戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話   作:エルカス

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28戦場よさらば、願わくば永遠に

雨が止んだ後、もう何か所か巡回をしたらジェスリンさんの仕事は一応の終わりという事で彼の住処に行く事にした。

知らない事とか知り得ない事を沢山、良い事も悪い事も知れてとっても有意義な時間だったと思う。

 

 

「そら見えて来たぞ、愛しきマイホームだ。」

 

 

ジェスリンさんはマイホームと言ったけれど最低限な物しか揃っていない貧相な掘っ立て小屋と形容するのが正しい。

一見幅があるように見えたけど実際は建物の三割ぐらいは積み上がった薪でさら狭く窮屈に思えた。

 

 

「な、何で脱いでるんですか?」

 

「毒が付着してるんだ、ああ・・・・・・・上着だけ脱いでそこら辺においておけばいいさ。」

 

「はい、分かりました。」

 

「おいおい中に何も着てないのか?」

 

「シャツが見えないんですか?」

 

「女のランニングシャツ一枚は裸みたいなもんだろ・・・寒くないのか?」

 

「息苦しい場所を通ってから汗だくだくです、私の事は気にせず入ってください、寒いでしょ?」

 

 

ジェスリンさんを押し込んで小屋に入る。

中には見た事のない動物の剝製に、恐らく予備のライフルと弾丸、ランプとか缶詰食料にラジオ、古い雑誌が積み上げられたゾーンが一つあった。

窓から見える外の光景は殺風景と言う言葉の為にあるような眺めで、発見と驚きに満ちた塹壕探索と比べたら退屈に感じた。

 

 

「誰か来る事なんてないから椅子は俺一人分しかない、地面に座ってくれ。」

 

「失礼します・・・・ふぅ・・・・・いい香りですね。」

 

「眠る場所ぐらいは作り物でもいい香りを吸いたいだろ、死ぬにしても泥の上じゃなくて柔らかなベッドの上でだ」

 

「ここを死に場所にしたりするんですか?」

 

「そうかもしれない、まあ俺の話はナシだ、外の・・・国の話をしてくれ、もう4年はここにいる、戦争が終わってどんな感じだ?」

 

「どんな感じ・・・・というのは?」

 

「ほら良い事とか沢山あるだろ?ラジオじゃなくて直接そこで生きてる人の声で聴きたいんだ。」

 

「良い事・・・お隣の、山岳共和国の皆さんとついに国交が開いたんです、何十年も仲違いをしましたけど歩み寄りが始まったんです。」

 

「へぇ・・・・いいなぁ・・・・!俺が士官教育を受ける時は不倶戴天の敵とかそれは酷く罵倒されてたけど・・・良いなぁ、仲良くなっていくんだよな?」

 

「はい、向こうの人は愉快な人が多いですよ。」

 

「向こうに行ったのか?!」

 

「交易の仕事をしてるんです、荷物とかの力仕事。」

 

「どんな風景だった?人の形は俺達と大差ないか?向こうの言葉とかはどうだったんだ?!」

 

「形は私達と同じです、違いなんてないですよ、皆同じように違う形をしています。言葉はとても喋れそうにない事をすらすら喋ります、本当に濁った音を音楽とかのリズムみたく流暢に奏でるんです。」

 

「俺も聞いてみたいなぁ・・・カフカは喋れるのか?向こうの言葉。」

 

「スパスィーバ、ありがとうの意味です」

 

「すぱ・・すぱぱ・・・んん゛!・・・他には何かないのか?」

 

「まだ私も日が浅くて・・・あ、でも一つ、友達がよく喋る言葉を覚えてます、タク・トチナ。」

 

「どういう意味なんだ?」

 

「はい、分かりました、とか了解、だそうです。」

 

「はは、・・・軍隊上がりのお友達か。」

 

「ええ。」

 

「そうか・・・・良いなぁ、戦争、終わったんだな。終わってよかったか?」

 

「間違いないですよ、戦争は終わってよかった、言い切れますよ、言い切らなくちゃダメです。」

 

「ラジオは・・・最初は浮足立って喜んでいたけど最近は良くない事ばかり・・・・でもあるんだな良い事もちゃんと!」

 

 

暖炉の火を愛おしく見つめるジェスリンさん。

何度か私の言葉を復唱した後に頷いて肯定する、4年もここに居ると言っていた。

もしそうならとっても苦しいし面白いことも無いのだろう、まして戦争が終わる前は逃げてくる誰かを撃ち殺す仕事をしていたそうなんだから尚更にこういう日常の営みを、言葉を交わす事を望んでしまうのだ。

 

 

「ジェスリンさんは帰らないんですか、ここから?」

 

「俺は・・・・いいさ、ここが俺の家だ。」

 

「でも、いつまでもここにいたら、命を削る場所だって言ってましたよね。」

 

「誰かがやらないといけない仕事なんだ、スノースがもう一度俺達を攻めるか見張る光栄な仕事だ、お金だってたんまりと貰ってる、この先ずっと寝たきりでも食う物には困らないぐらいに。」

 

「そんな・・・・こんな仕事、人がやるもんじゃ・・・・」

 

「こんな仕事と言ってくれるな、・・・非力な俺達ノーマルにでも務まる仕事だ、これ以上してくれなんて言わないよ、お前たちスレッシャーからは十分恩を受けたんだから。」

 

「ノーマルとかそうじゃないとかじゃなくて・・・。」

 

「優しいんだなカフカは。」

 

「・・・・・・優しいだけなんて何も意味ない。」

 

「悪いな呼び止めて、・・・ここは空気が悪い、お前みたいに良い奴は長生きしろ、こんな場所には滅多に立ち寄らない事だ。」

 

「もう、良いんですか?」

 

「ああ、満足だ。」

 

「行って、良いんですか?」

 

「達者でな、あ、やっぱりちょっと待ってくれ、少し・・・・・10分で良い、あ~外でだ、な?」

 

「はい!」

 

 

外に出て今一度戦場を眺める。

この地獄にもっと近い場所は、戦争が終わった後も結局地獄に一番近いのだと思う。

殺し合いという営みが終わっても、そこに残された遺産は誰かを蝕み続ける、そして地獄へと近づいていく。

小屋から遠くに見えるのは先程の堡塁だ。

あそこで何人もの兵士が絶え間なく弾幕を作り、スノースの侵略を食い止める、食い止めていた、何年も、何十年も。

そのさらに奥には黒ずんだ大地が見える。砲撃でもう何層も何層も地層が削られ、圧縮され、自然界ではみない姿を形成している。

 

 

「考えるだけで、恐ろしい場所」

 

 

そして遥か遠く、地平線の境界に見えるそこは暗雲に覆われた前人未到の危険領域、奴らの生息域だ。

身の毛がよだつ恐怖を覚えていたせいで、普通に開く小屋の扉に少し驚く。

だけど次の瞬間に私は別の意味で驚いた。

 

 

「待たせたな、そら遅めのクリスマスプレゼントって所かな。」

 

「これは・・・・」

 

「塹壕服だ、お前達には少し暑いかもしれないが女の子だろ?帰ったらガスで皮膚がただれたんじゃお嫁にいけない、そうすれば俺も目覚めが悪いってもんだ。」

 

「服・・・服・・・!ふふ、初めてです、服をプレゼントされたのは、こんな高い物を頂いても良いんですか!」

 

「払いは明るい未来だ、お前達みたいな力と夢に溢れた若い奴らが形作る未来を糧に俺達は今日を頑張っていけるんだ、そらもう行け、雨は体に毒だ、特にここに降る雨はな。」

 

「ありがとうございますジェスリンさん!貴方の歩む未来に幸多からん事を!」

 

 

少し私には大きく感じたけどその通りで寧ろこれでも私の合わせて少し折ってくれたのだ。

窮屈だけどそのままに。少し感じていた肌のヒリヒリも遮断され穏やかになった。

それはまるでデパートでドレスを試着してお姫様になった女の子の気持ちに似ていたと思う。

長く途方もない大地と曇り空を私は進む、力強く、前に、前に、進んでいく。

 




塹壕(トレンチ)、塹壕服=トレンチコートの事です。
二次大戦がなかったこの世界ではまだ女性に浸透していないのでジェスリン君はかなり先見の明があるコーディネータです。
戦争がなければおしゃれ系の仕事に就いて女の子を可愛くしてたんだろうなぁ・・・
どうしてこうなったのか。
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