戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話   作:エルカス

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The Great Crash 1951
1何もない所に放り出されて歩いて帰る事になった


「本当なのか?」

 

地平線の夕日が空を赤く染める刻に、男は何処までも続く草原の中に作られた一本道に留まっていた。

男は無線のマイクを口元に寄せ少し小声気味に通信相手に返答をした。

男の後ろには20台を超えるトラックが満載の荷物を載せ車列を為していた。

 

 

『戦争が終わったんだ、めでたいだろ?だから来る必要はない、来る途中で連絡する事になって悪いが戻ってくれ。』

 

 

「めでたいな、ああ・・・・・・・戻る事にするよ」

 

 

無線の向こう側にいる人物の浮いた声とは対照的に彼はかなり不服な顔をしていた。

普段ならこの男、彼が次に何を考え私にどんな面倒な仕事を課して来るのか考えるところだけど『戦争が終わった』と言う言葉に気を取られた。

 

 

戦争が終わった?まさかそんな訳。

もう少しで戦争開始30周年を迎える程に停滞して、展望のないこの戦争が今この瞬間に終わるなんて誰も思いもしない。

徴兵適齢期に到達して絶望と恐怖に苛まれながら地獄への道へ連れていかれる私達兵士ですらそんな夢は見ていなかった、だけれどこれは現実だ。

 

 

「あークソ、儲け仕事も・・・・・ッチ」

 

 

しかしどうして彼は戦争が終わるのに嬉しさの欠片もなく不機嫌になっているのか。

いくら彼が悪辣で汚職に手を染めているクソ野郎でもその反応は人でなしと言わざるを得ない。

頭の殆どは戦争に行かなくて良い、やった!と歓喜していたけれど残る少しは、いつも通り冷淡な思考を巡らせていた、そして彼の一言で私の思考は全て冷淡な物へと転化した。

 

 

「っちぃ、まあいいか・・・・・・降りろカフカ、全員に装備を持たせて整列させろ」

 

 

夢と希望以外が詰まっているお腹をボリボリと掻きながら彼は私に指示を出す。

そして珍しく顔をこちらに向けて喋ってくるせいでその口臭が私の嗅覚を虐待する。

だけれど兵士になってから何というか苦痛とか無為な行いに耐性が出来たので今更彼を不快にさせる素振りを露呈させる程に甘くはない。

 

 

「分かりました、了解です教官殿」

 

 

立てつけの悪いドアを壊れないように開いて私は自分の身長分ぐらいの高さの座席から飛び降りる。

車両の後ろに目を向けると似たような量産品の車両、トラックが車列を為していた。

私は先程までこの車列の最前列を走行していたのだ。

兵隊育成所から戦場へ、まさしく畑から食卓へを体現した現実だろう。

私達は消耗する部品の替えとして出荷されるのである、それが永久に取り消しになったのだから喜ばないはずがない。

 

「リーリス、皆を整列させろだって、私は後ろから伝えていくからあなたはここからお願い」

 

「急にどうしたのカフカちゃん?道でも間違えたの?」

 

「一本道をどう間違えんだよ、勇敢で英雄的な教官殿のケツの痔が悪化でもしたんだろ」

 

「ガソリンを抜き過ぎた、今日の晩飯賭けてもいいね」

 

「乗った」「スルーで」

 

今日はいよいよ戦場に行くと言う事で皆はいつもより気が立っている。

普段なら懲罰とか報復が怖くて控え気味に言う悪口も周知するぐらいに大きな声で周りに伝わっている。

怒髪天を衝く修羅場にならない内に私は車列の最後尾へと走った。

走っている途中で、戦争が終わったかもしれないと言う事を伝えていない事に気付いたけれど戻る気はなかった。

 

 

「さっさと並べカス共!」

 

 

「「「「「・・・・・・・・」」」」」

 

 

「ふん、整列も出来ないノミ共が、・・・・これから装備数量の検査を行う、先程各自に配給した小銃と弾丸を出せ。」

 

「何で?」

 

「止まってまでする事か?」

 

「もたもたしてると日が暮れるぞ・・・・」

 

整列した皆に教官が命令を飛ばす。

過度な喫煙のせいか教官の言葉にはタンが絡んでおりそれが一層、彼の悪い人相を際立たせ周囲の恨みの購入に拍車をかけていた。

もし恨み売買コンテストがあったら彼はまあ優秀な成績を残す事が確実視されるプロである。

それはそうと、痺れを切らした子が教官を殺害して反逆部隊として銃殺刑にされるかもという躍動した心配をする。

だけれど現実は心配する程でもなく若干の敵愾心を晒しつつも皆大人しく銃と弾丸を提出した。

 

私は容赦ないスピードで累積する銃と弾薬の数の確認要員だった。

一通りの確認が完了する頃には付近は暗くなりトラックの光源に安心感を覚える程に暗転していた。

 

 

「カフカ、来い!」

 

 

夜になってからも暫く待機を続け、教官は他の車の運転手と密談をしていた。

私は少し遠い場所で待たされている、虫のさえずりの中に皆々の不満が聞こえてくる。

お腹が空いた子、恐怖に震えている子、教官の文句を言う子、神様に祈る子、その声に耳を傾けていると私を呼ぶ声が聞こえた、呼んだのは教官だ。

 

「よぉし・・ハハ、聞こえてたか聞こえてねえかは知らねえがなカフカ・・・・・どうなんだ?」

 

「何も、聞こえていません」

 

「・・・・・・・そうかぁ、じゃあ10分ぐらい後で読め、じゃあな」

 

圧縮言語か何かを使われたのかと思う程に簡潔な会話を挟んで、教官は黄ばんだ汚い紙を私に渡す。

小さく折りたたんであるそれに何が書いてあるかは分からなかった。

考える暇もなく教官たちはトラックに乗り込んだ、そして荒れた方向転換をして教官以外の車は颯爽と帰っていった。

何事なのかと騒然とする集団に教官が別れの言葉を言う。

 

「別命あるまで待機だ!いいか待機だぞ!じゃあ俺は用事があるからな!あばよゴミ共!」

 

別れの言葉に動揺して暫く立ち尽くしている皆、というか私も結構動揺している。

戦争が終わったのにどうしてこんな何もない道のど真ん中に置き去りにするのか理解できない。

前線から撤収する空き車両が私達を拾ってくれるのだろうか、拾ってくれなかったらどうするのか。

 

「ど、どう言う事だよ?」

 

「教官が銃持って帰っちゃったよ、俺達これから戦争に行くんじゃないのか?」

 

「ついに物資不足で俺達のメインウェポンはこの頭脳と拳になっちまって事か」

 

「ねえカフカちゃん?あれが何か言ってた?」

 

「・・・・10分ぐらいしたらこれ読めって、あれかな?教科書に書いてあった時期なんとか期限なんたら指定式の重要機密命令文書とか?」

 

「一番賢いカフカちゃんが分からなかったらもう誰も分からないよ、もう開けちゃってもいいんじゃない?」

 

「暗くてよく見えないぜ・・・・」

 

折りたたまれた紙に何が書いてあるのかを目を凝らして見る。

黄ばみが目立つ生地の上に黒いインクが染みついている、それが表す文字を読むと。

 

『転進の命令が下された、ガソリンの関係で帰りは徒歩となる、72時間以内に帰投しなかった場合は自動的に除隊となる』

 

皆にも分かるように朗読をしたけど先程まで少し騒がしかったのに私の声を最後に皆静かになってしまった。

それもそうだ、言葉に出さずとも最悪でこの上なく無責任な命令だと分かる。

詳しい数字は知らないけれどここから帰投するであろう養成所は直線で100kmも離れているのだ、それを徒歩で3日以内とは、言葉を失うだろう。

 

「何たってこんな・・・急に、俺達は戦場に送り出されるんじゃなかったのか?」

 

「除隊って書いてあるのか?軍隊やめれるってコト!?」

 

「でも何たって急にこんな・・・あれが情に絆されて私達を急に戦場に送りたくないって訳ないし」

 

「戦争が終わったって」

 

「なんて?」

 

「戦争が終わったって聞こえた。喋ってた」

 

「聞き間違い・・・・じゃないよな、それホントか?」

 

事実かを確認する手段はなかったけど命令に対しては愚直に聞くように教えられて来た私達だったからそれに従う事にした。

信じるかは別として。

 

 

72時間以内に帰投を目指す人達は殆どいなかった。

いた分にしても体力自慢の子達が、かけっこ気分でゴールを目指すぐらいだった。

殆どゆっくりと歩いて帰る事にしたのだ。

 

 

 

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