味であり、下着も勿論それを穿いているエリーゼが見たいという欲望百パーセントのパンツだ。ちなみに用意した本人は見れていない。
「ぐ、ふぅ……!」
「馬鹿なの?」
腹に蹴りを食らって吹っ飛ぶアシュトンを見ながら、ベスが思わず呟く。いやまあ確かに、そういうのって有効かもしれないけど。そんなことを思いながら、バウンドして咳き込む彼を彼女は見下ろした。
「エリーゼ、ハンデつけた方がよくない?」
「何を馬鹿なことを。それではあれのテストの意味がないでしょうに」
「まあそうなんだけどさ。あの調子だと、それ以前の問題で死にそう」
「それで終わりならば堅物がそれまでの存在だったということよ」
ふん、と鼻で笑いながらエリーゼがアシュトンを睨む。女性と、アンデッド。どちらの要素にしろそこを突かれて敗北するようならばお前など必要ない。彼女の目ははっきりとそう語っていた。
そんなことなど百も承知。大きく深呼吸をしたアシュトンは、揺らぐことなく立ち上がる。まだまだ、と再度剣を構えこちらを真っ直ぐに睨んだ。
「いい顔ね。なら、次は……ベス」
「うん?」
「あなたの能力で、あれを叩きのめしなさい」
「……はい?」
「何を呆けているの? あなた、教会以降殆ど能力を使っていないでしょう? いざという時に感覚を忘れていたでは困りますわ」
「いやまあ、おっしゃる通りですけんども……大丈夫かな? 死んじゃわない?」
「先程も言ったでしょう? それで終わったならばそこまでの存在だと。まあ、死んだらあなたの養分にでもして役に立てましょう」
「もう少し周囲の人を大切にして!?」
ああもう、とベスはエリーゼから主導権を預かる。左目の黒い瞳がゆらりと揺れ、もうどうにでもなれと言わんばかりに左手を奮った。
瞬間、地面に黒い染みが数カ所現れ、そこから這い出るように骨が立ち上がってくる。動く骨、ゾンビに並ぶ有名アンデッド、スケルトンだ。勿論アシュトンの弱点特効である。
「いぃぃぃやぁぁぁぁ!」
「完全に化け物だな」
「アシュトンくんの悲鳴、何だか女の子みたいですねぇ」
ギャラリーの二人が割と酷いことを言っているのを横目に、ベスは自分でもコレは無いかなと冷や汗をかいた。どこの世界の乙女ゲーで悪役令嬢がスケルトンを使役するのだ、そういうのは魔女とかの役割だろう。そんなことを思いつつ、とりあえず立ちっぱなしの骨に、3Dモデルのポージングを付ける感覚で動きを加えた。珍妙なポーズで一歩前に出る骨に、アシュトンは涙目で後退りする。
「案外むずいなこれ。3Dモデルのアクションを動画サイトに投稿してる人ってやっぱすげーや」
「……ベス。流石にわたくしもそれはどうかと思いますわ」
「ですよねー」
色々破綻したモデリングのバグ動画みたいな動きをしていたスケルトンは、そこでピタリと動きを止めた。はいお疲れ、というベスの声と共に、再度現れた黒い染みにスケルトンが沈んでいく。
結局最後までアシュトンは涙目で逃げるだけであった。騎士の矜持など欠片も見当たらない。
「んで。もうあれ失格でよくない?」
「そうね」
「ま、待ってくれ! 自分は、まだ、やれる!」
「無理だろ」
「無理ですよねぇ」
ベスの判定の他に、容赦ない観客の言葉も突き刺さる。それに表情を歪めた彼を見て、エリーゼは小さく溜息を吐いた。まあどのみち自分はまだ暴れ足りない。あんな一合だけで満足出来るはずもないのだ。せめてもう一回は剣を振るいたい。
そんなことを考えながら、最後のチャンスをあげましょうと彼女は口角を上げた。剣を構える。肩に担ぐようにしたそれは、先程のように相手の攻撃を受けるためのものではなく、こちらから攻撃するためのもの。再度主導権を奪われたベスは、殺すなよーと呑気な声を上げていた。
「堅物」
「……承知の上!」
爆発するような勢いで駆けた。右の碧い瞳がまるで光の軌跡を描くように、真っ直ぐにアシュトンへと迫りくる。彼女の構えから繰り出されるのは、まず間違いなく振り下ろしだ。それが分かっていても普通は対処出来ない。それほどの一撃。あなた公爵令嬢ですよね、というツッコミはとうの昔に放棄されている。そもそもそれが選択肢に入っているのはベスだけだ。
ともあれ。そんな一撃を、アシュトンは受け止めた。明らかに向こうよりも体格が優れているはずの彼が、その振り下ろしをただ防ぐことしか出来ず、しかも押されている始末。そして眼前には美しいその顔を楽しそうに笑みで歪めている少女の姿。そこから見え隠れする、かすかな死体の気配。勢いよく突っ込んできたので大きな二つの膨らみは柔らかそうにぷるんと揺れていたし、なんならスカートもはためいている。よく見ないと気付かないが、瞳の奥の瞳孔は生者のそれではない。
だが、それがどうした。女性だとか、アンデッドだとか。そんな細かいことを考えていては、これを乗り越え生きることなど、出来はしないのだ。
「う、おぉぉぉぉ!」
「あら」
吠えた。そして全身に力を巡らせ、彼女の剣を押し戻す。切り裂けなかったことで、エリーゼは力を抜き数歩下がった。ひゅん、と模擬剣を一振りし、うんうんと笑みを浮かべながら頷いている。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「やれば出来るのね、堅物」
「お褒めいただき、恐悦至極……」
思い切り息を吐いた。剣を支えにせんと思い突き立てようとしたが、その動きが空を切ったことでバランスを崩してしまう。先程のぶつかり合いで刀身が砕けたのだ。エリーゼの模擬剣も同様である。だから彼女は今日はこの辺にしておきましょうとそれを投げ捨てていた。
集中力を全て使っていたアシュトンは、その事に気付かなかった。だから、思い切り前のめりの体勢になってしまい、そのまま眼前へとダイブしてしまう。
彼の顔面に、とても柔らかいものがぶつかった。地面へ手をつこうとしたので、それに加えてその柔らかいものを思い切り揉んでしまう。
「何だこのラッキースケベ野郎……」
「堅物……」
「え、あ……ぎゃぁぁぁぁぁ!」
呆れたように見下ろすエリーゼの視線の先で、巨乳に顔をうずめながらもみもみしたアシュトンが悲鳴を上げてぶっ倒れる。その顔は恐怖に引き攣っており、結局何一つ乗り越えることなど出来なかったのを証明しているようであったが。
「まあ、そこにいるくらいはぎりぎり許してあげましょうか」
やれやれ、とエリーゼは肩を竦める。ほんの少しの暇潰しにもなったし、と彼の希望とは全く違う方向の評価を下していた。
ちなみに。だから逆だろ、というベスのツッコミは風に消えた。