戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話 作:エルカス
「グツ、グツグツ」
仄かに香る料理の匂い、聞こえる心地よい沸騰音。
不味い物ばかりだと、食事の楽しみが食事前に集結する事になる。
食材の下ごしらえとか作る工程とか、そこに一緒にしてくれる人が挟まるとなお楽しい。
「う、ぁ・・・うぅ・・・・」
目を覚まして辺りを見渡す、まだ辺りは暗い。
見回しても鍋とか食べ物はない、焚火後は燃えかすばかりでとても料理なんてされていたようには見えない。
少し遠くを見渡すと鍋を吊るして囲っている人たちが見える。随分と盛大な勘違いをしてしまった。
「・・・・私は、ああそっか・・・頭が痛くてそのまま・・・」
何となく昨日の事を思い出す、今は吐き気とか痛みはない、ただ寝たはずなのに猛烈な眠気に襲われている。
睡魔には慣れている、慣れているせいで二度寝が出来ないのだが特にやる事もなくぼうっとしているのは性に合わない。
随分と怠慢な日々を過ごしていたけど寝起きの背伸びをして分かる、動いた方が心地よい。
「・・・・・・・・」
目線を下に動かす、皆寝ている、ローンおじさんも・・・名前を思い出せない幸せそうな家族。
今私がどこかに突っ走って行ったらきっと見失う、探そうとしない筈だし私がいなくなった方が楽に移動できる事間違いない。
『俺がこの子を連れて行く!だからもう殴るな!』
『火おこしのお礼さ!着てる服を使ってくれたんだろ?ならこれはお礼だよ!返品は不可だよ!』
「何てこと考えてるんだ私は―――――う、おぇ・・・・!?」
馬鹿らしいと吐き捨てようとしたけど治まったはずの吐き気に再び襲われる。
反射的に口元を押さえて声を殺す。口元からは胃酸や唾液しか出てこない。
口周りに垂れて肌に不快感が広がる。
「考えちゃだめだ・・・見ちゃだめだ・・・・」
少し皆から離れて、私は木陰で盛大にない物を吐き出す。
肩で息をして、立ち上がって糸引く液体を手で拭う。
「おい」
「ビク」
「お、小便だったか?悪い悪い」
「い、いや・・・違う・・・」
「そうか?お前意外と早起きだな、寝不足みてえな顔してんだからいつまでも寝てれば良いのに」
「眠れない・・・」
「大変だな、大丈夫か?」
「放っておいて・・・」
「じゃあ放っておくよ、でも俺はお腹が空いたんだ、お前野宿とか慣れてるだろ?何か小腹を満たす方法を知らねえか?」
唐突に後ろから声をかけられて怖かった、振り返ったらキシナ君で少し安心した。
私がうるさくしているから起きたのか分からないけど、どうやら彼はお腹を空かせているようだった。
付近を見渡しても平原が続いている、食べれそうな植物もないし果物がなっている木もない。
「ごめん、ここじゃ何も・・・」
「そうか、・・・・お前まだ辛いのか?」
「ッ・・・・」
「やっぱり辛いんだな、俺も辛いよ、あんな乱暴な母ちゃん持っちまって、叩かれるたびに失われていく自分の知性が可哀想で・・・・結果俺はバカになっちまった・・・・」
「っぷ」
「おい笑うなよ・・・深刻な話なんだぜ?・・・・まあ人ってのは誰しも悩みとかあるけどさ、俺のこの問題を解決するいい方法はないか?」
「言葉を選べば叩かれる回数が減ると思うよ」
「俺の父ちゃんみたいな事を言うな、よし一つだ、次お前な」
「え?」
「悩みだよ、そういうゲーム、母ちゃんたち起きるまでの暇つぶし、腹減ったって起こしたら不機嫌でぶっ叩かれるだろ、だから起きるまで待つんだ」
「バカっていう割には頭の良い事考えるのね」
「え、そ、そうか?頭いいか俺?ふへ、と、とにかく次はお前の番だ」
「悩み・・・・・・・・・・皆が喧嘩なく平和に暮らせるにはどうしたらいいかな・・・」
「重っ!?悩みレベルが天元突破してるじゃねえか!?何でお前自分の悩みじゃなくて世界とか国レベルの悩み抱えてんだよ、偉い奴でもあるまいし」
「偉い人じゃないと考えちゃダメなの?」
「ダメって訳じゃないけど・・・・夢は叶うかもしれないから夢なんだろう?でも叶う余地もない事を考えたって虚しくなるだけだろ?」
「私の夢叶わないと思うんだ・・・馬鹿なのにどうしてそう思えるの」
「うるせえな、・・・・人間何千年も生きてそういう夢を持った奴は沢山いたと思う、だけど今日に至るまでの俺達が答えだ、それで十分だろ、叶わないんだ、実現する余地なんてない」
「・・・・」
自称馬鹿に言い負かされて少しムッと来る。
きっとこの怒りこそが答えなんだ。私は叶う事のない夢を見てしまい、裏切られるべくして裏切られた。
でもだからって、もっと静かな終わり方だってあった筈だ。
今の私を見る、周りを見る。
「そうだね、キシナの言う通りだよ。・・・・・夢なんて見ない方がよかった、悩んでどうにかなる事じゃない」
何も残ってない、誰もいない。
手に入れた多くを奪われて全てこの手から零れ落ちた。
私だけじゃない、多くの人が住む場所を奪われ、生活を壊された。
この人達もその内の一人だ。
悩みが悩みとしてある限りはどうしようもない、それを悩みから取り除いて放り捨てるぐらいに器用な頭をしていれば良いけど私は不器用だ。
だからそっと奥に押し込んでしまおう、そのまま忘れてもいい、いつか思い出したとしてもそれを遠い日の思い出として昇華できたのならもう悩みではない。
吐き気も消えて私は胸を張って立ち上がる、何もかも失ってもまだ一から作り上げるこの手が残っているなら、やり直すチャンスがあるんだから。
「どういう事だ・・・・ふざけているのかケトル経済大臣?」
「い、いえ・・・・首相閣下、私は至極正常で、ありのままの事実を伝えています」
「ほう?たった一週間でGDPが10%も消滅して今月末までに30%減って国が危うい、ふむ?」
「・・・・・」
「当然だろ、分かっていたはずだ、あの卑劣な奴らを軒並み追放しているんだ、それくらいの穴抜けは当然だ、問題ない、何を今更驚く必要がある」
「だ、大問題です!」
「慌てるな、もちろん私だって経済学は少し嗜んでいる、追放政策が終わり奴らを利用した労働計画が始まれば経済は回復する、こうVの字に」
ウォーロックは経済大臣の提出した書類にペンで書き足して反発係数1のボール投げ図を完成させる、いや多分これは1を超えている、物理現象も超越しているに違いない。
寒い気温だと言うのに汗だくになる経済大臣を見かねたのかウォーロックは横のデスクから紐止めした書類を出す。
「見たまえ労働計画案だ、居住地に住まわせた兵士供には原始的な農業をさせる。
種子の調達はもう完了している、今頃もう土地開拓が始まっているだろう。
考えてもみたまえ、山だらけで開発には向かない山岳地帯に兵士の忌々しい程の力量と寝る間も惜しんだ無賃金労働の成果を!来年には国庫は潤っている事間違いなしだ。
そして来年に向けた新しい政策も考えている。
危険な炭鉱業などの一般就労を禁止し代わりに全て兵士を投入するのだ。
奴らなら死んでも変わりを持ってくるだけでいい、ああ心配はいらないぞ!
失業した炭鉱夫には手当を十全に与えるからな!
国民には工場労働や頭脳労働に従事させる予定だ。
これでさらに国庫収入もうなぎ上り、教育機関無償化も夢じゃない、減税だってして暮らしは持ち直す所か20世紀初頭の黄金時代を凌駕する繁栄が到来する!
おっとここまで考えてしまっては経済大臣の立つ瀬がないなすまないすまない!
重大な仕事があるんだ、実は私はこの一連の政策を奴隷経済と呼称している不埒者がいるのだが、何か聞き障りのない固有名詞を考えてくれたまえケルト経済大臣」
「・・・・・・・・・は、はい・・・・・・・」
瞬きを忘れて硬直している経済大臣は肩をポンポンと叩かれてそのまま回れ右をして執務室を出て行く。
自分の完璧で抜かりのない計画を他人に披露出来てウォーロックは上機嫌だった。
「ふぅ、・・・寒いな、暖炉の火を強くするか・・」
経済大臣が持ってきた書類を放り込んで肌寒さを感じていたウォーロックはしばらく暖を取った。
目上の身分でありながら国民の事を想って使用人も解雇して省庁の支出を減らし倹約をする自分に酔いながら夢を描いた。
「ケトル大臣・・・・インフレが止まりません・・・ど、どうしたらいいんですか・・・!お金を刷って刷っても皆貧乏で食べ物を買えないんです・・・・!」
「もう既存の単位では無理だ、全てを100倍・・・・いや1000倍の価値の新紙幣を発行してインフレに対応するんだ!」
「そ、そうですよね・・・デザインとかの協議をしてきます・・・・・」
「ケトル大臣!国家再定住委員会が兵士と間違えて一般市民に暴行や略奪を行った件で―――」
「経済大臣だぞ私は!畑違いの報告をするな!」
「す、すいません・・・」
「ケトル大臣!諸外国が我々の対外資産の差し押さえを!」
「元々ないような物だろう、抗議の声明を送りなさい」
「しかし貿易で停泊中の船も拘留されて・・・」
「外務大臣に相談しろ、外交は経済大臣の対応範疇ではないのだ」
「しかし外務大臣は休暇中で・・・選挙疲れとかで」
「省庁各位に・・・・・・・・・適当に任せる」
「ケトル大臣!山岳共和国が貿易対価不払いで全ての輸入を停止しました!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ケトル大臣!ブルガリア地方政府が国家再定住委員会の職員を地方軍を使い追い返したと報告が!」
「ケトル大臣!解体した大企業の国営化で深刻な人手不足が!」
「ケトル大臣!証券取引から我が国が除外されました!外国為替市場からも出禁に!」
「ケトル大臣!アドリア国国境付近で軍の動きが活発になり不穏な兆候が!」
「う、あ・・・・えっと・・・お、う」
「ケトル大臣!」
「「「ケトル大臣!!!」」」
「・・・・・・・・・お前達いい加減にしろ!私じゃなくて首相に直接言いに行け!」
「い、嫌ですよ」
「不機嫌にさせたら追放されるかも・・・」
「最悪粛正・・・」
「お前ら・・・・あ、・・・・う、おぇ・・・!」
「だ、大臣しっかり!」
「大臣が吐血されたぞ!誰か救急車を!」
「ストライキ中だから来ませんよ」
「クソ!」
『バルカン連邦での政治事情』
三大交戦国のいずれにも言える事だが、戦争が長引くにつれ軍隊の出費が国家財政の痛手になり各国は対応策を講じていった。
バルカン連邦以外の国では常備軍の定員を大幅に削減する事で財政の健全化を図った。
過去に類を見ない人類種共通の天敵出現により少なくとも交戦国の周りでは戦争が消えた。
その事によって常に軍隊を国境に展開する必要性がなくなったのだ。
例えば仮に三大交戦国の背後を付く形で戦争を始めた国がいたとしても、あらゆる第三国が戦端を開いた国に懲罰戦争を仕掛け自国は世界中から味方される結末が分かるため問題はなかった。
しかしバルカン連邦という民族多様性を抱え込んだ特殊な国家では話が違った。
元々は国家同士の戦略齟齬による戦争劣勢を危惧し誕生した国であるが為に国内の対立が激しかった。
お互いがお互いの寝首を狙っていると思い思われ、常備軍(もっと詳しく言えば地方政府軍)を全く削減しなかったのである。
その結果軍隊が政治に介入する力を残す事となった。
ゲオルギー・ウォーロック率いる国民国家党の主な支持基盤は中産階級から貧困層、そして多くの常備軍だった
彼の掲げた『兵士』の追放は職を奪われた(と思っている)差別的な多くの国民から支持された。
また守旧的な時代から脈々と続く軍部はブロズ・ヨシップ政権が軽く言及していた
『新規募集する常備軍は『兵士』を多く採用する予定である』
という言葉に危機感を抱き常備軍への『兵士』の混入を嫌った。
その結果、軍部はウォーロック支持に傾き、彼の当選を手伝う為に選挙操作を実施したのである。
ウォーロック「経済なんて簡単簡単!」
経済「もう、らめぇ・・・・(瀕死)」
ケトル大臣「/(^o^)\」
民間経済の立役者の企業を軒並み解体したり国名義で大幅なリストラしたらそりゃそうよ。
そう言えば現実にも戦争経済とか言って占領国から富を略奪して国家単位で自転車操業をしていたチョビ髭伍長がいましたね・・・・・。