戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話 作:エルカス
「カチャリ」
鉄格子の一つすらない部屋に放り込まれて十数分。
やっと事態が進むようだ、果たして私の裁量次第でこのどうしようもない状況が好転するのか。
無駄な足掻きになるかもしれないけれど何もしないよりはマシだ。
「やあ待たせてすまないね」
「そう思うのでしたら直接赴いては如何ですか?」
「・・・・さて、本題に入ろう」
ごめんなさいと思う気持ちなんてこいつらにはないのだろう。
人の家に上がり込んで我が物顔で闊歩して、人を人とも思わず公権力でねじ伏せるのだから。
「隣の人だれですか、何の説明もなしですか、不当な拘束は憲法違反ですよ」
「覚えたての知識を披露したいのは幼子の性なのか、まずこれは何の問題もない。
隣の彼はただの筆談記録係だ、君の発言の一字一句を正確に記録に残す。
発言には気を付けることをお勧めするよ」
「・・・・・・・」
あんまり知識が無いのでそれらしい事を言ってみたが全く効果なく、向こうの勝手で話が進んでいく。
ああこいつらもさっきの二人の同類でダメだなと私は諦観した。
「さて、ブレハンズ・カフカ、君の祖母は犯罪行為を犯していた」
「っ・・はぁ」
おばあちゃんの名前が出される度に胸が締め付けられる。
今はどこで何をしているのか、これからどうなるのか、何も分からない。
私は得も言えぬ不安の渦中にいる。
「直近に可決された『雇用機会均等法』、兵士だけでなく普通の人も同じくらい雇う決まりの法律だが・・・君の祖母は法律を認識しながらもそれに違反し続け操業を続けた。」
「・・・・」
「近隣住民の通報により違反行為が発覚し強制執行の為、指導員が派遣された、兵士の従業員と君の祖母は派遣員を害した、ここまでは理解できたかな?」
「何も理解できませんよ、あなた方はどのようにして祖母が法律を認識していたと証明するんですか?それと強制執行って何ですか?」
「前者の回答は後回しにしよう、後者の強制執行はこちら側が解雇書類を用意し違反企業に訪問する事だ。安全の為に多少の武器は携帯している、なんせ相手が兵士だからね。」
「・・・・」
果たして携帯していた武器は自分の身を守るだけの物なのだろうか。
往々にして銃は守る事よりも誰かを傷つける代物である、それを扱うのがこんな奴らなら尚更に。
「さて後回しにしていた前者の答えだが、君の家にはラジオがあるね」
「どうでしょう」
「証拠品として押収している、言い逃れは出来ないよ」
「ラジオがどう関係して来るか私には分かりません。」
「法律の可決と施行は様々な媒体を通じて告知をしている、知らないからと言って無罪という訳にはいかないんだ。」
「ならあなたは発言を訂正するべきです『法律を認識しながらもそれに違反し続け操業を続けた』ではないですよね?警察組織の精神は理解しています、あなた達は疑わしきを罰せれない、確かな証拠でしか裁けない、冤罪ですよ、れっきとした。」
「ふん、・・・・おい止めろ」
「カキ、カキ・・・ボボ」
「止めろと言っている!」
「え・・・あ、・・・申し訳ありません警部」
尋問官は前のめりな姿勢から後ろに倒れ込んでずっと筆談を記録していた職員の手を握って物理的に書くのを止める。
そして私の言葉に溜息をついて徐に煙草を取り出してそれに火をつけた。
隣の職員は困惑している、狭い牢獄に不快な匂いが充満する。
「ふぅ・・・・・すぅ・・・・ふぅ~・・・」
何度か煙草を吸って私に向かってその臭い煙を吐く。
重苦しそうに立ち上がり部屋の四隅を歩き回る、一周、二周。
三週目にして私の真後ろで立ち止まる。
「ガゴン!」
「あ、・・・くぅっ・・・・」
直後、私は頭を鷲掴みにされて一回机に叩きつけられる
「口には気を付けろよ?」
「あ、・・・いっ・・・・た」
「返事はぁああ!」
「ガゴン!」
「い、だ・・・ッ・・・!」
忠告に答える暇も与えられずに二回、連続で三回叩きつけられる。
叩きつけられる度に机が振動し僅かなへこみが出来る。
筆談員の記録書類などが衝撃で落ちる、そして私を叩きつけるクソ警察は加えていた煙草を私の頬に押し当てる。
「あづ・・・あづい・・・・!」
「返事はぁ!」
「わか、分かり・・・あづ・・・ぅ、あぐ・・・や、やめて・・・っ、嫌」
「ごめんなさいが先だろうがぁ!」
「ボキ!」
もう一度叩きつけられる。
「ごめ、ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・・や、やめて・・・下さい・・・ッ」
反射的に口走る謝罪、余程私が無様に見えたのか尋問官は少し微笑んで手を離し席に戻った。
呆気に取られていた筆談員も少し遅れて着席し落下した書類や道具を拾い上げた。
「もう一度言おう、君の祖母は法律を認識しながらもそれに違反し続け操業を続けた。」
「・・・・はい」
「極めて悪質な犯罪だが罪状はそれだけではない、強制執行の為の派遣員10名に兵士従業員と共謀し暴行を加え殺害未遂まで発展している。」
「・・・・・・・」
「返事はどうしたんだ?」
「・・・・・・証拠は」
「はぁ、お前はスズメか?鳥類並みの退廃的な頭なのか兵士はどいつもこいつも!」
「ちょ、鳥類の方が進化してますよ、哺乳類より・・・ッ」
「・・・・・・・」
私は再び構える、痛みに耐える準備をする。
今度は負けない、煙草の熱さになんて驚かないように歯を食いしばる、覚悟を決める。
「まあその通りかもしれないな・・・・だが、ここでは・・・・俺達が法律だ、あると言えばなくても存在するし、ないと言えばある物も消える。全ては機嫌、そう気分次第、・・・・・そして俺は今、この上なく気分が悪い。」
「それは・・・・ご愁傷で」
「気分が悪かったら・・・・・悪い事は重なる、例えば見誤って撃つ必要のない犯罪者を射殺したり、機嫌を良くするために行動をする、お前を殴ってももう良い気持ちはしないな、そうだな~・・・・お前がもっと痛みを感じる方法を俺は少なくとも一つ知っている。」
「・・・・・・・!」
「無期懲役、死刑・・・・銃殺、もしかしたら国家反逆罪で族滅・・・・なんて」
「・・・・・っ、・・っ・・・・・っ!!!!」
「まあとにかくお前の祖母は犯罪を犯した、面倒だから結論を言おう、お前がこの罰金を支払えない場合、お前の身柄を拘束する。」
「じゃあ今すぐにし、してみたら良いんじゃないですか、こんな茶番終わらせて」
「ああ全くその通りだ、だが俺は職務には真面目な警官だ、お前が金を作るまで猶予を与える。」
「無理です、どうぞ逮捕してみてください、もっとも私を裁ける法律があるかは知りませんが・・・ッ」
「・・・・っち」
法律なんて全く知らないけど相手の舐め切った反応を見る分には私が罰金を払えずに逮捕されても裁ける法律はなさそうだ。
ただの馬鹿な子供だと侮ってポーカーフェイスもしない奴はチョロイ、このまま抜け穴を探してこの馬鹿の思い通りにならないように抵抗をしないと・・・
「舐めやがってクソガキィ・・・まあいい、お前を処罰できないのはまあ事実だ、延々この監獄で取り調べを受けると良い。では私は失礼するよ。」
「え、あの警部殿・・・・・・」
「お前は残って見張れ」
「カチャリ」
「「・・・・・」」
「・・・・・それで、次はあなたが私に八つ当たりをするんですか。」
「いや・・・・僕は・・・・君を見張るだけだ・・・・・・」
「そう・・・・い・・・っ痛・・・」
一先ず息を付いて痛む頬を触る、かなり熱いのを押し当てられて傷になっている。
水とかで冷やそうとしたかったけどここには何もない、・・・・何もない?
「ま、待って、いつまで私はここに・・・・・」
「・・・・・・・音を、あげるまでだと思う」
「・・・・・・・・・」
どうにせよこの状況は終わっていると分かった、トイレとかご飯とか水とかも貰えない。
ここで野垂れ死ぬ前に懇願したら相手の思う壺、ドアを壊して出て行ったら何か因縁を付けられて処罰。
詰みだ。
「こんな・・・こんなの・・・っ!・・・・良心は痛まないの!」
「・・・・・っ」
「拉致監禁強盗!市民の安全を守る警察が聞いて呆れる!ただの国家公認の暴徒じゃない・・・・!」
「黙れ・・・騒いでも良い事はない・・・・」
「ならどうすれば良くなるの・・・!」
外の事も分からない、おばあちゃんの事も分からない、時間も分からない、何も分からないままお腹が空いて弱っていく。
10時間ぐらい経過したら見張りの人が変わった。
見張りに残された最初の人とは違って交代の人の顔つきは私を尋問した人と似たような物だった。
「ああ、飯うめえなぁ・・・・うっぷ、ああお腹いっぱいだぁ・・・」
私の目の前で当てつけの様にご飯を食べていた。
わざとらしく食べ物を少しだけ残して皿を傾けて眺めている。
その眺め方だと私に一番見えるから・・・まぁ、そう言う事なのだろう。
誘ってる、乗っちゃだめだ、期待するだけ無駄だから・・・堪えるんだ私。
「捨てるのも勿体ないしなぁ・・・あ、何だもの欲しそうな目で見て?」
「あ、・・・・う・・・・・っ」
「欲しいならやるよ、ほら」
「ベト・・・・」
「あ・・あ、あ・・・!」
見張りは重力の作用を忘れたかのように皿をひっくり返して残飯を地面に落とす。
とても清潔ではない・・・・汚い地面に落ちたご飯は流石に食べる気力を削がれる。
伸ばしかけた手が少し引き戻される。
「ベチョ・・・・ベチョ」
「ほら食えよ」
「ゴクリ」
「ぶははは!ほら食わねえのか!」
徐々に弱っていく意識を活用して最善の手を考える。
奴らは私を軟禁して助けを求めるまで放っておくつもりだ、だけどいつまでもここに置いておくことは出来ない。
この閉鎖された部屋からでも絶え間なく稼働している警察署の雑音は聞こえる。
多分、逮捕者とかが多すぎて忙殺されている、昨日と比べて行きかう人も増えている。
女一人とはいえ部屋を占有してずっと置いておくのは難しい筈だ、だから私にとって時間は敵だが警察共にとっても時間は敵だ、つまり私は敵である時間を遠ざけて奴らを先に干上がらせるのが最善手、と考えた。
「う、ゴクリ!モグ、う゛」
「ん?は・・・?」
「ベチョ・・・グゥ・・・・モグ・・グ・・・・」
「なに食べてんだテメエ!」
「うう゛!?」
口にこれでもかと頬張ったせいで予期せぬ衝撃で少し吐き出してしまう。
足蹴りにされて横に転がっても私は何とか口を噛みしめて出来るだけ食べ物を呑みこもうとした。
それが気に食わないのか私の背中を蹴り続ける。
「オラ!誰に断って食ってんだ!っふ、やっぱり兵士ってのは豚そのものだな!何でも構わず食っちまうんだから暴食野郎め!だから煙たがられるんだよお前らは!おい聞いてんのかゴルァ!この不浄のクソ豚がァ!」
「ぶぅ・・・・!ごへぇ゛・・・・・おげぇ・・・」
「っくははは!ついに豚みたいな鳴き声に・・・これはいよいよ不浄な生き物だな!殺されても仕方ねえ!」
「すぅ、う・・・っ・・・ぐ・・・ん、モグ・・・モグ・・・モグ」
「ックソ!面白くねえ奴だな、クソ!クソ!!」
「ベチョ、ベチョ・・ベチョ」
何故か突然蹴られなくなったのでゆっくりと口の中の・・・砂利交じりのご飯を飲み込む。
これと残っている分を食べればもう二日は・・・・と甘い希望を抱いて振り返ると・・・・
残飯は地面のそこら中に散って足跡がついて黒ずんでいた。
「ほら、飲み込むの辛いだろ?|食べやすく足でこねこねしてやったぜ、感謝しな?」
「あ、・・・うぁ・・・・う、・・・ぅう・・・!」
「どうした?感謝の言葉も忘れたのか兵士は・・・?ほら、言ってみろよ」
「・・・・・・・」
「本当に面白くねえ奴だな・・・はぁ」
踏まれてぐちゃぐちゃになった残飯に私が手を付けない上に端っこでうずくまったら見張りは面白みに欠けると唾を吐いて退屈そうに手を引いた。
ご飯は・・・・食べれそうにない、お腹を壊すとかにはならないと思うけど・・・・いや、食べてしまった方が良いのかもしれない、
考えてみれば今はまだ奇麗な部類だ、なら食べた方が良い、食べた方が・・・食べるんだ。
「ムシャ、グシャ・・・モグ」
「・・・おい、おいおい!食べやがった!ぶははは!食べてるぞゴミ残飯!便所飯未満のゴミ食ってるぜ!」
「ムシャ・・・モグ・・・う゛・・・ゴクリ」
「はは、は・・・・・はぁ、気持ち悪いな、お前らはやっぱり人じゃねえ」
見張りは思っていなかったのだろう、私が食べると、だからさっきみたいに食べるのを邪魔したりはして来ない。
最初は爆笑して卑下するように笑っていたけど私が食べる事に執着し続ける様を見て嫌悪感を抱いたのかしかめっ面で捨て台詞を吐いて明日の方向を見始めた。
食べてしまったせいなのか知らないけど次の交代の見張りの人はご飯を持ち込まなかった、次の人も、次の次の人も・・・・。
私達はどうしようもなく弱い、だからこうやって体を丸めて嵐が過ぎ去るのを待つしかない。
我慢するしか、ないんだ。