戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話 作:エルカス
「農地拡大法?」
「そうっすよ!昨日の新聞で見つけたんすけど!自分で開墾して畑を増やせばそこが自分の土地になるらしいんですよ!聞けばここら辺は未開拓地ばっかりじゃないですか!」
「夢ばかり見てるんじゃないよ、口じゃなくて手を動かしな、丁寧に種を撒くんだよ!」
「分かってますって!どうっすか!俺とリーリスもいますしここはいっちょ農場を拡大しましょうよ!。」
「うちはこの広さで良いんだよ!」
「大丈夫ですって!俺は当分ここでお世話になりますから!辞めるってなっても変わり見つけてくるまでやめませんから!」
「そういう問題じゃないんだよ、はぁ・・・・気持ちは嬉しいけどね、ちゃんとした理由があるんだよ、だから今は黙って種を巻いておくないかアレン?」
「そ、そすか・・・・すんませんおば様」
「私は全然頑張れ・・・・ます。」
「アンタら二人とも・・・・ありがとうね」
新聞の記事を読み解いたり近隣の農家に色々聞きこんで馬鹿の俺なりに考えた奇跡的な良案だと思ったけどおば様的には何かがダメらしい。
俺が馬鹿みたいな事言ったり間違えた時は大抵怒られるのだが今回はあんまり怒られるどころか寧ろ感謝されたから少し嬉しかった。
「さて、二人ともご苦労だったね、今日は少し老人の昔話にでも付き合っておくれ、リーリスは疲れただろう?先に寝なさい、アレンは寝たら承知しないからね?」
「うっす!」
「私も最後まで聞きます、気になります、おば様の昔話。」
春の種まきを終わらせて家に帰ったら座るように言われ、おば様は何処か遠い目をしながら昔話を始めた。
蝋燭が暗い闇の中にあるおば様の顔をはっきりと照らす。
歩んできた人生の濃さと経験してきた苦労が顔に刻まれているようで、疲れ切った顔をしているよう見えた、少なくとも俺には。
「ここに来たのは28・・・・29年前にもなるかね、分かっていたとは思うけど私はこの土地の人間じゃないのさ、厳密には違うんだけどね」
「違うのに違わない・・・???」
「昔ここらは私が住んでいた
「な、なるほど、変な話だな!」
「重要な事は私がやってきたこの場所は異国でその国の人間じゃなかった、避難民って言うのさ、戦争で国を追われた集団の一人だったんだよ。」
「あ、何か親父から聞いた事がある!俺っすよ俺も!一緒ですね」
「兵士になる奴は大抵、避難民だからね、もしかしたら同郷だったかもしれないね、アンタもリーリスも、その先祖さんは」
「へぇ~・・・・・そうだったんだ」
「でも避難民は歓迎されなかったんだ、人の家に土足で上がるからね、私がこの国の人間の立場だったら間違いなく追い出そうとする程にね」
「避難民って人の家に土足で上がるのか!?」
「例え話・・・だよ、アレン?」
「な、なるほど!分かっているぞ、俺は!」
「金なし仕事無し宿無し、まさしくこの前までのあんたさ、あんた以上に惨めな時代だったよ。」
「・・・・そうだったのか」
「でも戦争は激しさを増してすぐに色々な仕事で人手が足りなくなった、避難民は人権なんてなかったからその国に言われるがまま動くしかなかった。
そして私達はこの人がいなくなった農地を耕すように命令されたんだ。」
「まるで言われるまま戦争に行く俺達みたいだな・・・・・」
「そうだね、沢山の仲間が草木の生え茂った畑を奇麗にして、それはもう立派なライ麦畑にしたんだ。
そして沢山の食料を国に納めた、そうすればこの土地を私達の土地として与えて定住できると国が言ってくれたからね」
「すっげぇ!ん?」
「それを聞いて私達はより張り切ったさ、ちょうど息子と息子の嫁が戦争で死んで私にはあの子だけが残った、だからもっと稼げる土地がいるって事であの立派な機械を買ったんだ、戦死の見舞金でね。」
息子さんとそのお嫁さんが死んだ辺りでおば様は唇を強く噛みしめていた、悲しさと同時に悔しいようにも見えた。
軽く流された家族の死だけどきっと大変だったんだろう、それでも懸命に生き続けたんだと思うと俺はこの人をすげぇと尊敬した、もうとっくにしてるが。
だけど本人はそうは思っていないみたいだ。
「農地を増やして、頑張って増やして増やして、増やしきった時に国は前に言った事に言葉を付け加えたのさ。」
「付け加えた?」
「土地を自分の物に出来るのはこれだけの収穫量を定められた人数で出した時、多分人力じゃ無理な量を要求してきたのさ。」
「何で、国は・・・・土地を与えたくなかったのか避難民に?」
「そうかもしれないね、私はあのコンバインのおかげで無理難題の要求量をクリアして土地を手に入れたんだ、でも自分たちの手で頑張って畑を開拓していった仲間たちは土地から追放されたんだ。」
「そんな、酷い・・・」
「人がいなくなった場所には元々この国に住んでいた奴らがやってきた、私の仲間が頑張って切り開いた土地は奴らの物になっちまったのさ。」
「ふざけんな!何だそれ!」
「仕方ないのさ、私は人の国に身を置かせてもらっている立場だから何にも大して強くは言えないんだよ、向こうが言ってきたことが不変の真理で正義なんだ」
「理不尽すぎるだろそんなの!どうして・・・・でも、だからって・・・」
「アレン、リーリス、良いかい?・・・・決して理不尽に暴力で立ち向かっちゃいけないんだよ、兵士や私ら避難民はじっと耐え忍んで辛い事も悲しい事も耐えなきゃいけないんだよ。」
「む、無理ですよ・・・・!俺はそんなに強くない!すぐに手だって出るし!」
「それでもだよ、奴らに私達を利用させるんだ、利用させて利用させてずぶずぶにして、絶っても断ち切れない関係にまでしていくんだ、そしてここぞと言う時で奴らに対して堂々と言うのさ、『私達無しじゃやっていけないだろう?』ってね」
「出来るんすかそんなことぉ・・・・」
「するんだよ、でもそこまでしてもどうにもならない時は・・・・」
「時は?」
「暴力に頼りなさい」
「・・・・は、はへ?」
「徹底的な暴力と破壊を奴らに齎すんだよ、最後の手段、依存からの共生が無理ならどうあっても人は分かり合えない、そこで諦めればもう人間以下の奴隷に成り下がるだけなんだ。」
「そ、そ?」
「暴力で屈服させて、暴力で支配して、暴力で勝ち取るんだよ、人間どうしようもない最後は力ってモンさ!」
「そ、そっすよね!」
話の流れ的に平和的に自由を掴み取るのかと思ったけどそんな事はなかった。
考えてみれば壮絶な人生を送って来た上で普段はあんなり苛烈な人が権力一つで丸くなる訳ないんだ。
煮え湯を飲まされた怒りとか理不尽を飲み込んだ反動が最後に出て来た気がする、というか最後の言葉の時凄い力で手を握られて痛かった。
気迫があってちょっと怖かったからリーリスが心配したけど普通に話を聞いていてほっとした、怯えたり怖がったりはしていないようだ。
「・・・・こう見ればカフカとおば様って血ぃ繋がってんな・・・」
譲れないと信念いうか最後の情けやそれが破られた時に見せる苛烈さはとても似ているなと思った。
それに比べれば俺の短気な怒りボルテージはあんまり恐ろしい代物じゃないと錯覚してしまいそうだった。
カフカのばあちゃんは要はツィスライタニエン出身って事です。
この世界の多民族国家(笑)は・・・・・
欧州大戦終結→件の戦争勃発→崩壊→バルカン諸国に領土を吸収される→バルカン諸国が連邦となる
という末路を辿っています。(オーストリア革命なんてなかったんや)