戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話   作:エルカス

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「今日は随分と賑わっている。」

 

「雲の上の人が姿を現すんですから一目見ようとする人が多いのです、落ち着きませんか?」

 

「そうだねアルベルタ、人が多いのは緊張するよ、君はどうなんだい?」

 

「人が多かろうと少なかろうと滅多に落ち着けやしませんよ私は・・・・」

 

「慌てている事を隠して普通と同じように振舞えているならそれはもう平常と呼んでも差し支えないと思うけどね。」

 

 

事前から告知はされていたけどこのイベントで首相自ら登壇して国民に演説をするという内容が発表されたのは今日の朝の事だった。

元から来賓客として招待されていた私達とは別に一目だけ見て行こうとする市民たちがぐるっと登壇場を囲うように立っていた。

会場全体で三千・・・いや四千と五百ぐらいの観客が集まっている。

 

 

「紳士淑女の皆さまお待たせしました、ここに第29回民族結集大会の開催を宣言します、まずは連邦構成国各位の地方政府による挨拶がありその後にブロズ・ヨシップ首相による演説を予定しています。」

 

「ちぇ何だよ、首相様は後か。」

 

「さっさと首相をだせ~!」

 

「生活苦しいぞ~!」

 

 

外周にいる一般市民からは早くも不満が飛び出し司会の歯切れを悪くした。

周りにいる上流階級の奴らは品性が何だかとか生産性のない妄言を吐いている。

少し感情を乱されたけど取り合えず目の前のイベントに集中する事にした。

 

 

「皆さんこんにちは、ギリシャ自治政府を代表する――――――――」

 

 

地方政府の挨拶は発言力のある順に登壇した

『連邦の銃後を支えたバルカン最大の工業立国ギリシャ』

『忌み嫌われた難民を最も受け入れたブルガリア』

『戦争の最も苦しい時期を支えたセルビア』

『連邦の他にない部分を補なったルーマニア』

『影の薄いアルバニア』

『よく存在を忘れられるモンテネグロ』

そして最後に・・・・・・・。

 

 

「皆さんこんにちは、難民各位を代表する―――――――――」

 

 

『10カ国を超える亡国の難民を代表する何処かの誰か』

 

他の代表の話はまあ少しは真面目に聞いていた周りの招待客だったが最後の代表の時はまるで意に介さないようにお喋りを始める。

その状況を御せる権力もない難民代表は苦笑いでなおかつ小声にセリフを消化してさっさと降壇した。

一般聴衆客からはゴミが投げつけらたせいで掃除の為にプログラムが数分遅延するアクシデントもあった、何処の国も扱いは酷いがまあ寛容な方だと思う、代表が一応いるのだから。

 

 

「この国の人達は優しいな。」

 

「何処が、目壊れてるの?」

 

「目が壊れていたとしても君達以上に見えるよ。」

 

「異種族理解が出来ない?・・・・これは優しさじゃない、茶番って言うの。」

 

「大人のお遊戯を見に来るほど君は道楽者じゃない事は知っているよ。」

 

「・・・・・」

 

「明日が楽しみだよ、ホンモノの優しさを持った権力者がこの国にはいる、君の国や他の国にない可能性だ。」

 

「ええ、とっても・・・・大切だと思う、・・・・・嬉しい反面、どうして私の国じゃなかったんだろうって・・・・いや私の国もきっとそうだったけど台無しにしちゃった・・・・他ならない私達が。」

 

「君達のせいじゃない、我々のせいだ。」

 

 

バルカン連邦という国を知ったのは何もかも終わった後だった。

汚染地域の国際調査団にも代表を送ってこなかったし色々要請しても忙しいと躱されていた謎の国家だったから。

その実態は把握しきれない多様性と人間の横柄さによって傾いた古城だったのだが・・・・。

 

欠点と言うか弱点である多様性が別の形でこの世知辛い世界を生き抜く突破口になる可能性があった。

他の同一性を強制する国家と違いここには個々人への多様性を擁護する精神があったから出来る事だ。

もちろん皆が皆他の人を受け入れる寛容さを持ち合わせている訳ではない、理想とは程遠いレイシスト(差別主義者)ばかりだけどそれでも希望はあった。

 

 

「お待たせしました、バルカン連邦第五期主席宰相のブロズ・ヨシップ氏です!」

 

「「「「「パチパチパチ」」」」」

 

「食い物を配れ!」

 

「俺達から奪った金で食う飯は美味いか!?」

 

「ウンコ野郎!」

 

 

招待客の歓迎とは真逆に聴衆にはあまり人気がなさそうな雰囲気だった。

人より多く知る事の出来る立場からすればこの上なく好意を示したい人物であったけど接触はご法度なので陰ながらの応援しか出来ない。

 

 

「皆さま今日はお忙しい中でお集まり頂きありがとうございます。

この未曽有の国難の中、苦しい生活、理不尽な選択を強いた事をこの場を借りて謝罪します。

全ては我々政府の至らぬ甘さが招いた事です。」

 

「悪いと思ってるなら誠意を見せろ!」

 

「くちやっちょう!」

 

「はちだぞ、はち」

 

「怒りが収まらない方達もいますが今は本題を語らせて頂きます・・・・。

いえ失礼、まずは連邦に至上の貢献をして下さった皆様を紹介しましょう。

まず私の正面に座っているのが人類スノース戦争に従軍し不屈の闘志で人類の生存圏を守り抜いた勇士達です。彼らはあの恐るべき病原菌に侵された猛獣達に、手足を捥がれながらも刺し違える覚悟で我々の明日を守り抜いた方々だと言う事を私は知っています。皆さん、どうか今日までの彼らの献身と、ここに立つ事の出来なかった多くの殉教者たちに向かって拍手を送りましょう。」

 

「パチパチ・・・・・」

 

「どうされたのですか皆さん!さあ一緒に!」

 

「「「パチパチパチ」」」

 

 

言われるまで気付かなかった、最前列はどうせ太った豚ばかりだと思って見る事すら控えていたけど見てみたらいるのは兵士なのに腕や足を失った兵士達だった。

いたら大体はうるさく騒ぎ立てる存在だと言うのに彼らは今までまるで静かで普通の人に溶け込んでいた。

きっと本当に命を賭けて戦った有志なのだろう、もしサクラだったら今すぐ死者たちの名誉のために私が叩き殺しに行くつもりだが・・・・

とにかく私は首相の掛け声と合わせて拍手をした。拍手の勢いがあまり良くないのは世間が兵士に対する心情を形容しているようで大変不快だった。

 

 

「ありがとうございます、続いて彼らの後ろに見えます男女は規格も種類もバラバラだった我が国の銃器類や兵器に規格と言う魔法を付与し大量生産を可能にした技師たちです。

彼らの不断の努力と果てを知らない改良のおかげで兵士一人一人に脅威と戦う力を授けたのです、さらに後ろにはその兵器を不眠不休で作り続け、片手一つで未来の子供たちを育て上げた工場労働者達です。

彼らと平和を見る前にこの世を去ってしまった先駆者達に向かって拍手を!」

 

「「「「パチパチパチ」」」」

 

「続きましては連邦形成に当たって軍隊統合に邁進した将校の方々、病原菌の拡散を必死の思いで防いだ医療関係者の方々、科学研究者の方々、技師、建築家、教員に公務員、各省庁の職員。

国家総動員と言う狂気の戦争形態の維持に貢献し人類に勝利をもたらした功労者です。皆さんが皆さんに最大限の賞賛と感謝を、これ以上の言葉は無粋でしょう、拍手をお送りします。」

 

「「「「「「パチパチパチ」」」」」」

 

 

流石政治家なる生き物はお喋りが上手だ。こうやって大衆の心をキャッチして支持を取り付けるのか。

もう随分と自身から湧く事のなかった熱気がすぐそこまで来ている感覚だ、頬とか耳の先が熱くなりならがら拍手を続ける。

恋をする時の感覚に似ている、少し若い時の事を思い出して気恥ずかしくなる、きっと皆でこの先の光景を見たら冗談抜きで泣いて喜ぶと思う。

興奮する自分を抑え込もうとするけどワクワクして腰が浮いてしまう。

 

 

「我々は今日に至るまで決して一人では達成できない難題に対し、常に団結と献身を以て挑み勝ち続けてきました、途方のないの労力が払われ、報われる日を今か今かと切望するの気持ちは皆の共通意識だと確認します。

戦争が終わり平和な世の中が舞い戻ってきた時、昨日よりも良い暮らしが出来ると期待せずにはいられませんでした、私もその一人です、しかし現実はそうはなりませんでした。

様々な欲望と駆け引きの末に我が国の食料供給体制は破綻し国難が始まりました。兵士の方々と多くの人々に理不尽と搾取まがいの貢献を強いることによりこの国は今日まで生き永らえてきました。」

 

「分かってるじゃねえか!」

 

「くたばれ!」

 

 

自己批判が始まると少し周りがざわめき出して文句を言い続けていた一般市民は半笑いになりながら文句を言い続けていた。

空気が怪しくなる中でも演台に立つ首相は顔色一つ変えずに寧ろ不安げに彼を見守る人々に朗らかな笑顔を返しながら一息ついていた。

 

 

「暗黒の時代、苦難の時、国難は未だ続ています、水面下の状態ではそう実感する事は出来ませんが連邦は取るに足らないきっかけで滅ぶ程に衰弱しています。

私は屍を築き上げてこの国々を守り抜いた父や祖父の為にも彼らと同じように護るという責務があります、しかしそれを皆さんに強要する事は出来ません、連邦は絶対君主制ではないのですから。

だから私はこの場にて皆様にお願いしたい。どうか私と・・・・我々と共にもう少しだけこの国を支えてくれないかと!苦難の嵐を脱するために今しばらくの忍耐を許してくれないかと!輝かしいであろう未来とまだ見ぬ子達の為に!」

 

 

首相は少し大袈裟すぎる身振り手振りをしながら演説していると思ったけど眼前から感じる気迫を知れば寧ろ控えめとさえ言える感情表現だった。

願い事を一つ言う度に響かせる音の演出は少し臭さを感じたけど形のない約束事を実感させるには良い手法だなと感じる。

私はすっかり見入っていた。見入っていたからこそ衝撃も大きかった。

 

 

 

 

 

 

「パァン――――」

 

 

他の人と同じように驚き、そして恐怖を抱いた。

今更銃声の一つに臆するような弱虫じゃないと思っていたのに私は全然子供のままだった。

鳴り響く音に肩を震わせた、そして注視していたブロズ・ヨシップ首相が演台から崩れ落ちる様をただ見ていた。

 

 

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