戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話   作:エルカス

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53火薬庫は発火する、されど鎮火せず

立派なカイゼル髭を生やした男達が所狭しと部屋に鎮座していた。

多くは傍観に徹しているが部屋の中央の机では対面するように責任者と使者が睨みあいを続けている。

使者は断固とした口調で話を続けた。

 

 

「先日において、我々政府の派遣した職員を武力行使の後に拘束した事に関して何か釈明はあるか?」

 

「ソフィアは現政権の方針とは相容れない事を何度も通達している、地方政府には連邦の政策に対する拒否権がある事を今一度確認していただきたい」

 

「非常大権により行使された政策は何人たりとも拒否する事は出来ない、そちらが中央政府の意向に逆らうならば即時即刻の権限剥奪の準備が出来ている。」

 

「その行いは自治権侵害であり、断固として拒否するとともに、これ以上の民主主義と議会政治から逸脱した独裁を行うのであれば、こちらとしては最悪連邦を去る決断をせねばなりません」

 

「ではどうぞそのように、こちらは中央政府の要求を記した正式な書簡です、どうぞ熟議と吟味を重ね好意的な返事をお待ちしています」

 

 

使者はそう言い捨てると後顧の憂いなく退出した。

残された面々は深刻な面持ちで沈黙を保っていた。

使者と話を続けていた責任者は溜息をつきながら使者の残した書簡に手を伸ばして中身を確認した。

 

 

・バルカン連邦議会はブルガリア地方政府に対し以下の要求をする。要求が認められない場合は中央の権限を以て地方政府の再編を行う。

 

 1.政府の政策に対する批判、軽蔑を地方政府の名を以て強く周知的に禁止する事。

 2.再発防止を徹底すると共にその具体的な手法や決定を政府に提出する事。

 3.今回の問題を地方政府の不手際であると全面的に認め、公の場で政府要人がそれをはっきりと提示すると共に謝罪し、周知させる事。

 4.政府の政策に対するプロパガンダを助長しているもしくは助長する恐れのある全てを公共の場から遅滞なく削除する事。

 5.政府の派遣員(国家再定住委員会)に対する暴力的行為、妨害行為意を実施した関係者を公職から永遠に追放する事。

 6.今回の問題で政府が被った金銭的損失(事後処理費用等も含む)を補填する事。

 7.地方において反政府的もしくは、政策に反抗した言動を見せる人物らをリストアップし政府にありのまま提出する事。

 8.国内全体の治安維持の為、政府の一機関を地方政府内に参加させその活動に助力する事。

 9.全てについて実行する手段と具体的な日時を遅滞なく政府に知らせること。

 

・少なくとも7月25日午後6時までは待つ。

 

 

「何だこれは・・・・」

 

「金銭的損失の補填など・・・賠償金ではないか!」

 

「地方政府内に中央の役人の参加させるなんて内政干渉も甚だしい!」

 

「なぜ棄民政策を拒否した我々が謝罪をしなければならないのだ!」

 

 

責任者が書簡を読み上げ終わると部屋中から一斉に怒号が飛ぶ。

中央政府の暴走じみた所業を咎めた結果が、全面的な謝罪と関係者の問答無用解雇、賠償、内政干渉を許容するなど行動の代価が重すぎる。

到底受け入れられる訳がないし過去の最後通牒を彷彿とさせる書面に彼らは憤慨した。

 

 

「そもそも何なのですかこのふざけた選挙結果は!」

 

「何故あのような誇大妄想家が当選するのか理解に苦しむ・・・・他の地方政府ではああいうのがトレンドなのか?」

 

「盲目にも程がある!確かに元敵国であるから避難民に対しての悪感情が強い事は理解しているが一応全員に投票権はあるはずだ・・・ここまでの跋扈を許すはずがない」

 

「地方の友人からは銃を持った人間が選挙場所を監視していたと聞いています、果たして先の総選挙で他の地方政府は選挙と呼べるほどの行いをしたのか・・・」

 

「何とか議会で不信任決議案を提出する事は出来ないのですか!」

 

「無駄だ、我々の議会に占める議席数は最大20%、一国・・・いや、一地方政府ではどうにもならない」

 

「元協商連中は我々の勢力を削ごうとしている!こんな要求を受け入れてはだめです!断固拒否の構えを取り対決の姿勢を!」

 

「しかしどのように?」

 

「国民と軍隊の支持も固い、もういっその事、連邦からの離脱も視野に入れるべきでしょう!」

 

「もうかつての様に我々を救ってくれる大国はいないのですぞ!連邦から袋叩きにされて自治権すらも失いバラバラに分割される!二度も同じ轍を踏む程の愚行は控えて頂きたい!」

 

 

一同の意向として先ずこの要求を受け入れることはあり得ないと言う前提で話は進む。

独立をし一つの自治国家として歩む道を選ぶ者、あくまで政治的な対決姿勢を維持し中央政府との和解を模索する者、現実的な方策を選ぶために情報を集める者。

舞い上がった火種は導火線に吸い込まれ着々とその歩みを火薬庫に進める。

 

 

 

「中央のカス共を撃退した関係者を全員解雇?政治家先生、それは無茶ですよ。昨今の常備軍縮小でうちはたった8師団しか軍隊を所持してないのですよ!撃退した1師団と援護の構えを見せた2個師団、解雇できるならやってみせてくださいよ」

 

「いや・・・あくまで実行した場合の影響を算出するために知見を求めているだけだ、もう一つの質問だがもし近いうちに連邦が我々の領域を武力的に制圧する場合、対抗は可能か?」

 

「ブルガリア地方政府軍は約20万人の8個師団、都市防衛のために国中に1個師団が散らばっている、ギリシャ方面に2個師団、セルビア・ルーマニア方面に4個師団、沿岸防衛に1個師団。対して敵はノーガード全力投入の60万人推定20師団強」

 

 

政治家と相対していた将軍は大袈裟に手を広げてどうだ見たか!という風に返答をする。

軍事は素人の政治家でも「ああ、ダメそうだなコレ・・・」という事は余すことなく伝わっていた。

 

 

「と、平時ならば言ったでしょう」

 

「う、うん?今なら勝てるとでも?」

 

「いえ、勝利はどう転んでも勝ち取れないでしょう、ですが同時に敗北も味わう事も困難です。」

 

「つまり政治的に勝てと?」

 

「その通り、現在バルカン連邦は広範に渡って混乱状態に陥っています、特に外国人排斥の動きが強い北では都市の治安が壊滅し軍が出動し事態の収拾を図っていますが逆に軍が治安を乱している始末です。そこに『兵士』の強制移住に対する動員も行われている」

 

「理論値通りの戦力を今敵は繰り出せないという事か!」

 

「そうです、敵は我々を制圧できる程の戦力を投射できない、事を構えてもお互いがお互いを制する決定打は出せない」

 

「千日手に持ち込んでより多くの血と金を流すのは連邦と・・・・!」

 

 

将来を絶望視していた政治家は水を得た魚の様に躍動する。

大まかな状況把握を済ませた後は軍人から詳細な『敵となる連邦』の細かい戦力予測値を議論しそれを持ち帰った。

ブルガリア地方政府は議論を重ね連邦政府からの要求の期限が過ぎる1時間前に連邦からの脱退を表明し政治的拘束を回避した。

連邦議会場で一斉にブルガリア議席の議員たちが起立し退出する様子は来月のタイム誌の表紙を飾る事間違いなしだ。

 

 

 

「バルカン標準時7月25日17時にブルガリア地方自治政府から連邦離脱を表明し即時脱退を実施、日を跨いだ現在、同地の近隣に展開していたパトロール隊が続々と襲撃を受け・・・・・・・」

 

「ドン!」

 

「っひ・・・・・」

 

「どうなっている、私は地方政府の再編を命じたはずだ、使節団も派遣した、期日を指定し過ちを償う機会も与えた、何故奴らはこうも愚かな手段を取るのだと思う内務大臣?」

 

「それは首相閣下・・・・元々ブルガリア地方自治政府は避難民や兵士に対して宥和的な姿勢を見せて―――」

 

「もういい君は解任だ、衛兵、彼の退出を手伝ってあげなさい」

 

「お、お待ちを首相閣下!な、何をする貴様ら放せ!私は大臣だぞ!しゅ、首相閣下!いえ主席宰相閣下!どうか挽回の機会を!お次は必ず期待に足る働きをし――――――――――――」

 

 

内務大臣は部屋を囲うように配置されていた衛兵の一団に拘束され部屋の外につまみ出された。

しばらく元大臣の抵抗の声が聞こえていたが、忽然とそれが途切れた事に恐怖する残りの閣僚の面々は委縮し口を開けずにいた。

ウォーロック首相は不機嫌そうに机を小突いていた。

 

 

「さて、もう既に同地は国内ではないので管轄は外務大臣に切り替わる事となる、大臣今後の方針を」

 

「は・・・は!・・・・独立したブルガリア国とは国境問題で多数の事件が報告されているため早急な外交ラインを設立し細かな国境線の取り決めを・・・・」

 

「外務大臣」

 

「取り決め・・・・・・を、ですね・・・・」

 

 

外務大臣が話をしている途中で唐突に座っていた首相が立ち上がって再び会議は緊張に包まれる。

元々立って話をしていた外務大臣はどうしていいのか分からず喋り続けるべきなのかウォーロック首相と相対するのか決められずに言葉に詰まっていた。

そしてついに首相が外務大臣の目の前に立った

 

 

「取り・・・決・・」

 

「パシ!」

 

「あ、首相閣下――――――」

 

「ビリ、ビリビリ!ビリ!」

 

 

首相は外務大臣が持っていた書類をビリビリ破り捨ててそのまま大臣の頭の上に紙の切れの雨を降らせた。

もうどうしていいのか分からない外務大臣は泣きそうになりながら硬直し震えていた、そんな大臣の肩を首相が叩く。

 

 

「違うだろ?下賤な『兵士』を庇いあまつさえも中央に逆らう反逆者達に必要なのは言葉ではなく・・・・何だと思う?」

 

「が、外交・・・・うぶぅ!?」

 

首相が外務大臣に平手打ちをする。

 

「何だと、思う?」

 

「あ、あの・・・・首相閣下、私は、・・・その・・・・決して・・・」

 

 

委縮した外務大臣は猫背になり眼前に迫った首相に首を垂れる。

がっかりしたような溜息をついた首相は他の大臣の方を見た。

反射的に他の大臣は目線を逸らした、その行動がウォーロック首相の逆鱗に触れた。

 

 

「貴様たちは何も分かっていないと言うのか!貴様らも所詮あの退廃者共と同じ穴の貉なのか!全く話にならない!いいかこの私が教えてやろう!反逆者に必要なのはこれだ!」

 

「ドン!」

 

 

青筋を浮かべたウォーロックは机を叩く、叩いた場所にあった資料はぐちゃぐちゃになった。

怒り心頭の首相の機嫌をこれ以上悪化させまいと各々顔を上げようとしたがやはり怖くなって動かせずにいた。

 

 

「何だ貴様ら、戦争には反対だと言う―――――――――」

 

「ええ首相閣下、戦争には反対です。」

 

「・・・・・・・・ケトル大臣殿はまだ病床に伏せる必要があるようだな、お連れして差し上げ―――――――――」

 

「私は正気ですウォーロック首相!どうかお聞きください、現在我が国の財政は破綻も同然なのです!代金不支払いで食料の輸入も止まっています!戦争をしてしまえばもう取り返しのつかない!崖っぷちの一歩先を行く事になるのです!」

 

「金や食料は敵から略奪をすれば問題ない、ブルガリア地方政府は廃止し新たに他の地方政府に領土を配分する、ブルガリア人共は『兵士』と同列に扱い『奴隷経済』の一部に組み込む」

 

「あなたは言っている事が滅茶苦茶だ!まるで現実じゃない!」

 

「外務大臣、各地方政府に軍隊の派兵を要請しろ、ソフィアを一番に陥落させた地方には優遇措置があるともな」

 

「やめてください首相!あなたは妄想に取りつかれ――――――――」

 

「バァン!」

 

「あ、・・・ゅ、しょ・・・・ぉ・・・・・」

 

「バタン!」

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

「経済大臣は空席になった、誰かこの内患を片付けてくれ、国の汚れは取り払われるべきだ、そう思わないかね諸君?」

 

「「「「・・・・・」」」」

 

「諸君?」

 

「は、はい!」

 

「ウォーロック閣下の言葉に間違いはございません!」

 

「あの者共は敵のスパイでした!お見事な手腕です!」

 

「閣下こそが正義です!正義こそが閣下です!」

 

「万歳!万歳!」

 

 

震える声で血濡れの首相を賛美する大臣達、その光景を見て少しは機嫌を直したウォーロックは感慨深く頷いて着席した。

解雇された大臣は引きずられて退出した、部屋には夥しい流血痕と硝煙の匂いが充満していた。

この場から知性と理性を両立させた常識人は一掃された、国の操舵は狂人の手に渡り巨大な歯車は回転を始め、停止する事は叶わない。

導火線を燃やす火種はついに火薬庫に到達し、薄氷の秩序は崩された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここに『第四次バルカン戦争』が開幕した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




~政権交代で人事入れ替えとかリストラを進めた結果、人手不足になった外務省~

新人外交官1「要求を書いた書簡とか作るの初めてでよう分からん・・・・」
新人外交官2「せや、このなんか大切に保管されてる外交文書参考(オーストリアの対セルビア最後通牒)にするんゴ!」

人にやられて嫌な事を人にするのは・・・・やめようね!
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