戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話   作:エルカス

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30何となく分かってしまったかもしれない

銃弾の事を聞くなら最初に出会ったジェスリンさんでも良かった。

というか町に来る配給で軍関係の人がいるからその人達を待っても良かった。

だけどリッペ船長から彼の『お友達』の名前を聞いた時、行かねばならないと思った。

 

 

「ゼクト教官」

 

 

リーリスをあんな目に合わせたクソ野郎は皆目見当もつかなかったけど犯人を捜す上で教官の名前が出てきたのは何か運命を感じた。

根拠なんてない、ただ犯人捜しをしていたら知っている人の名前が浮上したら誰だって気にしてしまうものだから。

 

 

「これ9mm弾じゃないし・・・酔いも醒めてなかったし、たぶん殆ど世迷い事なんだろうけど・・・・・確かな事はある。」

 

 

少なくとも警察に通報されて追いかけ回されるような事態ではなかった。

偶然居合わせた警察官に発砲されたとも考えにくいから恐らく犯人は一般人、銃器を使っている事から恐らく普通の人、兵士じゃない。

リッペ船長は「だからこそ私達兵士が銃を使ったら疑われない」と言うけど

そこまで頭を回してリーリスを殺そうとする人物は思い当たらない、それに人の総数割合で考えれば確率的に8割9分普通の人間の仕業だ。

 

 

「火傷してから銃撃されたのか、銃撃されて火傷したのか・・・111分の法則は火傷をしたら機能しない、なら先に銃撃されたのか・・・・いや・・・・・銃弾の発見が遅れたから回復して埋没した可能性も・・・」

 

 

仮説に仮説を重ねるのは最早妄想の範疇な気がするし、リーリスがどのような順序で負傷したのかはさして重要でもない気がする。

結局の所、今回の遠征で得た確たる情報は『警察は関与していない可能性が高い』だけに留まる。

 

 

「本人に聞くのが一番だけど・・・・聞いちゃったら酷かな。・・・記憶がないのは頭を打ったからじゃなくて自分を守るためもあるって言われたし・・・きついなぁ、現実って、ハァ・・・・・私は探偵にはなれないよアレン。」

 

進む道を振り返れば戦場がある、そこには差別なんてきっとないしこんな心を痛めるような事件も少ないだろう。

だけどそれは命の価値が最も低くなる戦場の掟に毒されて、そう思えるだけで平和な現実が一番いいに決まっている。きっとそうだ。

だから考えちゃダメなんだ、思っちゃダメなんだ。

 

「リーリスは、戦争に行ってた方が良かったのかも」と、

 

少しだけの可能性、この探求を通じてからアレンを振り返ったら気付いた事だが彼はきっと家族に捨てられた。

失礼な言い方かもしれないけど、きっと彼を育てた人たちは彼が戦場で死ぬ算段を立ててもう二度と彼に会えるとは思えなかったのだろう。

だから行く先を告げずにアレンの帰るべき場所から姿を消して今日まで彼に見つけられようとしなかった。

 

 

「逆だったかもしれない、同じだったかもしれない、私も。」

 

 

自分が家に帰ってきた時の事を思い出す、もしかして祖母は私の部屋を片付けてベッドすらなかったのかもしれない、私の置いていった物を全部売っていたかもしれない。

生きて帰ってきたら確かにそれは酷い事だと言えるけど大抵は皆帰ってこないし、来ても砂粒(遺灰)になっている。

その先は見据える必要もなく眼前にある事実だから気持ちは分かる。

 

 

「リーリスはあんないい子なのに家族が探しに来ない、家族がいなかったら分かる、関係が悪かったらそこまで、だけど万が一・・・・もしも、家族が『捨てる』以上に、『消える』ことを望んでいたとしたら。」

 

 

リーリスの名誉の為にも、人間と言う存在を高尚な物だと思いたい肯定感を裏切りたくないからその妄想を否定しようとする。

何故ならば人殺しは最も忌むべき罪で、人が最大限の努力を以て避けなければならない禁忌だから。

幾重もの制止機構で固く封印された行為、他人ならいざ知らずそれが家族という輪の中の存在に対してだったらこの世で最悪の罪であるから。

想像するだけで気持ち悪いしそんな事を考える下劣な自分すらも嫌悪してしまう。

 

 

「ゼクト教官がリーリスの情報をくれたら良いけど・・・・仮に彼女の家族に会うとしたら・・・嫌だな・・・・会いに行くの。」

 

 

このままの状態で何も起こらない事が良いかもと思ったけど、リーリスをリーリスたらしめる記憶がないこの状況で硬直させるのは不義理だ。

それにきっと私以上に彼女は苦しいし怖いのだろうと思う、見捨てたらもう行く当てなく彼女は死ぬに違いない。

私はガスマスクをつけて再び何もない大地に向かって走った。

その先にあるのは希望と明るい未来だと信じて走り続けるのだ。

 

 

 

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~1932年に出された初の戦争死亡保険の広告より一部引用~

 

 

 

「ザ、ザ・・・カン」

 

「・・・」

 

「うわびっくりした、・・・あんたか、用事は済んだのか?」

 

「はい、つつがなく」

 

「それは良かった、・・・・行かないのか?」

 

「・・・・」

 

 

廃駅まで戻って来た。

2日前に見た時と全く変わらない形をしていたけど案内人がやっている事が頭から離れられなかった。

彼は穴を掘っていて、その後ろには・・・布に包まれた・・・・・・それが数個あった。

 

 

「・・・彼ら、は?」

 

「勝ち抜けって、言ってたよ、だから悲しまないでやってくれ」

 

 

布から僅かに覗くその中身、それは人の手だったけど人がしていい色ではなかった。

案内人は苦笑いでそう言うと再びスコップを動かして穴を掘り始めた。

同じようにしたであろう箇所が数十もある事に気付く。いや、もしかしたら百を超えるかもしれない。

 

 

「手伝います」

 

「いいよ、気にするな」

 

「見送る人は多い方がきっと、彼らは幸せでしょう」

 

「っふ、意外と・・・・譲れない部分はあるんだな、お前も」

 

 

案内人が根負けして私は予備で用意されたスコップを持って地面を掘り始めた。

最初は何も積もっていなかった布の上に数センチの雪が積もる頃には人数分の穴が完成した。

 

 

「向こうでは、元気でな、次は早死にしない家族に恵まれろよ」

 

 

案内人は小さく布に包まれた人に呟くと丁重に運んで穴に寝かせた。

しばらく穴の中をじっと見つめて出てこようとしなかった。

 

 

「・・・あ、すまないな、ぼーっとしてしまった」

 

「いいえ、最期ぐらい十分に別れる時間があるべきです、幾らでも」

 

「十分だ、さあ埋めよう」

 

「ザ、ジャララ・・・ジャラ・・・」

 

「・・・・聞いても、良いですか?」

 

「聞くだけなら」

 

「・・・・彼らは、どうして・・・・・」

 

「兵士は頑丈だもんな、よっぽどのことがない限り死なないから、どうして、という事か?」

 

「はい」

 

「・・・・何て言うか、まあ・・・・こいつは家族そろって全員兵士で、父親と母親、姉と弟がいて違う場所で戦ってたんだ、戦争が終わって家族に会おうとしたが・・・・」

 

「・・・・・」

 

「こいつが最後の一人だった、だから・・・・まぁ、置いていかれたって事だ。先に逝っちまった家族を追いかけただけだ」

 

「・・・・」

 

 

神様とかはあんまり信じない方だけど、今ばかりは彼の来世が幸せに満ちていますようにと神に祈らずにはいられない。

塹壕で見た酷い就寝スペースの事を思い出す、家族写真・・・・寒くもないのに、手が震える。

 

 

「次の奴は・・・まあ似たようなモンだ、戦場で将来を誓い合った奴がいてそいつは死んでて・・・って感じだ」

 

 

彼らは・・・・死ぬしか道はなかったのだろうか。

自分の立場に置き換えて考えてみる、もしおばあちゃんが私の死を望んでいる状況だとしてリーリスも死んじゃって・・・何もかもない状態だったら・・・・。

いや、それでも私は生きる事を選ぶ、どうして生きるのかと言われても答えは言えないけれど、見当違いの事を言うと特に死ぬ理由がないから生きる、それだけだ。

 

 

「・・・弱っちい奴らって、思ってたりするか?」

 

「まさか、・・・思わない」

 

「俺は、・・・少し思っちゃうけどな」

 

 

虚ろな目で案内人はそう言う。

墓を埋める彼の手が止まる。

 

 

「どうしてそう思うのかって、聞かないのか?」

 

「聞いて、欲しいのなら・・・聞きます」

 

「聞いてくれ」

 

 

懇願するように彼は言う。

今になって彼の声に脆さを感じた。

 

 

「どうして?」

 

「・・・俺自身が、そうだから」

 

「死にたい、のですか?」

 

「ああ、・・・・・あいつも、そいつも最もらしい事を言って命を絶ったけど、内心は・・・・惨めで、情けなくて・・・・やるせない気持ちばかりだったんだろなって思う」

 

「そんなの、分かりっこない」

 

「いいや、・・・・分かるよ、・・・・俺が死を選んだら・・・正しい事が、証明される」

 

「・・・・落ち着いてください、しっかり」

 

「お、俺は・・・・はは、・・・すまない、少し・・・気を紛らわせたくて・・・・お前が、手伝ってくれるから・・・・話す相手がいると・・・色々、抑えていた感情が・・・・」

 

「大丈夫、私はどんな事を言われても・・・・今は受け入れます」

 

「ありがとう、・・・ふぅ・・・・いや、・・・やっぱりいいや」

 

「遠慮は、いらないですよ?」

 

「平気だ、あー・・・落ち着いた、続きをしようか、こいつらを弔おう」

 

「はい」

 

「・・・・あ」

 

「どうかしましたか?」

 

「いや・・・こいつだけ、何ていうか、・・・ちょっと本当に可哀想で・・・・」

 

「彼は、どうして?」

 

「・・・・家族に殺されかけたそうだ」

 

「・・・・・・は?」

 

 

理解できない、戦争の悲惨さとか失った物の悲しみとかで命を絶った人が続く中でそれとは全く関係ない、脈絡のない言葉が出て来て困惑した。

そして何よりも血の繋がった、繋がってないかもしれないけど、他人とは比べ物にならない親族に命を奪われるという蛮行に驚かずにはいられなかった。

 

 

「家族は普通の奴で、殺さかけたこいつは反撃して、・・・・家族全員殺しちまったんだとさ」

 

「・・・・・・・どうして」

 

「さあな詳しい事は、普通の子供しかいなかった家庭でこいつ一人が兵士として生まれたってのは聞いた。だとすると妾の子だとかと思われて疎まれて・・・・とか、でもそれだけで・・・殺すのは幾らなんでもって」

 

「・・・ジャラ、ジャララ」

 

「さあ、これで最後だ・・・助かったよ、一人だとうっかり・・・・勝ち抜けしかけてた、恨むよ君を」

 

「ごめんなさい」

 

「・・・・ほら、こんな所に長居はするんじゃない、もう帰るべきだ」

 

「はい、・・・・では、さようなら・・・・・・・()()

 

「・・・・・・()()、ね」

 

 

次に私がここに来るのはいつになるだろうか、もしかしたら過ぎ行く人生の中でもう二度とこの場所には来ないかもしれない。

それどころか彼らの事なんて忘れて・・・いいや忘れられる訳がない。

戦争によって大切な人を奪われて、人生を壊されて、生きる意味を破壊された彼らを。

いつかまたここに戻り、戻って・・・・・・彼らに何をしてあげられるだろうか。

果たしてその時に、彼らはどれだ生きているのだろうか。

考えても答えは出なかった。

 

 




現実の生命保険において戦争で死んだときは免責事項でお金は支払われないらしいです。

カフカ「特に死ぬ理由がないから生きる」
つまりカフカちゃんを曇らせるには、ニチャア
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