戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話   作:エルカス

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今日からストック消化との相談で1日1本投稿にします。
代わりに今までの1話辺りと比べて少し分量は多めですので総量はそんなに減りません。


49どれだけ年月が経とうと・・・・

「全部で・・・これぐらいだな」

 

「おいおいアズトナー、俺を破産させるつもりか」

 

「最新の為替レートを見たら私がどれだけ聖人か分かるぞ?」

 

「勘弁してくれ」

 

「最近お前の国荒れてるぞ、チェルっちも辞めたって・・・・長く続きそうだったのに何でだ?」

 

「一身上の都合だ、円満退職だから安心しろ」

 

「私には決して円満に見えないよ、偉い奴が暗殺されたんだろ?」

 

「耳が良いな・・・ああ、国は大荒れだ、政府が何をトチ狂ったのか企業が反抗的だとか言って一斉解体を始めるんだ、俺達の生活の基盤がもう滅茶苦茶だよ」

 

「革命でもするのか?」

 

「お前の国じゃねえんだから・・・最悪革命になっても将来の展望がまるでないから、果てに待つのは無秩序と統制のない暴力が続く無法地帯だな」

 

「冗談はお前の年齢だけにしてくれ」

 

「そうしたいな、・・・冗談で済めばいいな」

 

 

結構老け込んでいたリッペンがここ1カ月でさらに10年も老けたように見える。

海を跨いで来る情報は限りなく少ない、友邦からの情報提供でかろうじてバルカン連邦の内情を把握したが、目を覆いたくなる惨状という事は知っている。

あり得ない程にノウハウのないクレーマーが政権を取って、子供の妄想じみた幼稚政治を馬鹿みたいな量の金と労力を費やして実行しているのだから当然だ。

 

 

「経済も立ち直ってないのに最大の労働戦力(兵士)を捨てて、残り少ない金を利益にもならない事(人種隔離)に使うなんてお笑いだ。国単位で世界から笑いを取ろうとしているのか?」

 

「・・・・・」

 

「なぁリッペン、こっちに来なよ。こっちは無料で病院に行けるし断交時代から長年付き合ってきた功績があるんだ、歓迎してもらえるぜきっと」

 

「悪いなアズトナー、俺はあの街を離れる気はないんだ、それにカフカはあそこが好きだって言ってくれたんだ、いつかまた遊びに来てくれるってな、そん時に俺がいなきゃアイツ可哀想だろう?」

 

「釣れない事言うなよ、無理強い出来ないじゃないか」

 

「ごねて悪かったな、ほら金だ」

 

「・・・・・要らないよこんなに」

 

「いいのか?」

 

「無駄に年だけ重ねた結果金には困らねえんだ、睨むなよ、お前に対する嫌味じゃないぜ?」

 

「こんな事続けたら金にすら困っちまうぞ?俺と一緒に泥船は嫌だろ?」

 

「泥でも対岸まで辿り着ければ十分さ」

 

 

港から去るあいつを見送る。

随分と季節も温暖になって船の往来が増えてくる・・・・筈なのに最近はバルカン連邦からの交易船は減る一方だ。

あそこは体制側の勢力圏の一つだったと記憶しているが、あの守銭奴(借款取り)共はもうコントロールを手放しているのか。

手放したからこそ、こんな意味のない反動的な事になっているのか。

 

 

 

「アズトナーシャ」

 

「・・・・何だ人の家の前で、凍えるぐらい寒いなら入って待ってろよ」

 

「人の家には勝手に入れない」

 

「よく言うよ、ヴェチェは人民のほくろの数まで知っているのに鍵穴程度で・・・・」

 

 

本国への定期連絡船に乗り数カ月ぶりに帰って家に入ろうとしたら玄関にぶるぶる震えている奴がいた。

前はよく見ていた党の使者で正直あんまり良い気はない、最近は国政とかに関わってないから何の用か分からなかった。

 

 

「ほら入りなよ、出せる物はねえからな」

 

「十分です、失礼します」

 

 

必要はないのだが客人の為にも全く使った事のない暖炉に火をつけてみる。

祖国では標準的な防寒設備だがスレッシャーである私にはあんまり関係がない。

 

「うぉ熱っち・・・それで、何の用だい?」

 

「召集令状です」

 

「・・・・・・戦争が再開するのか?」

 

「い、いえ・・・・あ、いやえっと・・・・」

 

「どうなんだ・・・・!」

 

 

使者の口から正気を疑う言葉が飛び出し私は熱々のレッキを持ったまま詰め寄った。

壁際に追いつめ片手で壁を叩き問いただす、床には零れ落ちた炭の燃えかすが散乱する。

使者はすっかり怯えて言葉を必死に選んで私の質問に答えようとしていた。

 

 

「じ、自分からお伝え出来る事は・・・・限られて・・・いる事をご了承ください」

 

「そんなの百も承知だ、だけどこれだけは教えてくれ、『スノースとの戦争』は再開するのか?」

 

「いいえ同志アズトナーシャ、今回の召集は非常に限定的です、同志を含んだ数名の国際情勢に詳しい専門家に限られています、というより同志が最先鋒です」

 

「私が中心?・・・・党は私に何を期待しているんだ?極北の奴らとは問題ないのだろう?何故今になって私を挟む」

 

「海外遠征です同志」

 

「・・・・・・・・どこだ?」

 

「お伝えできるのはこれだけです、どうかご勘弁ください、残る情報はこちらの書類と所定の手続きを踏んで確認を」

 

「・・・・・・・・」

 

「あ、あの同志・・・その、開放して頂けませんか?」

 

「ん?あ、すまない」

 

 

海外遠征と言う言葉は聞いてワクワク、思い出してメソメソと複雑な気持ちになる。

そっちにすっかり気を取られていたせいでいつまでも使者を壁際に閉じ込めていた。

手を壁から放して受理した書類を開封する。

 

 

『同志アズトナーシャ・ドニェ、女帝の都で会おう、待っている』

 

 

中身は偉い奴の判子と格式ばった大して新規情報のない書類と手作り感あふれる短い文書が書かれた手紙だけだった。

少しなぞなぞばった、私に向けた手紙だ。すっぽかして困らせてやろうかなとも思ったけどご丁寧に特急チケットも入っていたので仕方なく従ってやることにした。

チケットを入れているならわざわざ手紙を入れる必要はあったのか?

 

 

『本日はヴォルガ鉄道のご利用頂きありがとうございます』

 

「ふぅ・・・列車は久しぶりだなぁ・・・随分と乗る奴も増えたんだな、人を乗せて走る列車なんて本当に珍しいな・・・・・時代に置いていかれてる老人みたいな事を言っているな私」

 

 

列車と言えば前線への補給物資とか乗せる物というイメージが小さい頃から染みついている。

客人として乗れるのは本当に一握りの偉い人で庶民にとっては雲の上の存在だった。

昔は兵士の輸送に使っていたが、鉄道ダイヤが頻繁に狂うので取りやめになって基本的には車での輸送になったらしい。

などと考えに耽っているとコンパートメントに人が入ってきた。

 

 

「やぁアズトナー」

 

「まさか待ってたのか?」

 

「格好いいだろこの接触?」

 

「金と時間の無駄だぞ、大人しくサァーリスィで待っていられないのかリュカ?」

 

「手厳しいな、それと手紙分かったか?昔を思い出すよ、お前の成績の良さに嫉妬して知らない事でマウントを取ろうとして変なクイズを出しまくっただろ?」

 

「懐かしい」

 

「久しぶりアズ姉、会えてうれしいよ」

 

「私もだリュカ、元気してた?」

 

 

二年ぐらい会ってなかった幼馴染と思いもしない再開を果たして思わず感涙する。

手紙の文字をみてもしかしてと思ったけど、いざ実現してからじゃないと実感は湧かない。

それにしても昔は私の方が背も高くてお姉ちゃんって感じだったのにこいつときたら当てつけのようにでかくなりやがって・・・・

 

 

「いやぁそれにしてもアズ姉は随分と縮んだな、身長、これじゃもう妹だな」

 

「お前が伸びたんだろ・・・・・」

 

「小さくて・・・・か、可愛いと思うぞ俺は」

 

「よせやい・・・・可愛いのは受け取ってやるぞ!にゃはは、それでお洒落な登場して伝えたい事は何だ?」

 

「ええ?もうちょっと昔話してようよ・・・」

 

「規律と忠誠が美徳の政治将校とは思えない発言だなぁ・・・そんなに懐かしいのか」

 

「ああ」

 

「もぉ・・・しょうがないなぁお前は」

 

昔みたいに頭を撫でてあげる、リュカの家はちょっと教育が乱暴で学校の成績で私に負けてはよく鞭でしつけられていた。

その度に泣いていた彼の頭を撫でて慰めていた、あんなに小さかったのに今では頭を下げて貰って私が背伸びをしなきゃいけない。

時の流れと言うのは残酷だ。

 

 

「えへへ・・・アズ姉」

 

「はいスイートタイム終わり、仕事仕事!」

 

「え~!?」

 

「えじゃない!」

 

「うぅ・・・・・・・・・」

 

「ほら早く」

 

「党はアズ姉の海外知識を買って・・・・・義勇軍の派遣調整員として外国に勤務しろって」

 

 

心底嫌そうにリュカは高そうな鞄からファイルを取り出す。

表面に夥しい機密指定の張り紙とか判子があるけど何の躊躇もなく私との間に展開して中身を晒してくる。

大丈夫かと思う以前に私はリュカが何を言ったのか理解できなかった。

 

 

「え?義勇軍?あの海外の戦争を応援レベルで介入する軍隊派遣の義勇軍?」

 

「そ、全く虫のいい話だよ、アズ姉のお願いは一個も聞かない癖にあれやれこれやれってうるさいんだもん」

 

「何処で戦争があんだよ・・・・」

 

「今後起きる可能性とかだよ、確実に起きるのはバルカン連邦、次点の注視レベルはアドリア国とかかな」

 

「勤務年数は・・・党が不要と判断するか人員交代を指示した時、戦争が勃発し役目を終えた時か・・・長くなりそうなのか?」

 

「戦争研究会の予見では1年から3年の勤務になると思うよ」

 

「調整員って具体的にはどんな仕事をするんだよ・・・・私スパイの真似事なんて出来ないぞ?」

 

「現地住民と仲良し、こっちの使者と連絡を取る、戦争勃発時に首脳に近い人物とのコンタクト」

 

「だからそれはもうスパイなのよ・・・・」

 

「スパイは外患だけどアズ姉は利になるのでヨシッ!」

 

 

完全に私情が混じった感想を言われても参考にはならない。

祖国が勢力拡大政策を標榜しているのは知っているけどそれは戦争失陥地域に限った話だと思っていた。

けどまさか今になって暗黒期の世界革命とかそれに似た傍迷惑なイデオロギー戦争に手を出すなんて何を考えているんだか。

いや・・・イデオロギー戦争じゃない。

 

 

「ねぇリュカ、党はどんなイデオロギー勢力を支援しろって言ってるの?」

 

「出来れば類似した思想団体、そうじゃなくても良いけど民族主義者とか反共主義者はアウト」

 

「随分とアバウトなんだな」

 

「征服とかじゃないから、隣国に敵対的な勢力が現れないようにするのが目的」

 

「全方位外交?」

 

「いいや、仮想敵との将来的な戦争を見据えて背後から一突きを受けないように」

 

 

地図で見れば祖国は他の国と地続きだが他の国は戦争失陥地域の不介入を決めている。

だから背後なんて脅かされる訳ないが私は地政学には疎いのでそういうのはあんまり分からない。

でも異国の地で誰かを助ける権限を貰って、助ける人を思想で選別する可能性が限りなく低いと分かれば、それほど悪くない仕事だと思う。

近い将来、きっとバルカン連邦は内戦状態に陥る。

それならアドリアでやれなかった事を、1949年に失敗した事を・・・・もう一度やり直せる。

 

 

「リュカ、私頑張るよ。・・・・正義の為に戦って来る」

 

「無事に帰って来てねアズ姉、次に会う時はもっと長く遊ぼうね」

 

「お前はまだまだ子供だな~」

 

 

リュカの頭をわしゃわしゃしてたら列車の旅は早々に終わってしまった。

終点に着いたら車に乗せられて飛行機へ乗り換えた。

墜落しないか心配だったけど問題なく目的地に着いた。

 

 

 

 

「突然の召集への呼応に感謝する同志アズトナーシャ」

 

「おう、ところでここは何処なんだ?飛行機は随分と西に飛んできたがもう外国なのか?」

 

「将来的に同地は祖国の一部として編入されます、ですが今はまだ失陥地域の一つです、古い地図で言うイシュトヴァーン王冠領地域の北部に当たります」

 

「・・・・・・」

 

「ご希望でしたらお近くを散策して頂いても結構です、何かありましたらまたお呼びします、お疲れでしたら声をかけて頂ければ部屋にご案内します」

 

「至れり尽くせりだな」

 

「祖国の英雄ですから相応の敬意と対応を」

 

「私は英雄なんかじゃねえよ」

 

 

降り立った大地の地面は固くならされていた。

急造の滑走路なようで少し外れれば真っ白な木々が乱立している森がある。

その奥には・・・・・・・・

 

 

「長旅の座りっぱなし体がなまってたんだ、歩かせて貰うぜ」

 

「では、ごゆっくり」

 

 

世界から未知という未知が消えた昨今、どこを見ても道が必ずある。

だけどこの、人から捨てられた場所に道はもうない。

長すぎる年月がそれを消し去ったのだから。

 

 

「人が歩いた場所が道になるって言うけどよ、私が第一号とは光栄だな、先駆者として道に名前でも付けて欲しいぜ」

 

 

かなり歩きにくい木々の群生地帯を頑張って抜けると、かつて人が生活していた都市があった。

宮殿づくりの格式を感じられたであろう建物は、壁の塗装などが剥がれ落ちていて廃墟に身を落としていた。

だけどそれはまだマシな方で経年劣化とか暴風とか色々な要因で倒壊している建物も多かった。

 

 

「道だった場所は草の歩行者天国、お前らこんな固い地面によく生えてられるな、この頑張り屋さん、め!」

 

 

雪を背負いながらも凛々しくそこに在る植物を爪弾いて上下に揺れる姿を見る。

建物と建物の間・・・時たま建物にすら巻き付いているのを見ると自然の雄大さを感じずにはいられない。

踏んでいくのは少し嫌だったから軽くジャンプして建物の屋上伝いに行く事にした。

 

 

「よい、しょ!」

 

「ガシャン!」

 

「うぉ?!うぉ・・・・・せ、セーフ!屋根も脆くなってんだな・・・羽のような軽やかな足取りで歩けって事だな」

 

 

建物の上まで跳躍したら着地の衝撃で屋根が抜けた。

足を引っこ抜いて慎重に屋根の上を進む。

両手をめいっぱいに広げてバランスを取る

 

 

「よ、ほ!・・・・こんなに・・・・立派な建物を作ってやる事が戦争なんて・・・昔の奴らは我儘この上ないな・・・・豊かさは誰かを不幸にする為にあるんじゃないのに」

 

「グルルウゥ・・・・」

 

「おわ?!びっくりしたぁ・・・・・」

 

「ガルゥ・・・」

 

 

屋根の上から老いた都市を眺めていると先客がいる事に気付いた。

スノースの中では小型の3mタイプだ、デカくて重いが一応屋根に乗っても大丈夫なのだろう。

人間と違って足が多いからかかる力も分散するから。

 

 

「・・・・お前らの顔はやっぱり幾ら見ても好きになれねえな」

 

「ガゥ・・・」

 

「悪いな、昨日まで殺し合いしてた奴を猫みたいに可愛がれねえんだ、邪魔したな」

 

 

嫌われているオーラを感じたのか向こう側が一歩引いてくれる、やはりある程度の知能はあるのだ。

威圧して追い払う気にもなれなかったから私が屋根から降りた。

 

 

「ん?ここ一段低くなってるな・・・・それにこの渡し道路・・・・もしかして川か・・・」

 

 

昔もここら辺は滅多に雪が降らなくて気温がマイナスになる事はない温暖な都市だったのだろう。

だけど今は7月でも気温がずっとマイナスの雪の世界、川は永久凍土に生まれ変わり上に雪や土砂が流れ込んで大地になる。

かつて川が流れていたであろう場所は一段盛り下がって道路が渡されている・・・・たぶん橋なのだろう、この道路に見えたのは。

 

 

「いつかここにも人が戻って・・・忘れられるのかな。100年、200年で私達の戦いは忘れられてまた新しい戦争を始めて・・・・嫌だな、そんなの、嫌だ」

 

 

誰もいない街、植物と動物の楽園と化した場所。

横たわった都市は静かに眠り、やがて風化して姿を消す。

もういっそ人なんて戻らずにこのまま放って・・・静かに眠らせてあげた方が・・・・。

かつてのこの街の情景を想像しながら私は来た道を引き返す事にした。




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ロシア的倒置法すこなんだ
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