戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話 作:エルカス
小麦は自分たちの栽培に四苦八苦したり殺し合いをする人間を眺めてきたとも言えるから愉悦部の楽園なのでは?
来世は小麦にでも転生っすかな~俺も。
人類が大きく発展した19世紀後半、その時代を生きた人々は来る20世紀に羨望と憧れの情を抱いていたという。
自分たちがそうであったように、科学が何処までも人間を幸せにすると信じられていたから。
肥料の化学的な合成が実現し、食料に困る事はなくなるだろうと。
産業機械の発展でより楽に、より安価に、より大量に製品を作る事が出来るだろうと。
そしてその恩恵を享受し誰もが貴族の様な暮らしが出来る日が来ると・・・。
しかし現実はそうはならなかった。
人類は持て余した余力を発展ではなく過去の争いの決着に注いだ結果、食料を作る人々は軒並み工場か軍隊に回された。
工業製品を作るはずだった最新の機械は人を殺傷する砲弾を作るレーンに配置された。
多くの人命が失われ、戦争を生き永らえた人々も飢えと困窮に悩まされた。
我々は失敗をしたと言うのについにそこから学ぶことはなかった。
1918年の過ちを1951年にもう一度犯したのだ。
「食料の解放を!」
「価格是正をしろ!」
「このままじゃ皆飢え死んじまう!」
省庁の前にやってくる抗議者は指数関数的な増加を見せる。
食料価格も、インフレ率も、外国為替レートも全てが崩壊した。
先月のパン一つの値段が今月には二個分、三個分と上昇していく様は破壊的なインフレーションを体現している。
配給される予定だった食料も「喪失」が多く、まるで需要を満たす量ではない。
「ですから、輸入先を切り替えるのです!山岳共和国には十分すぎる余剰食糧があります!かの国は外貨獲得に熱意を見せていたのですから悪くない取引の筈です!少なくとも従来の貿易国が新たに提示した許容し難い対価とは!」
「分かっていなようだねローン君、彼らは忌むべき共産主義国なのだよ?そんな事をすればイデオロギー闘争に答えを示してしまう、そうなれば世界全体の危機だ」
「仰っている事が分かりません!思想云々より今は国民が明日を生きる食べ物の方が重要でしょう!?」
「勿論だとも、だからオスマン帝国との貿易を再開させた、それに我が国の現状を嘆いて多くの国が食料を支援してくれるそうじゃないか。」
「オスマン帝国から輸入できる食料では到底賄えません!海外からの支援も大恐慌の今、多くは期待できません!」
「はぁ」
「大臣!大臣殿!危機なのです、これは国難なのです!対応を間違えればバルカン連邦は自重で崩壊します!我々の日々の生活すら失われるのですよ!」
「君も外の暇人のように元気に喚く、どうして育ちの悪い文盲はこうも御し難いのだ・・・・」
「っ・・・・」
「食料が足りないと言っているが外を見てみたまえ、あれが飢餓に苦しむ民に見えるか?」
「見えますね私には。」
「はっはは!知らないのだね君は本当の飢餓を、叫ぶ力なんてない、抗議する力なんてない、ただ虚ろな目で横たわるのが真に腹を空かせている者だ。真に助けを必要とする者は助けとは懇願しない、出来ない。」
「事切れる寸前にならなければ大臣にとっては飢餓ではないのですか?」
「黙りたまえ、外の馬鹿共はただ金が惜しいだけなのだ、お金は大切だ、尊い物だ、だから出来るだけ失いたくないのだ、貯金や、もしもの為と言って人は蓄えるがその時が来ても奴らは口惜しさに切り崩しなどしないのさ。」
「彼らを国からお金をせびる物乞いとでも言いたいのですか!」
「そうだが?」
「・・・・・・・・・・・・・」
「分かってくれたかねローン君?ならせめて君はこの厳粛で格式ある部屋を静かにする努力戦線に参加してくれたまえ、何お金は大事だ、これで昼ご飯でも買って来なさい。」
少しの小銭を握らされ背中を叩かれるままパーペンは大臣の執務室から追い出される。
結局、作成した資料は受け取っては貰えず何も出来ずに彼は帰った。
どうしてなのか彼には理解できなかった、打算と腐敗が大好きな政治家でも少なからず上辺だけは国民の機嫌は取りものだ。
だけど政権が傾いていると言っても差し支えないこの状況でどうして大臣は未だに重い腰を上げようとしないか。
「お金を・・・・お金を恵んでください」
「・・・・・・」
「お願いです、家には兄弟がいます、三人もいます、・・・・もう4日も食べ物が買えてません、お願いです、お願いです。」
物乞いが多くいる場所を足早に駆け抜けて聞こえないフリをする、見ないフリをする。
きっとあの子は死ぬだろう、あの子の家族も死ぬだろう。
自分のせいじゃない、自分のせいじゃないとパーペンは必死に自分を騙す。
「すぅ・・・・はぁ・・・・」
帰宅をして精神的にも肉体的にも疲弊した彼はドアを背にそのまま崩れ落ちる。
陽の当らない彼の部屋は外よりも寒い、そのせいか彼はうずくまって震える。
寒さから震えるのか、涙に打ち震えているのか、誰にも分からない。
彼自身にしか分からないのだ。
「パァン!」
乾いた発砲音が一面銀世界の山に響き渡る。
硝煙から少しばかり感じる臭いと緊張からアレンは溜飲する。
「ゴクリ・・・・・あ、・・・や、やったぜ命中してるぜ!。」
「へったクソだね~アンタ!ここに当てちゃ皮に傷が付くだろ!頭を狙うんだよ頭を!」
「そんな無茶な!」
「兵隊の出のくせして情けないね!全く最近の男は・・・・。」
「おめで、とう・・・・アレン・・・・・」
「お、おう任せとけリーリス!」
農業の合間の副業として山の中に入って狩猟をするらしい。
兵士でもないのにカフカのおば様の猟銃捌きは見事な上に獲物の皮は奇麗に剥ぐ。
「んぐぁ!・・・・疲れたぜ」
「何もう休む気でいるんだい、さっさと畑に水をやってきな!冷えたら水が凍って土が吸わなくなるんだよ!」
「へ、へい!」
「・・・・私も」
「あんたはいいのさ、休みな、山は苦手かい?随分と息が荒かったみたいだけどね」
「山じゃ、ないです・・・・・音が・・・・銃が、怖いです。」
「あらまあそりゃ悪かったね、一緒に連れていくんじゃなかったね。」
「い、いえ・・・・甘えてばっかりじゃ・・・・ダメ、だから」
「そうかい、強い子だね、あんたも」
『お久しぶりです、カフカです。銀行の倒産の煽りで勤務先の会社が倒産した事をお知らせします。
つきましては近日中にそちらに舞い戻らせて頂くことになります。
誠に多大なご迷惑をおかけする事を事前にお知らせします。
申し訳ありません。』
「・・・・・・・・どうすっかなぁ・・・マジで」
宿なし金なし常識無しの俺は何とか温情で今は真人間として働けている。
おば様にもそのお孫さんのカフカにも恩がある。だけどこの手紙を受け取ってしまって俺は果たしてこの仕事をずっと続けていて良いのか迷わずにはいられない。
「カフカはおば様には寄っただけと言ったらしいけど・・・・俺達に気を使ってくれたんだ・・・でも人の家で当人を差し置いて暮らすのは控えめに言って畜生なのではないか・・・。」
自分一人だけならすぐにでも出て行って本来いるべき人に場所を返すべきなのだろうが、別の問題がその選択肢を選ぶことを止めてくる。
『勘違いしないで、私はリーリスを助けたの、アレンはそのついで。リーリスをないがしろにしたり私のおばあちゃんに故意だろうと事故だろうと何かあったらアンタを殺しにすっ飛んでくるからね』
多分、カフカは俺の為というよりはリーリスの助けになりたかったんだと思う。
勿論俺はカフカの内心は知らないから勝手に決めつけるのはダメだが。
でもきっと、カフカはカフカ自身がリーリスの傍にいるよりも俺がリーリスの傍にいた方が良いと判断したからここに俺を置いてくれたんだ。
それが真実で俺の推察が当たっているとすれば俺は全身全霊をかけてここにいなければならない。
だからここから出ていくのは憚られる。
「どうせならカフカもいて、四人で暮らせばいいのにさ、十分広いのに、何でだろな。」
カフカとおば様の関係が悪いからという可能性もあるが少なくとも俺達と出会わなければ普通に家に帰っていた事は手紙から分かるからこの推測は間違っている。
他に考えられる事と言えば・・・・・何かないのか。精神的に不安定なリーリスにはこんな事は言えないし自力で考えなければならないのがネック過ぎる。
「だぁあああ!!!神は何で俺に知能をお与えにならなかったんだ!!!」
「君」
「うぉお!?あ、すいません叫んだりして」
「ここはブレハンズという名の農場かな?」
「あ、はい・・・・ここはブレハンズ・カフカさんの農場ですけど・・・・・。」
雄たけびを上げている最中に不意に後ろから声をかけられてびっくりした。
誰かと思って振り返ってまたびっくりした。
何故ならその集団は如何にも偉そうな人の格好をしてたし偉すぎるのか銃を持った護衛の人までいて怖かった。
一体何の用でおば様の農場に来たのか分からないが背中は見せないように案内をした。
灰皿殴打大臣は一体何考えてんのやろな~