戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話   作:エルカス

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某美の巨人が芸術作品を制作した際に観衆に披露する事を以て完成としたように
この作品も読者の皆様によって完成するのです。
表現者とそれを見る人が揃ってからそれは作品と呼べるのだと思います。
つまり俺はお前達にも曇って欲しいって事だよ、読者


45乙女だろうと誰であろうと命は短い

「ブレハンズ・カフカという人物は釈放だ、今すぐに出してくれ」

 

「やっと出る奴が来たか、もう定員オーバーでどうしようかと思ったぜ」

 

 

国が制定した法律に抗議して沢山の逮捕者が出て留置場・・・正確には檻の中は大量の人間でごった返しになっていた。

いつか見た新大陸への奴隷船の奴隷の敷き詰め図を現代に再現したら多分こうなるだろうという光景だ。

足を延ばすスペースはない、一人が小さくなって座るぐらいならできる、意外にもそんな極小スペースでも秩序は保たれていた。

外では酷く暴れていたというが、出来るなら最初からこのように大人しくしていればよかったものを。

 

 

「ブレハンズ・カフカ!ブレハンズ・カフカ!釈放だ!出てこい!」

 

「カンカンカン!」

 

 

係の奴が警棒で鉄格子を叩いて名前を呼ぶ、寝ている奴もいるせいで鉄格子の金属音に起こされてこちらを睨んでくる。

そんな目で見ないでくれと逃げるように視線を逸らしたら後ろにいるボロボロのあの子が視界に入ってしまった。

先程とは違って銃創は抑えておらず、両手を握ってひたすら檻の中を見渡していた。

痣と骨の浮き出た不気味な顔が不思議と愛らしい少女に見えた、きっとこれが本来の彼女だと分かった時、再び目を逸らしたくなった。

 

 

「ブレハンズ・カフカ!出てこいさっさと!」

 

「カンカンカン!」

 

「うるせえなこっちは寝てんだよ!またいねえ奴の名前呼んで俺達の睡眠を妨害するな!」

 

「うるせぇ今は昼間だ!寝るな豚ども!」

 

「窓も時計もねえから今が昼かどうかなんて知るか!」

 

「ブレハンズさんよぉ~いたらさっさと出て行ってくれ~可愛らしいお嬢さんがお待ちだぞ~!」

 

「カンカンカン!」

 

 

いくら呼べどもこの子の望む人は出てこない、嫌な予感がして牢を今一度見る。

大抵の囚人はこちらを見ているが何人かはこちらを見ていない・・・・。

 

 

「もう叩かないであげてください、牢に入って私が自分で探します、いなかったらすぐ・・・・に消えますので」

 

「はぁ?こいつら全員兵士・・・・まあいいか、ほら入れよ」

 

「嬢ちゃん中々度胸あるな~」

 

「おばあちゃん・・・・おばあちゃん何処に・・・」

 

「俺だよ~俺がお前のばあちゃんだよ~!」

 

「退いてください」

 

 

5分ぐらいかけて草の根掻きわけて、あの子は一つ目の檻を見る。

そしていないと分かると戻って来て、戻ってこようとした。

 

 

「あの、開けて貰えませんか、で、出ますので」

 

「今は休憩中だ~後にしてくれ~」

 

「うっは!そんな事だと思ったぜ糞警官!」

 

「嬢ちゃん可哀想だろ・・・・」

 

「おい、出してやれ」

 

「何でだよ、面白いだろ?」

 

「・・・・俺の仕事がいつまでも終わらない」

 

「お前もここで一緒に休憩してるんだろ?」

 

「はぁ、もういい鍵貸せ」

 

「何だよ面白くねえ」

 

 

意に介さず雑誌を読んでいる同僚から牢の鍵を借りてあの子を出す。

小さく謝罪をしたけど何も答えずに彼女は隣の牢に立つ、隣の牢を開けて中に入れた。

 

 

「・・・・いません、次をお願いします。」

 

 

牢を開けて閉め、開けて閉め、開けて閉め、・・・四つある牢屋の内三つを見終わった。

最初の内は少し良くなっていたこの子の顔も今は最初の風貌に戻っている。

そのせいか牢の中の囚人たちも揶揄う言葉を言わなくなった、この場所全体の雰囲気が変わった、特に最後に一つの牢は他とは異質な空気感が漂った。

少し遠くで見ていたからよくは見えなかったが牢の奥、ベッドがあるぐらいの位置で彼女は囚人の一人に呼び止められ聞こえないぐらいの声で何か言葉を交わしていた。

 

 

「そういう、事だから、なっ?落ち着け・・・分かったか?」

 

「ぁ・・・え・・・あ、う・・・・そんな、嘘・・・・嘘だよこんなの、あはは」

 

「ど、どうかしたのかい君?」

 

「・・・・ッ、騙し、た・・・・騙した・・・・」

 

「おい馬鹿、やめろ・・・・ッ!」

 

「殺゛し゛て゛や゛る゛!!!!」

 

「待てぇ!!その嬢ちゃんを止めろォオ!!」

 

「落ち着け馬鹿!」

 

「放せぇェエ!!!放せ!殺してやる!ぐちゃぐちゃに引き裂いてハゲタカの餌にしてやる!この下種共がぁあああああ!!!」

 

「うぉ!?な、何だ・・・寝てる間に何があったおい?」

 

「お、落ち着け何がどうしたんだ!」

 

「うわ~ひっでぇ奴ら・・・」

 

「言葉に出来ねえよ、最低だな。」

 

 

次の瞬間、弱り切った幼子は獰猛な獣に変身した。

目をカッと見開いてこちらに向かって走ってこようとしたが牢の囚人たちに抑え込まれる。

兵士が五人ぐらい纏まって抑え込んでも何人も投げ飛ばされて牢の中がマッシュされる。

騒ぎで眠ったフリをしていたと思っていた同僚が本当に寝ていて驚いて飛び起きた。

 

 

「な、何を言っているんだ君達は突然!ここにブレハンズ・カフカはいないのか!収監されていると聞いている!」

 

 

突然の殺意を理解できずに口走ったがそれはより彼女を刺激したのか二人三人と投げ飛ばして牢の中がいよいよ大変な事になる。

恐怖で後ずさる、他の牢の囚人からはこの上ない冷ややかな言葉が帰ってくる。

 

 

「貴様ぁ!囚人でないと言えど暴れるなら撃つぞ!いいのかぁ!」

 

「撃ってみろぉ!刺し違えるまでもなくお前を捻り潰す!殺す!殺す殺す殺す・・・殺して・・・・殺して、殺してぇ・・・・え、あ、ああ、・・・・」

 

「やめろ銃を下ろせ、大丈夫だ、・・・・もう落ち着いてきている、刺激するな」

 

「あははは!!あっはははは!?あああ、ああああ゛あ゛がああぁ゛!!!」

 

 

銃を構えた同僚を諫めつつ殺意が変わりつつある目の前の少女を見る。

顔を見せないようにしていたが俯いたまま彼女から発っせられる聞くに堪えない濁音交じりの嗚咽からどんな事になっているかは想像できる、だけど何故こんな急に変貌したのかが分からない。

 

 

「あ・・・っふ、あ・・・・」

 

「落ち着いたか?い、一体どうしたんだ・・・何か気に障る事でも・・・」

 

「本気で分かってねえのかアンタさん」

 

「まあ青臭いガキ見てえな面してるから知らねえだろうし察する事も出来ねえだろうな」

 

「何なんだお前たちは知ったような口を!一体どういう事だ!」

 

 

こちらが歩み寄りの言葉をかけると牢に入った囚人共がデリカシーのない言葉を容赦なく俺に浴びせる。

別に叩いて傷つけた訳でもないのに何でそんな事を言われなければならないのか。

少し怒りながら他の囚人たちにどういう事か尋ねた。

 

 

「そりゃあ、・・・もう死んでんだからさ、死体引き取りに来させるなんてお前ら本当に最低だよ、あの子になんて言ってここに来て貰ったんだ?」

 

「死・・・は、はぁ!?何を言っている、ここは遺体安置所じゃないぞ!」

 

「あ、ああそうだな・・・・そう、だよなぁ・・・」

 

「おい!何だその言い淀みは!ええいクソ退け!俺がこの目で確認する!」

 

 

同僚が歯切れの悪い返事をして怒りがこみあげてくる。

そんな死体なんてある訳ないだろと牢を開けてあの子が少し見ていた場所に行く。

もう殺すとか言って暴れる事はなく今は他の囚人たちに抑えつけられて地面にぴったりくっついて震えている。

 

 

「退け!退け!ええいさっさと退け!一体どこに死体があるんだええ!?お前らこの子に何を吹き込んだんだ!何処に死体なんてあるんだ!」

 

「お前さんもリラックスしてみな、そしたら見えてくるよ」

 

「はぁ!?」

 

「まあ座れってほれ」

 

「ぐぉ!?な、何をする貴様―――――――――――」

 

膝を無理やり掴まれて座らされる、囚人の行いに銃を抜きかけたが下がった視線は立ったままでは見えない物を俺に見せた、見せてしまった、見えてしまった。

牢に一つあるベッドの下、顔に布がかけられており横たわって動く事のない人間の姿があった。

 

 

「ひ、え、っひぃ!?」

 

 

身の毛がよだつ思いだった、腰を抜かして人の波を押しのけてのけぞった。

人の腐った匂い、影から少し見えた蛆虫の大群、気持ち悪さとか不気味さとか冒涜的で背信的な・・・この世の悪感情を網羅できそうな嫌悪を抱いた。

 

 

「こ、これは・・・・お、おい一体どういう事だ!何で人が死んでいるんだ!」

 

「し、知らねえよ・・・」

 

「知らねえって何だこの人殺し警官が!」

 

「俺達は何度も訴えたぞ~ばあさんが死にかけてるってな」

 

「でもお前は『兵士だから問題無し、あっても老衰だからどうにも出来ねえなガハハ』つったよなぁ」

 

「三日前までは生きてたのになぁ、可哀想に・・・・」

 

「あ、え?・・あ、み、っか・・・?・・ぁあああ!!うわああああ゛あ゛あ゛・・・!!!」

 

 

牢に、署にただ少女の嗚咽が響き渡る。

人を呪う金切り声、世界を恨む咆哮、死者を悼む鎮魂歌。

あの子は祖母の体を持って帰ろうとしたけどそれすらも叶わなかった。

病気だとか規則とかよく分からないので死体すらも奪われて何時間か待たされた少女が最後に受け取ったのは遺灰だった。

この上ない死者への冒涜だ、本当の意味で彼女の祖母は永遠に現世には帰ってこれない。

救いようのない結末を迎えた少女を俺はただ見送る事しか出来なかった。

 




そうです、カフカちゃんが余計な事をせずにさっさと譲渡書類にサインをしていれば、おばあちゃんは助かっていた訳なんですねぇ!!!
もう二度と仲直り出来ないねぇ!
盛り上がってきましたね~皆さん!
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