戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話 作:エルカス
誰が幸せになるんだろうね、少なくとも作者は幸せです。
大きい砲弾を使った力自慢コンテストが中止になった後は少し要塞周りを散歩した。
アズニャンさんと他愛もない自国話をしていた。
「前から言おうと思っていたんだがチェルッち、髪長いのに結ばねえのは危ねえぞ、仕事中」
「そうですか、次までに何とかします」
「・・・・・」
言われてみれば私の髪も随分と伸びている。
訓練所時代では少しでも長くなったら切る流れだったので伸ばせずにいたのだ。
せっかく戦争も終わって平和になったのだからと伸ばしていたが言われてみれば危ないし、顔にかかって邪魔だった。
「持ってねえのか髪留め?」
「お恥ずかしながら・・・・」
「しょうがにゃいなぁ!真のレディは予備も持つもんだぞ」
「え、私に?」
「お前以外に誰がいるんだ、ほら後ろ向け、髪結んでやるよ」
「は、はい、お願いします・・・!」
「よろしい、ふんふん~♪」
ニマニマとしていたアズニャンさんに言われるがまま後ろを向いてしゃがむ。
恐らく向こうの国の音楽を口ずさみながら私の髪を迷いなく束ねてくくっていく。
「よし出来たぞ!ほれ手鏡」
流れるままに手鏡を渡されたけど常備しているのは驚きだ。
まるでお洒落に気を使っている普通の女の子に見える。
私達兵士には考えられもしない・・・・羨ましい気質だ。
「どうだ?奇麗な髪留めだろ?」
「・・・・」
言葉を忘れて私は自分の頭に触れる。
確かに鏡の通りそこに在る。
写っている人物は確かに私だ、一瞬自分とは思えなかった。
「だ、ダサいのかもしかして!?」
「いえ、いいえ・・・・・と~っても・・・・・・うふふ、何ていうか」
私が気に入ってないと勘違いしておどおどし始めるアズニャンさんがおかしくて、こんな知らない私を見つけ出してくれた事に感謝したくて。
鏡に写る自分が自分じゃない気恥ずかしさがあって。
言葉にする前に嬉しさが顔に出て、声が漏れる。
「嬉しい、これだけは伝えさせてください、・・・・スパスィーバ」
「!お、おう!だ、大事にしろよな!」
「はい、約束です」
私の発音が変だったのか、顔を覆いながら話してくるアズニャンさん。
腕から覗く彼女の顔は少し赤かった。
そしてもうそろそろ戻らないと船長が氷になりそうな事を思い出したので急いで船に戻った。
「只今戻りましたリッペ船長!」
「お、遅いぞ・・・・!」
「ごめんなさい、ささ、出港ですよ、元気出してください!」
「何でこんな高緯度帯で交易するんだよ・・・・時代を考えろ時代を・・・・」
船長がブツブツ言いながら船は帰路につく。
浮かれた気分のまま、今度船長も一緒に観光どうですかと言ったら二回怒られた。
一度はこんな寒い中で出来るかと怒られ、二度は仕事ついでに遊ぶなと言われた。
やはりアズニャンさんは方便で私に観光をさせてくれたんだなと分かった。
私は過ぎ行く歴史の地を一瞥した。
「ふぅ・・・帰って来た、ここも寒いけど常識的な温度だぜ・・・・」
「船の係留は任せて船長は先に帰ってて大丈夫ですよ!」
「おう、任せたぞ・・・さむさむ・・・」
埠頭の地面に生えている出っ張りにロープを固く結んで船を固定する。
アズニャンさん達からの貰い物とかを忘れずに持って家に帰る。
前までは延々停泊している船の一室を貰っていたけど今はちゃんと陸地に家を借りている。
一丁前な物ではなく山岳共和国との貿易再開でやってくる水夫さん達が住むために建てたばかりの家を使っている。
あんまり意識はないけど私も一応水夫・・・・なのだろうか?
「船の事とかよく分からないまま船長さんの言われたとおりに動かしてるけど・・・・というか船長もお年だし何かの間違いで気を失ったら私一人で船を動かさないといけない・・・」
来るか分からない非常時の想像をしていたら急激に不安になってきた。
次からは一人でも船を動かせる最低限の知識を伝授してもらうようにお願いしようかな・・・・などと考えながら住居に戻ると私の家の前が喧騒になっている事に気付いた。
「だから俺はここに住んでる奴に!」
「お前の動きはどう見ても盗人の動きだろ!警察に突き出してやる!」
「ふざけんな!適当な理由つけて俺を排除しようってかてめえ!やんのか!」
「おぉやってやるよ!お前に盛大にぶん殴られたら気兼ねなく警察を呼べるからなぁ!」
「あの、どうしたんですか!」
「あ、カフカちゃん気を付けて!このよそモンここら辺の住居うろついて盗みを働こうとしてたんだ!」
「ちげえって言ってんだろ!俺は人探しぃ・・・・・あ、カフカじゃん、いたわ」
「だ、だれ?」
盗人疑惑をかけられているフードの男はどうやら私を探していたようだ。
でも私は彼が誰か分からなかった、そのせいで隣人の方に悪く解釈され、私を守るように立ちはだかってくれた。
「お、おい俺の事忘れちまったのかカフカ!俺だよ俺!」
「お前カフカちゃんに近づくな!さてはお前カフカちゃんに付きまとってあまつさえも大事な物を盗んだりする変態だな!その正体見たり!」
「誰が変態だこの出しゃばり野郎!」
「おらいつまで顔隠してたんだフードを取って素顔を晒してみろ!」
「触んなテメェ!」
「アレン・・・じゃん」
「そうだ、アレンだ!忘れたのかカフカァ・・・!?」
「最初から顔を見せなさいよこのボケェ!」
「いって!?なに急に殴っ・・・イテテ!?ほっぺ引っ張るな!ちぎれる!」
隣人の人が剥いだフードの中から現れたのは割と盗人なアレンだった。
知り合い的な雰囲気を醸し出して隣人さんが「あ、あれ?」的な態度になって非常に気まずかったので取りあえずお詫びとこの紛らわしい状況を作り出してくれたお礼にアレンの頭を思いっきり引っぱたいた。
「黙りなさいこの馬鹿!家に入ってなさい!」
アレンをここに居続けさせたら争いが収束しない気がしたので取りあえず家にぶち込んだ。
扉越しにぶつぶつ文句が聞こえて来るけどまあ普通の人には聞き取れない声量なのは不幸中の幸いだ。
「し、知り合いだったんだね、ごめん勘違いして」
「いえこちらこそ本当に・・・ありがとうございます、彼良い子・・・だと思いますから許してください。」
「ま、まあ向こうは手を出してこなかったら寧ろごめんって言っておいて欲しいな、いや、あはは」
手を出してないと聞いて驚いた。
てっきりもう小さな衝突ぐらいはしているかと思ったけれど。
隣人さんに挨拶をすませて家に戻ると、窓にべったり顔をくっ付かせて歩いていく隣人を目で追っているアレンがいた。
「何やってんの・・・」
「あいつとお前を見ようと思ったら張り付いて取れなくなった、助けて」
「何やってんの・・・・・・」
「お、お願い見捨てないで!せっかく遠路はるばる会いに来たのに!」
「それはどうも・・・じゃあちょっと皮削ぐね」
「いやぁああああああ!??!」
「冗談だよ」
「俺で遊ぶなぁああ!!!」
相も変わらず元気なアレン、果物ナイフ取り出して適当な笑みを浮かべたら無茶苦茶怖がってくれた。
もちろんナイフで皮を削ぐなんて蛮行は緊急時でもなければしないので普通に頑張って窓を温めて救出した。意外と大変だった。
「いや助かった・・・ホントに、ごめんな急に訪ねてトラブルトラブルで」
「まあアレンだし・・・というかよく窓に顔くっついたね、私は全然なのに」
「ちょっとアイツうざくてイライラして熱くなってた」
「物理的に熱くなってたんだ・・それに手出さなかったんだね」
「あ、そうだぞ!褒めてくれよ、俺手を出さなかったぞ!」
「凄い進歩・・・偉い、おばあちゃんから無暗に暴れるなって教えられた?」
「おう!しっかりと教えは守ったぞ!」
「よろしい、私もよく言われたな・・・・」
少し昔を思い出して感慨に浸る、私達兵士が他の人より一番違っているのがその腕力だ。
まだ小さい子供でさえ普通の人間の数倍の力を持っている。
成人をすれば十倍二十倍・・・・個人差はあるけれど皆、大体車ぐらいは持ち上げれるようになる。
そのせいで普通の人に怖がられてあんまり関わってくれなかったり除け者にされる。実際その力のせいで酷い目にあった人も多いから文句は言えない。
兵士でもないのに祖母はしつこい程に私にそれを徹底してくれて、子供の癇癪で力加減を間違えた私が・・・・祖母を流血させた時も・・・・・祖母は怖くなって泣いた私にそう教え続けてくれた。
カフカ「物理的に熱くなってたんだ」
何と兵士は怪力だけでなく寒さへの強さも備わってるんですね~
今回アレンが窓にくっついたのは本心から半ギレになって熱くなっていたからです。