戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話 作:エルカス
「何だカフカ、お前・・・・わざわざご丁寧に帰って来たのか」
「命令は遂行しろと、教えられました」
家に帰るまでの道中の事を少し思い出す。
教官に途中で降ろされて無責任に解散を命じられたけど私は一直線には家には帰らずに基地に帰投した。
恋しかった訳ではない、ただ横着な行動をすると後で蒸し返す面倒者がいるから、
そんな奴らに因縁をつけられて文句を言われない為に、命令に従った。
「ここにいても何も面白い事はないぞ、お前は帰る場所がないのか?」
「あります」
「なら、帰ると良い、聞いたかもしれないが戦争終わったんだ、めでたいだろ?」
「そうですね」
教官のはぐらかしたような喋りに粛々と言葉を返す、正直会話なんてせずに帰っても良かったけれどこれは何かあると踏んだ。
フラストレーションの擬人化である教官の事だから、素直なのは変だ。
何か私達に対してやましい事があるのではないかと勘繰っていたのだ。
「正式な書類と役所の判子で徴兵された私達はそう簡単に解散できるのでしょうか? 手続きは必要ないのでしょうか?」
「・・・・・・・やっぱり俺はお前が分からないな、お前は無能な怠け者なのかとどうか」
息を吐くように文句を言われる。
ああこの感じだ、これがノーマルな教官だ。
決して「戦争が終わったぞお前ら!両親が待っている家にさっさと帰るぞ~!」な人ではないのだ。
「さて、・・・・まあ正式な手続きを踏めばご褒美が出る。
ここに戻って来た愛すべき無能な怠け者、家無し共への報酬だ。
もっとも真に打算で戻ってくればそれはもう無能ではないがな」
「・・・・・・・・・」
教官はポケットから雑にお金の束を取り出して私に渡す。
しわも多いしぐしゃぐしゃだが確かにお金だ。
一人分の退職金にしては多い気がするが、教官が目線で私の後ろで待機している他の子達を示すのだからこれはきっと全員分のお金なのだろう。
たぶんきっちり人数分に分けたら二日間はお腹を空かせない量になるだろう。
「良かったな、兵士になって良い事あったな、じゃあな」
「・・・・・失礼します」
多分、帰った沢山の子のお金は教官の懐に入っている。
だけどそれを特に追及する事はなかった。
雑に渡されたお金も本当にそれだけの額なのかも確認する事もしなかった。
お金を皆で分け合った後、皆は静かに家に帰った。
その時ばかりは皆、やっと実感できた戦争終結に感銘を受けて怒るに怒れなかったから。
「カフカ、あんた復学する気はないのかい?」
いつものように作業をしている合間に、非日常に溢れていたあの日々の事を回想していた最中に、祖母が聞きなれない提案をしてきた。
それどころか名前を呼ばれる事すら滅多にないので少しびっくりしている。
「ん?」
「学校だよ、何だい嫌いなのかい?」
何を突然と思った。
学校は嫌いと思ったことはないけれど、行く行かない以前にそれと関りを持つことを全く思っていなかったせいで返答に困った。
それにイマイチ行った所で何が変わるのかよく分からないのが正直な感想であった。
私達は基本的に13歳で徴兵適齢期と見なされ動員される。
物心ついた時から分かり切っていた事で、それが当たり前だと思っていた。
実際当たり前だったのだが、戦争が終わったから今は昔の事だ。
もう当たり前じゃない。
「兵士になったらそこで終わるってばかり考えてたから・・・・ちょっと分かんない」
「・・・・・じゃあよく分かっている私が決めても良いって事かい?」
「良いんじゃない?」
「馬鹿!そんな簡単に自分の将来を他人に決めさせるんじゃないよ!」
「え、えぇ・・・・?」
長い物には巻かれろだとか年長者の言う事は何たらで、未熟者で無知な人に決めさせないのは普通にいい方法だと思ったのに、何故かそれは違うときっぱり言われた上に怒られた。
何故だろう?そもそも私は無知だから相手の立場に立てないから、その人の気持ちを考えるという方法は使えない。
困った、なんと言えばいいのだろうか、正解が分からない。
「アンタを責める訳じゃないけど学校はこれから先の人生を変える大事な選択なんだ、私があんたに兵士の学校行けって言えばもう一回馬鹿みたいに兵士になるための勉強をするのかい?!もう散々してきたのに!」
「でも言わないでしょ、そんな事。だから良いんじゃないって」
「・・・・・・・・」
「私学校とかよく分からないし」
「あんたは小学校で何を学んできたんだい」
「算数と文字の読み方と・・・・後なんだっけ」
「・・・・あんたを安っぽいクソ教育を受けさせたことを後悔してるよ、良いかい学校っていうのはね、さっきも言った通り人生を変える大事な選択なんだよ?」
「なら猶更、私じゃ決められないでしょ?」
「その達者な口があってどうしてアンタはそんなに馬鹿なんだい・・・・?このまま一生ここで稲狩って墓にでも入るのかい?」
「戦争で死ぬよりずっと良い、この上なく恵まれてる、これ以上なんて贅沢だと思う」
「・・・・・・・・・・・・」
「それに私が学校行ったら困・・・・・あ、」
成程そう言う事か。
祖母は私が帰って来るなんて想定していなかった。
私だって帰ってこれるとは思っていなかった。
きっとお手伝いさんを雇って人手が余ってしまっているんだ。
直接私に言うのは憚れるだろうから、何とか正当な理由で仕事をしなくていい口実が欲しいのだろう。
ともなれば答えは一つ。
「やっぱり私学校に興味出て来た!全く知らないけどどんな物か調べたくなったかな、この返事は後で答えてもいい?」
「構わないよ、それと学校に行く事は贅沢じゃなくて人として生まれたら享受するべき当然に利益だよ、覚えておきなさい」
「分かった」
これぞパーフェクトコミニケーション、自分の洞察力に思わず惚れてしまう。
しかし言ってしまった手前有言実行をしなければならない。
近いうちに都会の方に行って学校について調べる必要が出て来た。
成程確かに急に戦争が終わっても困る訳だ、少し喜べなかった彼らの気持ちを理解できた。
「困ったかなぁ・・・・」
僻地で育った癖か、ない物は大抵都会に行けばあるという単純な思考の元、都会に学校を求めて来た訳だけど、都合よく学校ソムリエが歩いている訳もなく途方に暮れている。
昼ご飯で貰ったパンにかじりついていると知らない人が声をかけて来たりしたけど特に学校に関する事は知らない人達だった。
足りない頭を今一度回転させてこの窮地を打破する方法を考える。
「う~ん、そうだ・・・・!何か困ったら役所・・・・!」
市民国民の生活を司る役所、何をするにしても役所を通る事になって待ち時間が鬱陶しかったけど学校に行くなら当然多分役所も経由する。
ともなれば必然的に彼らは学校にもある程度詳しいはずだから当てもなく聞き込みをするより余程有意義だ。
と、いう事で道行く人に役所の場所を教えて貰おう。
「ここが役所だったのかぁ、前より人が多いや」
いつ見ても全員似たような角度で俯いて会話をする職員、変わりなく待機場所で待機してる溢れんばかりの市民。
自信をもってここは役所だと断言できる。
運が良い事に看板に相談窓口と書いてあったのでそちらに向かう事にした。
「っげぇ・・・人多い・・・・多すぎない?」
メインホールから少し歩いた場所に出るとまあ座席から溢れる量の人達が窓口が空くのを待っていた。
果たして今日中に帰れるのだろうかと言う不安を抱いた。
待っている人達は皆何か相談する悩みがあるのか随分とやつれた顔をしている上にどんよりとした空気だった。
「就労相談窓口に御用ですか?」
「あ、あの私は学校とかの相談で・・・・」
「最後尾はこちらとなっております、列を乱さず並んでください。」
「は、はい・・・・」
何だが違う窓口な気がしたけど私は言われるがままに列に並んだ。
「――ここに戻って来た愛すべき無能な怠け者、家無し共への報酬だ――」
人の退職金を着服する人間の屑がこの野郎・・・