戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話 作:エルカス
親展/極秘/対外諜報局へ
題名:作戦名「混合色」の途中経過報告
日時:1952年6月
目録
1.元閣僚の今後
2.連邦議会の脆弱さ
3.協力組織との接触
4.今後の展望
1.挙国一致内閣閣僚の始末
我々と友好関係を築き多額の援助を『個人的に』行っていた政治家の利用価値は著しく低下しており所定の手順に従い処理するべし。
大臣各位を含む首相などの重鎮は第三国に亡命する途中で消息を絶つ事に成功。
国内に残る元協力者の処理も速やかに行うべし。
2.連邦議会の脆弱さ
同国の議会は国民支持、企業支持、他派閥支持が分散しており非常に不安定な状態にある
現政権においては半数の国民支持、大まかな企業支持、他派閥においては不支持が多数を占めている
社会情勢と国家運営の乖離が予想されるため予想外の事態になった際には大幅な計画変更を強いられる可能性がある。
3.協力組織との接触
「混合色」の分離を達成するために連邦内部にある過激な思想を持つ団体と接触し国家解体を助長する。
武器供与は控え資金提供を主に行う、武器供与に関しては兵器貸付法に乗っ取り生産された未出荷品を提供するのは良しとする。
諜報員からの報告では月末に行われる政治大会にて暗殺者を用いた国家転覆を図るとのこと、駐留各員は注視されたし。
4.今後の展望
上記の試みが失敗に終わっても連邦は時間の経過と共に崩壊する予想が立てられているが第三国の介入が懸念事項である。
「友好国」であるアドリア国は未回収地域の占領のみで合意に達しており、然したる誤差である。
しかし連邦に領土を簒奪されたと主張するオスマン帝国や世界革命を標榜する山籠もりのアカも同地を虎視眈々と狙っているため臨機応変で早急な決断が必要とされる可能性もある。
国家崩壊後は混迷した地域情勢を鮮明に報告する事を各位に要求する。
報告終了。
この国を、と言うよりはこの地域の特異性を見誤っていた。
欧州が破滅する大戦争の着火剤となり、今は平和への険しい道に土砂崩れを起こし、我々を窮地に追い込んだ。
首相が暗殺されたと事件は大々的に報じられ、すぐに全世界の知る事となった。
その結果・・・・
「また株価が・・・・」
「お終いだ・・・こんな失敗国家、さっさと捨てれば良かった・・・」
敢えて名前を付けるとしたら第二次7月危機だろう、まあギリギリ6月なのだが本格的な悲劇到来は月をまたぐからそう呼ばれる。
一回目は何なのか言う必要もないだろうが、察しの悪い誰かに教えるとすればサライェボで放たれた銃弾に対するオーストリアの報復最後通牒の反撃と言っておこう。
もっともその時ほど敵は明確ではないし混乱具合は比にならない、今回が酷すぎるのだ。
「ボッ!」
「あ、お、俺の家が・・・・」
「クソッタレの兵士は俺達の国から出て行け!」
「蛆虫兵士は野垂れ死ね!」
「国に巣食う害虫め!」
連邦の暫定首都でさえ治安維持は失敗し市内は暴力的な民衆の怒りの渦に包まれた。
首相を暗殺したのが兵士だったばかりに関係のない兵士達は怒り狂った市民たちに襲撃され、家を燃やされ、地面を引きずられ袋叩きにあっていた。
最悪な事に警察組織もそれを静観・・・寧ろ助長し銃声が鳴り響く事も珍しくなかった。
首相の死により水面下であった人種、民族的対立が浮き彫りになってしまったのだ。
「邪知暴虐なハプスブルク帝国主義者の末裔である兵士は常に我々の寝首を掻こうとしている!今必要なのは宥和ではなく奴らに対する教育だ!」
「そうだ!」
「純然たる連邦に万歳!」
「我々が政権を任された暁にはあの危険生物と市民の皆様との隔離を約束しよう!そして彼らに然るべき対価を支払わせ皆様に還元します!」
「いいぞ!」
「ゲオルギー愛してる!」
「お前がナンバーワンだ!」
「ありがとう!ならば私は多くの声援に答えましょう!選挙を待たずして行動に!今日から隔離を!続く明日も隔離を!未来永劫の隔離を!」
街道では、スーツを着た顧みられる事のない筈の過激思想の持ち主達が市民から声援と熱いラブコールを受けていた。
白昼堂々と同じ肌で、もしかしたら同じ血が流れているかもしれない兵士達を、未開文明の原始人のように扱う事が声高らかに叫ばれていた。
狂気としか言い表せない悍ましい光景だった。
「このサタン野郎!」
「死んじまえ!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「惨めな演技が上手だな!」
「ピーピーうるさい奴め!おい縄持ってこい縄!」
「ごめんな、っひ!?や、やめて何をするの!な、なんでこんなひどい事できるの!?私何もしてな・・・あぐぅ!?」
「生まれてきたことを後悔させてやる!」
普通は車で家に帰るのだが、当然走る道なんてもう使えた物ではないので歩いて帰る事になったが、道行く先々で残酷で悲劇的な暴力を見た。
今もちょうど・・・たぶん近くで雑貨店を経営している兵士の店が破壊され略奪され店主と一緒にその妻・・いや、娘が吊るされた。
兵士は普通の人間と違い首吊りで殺す事は出来ないので恐らく・・・・・・。
「おらぁ!」
「俺達の怒りを受けろ!」
「へへ!楽しくなって来たなぁ!」
先んじて隣に吊るされていた・・・腫れあがった人間と思われる物体から想像は付いていたが・・・。
暴徒たちはまるで童心に戻ったかのように笑みを浮かべている、ピニャータだとでも思っているのか・・・・。
「バキン!」
「っ痛ってぇええ・・・固すぎだろこの人外共・・・・」
「代われ次は俺の番だ!」
普通の人間より耐久力があるせいで死ぬ事は難しい。
暴徒たちが暴れ疲れて去る事を期待できるがあの殴打待機列を見てしまったらとてもじゃないが・・・・。
ふと目を横にやる、誰もいない雑貨店、散乱する商品、少し今日の夜の事を思うと悪いと分かりながらも体は迷いなくそこに踏み込んだ。
「ど、どうせ略奪されるし・・・もう食料とか当分買えないから・・・・・」
棚に残っている缶詰や地面に落ちて少し汚れた商品、自身の晩飯を拾い上げる。
どうせならもう少し・・・と思い店の奥に踏み込んだ、自分の行いは正当とは言えずとも不当ではない、許される行為だと確信しながら進む。
「ちょうどい―――いっひ、ひ!?」
腰を抜かして拾い上げた物を落としてしまう、奥には人間の死体が一つあった。
頭部の中身が漏れてぐったりと壁に横たわっている年配の女性。
恐らく従業員で普通の人間だ、何故なら体の損壊的に兵士では脆すぎるから。
「あ、が・・は、はっは・・ぁ・・ああ、・・・・」
突然恐怖が湧き上がる、一瞬振り返る、暴徒たちはまだ人間ピニャータに夢中だ。
慌てて落とした物を拾って家に走り帰った。
一歩間違えれば自分も吊るしあげられていたと肝を冷やした。
暴動は三日三晩続いた。
初日は兵士や難民系への襲撃が相次ぎリンチや見せしめの吊し上げが行われた。
二日目には迫害される事に我慢できなくなった兵士たちが徒党を組んで暴徒たちを嬲り殺しにしていた。
聞くところによれば始まりは3人の丸腰兵士に50人近くの暴徒が略奪を働こうとして返り討ちにあった事だそうだ。
反動的な暴動は瞬く間に広がり兵士系の人達が徒党を組み始めた事で三日目には武装した警察や正規兵が投入され、市内から兵士たちが一掃された。
そして一週間の終わりには市内の治安が一先ず回復した。
「先週の荒れ具合凄かったな」
「俺の家なんて窓ガラス三枚も割れたんだぜ?弁償なんて叶わないさ、自腹だよ自腹」
「隣の家の奴が兵士だったせいで私まで巻き添えられる所だったの、助けてくれ~って友達みたいに懇願してきたのよ本当に迷惑よね?」
「やばいなそれ、お前も一緒にそいつをぶっ叩いた方が良かったんじゃねえか?」
「ええだからもう家から
「ワイルドだね~容赦ない」
「あいつらに容赦なんて必要ないさ」
暴動の間は出勤が出来なかったので久しぶりに登庁したら同じように出勤できなかった同僚の世間話が聞こえて来た。
逮捕者などが続出したがやはり同国の市民は優先的に見逃されていると確信する。
警察の逮捕優先順位はまず初めに兵士、次に難民、自国民には甘い目で見逃す。
「俺の地区じゃ逆上した兵士が10人ぐらい殺しててよ、本当に怖かったぜ・・・・下の階の爺さんが銃持って兵士の野郎を撃ち殺しに行っててよ」
「凄いわね、勇敢な人」
「熊用の猟銃だったから兵士の腕が簡単に吹っ飛んでな急に女々しく泣き始めるんだ、それで撃つのを躊躇った爺さんにこっそり近づいて・・・足の骨を折って殺そうとするんだ」
「まあ野蛮、慈悲の欠片もないのね」
「それを見てた俺とかご近所さん含めて飛び出してな、爺さんを助けてクソ兵士の息の根を止めたんだ、すぐにでも警察から感謝状が届くだろうよ」
「市民の鏡ね、カッコイイ!」
「よっ!国民英雄!」
現時点で集まっている市内での暴動報告を纏め上げれば兵士や難民系の死者は84名、一般市民は400名以上が命を落としている。
また鎮圧に入った警察や正規軍でも10人の死者を出している、逮捕者は200名で現在進行形で増加中だ。
これが全国的に巻き起こっている思うと身震する。担当大臣は判子の押印で手首に病気を抱える事間違いなしだろう。
最初の報告書にあった作戦名は
他にも現実からのパロディがあります。
所でジョージとゲオルギーってスペル似てますね(小並感)