戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話   作:エルカス

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27先人の命を賭した行いに感謝を

「ここには面白い事もなければ冒険心をくすぐる程よいスリルもない、あるのは淡白で冷涼な自然の猛威だけだ。」

 

「やっぱり普通の人には寒いですか?」

 

「ああ、平均気温マイナス15℃はな、夜はマイナス20℃、酷いときはマイナス30℃まで冷え込む、裸足で放り出された100m歩かずして死ぬ。」

 

「そんなに?」

 

「寒さに肺がやられて血が詰まって窒息死するたしい、とにかく環境が厳しいだけで何も面白くない場所だ、しかもここらは本来誰も立ち寄れない汚染地帯だ、いるだけで・・・ゴリゴリと悪魔に寿命を吸い取られる。」

 

「・・・・・」

 

「だから兵士である必要があるんだ、あの戦争を戦い抜く戦力として一番だった」

 

「はい・・・・・」

 

「何かが違えばカフカ、お前もこの場所に来ていた」

 

「そう、ですね・・・・私もここに・・・」

 

 

ジェスリンさんの見回りの仕事を一緒にさせて貰っている。

今は特に息苦しくもない普通の場所、戦場において普通の塹壕の一つにやって来ていた。

かつてここで人がいた形跡が至る所にあった。

 

 

「見た事のないタイプのレーション缶・・・」

 

「それは28年から10年間生産され続けたタイプだな」

 

「じゃあ・・・結構前のものですね、何であるんですか?こんなに・・・」

 

「ゴミを回収してる暇なんてないからな、ちょっと地面を掘れば色々と出てくる、原型をとどめているとは限らないがな」

 

 

塹壕内には色々な物が置かれたままになっている、もちろん捨てられた物も多くあるけれど・・・・ここでは敢えて、置かれたままと表現する。

木の枠で組まれた塹壕通路の両面には人が寝るためであろうスペースがあり、そこにはボロボロの布切れと・・・・写真があった。

 

 

「・・・・」

 

 

写真には恐らく持ち主である兵士と・・・その家族が映っていた。

彼には妹が二人ぐらいいて弟もいて、頼りがいのあるお兄ちゃんとして・・・慕われているような事を感じさせる・・・。

そんな彼は果たして戦争が終わった時、家族の写真を忘れて帰るだろうか。

どうか、忘れて帰ってしまううっかり者でありますようにと、私は祈る事しか出来ない。

 

 

「あんまり気にすんな、そっとしておけ」

 

「はい・・・分かりました」

 

 

写真を元の場所に戻して、彼の寝ていた場所を少し奇麗に整えた。

彼らの様な人がいたから今日の私があるのだ、最低限の感謝はするべきだ。

 

 

「ポタン・・・ポ、ポ、・・・ザーー」

 

「雨だ・・・・」

 

「っち、面倒だな、幸いにも雨よけになりそうな堡塁があるな、あそこで止むのを待とう」

 

「はい」

 

 

塹壕は広い場所もあれど殆どは人が一人通るぐらいの幅の場所ばかりだった。

近くの堡塁に行くだけで十数個の分岐通路があって、そこの先にも分岐する通路が見えた。

私の背が低いからというのもあるかもしれないけど多分凄く迷いやすい場所なんだと思う。

その証拠に塹壕の十字路には通りの名前を示す看板があったから。

 

 

「ベチョ、ベチョ」

 

「クッソ・・・塹壕の泥濘め・・・」

 

「だ、大丈夫ですか?膝まで地面に埋まってますよ!?」

 

「塹壕から出て移動すればよかったと後悔しているよ、カフカ君は学習して上から進め」

 

「は、はい」

 

 

高身長のジェスリンさんが膝まで埋まるのだから、私は下半身が殆ど泥の中に埋まるだろうと考えるとぞっとする。

こんな環境が最悪の場所で数十年も戦う事を強いられてきた幾万、幾億の人達がいたと思うと尚更に。

 

 

「ガ、ガゴゴゴ」

 

「た、立てつけ悪いですねこの扉・・・!」

 

「兵士で開けるのに手間取るのか、なら俺には開けられなかったな、助かる」

 

「い、え・・・!」

 

「ガゴゴゴ、ゴン!」

 

「ふぅ・・・・どうぞお入りください」

 

「ではお言葉に甘えて」

 

 

堡塁はコンクリート製で扉も金属製で恐ろしく重かった。

中はかなり暗くて、戦場に向けて銃を向ける一画だけは他より少し明るかった。

 

 

「結構広いんですね、銃を撃つスペースにしては広すぎませんか?」

 

「何も銃を撃つだけじゃないからな、ここは特に何層かある防衛線の最後尾だから物資を備蓄するために大きく作られている」

 

「え、塹壕って何層もあるんですか?」

 

「当たり前だろ、線一本の防衛線なんて脆くてすぐに崩れる、激戦区には12層ぐらいの塹壕ラインがあるな、まあ大体は5、6本だな」

 

「知らなかったです・・・」

 

「新兵はだいたい一番後ろに配置されて雑用をして、年月の経過で前に前に配置換えをする」

 

「死に近づく、見たいですね」

 

「まさしくその通りだ」

 

 

明るい場所に誘われて機関銃が設置される部屋に入る。

流石に終戦という事で銃を取り外させているが架かっていた部分とか空薬莢はそのまま放置されていたのでどんな光景だったかは想像に難くない。

好奇心に誘われて部屋の隅に捨てられていた弾薬箱を漁ったらまだしっかりと使用されていない弾薬ベルトがあったのでそっと元に戻した。

 

 

「意外と雑に撤収したのかな・・・ん、壁に何か・・・・・」

 

『生きて帰る』『目指せ勲章コンプリート』

 

『ハーレムを作る』『親孝行』『金持ち』『告白する』

 

「・・・・生きて帰ったら何するかとか、かな・・・・」

 

 

硬い壁に刻まれた文字を指先でなぞる。

夥しい数のやりたい事とか望みとかがびっしりと壁にある。

私は地面に転がってる空薬莢を拾って壁に文字を刻む。

 

 

「ガリ、ガリリ」

 

 

 

「おーい雨が止んだから出発するぞ」

 

「あ、はい、今行きます」

 

「何か面白い物は見つかったか?」

 

「面白い物はちょっと」

 

「ああ、ここにある悲痛な物と恐ろしい物しかないからな」

 

 

暗い堡塁の中に雨上がりの眩しい日差しが差し込む。

地面に転がる空薬莢が反射し眩しく光る。

そしてそれらが光が届かず暗かった壁を照らす。

 

『ここに刻まれるは、私を最後とする』

 

堡塁には垂れ落ちる雨の雫の音が、静かに木霊していた。

 

 

 




今回の話はなろうにはない加筆です。
「23大切なものが増えていく」に関しても髪留めを貰う下りは加筆です。
こういう別に本筋に関係な寄り道って需要ありますかね?

寄り道レベルの加筆して欲しい?

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