戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話   作:エルカス

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長い監禁によってカフカちゃんの思考力は鈍っています。
万全な状態なら逮捕されてるおばあちゃんが会いに来てくれる訳ないと考え付いてました。


44人生最初にして最大の過ち

「待たせたね、君に会いたい人を連れて来たよ」

 

「・・・・!」

 

 

荒んだ顔が一瞬晴れ晴れした物に代わり、俺の背後にいる人物を観測した事で見事に酷い顔に変貌した。

言葉にせずとも分かる、これは嫌いな人間を見た時の顔だ。

子供なのでまるで遠慮なく顔に出ている、ポーカーフェイスを知らない甘ちゃんだ。

 

 

「まあカフカちゃん久しぶり~聞いたわよ大変な事になったって、それにしてもまあ薄汚いわね~まあ兵士はこんな物でしたかしら」

 

「何の用ですか・・バンガーさん」

 

「貴女の助けになりたくてぇ~、あの酷い祖母よね知ってるわ、貴女を戦争に送って殺して、保険金でウハウハ生活送ろうとしてたんでしょ、帰ってきたら知らない養子が二人も増えて家から追い出されて本当に可哀想に・・・」

 

 

初出の情報・・・というよりは出まかせに近いな、普通に嘘だと言う事が知られているのか、小娘は敵愾心を剝き出しにしてババアを睨んでいる、最底辺の怪獣決戦をこんな間近で見ていたら変な瘴気に当てられて俺も頭を毒されそうだ。

少し下がってこの土人共の不毛な争いを観戦する事にした。

 

 

「何を勝手な事を・・・・・」

 

「まあ知らないの!?ブレハンズさんの所は有名なのよ、保険金詐欺!自分の夫や息子、息子のお嫁さんに保険をかけて死んだら手に入るの、それを使って私腹を肥やしていたのよ~」

 

「私達はいつだって貧しかった!」

 

「それは可哀想ね~搾取されていたのよ、ブレハンズさんに、ずぅ~っと見てたもの~、本当にカフカちゃん可哀想」

 

「ああ、そうですか」

 

「だから私ね、可哀想だから助けたいの、この書類にねサインしたら今すぐにでも解放されるのよ、じゃないとカフカちゃんも悪い人の仲間入りをして警部さん達に痛い事されちゃうわよ?それは嫌よね、私も心苦しい。」

 

 

どの口が言っているんだ、元々あの農場を通報したのはお前でこの窮地という名の茶番の脚本家、演出家もお前だろがと突っ込みたくなったが堪えた。

ついに相手の顔を見る事に耐えられなくなった小娘は俯いて怒りを抑え始めた、最初から閉じ込めずにこの妄言ババアを投下すれば良かったと後悔してしまう。

いやそれでは楽しい遊びが出来なかったからこれでいいのか。

 

 

「この書類がどんな物かも分からないのにサイン何て出来ませんよ」

 

「あら偉いわね~カフカちゃんは、でも大丈夫、これはおばさんがカフカちゃんの罰金を代わりに払うよっていう約束の書類なの、分かった?」

 

「私にはこの書類に無償とか無料とかの単語が見えませんね」

 

「・・・・・・よ、よ~く勉強してるのね、でも大丈夫、ちょっと法律が面倒くさくて直接そう書けないだけで本当にこれはカフカちゃんを助け――――――――――――」

 

「嘘゛をつくな゛!」

 

「カチ」

 

 

嘘にも程度があるようにこの調子だとダメだそうだと分かる。

一応は大人しく話を聞いていた小娘はついに怒りを抑えきれなくなった叫んだ。

喉がガラガラなのか酷い声だ。

俺は腰の拳銃に指をかけた。

 

 

「私はおばあちゃんが知っている以上にお前の事を知っている!お前が私達の土地を欲しがって色々昔から嫌がらせしてきたことだって知ってる!畑に塩をまいた事も!国に徴収される作物に手を加えた事も!今更善人面をするなこの極悪人!失せろ!」

 

 

「バン!」

 

「・・・・・まあまあ」

 

 

我慢しきれなくなった小娘が机を叩いてババアを威圧したが、全く効果はなく平然とした顔でババアは懐から何か取り出す、指サックでもはめて小娘を嬲るのだろうか。

 

 

「とっとと消えろ!何かと思って話を先に進めればこんな下らない企みを!成功する訳――――」

 

「バァン!」

 

「あ、っくぅ!?」

 

 

ナイフとかそういう甘い道具ではなくなんとババアは拳銃を取り出して小娘に打ち込み始めた。

一発目で小娘は大きく後ろによろめく、銃撃された腹部を押さえて尚もババアを睨み続ける。

だけれど腹部が血で滲んで痛みで顔を歪ませている。

 

 

「バン!バン!バン!」

 

「お、おいおい・・・マダムさんよぉ何処にそんなモノを・・・」

 

 

問答無用でババアは二発目、三発目と撃ち込み続け四発目にして小娘はついに壁にまで追いつめられてずり落ちる。

お構いなしに五発目、六発目と撃たれる。後ろに力を逃がせないので小娘は撃たれるたびに体全体が波打っていた。

最後にはもう倒れ伏していた。

 

 

「生意気な小娘が誰に向かって口をきいているの!身の程を弁えなさい!全く・・・・人が下手に出ればつけあがりやがって・・・・・あら失礼警部さん、おほほ・・・・」

 

「どうされましたかオスカール警部!?」

 

「あ、・・・うぅ゛痛゛い・・・誰か・・・」

 

「銃声がしましたが!?」

 

「何でもない、持ち場に戻れ」

 

「助゛け・・・うぅ、誰かぁ・・・ぁあ・・・゛・・・!」

 

「え、し、しかし・・・・・」

 

「何でもない、兵士とのいざこざだ、負傷者もいない」

 

「・・・し、失礼しました・・・・!」

 

「ッ・・行かな゛い――――――」

 

「お黙り!色目を使うんじゃないよこの様悪しい小娘!」

 

「あ゛、う・・・・!」

 

 

お代わりの足蹴りが小娘に炸裂して血をまき散らしながら盛大に転がる。

全くこのババアは何処に拳銃を隠し持っていたのか、ただでさえ惨めな小娘の体に6発全弾食らわせて・・・・まあ兵士だから問題はないか。

思ったより血も出ているしダメージが入ってるように思える、飯とか抜いたおかげかは知らんが反撃できそうな雰囲気はなかった。

俺は呻き声をあげる小娘の首襟を掴んで椅子に座らせる。

 

 

「こちらのマダムの折角の善意だ、ほらどうした署名しろ」

 

「うぅ、誰が・・・・する゛・・・もん、もん、かっ・・・・・ァ!」

 

「警部さん!話が違いますわ!どうにかしなさい!」

 

「どうにかと言われても・・・・ああ、カフカだったけな、家以上に君も自分の命が大切だろう?このままでは君死んじゃうよ?」

 

「お前達みたいな、く、クソ悪党に殺されて新聞の一面を飾れば私の勝利だ・・・・・!」

 

「飾れると思っているのか?」

 

「思いますね・・・・聞こえませんか外の声が、ここで発砲してくれてありがとうございます・・・・!」

 

「・・・」

 

『おい何があったんだ?』

 

『オスカール警部の客人が銃を乱射してたんだ、相手は兵士だったけど・・・』

 

『え、やばくないか?警察でもないのに・・・』

 

『署内だし・・・・兵士が何かしようとしてたのか?』

 

『いやそんな風には・・・まだ小さい女の子で・・・・だ、大丈夫かな・・・・』

 

「お前が『助けて~』と言っても何もなかったように帰っていく連中だぞ、面白い妄言だ」

 

 

あのクソババア余計な事をしやがって、困った、今ばかりはこのクソガキの言う通り俺の立場も危うい。

だが慌てることはない、所詮相手は兵士、悪くても停職や減給処分、運が良かったら口頭注意程度だ、死なせたらそれは確かに不味い。

これからの傾向を見るにこいつはあんまり自分の命は重く見ないタイプだ、だから身内に手を出す、と言う攻撃パターンには脆いと見た。

 

 

「君の覚悟はよーく伝わった、だけどこれは君一人の問題じゃないよカフカちゃん、考えてもみなさい、罰金を君が払わなかったら果たして君のおばあちゃんは・・・・・・・・・どうなるのかな~」

 

「・・・ッ!!!」

 

 

これは・・・・分かりやすいまでの反応、張り合いのない・・・・何だこいつ、あからさま過ぎてこちらを釣っているのかと思ってしまう。

そう言われればこの前の取り調べでも家族だか友人の話題を出した時に一番動揺していた記憶が・・・ふふ。

撃たれても苦痛に歪むだけのこいつの顔に恐怖がぞくぞくと浮かんでいる、ああ見つけてしまった、この小娘の弱点を・・・・俺もぞくぞくして来た。

 

 

「結構お年だったかぁ・・・・実刑になれば50年は出てこないだろう、犯行も悪質で面会なんて出来っこない、それに刑務所には乱暴な人が沢山、ああ兵士とかかなぁ・・・・何かの拍子にこうポックリと・・・死んじゃったりして」

 

「ガクガク・・・や、やだ・・いや・・・そんなの・・・・ッ・・・!」

 

「それは可哀想だ、とても惨めだろう、だから優しい私は、罰金を払ったら無罪放免としよう、君の祖母も・・・・約束の書類も・・作ろうじゃないか」

 

「ッ・・・ほ、本当に・・・?」

 

「よく考えた方が良い、どっちでもいい、君がサインを拒み続けても大いに結構、・・・・だけど私としては」

 

「ッ・・、キ・・・」

 

「おおサインしてくれるんだね!そうだ、それが正しい!」

 

「バキ」

 

「あ」

 

 

こいつわざとやっているのか、俺のそこそこ値の張るペンをへし折りやがった。

いや、へし折る前に恐ろしい程に手が震えていたのを見るに平常心を失っている、多分兵士特有の馬鹿力の制御が上手く行かなかったのだろう。

ここは怒らずに優しく対応していこう。

 

 

「あ、あ・・・わ、私そんなつもり、は・・・・ご、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい」

 

「ああ、少し力み過ぎたんだね、マダム、君のペンを貸してくれないかね?」

 

「嫌ですわこんな兵士風勢に」

 

「マダム・・・・」

 

「わ、分かりましたわ!・・・・っち、もうあれは使えませんわね」

 

 

震えとかで字にならない字を書ききった小娘は自身の親指を朱肉に突っ込み書類に判子を押した。

そのまま肩を落として敗北した、気の強い娘だったが最後があっけないのは冷めるがそれでも面白い見世物だった。

俺は肩を二度叩いて部屋を出た。また一人の兵士を分からせこの世界を奇麗にした俺は労いの一服をし、次の仕事に取り掛かった、やるべきことは沢山ある。

 

 

 

 

「じゃ、後頼んだよ」

 

署内でも悪名高いオスカール警部に叩かれて銃声が何度もした部屋に入る。

命の危険とかそういうのはいつもの事だが別の意味での怖さがある。

あの人は筋金入りのサディストで特に「壊れにくい」と評価していた兵士の犯罪者には容赦がない。

自分のお金でそういう事に使う器具を買うぐらいには趣味にしている、加えて今日の彼の周りはいつも以上に異質だった。

銃声と少女の悲鳴が時折漏れていた取調室に入る。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・」

 

服を血で濡らした少女が椅子に座っている。撃たれたであろう腹部を擦って体を丸めている。

こちらの来訪に気付いて一瞬視線を向けてきたがすぐに向こう側に戻った、言葉は発しない、少し見えたその顔は決して子供がしていい顔ではない。

 

 

「濡れて・・・いるけど、タオルとかは・・・・」

 

「いらないです、何もいらないので、早くおばあちゃんの所に連れて行って・・・、釈放して・・・くれるん、ですよね・・・?」

 

「え、ああ・・・君が良ければ・・・今すぐにでも」

 

「じゃあ、今すぐに、お、お願いします」

 

 

片手で銃創を抑えて前かがみになりながら彼女は立ち上がる。

後姿じゃ気付かなかったけど着ている服はボロボロでそこら中に穴が開いていた、血も垂れっぱなしだった。

一体オスカール警部がこの子に何をしたのか・・・恐ろしい。

 

服だけじゃない、顔も酷い、髪の毛は清潔感のない浮浪者より汚れている上に何か所か喪失していた。

片目は何か衝撃が加えられたのか白い部分が消えていて赤く染まっている、口端は腫れており喋る言葉に少しの違和感を与えていた。

 

 

「き、君兵士・・・だよね?」

 

「兵士は・・・な、何か特別な手続きが必要ですか?」

 

「いや・・・そのケガ・・・大丈夫なの?」

 

「私が助けてって叫んだら助けて・・・くれるんですか?」

 

「・・・・・・・・」

 

「お願いします、おばあちゃんの所に連れて行ってください、お願いします、お願いします」

 

 

壊れた蓄音機に傷ついたレコードを再生させたように同じ音を復唱し、毎度どこか調の変わったループをする。

助けてと言われても確かにこの子の言う通りそう出来る事は少ない、殆どあり得ない。

少し感傷的になって出来もしない事を言ってしまった自分を戒めてこの子の言う通りにしてあげようと思った。取調室を出て留置場に向かった。




オスカール(警部)
バンガー(マダム)
オスカール・・・バンガー・・・ヴァンガー・・・

この邪悪な人達の名前の由来は一人の人物から来ています。
分かったニキネキは感想で教えてください。
まあこんなクソみたいな元ネタ分からなくて良いから(先行入力)
余談ですが命名する時、カミンスキーと迷いました。
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