戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話   作:エルカス

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17頑張って作った農作物を原価同然で買い占められる

「ご無沙汰ですブレハンズさん、前季分の作物の見積もりが終わりましたので買い取り代金のお支払いをしに参りました。」

 

「幾らになるんだい?」

 

「こちらになります。」

 

「・・・・何だい去年の半分もないじゃないか」

 

「世が世ですので、何卒ご理解ください。」

 

「去年と比べてパン一つで二つ分の値段を今年払ってる、そしたら何で原料の買取価格が半分になるんだい?」

 

「・・・・・」

 

 

おば様の鋭い返しで偉そうな奴が顔にしわを作っている。

知的な会話をしててうぉーってなる、一応俺にも理解は出来た。

何せお金は大事だから、三人分の食費もなれば大問題だ。

リーリスと出会った時に痛いほど痛感した。

 

 

「まもなく価格は是正されます、こうして農家の皆さんから安く買う事によって元の価格に戻そうとしているのですよ。」

 

「元の価格に戻ったとしても私達の貰える金が結局半分減ってるじゃないか。今回私達は割を食うだけかい?」

 

「ええ、そうですね。」

 

「・・・・・分かったよ、今季分はよく考えておくれよ」

 

「はい、・・・・では失礼します。」

 

「・・・・・・はぁ、ほら水やりしてきな。」

 

「・・・・・いや、おかしいだろ」

 

「何だって?」

 

「あのクソ野郎共を帰しちゃだめですよ!俺ちょっと行ってきます!」

 

「行くんじゃないよバカ!」

 

「パチン!」

 

 

ちょっと頭がパンクしたが何とか話は理解できた。

最もこの会話が非常におば様に対して重い負担を課している事が分かった時には偉そうな奴は車で走り去っていたが。

怒り心頭で追いかけようとした俺だが秒でおば様に引っぱたかれて制止された。何で叩かれたのか全く分からず困惑した。

 

 

「な、何でですか!俺バカですけどアイツらがひでぇ事言ってるのは分かりますよ!ただでさえ三人もいて食べるモン多いのに収入減るって死活問題って奴ですよ!」

 

「馬鹿なりに勉強してるじゃないか、でも勉強不足だよアンタは、私達はこの土地で強く物を言えないんだよ、だから仕方のない事なのさ。」

 

「何が仕方ないですか!どこの人だろうと真面目に働いたら皆同じ分のお金を貰うべきですよ!」

 

「そんなのは幻想だよ、兵士だったら猶更分かるだろ?」

 

「ッ・・・・!そんなのって、そんなのってあんまりですよ!」

 

「こ、こらどこに行くんだい!」

 

「水やりです!ついでに頭も冷やしてきます!このまま話すと俺暴れそうですから!」

 

 

全く理解できなかった、俺だけだったら手を出してるぐらいに到底い受け入れない現実だ。

だけど怒るだけじゃダメだ、理解をしなくちゃいけない、いつまでも自分の馬鹿さ加減に甘えて腕っぷしだけに頼っちゃダメなのだから。

 

 

「畜生!でもやっぱり考えても分からねえんだ!」

 

 

今日は折角狩猟で初めて獲物を取ってリーリスに格好いい所をみせたりおば様の役に立てたいい日だったのに泥をかけられたような気分だった

貰える予定だったお金が半分になって果たしておば様は大丈夫なのか、俺なんかが心配しても意味はないと分かってたけど考えずにはいられなかった。

 

 

「お金・・・前後左右全部にお金・・・世知辛れえなぁ・・・・・あ?・・・・お金」

 

 

思いも寄らぬ繋がり、偶然だったけど一つ分かった事があった

それは考えても理由が分からないカフカがどうして自分の家に帰らなかったのか。

 

 

「・・・・・四人だとお金がかかって大変とかって思ったのかな、三人でも大変だから・・・・カフカは。」

 

 

この予想が正解かどうかは分からなかったけどいつまでも頭に残り続ける疑問の種を摘み取るぐらいには納得のいく仮説だった。

しかしそれが真実だとしても外で仕事を見つけるとなると一筋縄ではな行かないはずだ。

結局、次なる悩みの種が芽生え俺は消息が分からないカフカの事を心配し続けることになった。

 

 

 

自分が誰だったのか、どんな人生を歩んできたのか、私には記憶がないから分かりようがない。

一番最初に思い出すのは痛みと怒号と銃声だった。

熱くて痛くて、怖くて、何故か悲しくて私はそれから逃げていた、必死に逃げていた。

 

 

『――なんて死ねば良かったのに』

 

 

頭の中で良く響く声は私を殺そうとする。

息が詰まって肌がヒリヒリする。

だけどアレンやブレハンズおばさんを見ると声が小さくなってふっと消える。

アレンはちょっと手が出るのが早いけど本当に親切でいい子だ。

 

 

『み、見てくれリーリス!魚が取れたぞ!あ、コイツ逃げるなオイ!』

 

 

見ず知らずで自分の名前すら知らない私を心配して傍にいてくれた。

だから彼の負担になった、そのせいで酷い事をさせた、盗みや恐喝、暴力・・・・。

でも、彼がいなかったら私は今もうこの世にはいない、私の命を救ってくれた、私の恩人。

 

 

『誰が、誰を、許さないって!』

 

 

カフカ、カフカちゃんと呼ぶべきなのかな。

今アレンや私が普通に暮らせているのはあの子のおかげなんだけどやっぱり少し怖い。

私を知っているらしかったけど多くは教えないまま何処かに行ってしまった。

不思議な事に彼女を怖いと思っていたけれど何処かに行ってしまった時、私はとっても不安だった。

また会ったらちゃんとお礼を言いたい、私の恩人。

 

 

『眠れないのかい?子守唄でも聞くかい?え、本当に聞くのかい?全くしょうがないねぇ』

 

 

ブレハンズおば様はとっても優しい人だ、言葉こそ厳しいけどちゃんとその人の事をよく考えたりしてあげてる。

ちょっと抜けてるところがあるアレンの悪い癖とか直してあげたり私の怪我の為に沢山のお金を使って薬を買ってくれた。お医者さんにも見て貰った。

関係は良くないらしいけど孫のカフカの事を毎日心配している、とってもとっても親切で優しい、私の恩人。

 

帰しきれない恩がある、沢山の優しさの中で私は少しずつ前に進む勇気を貰っている。

今はまだ恐怖から逃げる事しか出来ないけど、支えてくれた皆の為にもいつかは恐怖に立ち向かおう。

誰かではなく、こればかりは私自身の力で為さねばならない事だから。

 

私はリーリス、ただのリーリス、今はまだ何者でもない。

 

 

 

生まれ育った故郷も、愛した祖国も、積み上げて来たキャリアも地位も、何かもを捨てて去る事は容易ではない。

1927年に祖国を失った経験を通しても今一度の喪失は心に来るものがある。

年を取ってしまったせいで体もどこか気怠い。

 

 

「生きたまま、新天地に辿り着けるのか、私は・・・・・。」

 

 

もう随分と感じることはなかった肌を焼く太陽に照らされながら私は過去を懐かしむ。

夢と希望と野望に満ち溢れた祖国ドイツ、父は厳格なプロイセン軍人だったが私が学問の道を志すのを全力で応援してくれた。

母は父が戦争で命を落としても弱音一つ吐かずに私を立派に育て上げてくれた。

そんな母の遺言は父の隣に骨を埋めてくれと言うどうしようも出来ない難題だった。

 

 

「親のお使いすら、私は出来なかった。」

 

 

迫りくる暗雲を恐れた、あの国が迎える未来に耐えられる気がしなかった

あの土地が怖かった、あの場所は呪われている。

だから隣国に落ち着くと言う選択肢すらも捨ててしまった。

 

バルカンはただでさえ不安定な国だ。

人類が万全とまでは行かずとも平和の中であの畜生共と遭遇したのなら今よりずっと失う土地も人命も少なかっただろう。

全てはあの忌々しいテロリストが放った一発の銃弾から巻き起こった悲劇だ。

奴とその一族を根絶やしにし生涯その名を辱めても神はきっと人々を許すぐらいには。

 

人間同士の争い程に利他的で無意味な行為はないと38年かけて我々は学んだと言うのに結局の所何一つ変わらなかった。

人は過ちを繰り返す、愚かに、醜悪で、より汚く。

 

 

「何か悩み事ですか?」

 

「ここにいるお方に悩み事がない人はいませんよ。」

 

「そうですね、しかし貴方は心配になるぐらいに深刻な顔をしていますね、僕はギュンダー・フリューゲルです。よろしければ聞きますよ」

 

「ローザ・ブランデンブルグ、いや・・・・こう見えても私は大学で教鞭をとるぐらいには賢いのでね、君に私の悩みは解決できるとは思えないよ。」

 

「おやおや随分と悩みに自信を持っていらっしゃいますね、これは重症だ。」

 

「一人にしてくれと言ってもダメそうだから条件を出そう、君が私の疑問に満足できる答えを解答できなければここは私のプライベート空間という事で君は立ち去ってくれ。」

 

「良いですよ、この船は広いですから。」

 

「では、時にギュンダー君、我々は歴史から大いに学ぶ機会があると言うのにどうして人は歴史を知らぬような愚かな間違いを繰り返すのか?。」

 

「・・・・私は歴史を知りませんが今を生きる私達が今を歴史の一部として見るのは不可能だから、ではないでしょうか?」

 

「・・・・続けたまえ」

 

「今と言う時代の、歴史の当事者ですから様々な環境、空気、流れが我々を邪魔をするんです、だから後世・・・いえ、直後にすら愚かと批判される行為を犯すのでしょう。」

 

「なるほど」

 

「そして前に述べた要素が希薄な人でも今を歴史と見れる程に冷酷に、そして客観的にはなれない、我々は歴史から学んでも活かせる程に崇高な形をしてないのです。」

 

「・・・・・・・・・・君のような若者がいるなら、未来は少し・・・・明るくなる可能性もあるかもしれないな、ここは君のプライベート空間だ、私は失礼するよ。」

 

「え?ゆっくりしててくださいよ」

 

「別に君が私を言い負かしたらここに居続けるとは言ってないぞ。」

 

「苦しい言葉遊びを」

 

 

生意気な若者の気鋭溢れる言葉は少しの活力を私に与えた。

少なくとも遠く離れた極東の地に着くまでは生きるぐらいの気力を。

船はポートサイドを通過しヨーロッパに別れを告げていた。

 




国家滅亡、大不況、迫害、この世の最悪を網羅した場所、ヨーロッパ!
彼の地の大飢饉の際に外国が放った一言は人々を海へ駆り立てた。

「安住の地か?欲しけりゃくれてやる、来い!衣食住の全てを準備した!」

男たちは(女も)新天地(フロンティア)を目指す、世はまさに大移民時代!
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