戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話   作:エルカス

48 / 97
今回で曇らせフルコースの前菜は終わりです。
次のコース料理は鋭意製作中ですのでごゆるりと歓談しながらお待ち頂けると幸いです。



48紙切れ一枚で何もかも失う空虚な人生

「私はこの国の為に15年も尽くしてきた!なのにこんな紙切れ一枚で追い出そうとするのか貴様らは!」

 

「うるさいなぁ・・・・寧ろ今まで雇って貰った事を感謝しろよ、無駄に金払って善意で置いてやってたのにお前はいつの間にそんなに偉くなったんだローン?」

 

「禄に仕事すらしないお前達に代わって毎日激務をこなした!私無しでお前たちがこの先やっていけるのか!」

 

「口の悪い奴め、さっさと出て行け金食い虫!」

 

 

ただの一枚の紙切れだけで職を失った、こんな不条理がまかり通って良いのか。

何十年もこの腐った連邦に尽くして来た、あいつらの八つ当たりや怠慢を埋め合わせるように酷使され身を削って来た。

最後は用済みだからと退職金すらも貰えずに捨てられた。

 

自分のデスクの上にあった物を一つの箱に詰めてそれだけを持って永遠に私はこの仕事場を去った。

怒り心頭の中、家に帰ると部屋の前で大家が待っていた。

 

 

「パーペンさん今月分の家賃滞納しているよ!さっさと払ってくれんかい!」

 

「は、はい・・・・・いくらで?」

 

「これぐらいだよ」

 

「は?い、一年分の家賃じゃないか!」

 

「一か月分だよ!」

 

「ふざけてるんですか!こんなの払える訳な―――――――――」

 

 

家を追い出された。

 

 

「クソ、クソクソ!何だよこれ、こんなのおかしいだろ!・・・・誰よりも真面目に働いてきた、自分のルーツも捨ててこの国に尽くして来た、この国の言葉を喋って文字を書いて主要文化として標榜した・・・・!なのにこんな仕打ちを・・・・!」

 

 

顔を上げる、目の前に広がるのは同じく家を追い出された人々だった。

揃いも揃って似たようなみすぼらしい格好をしているせいで笑ってしまう、ちっとも面白くないのに。

 

 

「もし、あなたさんも家がないのですか?」

 

「え?ああ・・・・そうですね。」

 

「私達もですが何処かに引っ越す予定はありますか?」

 

「ないです・・・・」

 

「家財の処分を避けたいので荷馬車を買おうと思っているのですけどお金が足りないんです」

 

「ああ、・・・・あなた達は何処に引っ越すので?」

 

「北の方に私達のような人に向けた居住地が出来ると聞きました、一先ずはそこに向かおうかと」

 

「それは『兵士』へ向けた住居ですよ」

 

「親戚にいるのです、家族や血縁者も移住は可能と、寧ろ推奨しているようです。」

 

「でも私は家族に兵士はいないので・・・・」

 

「そうですか・・・失礼しました。」

 

 

省庁を追い出される直前の事を思い出す。

人の輸送とか新しい都市の建設の話が聞こえてきていたが本気で実行するつもりなんだろうか。

未曽有の経済危機を無理な財政出動で誤魔化している現状で、民族とか人種がどうとかで地団駄を踏んで無駄にお金を使う余裕なんてない筈だ。

それに公務員をあんなに解雇した直後に百万単位の人口移動なんて行政を麻痺させる業務過多にもほどがある。

 

新首相は事態の悪化を静観するだけではなく助長しているとなると前々首相よりも無能で売国奴だ。

軍隊を動員して茶番じみた選挙をしてまでやりたい事なのかこれが・・・・・。

街を去る人々を笑顔で送り、石と汚物を投げつけて祝福する住民を見て私はついにこの国が救いようのない段階まで来てしまった事に気付いた。

 

 

「うぅ~ん、これはぁ~」

 

 

今後の展望なんてないがいつまでも家財を道端に置いておくわけにはいかないので質屋に向かった。

鑑定員は何故か物品より私の顔を見ていたので酷く不快だった。

 

 

「お客さんまた急にどうしてこんなに?」

 

「お喋りより査定に集中しては如何ですか?」

 

「いえ、もう査定は終わっています。」

 

「はぁ、見てもいないのに値を付けれるとは。」

 

「はい、買い取り価格はこちらとさせていただきます」

 

「話にならない」

 

「あなたのような外国人にまともな値をつけるとお思いで?私には情があるので他の店より遥かに良心的な価格を提示しているのですよ?」

 

「どうだか、少なくともお前の所では売らない」

 

「本当によろしいので?それ以上物品をお持ちになれば盗難や損壊の危険性があります、見た所随分と引きずりまわしたようで、次で何件目になるのでしょうね」

 

 

足元を見られ安く買い叩かれた。

今の所持金では半年分の食料・・・いや2カ月食べ物を買い続けたら枯渇する程に心許ない。

一年前までならそこそこの豪邸を一括払いで買えたのに今では・・・惨めだ。

若い時から細かく貯金したお金がたった一年でこれだけの紙くずになった、もうどうにでもなれと叫んで欲望のままに好き勝手生きたい、・・・死にたい。

 

 

「命あっての物種なんて言えるか・・・・生き地獄でなんて生きていたくない・・・!」

 

 

当てもなく歩き続けたけどついに心が折れて泣いた。

咄嗟に路地に入って誰もいないであろう所で豪快に泣き壁を叩いた。

 

 

「畜生!畜生!クソバカ政治家どもめ!死んじまえ!こんな国を作っちまった奴は死んじまえぇええええ!!!!あははは!俺も作った一人だった!俺も死んじまう~!!!」

 

 

空を仰いで狂乱のダンスを踊る、水たまりを踏みズボンが濡れる。

上物のスーツだろうが裸だろうが今となっては等しく無価値でゴミだ。

 

 

「はははあははっはああ・・・は、はは・・・」

 

「パチパチ」

 

「・・・・・」

 

 

誰もいないと思っていたら人がいた。

文字通りゴミに埋もれていて気付かなかった、多分ホームレス・・・じゃない、歯が抜け落ちた老人でもなく無精髭の極地にいるおっさんでもなかった。

まだ、小さな少女がいた。

 

 

「パチ、パチ・・・・どうぞ」

 

「あ、え?・・・・お、俺に?」

 

「うん」

 

 

お札を差し出していた、何かのパフォーマンスとでも思われたのか。

こんな底辺に落ちても良識とかで受け取るのは憚ったが差し出したお札が気になり近づいた。

 

 

「これは・・・・ドル紙幣じゃないか、何でこんなの・・・・」

 

「受け取って、もう、私は使わないから」

 

「いや・・・これ一枚あれば・・・この国じゃ一週間は食事に困らないよ君、換金しないのか?」

 

「私には、いらない」

 

「いらないって・・・これすっごくお金になるお金だよ?人にあげちゃ勿体ないよ、換金出来ないなら私がして渡すよ」

 

「いらない」

 

「えぇ・・・・・」

 

「全部、持って行って」

 

「リラ紙幣、円紙幣、新ポンド紙幣、・・・・・・何てこんなに持ってるの・・・」

 

 

ゴミ塗れの少女はゲロが染みついたシャツから出てきたとは思えない程に輝かしいお札を何個も出した。

外国の紙幣は省庁勤務でも滅多に見る事はなかった、たまに外務省のイケメンとかが遊びに来た時に女とかに何枚かあげているのを見るぐらいにしか。

まだまだ出そうとする少女の手を止める。

 

 

「大丈夫、お金は必要ないよ」

 

「・・・・ごめんなさい」

 

「ふぅ・・・」

 

「ここ、汚いですよ、服汚れちゃう」

 

「いいじゃないか汚したって、たばこ吸うかい?」

 

「寿命が縮むなら」

 

「え、じゃあダメ」

 

「なんで・・・・・」

 

「死にたがりなの?」

 

「・・・・もう生きるのが辛い」

 

「じゃあ、・・・・同じだな」

 

 

こんなに小さい子まで同じことを考えているなんて知りたくなかった。

この子の親は何処に居るんだろうと気になったけど、どうしてここに居るのかは分かった。

煙草に火をつけて吸う、最初は吸うつもりなんてなかったのに馬鹿大臣とか職場で大量に吸い込んだせいで吸うようになった。

 

 

「ボッ」

 

「世間厳しいよな」

 

「はい」

 

「国も悪魔だよな」

 

「っふ」

 

「人生、辛いよな」

 

「・・・・・」

 

「生きるの疲れちまう」

 

「えぇ・・・」

 

「っふ、同じだな」

 

「同じですね」

 

「・・・・ほら、煙草やるよ」

 

「ありが・・・・・ブェ!?ゲホッ・・・・!?」

 

「ふぉ、はは!・・・・吸うのは初めだったか」

 

「不味い・・・・ゲホッ・・・」

 

 

煙を思いっきり深呼吸で吸い込んだ少女はせき込んで埃とゴミをまき散らす。

余程不味かったのか少しのたうち回っていて笑ってしまった。

落とした煙草を拾い上げて俺は火を消した。

 

 

「ゲホ、もう吸わないの?」

 

「あんたに悪いだろ?私はローン・パーペン、さっき無職になったおっさんだ」

 

「パーペンさん、・・・・ありがとう」

 

「自己紹介する流れだろ?」

 

「もう死ぬので名前なんて」

 

「・・・・・・どう死ぬんだ?」

 

 

先程は冗談交じりに死にたいのかなと思っていたがいつまでも焦点を合わせずぼーっと空中を見ているこの子のを見ると本気で死ぬつもりなのではと疑う。

死に方を聞くと少し黙って視線をこちらに向けて来た、濁った瞳には映るのは俺自身だ。

 

 

「息を止めて死のうとしたけど出来なかった、ナイフで喉を掻っ切ろうとしたけど痛くて出来なかった、お腹を空かせて死のうとしたけど何故かこの前不味い物を口に押し込まれた」

 

「・・・・・あんた兵士?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「ああ、そっか・・・・そうなのか・・・・」

 

「・・・・私なら殺しても罪にはなりません、今なら、お得ですよ」

 

「何言ってんだ・・・・」

 

「いくら殴られても、首を吊るされても、死ぬ直前までやると、皆怖くなって逃げるんです・・・・」

 

「は?な、何を・・・今まで・・・・」

 

「次に寝たら起きてる頃には死んでるかなって、思ったんですけど、変なダンスを見てしまって、寝れなくなって・・・・へへ、ごめんなさい」

 

 

もう一度この子の姿を見てみる。

ボロボロの服、切り裂かれたような損壊をしている

長さの揃っていない髪の毛、引き抜かれたり、剃られたり・・・しているように見える

ゴミの中に混じった血、残飯捨て場に何故血が・・・・

 

 

「こんな所にいちゃ――――――――――」

 

「ガコン!」

 

「おう、昼間から駄弁ってるなんて良い御身分だな兵士様よぉ?」

 

「何だよあんたら?」

 

 

傍にあったゴミ箱が蹴り倒されて中身があの子に散乱する。

誰だこんな酷い事をするのは・・・ああ、国の手先か頭のおかしくなった市民共しかいない。

 

 

「誰かって?国家再定住委員会の者だ、ここに移住命令に従わない兵士がいるって通報を受けてな・・・・あんたか?」

 

「いいや私は・・・・・」

 

「そうか、まあ兵士はスーツなんて着ないからな、十中八九そこのゴミ女だな」

 

「・・・・・・・・」

 

「あんまり手を煩わせるなよ?さっさと立て」

 

「・・・・・・」

 

「はぁ・・・・」

 

「な、なあ、言う事聞いた方が良いぞ?」

 

「いい、気にしないで」

 

「おいおっさん退きな、そいつに痛みで教えてやらなきゃいけない」

 

「ま、待ちなさい、なぁ立ってくれないか?この人たちの言う通りにしたら住む場所を貰えるんだ、国の政策で兵士だけの町が作られるんだ」

 

「・・・・」

 

「どきな」

 

「ちょ、ま――――――――――」

 

 

体格の良い男に押しのけられる。

警棒を大きく振りかぶって少女に叩きつける。

悪臭が付近に舞う、二度三度と殴打が続く。

 

 

「オラァ!オラァ!」

 

「頑張れー」

 

「な、・・・・っ、ま、まだ子供だぞ!君も何呑気に応援しているんだ!心は痛まないのか!」

 

「子供だろうと兵士は兵士だろ?確かに一瞬可哀想だと思っちまうが兵士だとどうもねぇ~」

 

「オラ!オラララ!!」

 

 

汚れているとは言えどさっきまで傷一つなかったあの子の顔が腫れる。

皮がむけて皮膚の裏が晒し出されてそこをさらに壊されて血が噴水のように噴き出す。

顔が赤く赤く染まっていく、血ではなく剥き出しになった筋肉だ。

 

 

「や、やめてくれ!もういいだろ!」

 

「おぅい邪魔すんなよ、おっさん・・・・」

 

「頼む立ってくれ!お願いだから!」

 

「あんたコイツの家族なのか?他人の癖に出しゃばんじゃねえ!」

 

「た、他人じゃない!」

 

「じゃあ何なんだ!横から邪魔して!」

 

「なぁ頼むよ・・・・見てられないんだ・・・言う事を聞いてくれ・・・」

 

「面倒くせえなぁ・・・・普通の奴ぶん殴ったら問題だしな・・・」

 

 

この子の肩を揺らして必死に訴えても首を横に振るだけで聞き入れてくれない。

腫れあがった顔は見るだけで痛々しい気持ちになる。

そんな時だった、感傷に浸っている中、殆ど開いてないこの子の目から涙が零れ落ちたのを見たのは。

 

 

「・・・・・・連れて行く。」

 

「あ?何だって」

 

「俺がこの子を連れて行く!だからもう殴るな!」

 

「はぁ?・・・・あぁ愛人か、何だ、最初からそう言えよな」

 

「お前さん相当の変態だな、まあ向こうでも頑張りな、集団移住の列は案内しなくても分かるな?」

 

 

この暗い路地裏から見える大通りで人の列が行進をしていた。

見える人々は皆荷物を溢れんばかりに抱えている、背中には荷物を背負い、片手には鞄、もう片手には子供やペット、引き車。

揃いも揃って俯いていて通り過ぎる家やすれ違う人たちに罵倒されて汚いものを投げられる。

 

 

「ほらどうしたんだ?」

 

「さっさと行かねえとまたぶっ叩くぞ!」

 

「わ、分かった行くよ・・・・ほら?」

 

「・・・」

 

「頼む・・・・・!」

 

「・・・・・った」

 

「お?」

 

「やっと喋ったなコイツ」

 

「な、なんて言ったんだ?」

 

「分かった・・・おじさん」

 

 

少女は立ち上がった。

素足のまま汚れた地面をペタペタと進む。

左右に揺れながら不安定に進む。

 

 

「どうしたんだ?ついていってやらないのか?」

 

「あ、ああ!ついていくよ!」

 

 

一人不便そうに進む彼女の手を取る、握って分かった、その手は少し震えていたけど強く握り返してきて震えは消えていった。

この国の未来とか自分の将来とか不鮮明で不安でどうしようもないけど今なら俺は胸を張れる。

国を変えるとかじゃない、もっち小さくて見えない場所だけどはっきりと言える、俺は一人の子供を助けた。

そしてこれからも助ける、一人だけどちっぽけだけど・・・・きっと

 

 

「なぁ、あんたは俺を裏切らないよな?」

 

「・・・・・私より先に死ななかったら」

 

「何だよそれ・・・・」

 

「私はカフカ」

 

「え?」

 

「チェルナー・カフカ、私の名前」

 

「・・・・・カフカ、カフカちゃん、・・・・よろしくな」

 

「よろしく、ローンのおじさん」

 

 

暗い天気の下、続く暗雲の向こうに向かって俺達は歩き続ける、行進をする。

地平線の向こうにあるまだ見ぬ大地には、晴れ晴れせずとも雨の日でも嵐の日でも曇りの日でも、堂々と胸を張って通りを歩ける居場所があると信じて。

歩みを止めずに歩き続ける。

 

 

 

暗い路地裏には中身がない遺灰入れが転がっていた。

 

 

 

『バルカン連邦での民族大移動』

民族という言葉は少し不適切だが、現在バルカン連邦で過去に例をみない強制移住が行われている。

ブロズ・ヨシップ前首相の暗殺により政情不安に陥った連邦では新首相としてタカ派の排他主義者であるゲオルギー・ウォーロック氏が選出されると同時に非常大権が付与された。

ウォーロック首相は大権行使の第一段階として連邦内の不和の原因とされている『兵士』や外国人に連なる無国籍者等の追放を始めた。

既に連邦の諸都市では人間狩りが横行し多くの人々が住処と財産を奪われて北へと追放された。

実に800万人に上る人口移動は西暦初期に行われたゲルマン民族大移動と有識者たちは結び付けて考えている。

今確かに言えることは、この出来事はバルカン連邦の五国協和の国是を大いに損ない、国際社会から人道的な観点から批難されざるを得ない蛮行であるという事だ。

 

 




家族を失って心が欠けた少女の穴を埋めていく無職のおっさん
まあ埋めてるというよりカフカちゃんが無意識レベルで家族を求めているだけなんですけどね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。