戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話   作:エルカス

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Fourth Balkan War
54住めば都とは言うけれど限度がある


「この列の奴らは向こうの土地に移れ、隣の列は北に20km進んだ所に向かえ」

 

「ちぇ何だよ手際の悪い、最初から決まった場所用意しとけよ面倒くさい」

 

「私らは移動しなくて良いんだから黙っときな、聞かれたらボコボコにされるよ」

 

「いつも母ちゃんにボコボコにされてるけどな俺は、あ・・・・お前」

 

「今まで、お世話になりました、困っている所を拾って貰って本当に・・・」

 

「ああいえいえ、こちらも沢山助けられましたしお互い様ですよ」

 

「元気で・・・」

 

「お、おうお前こそ元気でな」

 

「家族は、――」

 

「大切にだろ!知ってるよ、心配すんなって!お前は自分の心配しろ!困ったら・・・力になれるか分からねえけど助けてやらねえこともねえぞ!」

 

「・・・・ありがとう」

 

 

キシナ君達とは向かい側にテントを構えていたので今回の唐突な移動でついに離れ離れになる事になった。

この地に来てから3日目にしてようやく偉い人が色々指示を出し始めて私達もその不手際に晒される事となった。

しかしもう近隣の野生動物は軒並み狩られてしまったから移動は悪くない。

 

人が列になって進むと少しの距離でも長い時間がかかってしまうようで20km程度の移動で6時間もかかってしまった。

連れてこられた辺りは狩猟で何回か付近を通過したけどひどい斜面をした山がちな地形でとても住むに適した場所ではなかったのだが・・・・

 

 

「貴様らにはここで生活をする権利を与える!森林を開墾しここに用意されている種を使って作物を栽培するのが仕事だ!仕事を放棄する奴は懲罰もあり得る、真面目に働け!」

 

「ここで農業だって?岩とかゴテゴテにあって土なんて見えやしないじゃないか!」

 

「取り除けば下にあるだろ!」

 

「水はどこから引いてくるんだよ!」

 

「地下水を見つけて井戸を作るか近くの川から水路でも引っ張ってこい!」

 

「道具も知識もねえよ!」

 

「そんなの気合で何とかしろ!お前等兵士だから素手で出来るだろ!」

 

「ふざけんな!素手で地下水がある場所まで地面掘れる訳ねえだろ!!」

 

「生活用品がもう枯渇してる!配給はないのか!」

 

「ある訳無いだろ貴様らなんかに!自活だ自活!」

 

 

流石に全部手作業で遂行するのは無茶苦茶すぎる、幾ら力が強くたって大木を手で切る事は出来ないし地面だって場所によっては1mも掘れやしない。

道具から作るにしたって知識がある人なんてそんな都合よくいるはずがない、一緒の場所に連れてこられた人たちは300人ちょっと、子供とか普通の人を除いたら実際役に立ちそうな兵士は100人もいない。

それに兵士は皆揃って兵役についていたから、インフラ整備の知識がある人なんていない。自活なんて不可能だ。

 

 

「いい加減にしろ!俺達は平和に暮らせる場所があるからって遠路はるばる来たんだ!こんな原始人レベルの生活をしたくてここにいるんじゃない!」

 

「そうだぞ!」

 

「どうにかしろ!」

 

「責任はないのか責任は!」

 

「イモ糞!」

 

「バァン!」

 

「うわぁ!?」

 

「発砲したぞ!」

 

 

抗議の声が武力によってかき消される、幸いにも銃は空に向かって撃たれたために怪我をした人はいない。

でも相手がこの手段を用いたという事は私達の要求に絶対的なノーと返答して来た事と同義だ。

つまり死ぬ気で頑張る事を強いられた。

 

 

「ごちゃごちゃうるせえなカス共が!辛酸舐めて土でも食ってろ!お前等にはこれぐらいでちょうどいいんだ!次何か文句を言ったら処罰する!俺は国から任されたれっきとした責任者だからな!」

 

「「「・・・・・」」」

 

 

権力を盾にした脅しで男に抗議する人は誰一人としていなくなった。虚しい惨めさを感じる。

政府の役人は結局、作物の種とかを適当においていって帰った。

残された私達は右も左で分からない状態で生存するあらゆる営みを自力で模索し実行しなければならない。

 

 

「一体どうすりゃいいんだ・・・・」

 

「こんな山肌で農業?水もない・・・」

 

「もうダメだ、俺達は捨てられたんだ」

 

「良い事一つも・・・・・・・・」

 

「皆さん協力し合いましょう!」

 

「元気だな・・・アンタ、羨ましいよその前向きな姿勢」

 

「どうにもならねえだろ・・・」

 

「知恵を出しあいましょう!100人もいれば大抵の事は何とかなるはずです!今直面している問題を洗い出して対応できる・・・一部でも対応できる人と協力すれば何とかなるかもしれません」

 

 

今まで受け身気味だったローンおじさんが意外にも一歩踏み出して皆に呼びかけ始めた時は驚いた。

飛び交う声は悲観的な物が多いけどおじさんに期待の眼差しを向けている人も多い。

・・・・・皆が一歩を踏み出す手助けになるのなら・・。

 

 

「私は協力します!ここは確かに何もないです、人が住む環境なんてないけど誰も私達を卑下する人達はいません、これはチャンスです!私達だけで私達の居場所を作る・・・・平穏に暮らせる安住の地を。」

 

「平穏に暮らせる・・・」

 

「安住・・・いいなぁ、出来たら・・・いいなぁ!」

 

「俺も協力するぜ!」

 

「私達も協力する!」

 

「非力なノーマル人間だけど、僕達にも出来る事があれば!」

 

 

いつしか見た光景・・・・ああ、私はこの光景を知っている、そうだ・・・何を後ろ向きな考えをしていたんだ。

正しい筈だ、手を取り合い共に前に進む事を人間はこんなにも簡単にできる、下を向いている暇なんてない。

 

 

「ローンおじさん、お願い」

 

「ああ、任せて・・・・皆さん、まずは地理把握です!この土地の周りがどうなっているのかを調べて地図に出来れば最善です!誰か地図製作の知識がある人は」

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

「だ、誰もいない・・・?」

 

「軍隊で砲兵隊の着弾観測の仕事をしていた事があるの・・・・上手く地図をかけないかもしれないけど・・・それでも良ければ」

 

「十分じゃないか、早速頼むよ!誰か紙とかペンとかこの人に貸してあげれるか!」

 

「ケツ拭き用でいいなら持って行って!」

 

「芯が折れた鉛筆ならあるぞ!」

 

「これで地図を作る準備は出来た!早速頼めるかい?」

 

「ああ、あと出来れば同伴者が欲しい、道行く途中で食料になりそう動物も狩ったら一石二鳥だと思うの」

 

「それは良い!じゃあ・・・カフカちゃん、このお姉さんの手伝いをお願いできるか?」

 

「頑張る」

 

「あらかわいいおチビちゃん、私に付いてこれる?」

 

「デスクワーカー砲兵のお姉さんこそ大丈夫?」

 

「言ってくれるじゃない、砲兵隊舐めんじゃないわよ、行くよ!」

 

 

確か砲兵隊はその特性上、定員に滅多に空きが出ないから入れるチャンスは皆無に等しいけどいざ欠員が出たら希望倍率が高くて凄く優秀な人しか入れないと酔いどれ教官が言ってた気がする。

私の時は空いて無くて普通の歩兵隊に配属される予定だった、砲兵はいつも同じ場所で動く事なく弾込めして何回かスターター(拉縄)を引いて後は事務仕事と小馬鹿にされていた事を思い出す。

皮肉交じりにお姉さんに返してみたけど山肌を進む動きを見るに普通に動けてるから同じ兵士なんだなって思った。

 

 

「そう言えば聞くの忘れてたけどおチビちゃん名前は?」

 

「カフカです、チェルナー・カフカ、お姉さんは?」

 

「お姉さんだなんて・・・何だか面映ゆい呼ばれ方ね、私はアリンシャス・ループレヒト、折角だからアリンシャスお姉さんって呼んでも良いわよ?」

 

「アリンシャスお姉さん」

 

「本当にそう呼ぶの?」

 

「だって私より背高いし頭良さそうだし・・・・・頼り甲斐があるからお姉ちゃんって感じ」

 

「そ、そう・・・?私お姉ちゃんって感じなの・・・うへへ・・・?」

 

 

冗談半分どころか100%冗談で言った事を私が真に受けたのか、お姉さんは少し困惑してたけど何処か嬉しそうだった。

はにかんだ笑顔を隠そうと顔を背けてる姿を見て、お姉ちゃん呼びの続行を私は決心した。

 

 

「カフカちゃんは戦争とかは何してたの?」

 

「訓練が終わったら戦争も終わっちゃいました」

 

「あら、運が良かったのね」

 

「お姉さんは大丈夫なんですか?」

 

「ん、なにが?」

 

「戦争で沢山頑張ったのにこんなひどい仕打ち、私だったら・・・・許せません」

 

「あ~そっか、ありがと、確かに辛いけど君も言っただろ?ここじゃ誰も私達の事を気にしないって、戦争が終わった時にホント困ったの、何やろかなって」

 

「やりたい事とか・・・なかったんですか?戦争が終わってからあそこに行こうとかあれ食べようとか」

 

「ないかな、大体みんなそんな事を覚える前に戦争に行ってそこで死ぬんだから、ありもしない『もしも』なんて考えない、・・・夢を見る事なんて出来なかったけど、今日から良い夢見れそう」

 

「夢・・・・夢ですか」

 

「ええ!考えてみたの、想像してみたの、ここを開拓して皆で立派な農地にしたら、まあ多分クソッたれ政府の犬っころが食い荒らしに来るけどそれでも私達だけの居場所だ、ここにしかない、世界中どこを探してもないんだから最高じゃないか」

 

「ふふ、確かに・・・最高ですね、・・・・人も沢山いる、心細くない」

 

「でしょ?さて・・・測量の時間だ、おチビちゃんには何かさっぱりだろ~?」

 

「・・・・本当にさっぱり」

 

「ははは、今は手伝いとかいらないから食べれそうな木の実とか小動物でも追いかけまわして、もちろん休憩したって構わないよ」

 

 

エリートのお姉さんは背負っていた銃みたいに長い筒を出した、たぶん測量の機械だけど肉体的な軍事訓練しかやってこなかった私には説明書を読んでも使い方は分からない。

言われたとおりに食べれそうな物を採取して測量が終わるまで待った。

同じことを100回ぐらい繰り返して、冗談抜きで100回ぐらい繰り返して日が暮れたのでその日は中断して居住地に帰った。

暗闇の世界の中で人の存在を知らせる灯は深い森の中から抜け出すときに何とも心強い。

 

 

「よかった~迷子回避!お疲れおチビちゃん、明日もまたよろしくね!あと三日ぐらいしたら周囲50kmの把握は終わりかな」

 

「何だかまだ続きそうな言い草ですね」

 

「ええそうね、その後は細かい傾斜や植生調査や地層調査・・・まあ専門外の分野もあるけど何とかなると思う、うん!」

 

「何とかしましょう、皆で」

 

「よしよし!ん~おぉ!早速あんな木々繁々の場所が・・・・!」

 

 

斜面を登ると昼間見た時は木とか岩まみれだった場所は見事な平地になっていた。

邪魔な木は切り倒されて岩っころなどは退かされていた、さらに地面から浅く土を取り除いて水平な足場を作る事に成功している。

 

 

「お!地図製作班が帰って来たぞ!」

 

「大人の鹿二匹もいるぞ!」

 

「付近はどんな感じになっていた?」

 

「北西に10km行った場所に小さな沢があったけど農業向きじゃない、北北東に20kmに小さな河川があった、そこなら多少水を引いても枯れはしないと思う」

 

「どれも遠いな・・・・」

 

「やっぱり地下水を力任せに掘り当てるか?」

 

「それでも生活用水とか必要だからしばらくは人力で汲んでこっちに運ぶしかないか・・・・」

 

「まぁ良いんじゃないか?大多数は技術とか知識のない肉体派なんだから」

 

「力のないノーマル一般人は土いじりをさせて貰うよ」

 

「では輸送に使用するバケツや桶の確保や長期輸送の工夫が必要ですね・・・・確か木の棒を差し込んでこう肩で楽に運ぶ方法が・・・・」

 

 

待っていましたと言わんばかりに料理人らしき人が仕留めた鹿肉を持っていった。

目で後を追うと、とっても大きい釜をこれまた大きな棒でかき混ぜていた、たぶんここにいる全員分の食事を作っている。

他の場所を見ると切り倒した丸太を見慣れた材木に加工している人たちがいた。

ローンおじさんはその中心にいてあくせくと指示を出している、様になっている、多分元々はこういう仕事をしていたんだろうなと分かる。

 

 

「テント沢山あるけど・・・何処に寝れば・・・」

 

「やぁテントがまだ決まってないのかい?」

 

「え?あ、いや・・・決まってる??」

 

「あ、君は一番最初に地図作成に出た子・・・・カフカちゃんであってる?」

 

「はい、チェルナー・カフカです」

 

「良し、じゃあここのテント使ってね、全員分の場所を割り当ててるんだ、自分の家の様に使って大丈夫だよ」

 

 

案内されてテントに入る、中は地面と外を仕切る布で囲まれている仮設的な一部屋だった、まあつまりは普通のテントだ。

でもこれは私の物じゃない、ローンおじさんの物でもない、この居住地と呼ばれる名前のない場所に来てしまった誰かの持ち物だ。

 

 

「ありがとう、名前も顔も知れない誰か、ありがとうございます」

 

 

ここに来る途中に手渡された色々な食べ物煮込みのスープを口に運んでみる。

今日は久しぶりに純粋な気持ちで楽しい事が出来たから食べ物の不味さなんてあんまり気にならなかった。

それどころか美味しいとすら感じる、こんなに満たされていていいのかな。

 

 

「う、けほ・・・・飲み込み方も忘れちゃったかな私、感傷に浸り過ぎだぞ・・・」

 

 

戒めるように自分に言い聞かせる、だけど緊張感を保とうとしても頬が緩んでしまう、かけた心が埋められていく心地よさを感じる。

最後のひと欠片までスープを飲み干しす。至福の吐息をする。

 

 

「ごちそうさまです」

 

 

食器を返してテントに戻った私は寝転がる。

そして瞼を閉じる、静かだ。

こんなに穏やかで静かなまま眠れるのは久しぶりだ、本当に・・・・忘れるぐらいに遠い過去に思う

体が地面に溶け込み徐々に意識が薄れていく。

 

 

私はきっと、また夢をみる。

 

 

 




カフカちゃんは夢見る少女です。
それは永遠に叶う事のない儚い夢です。
自ら夢を見る事を諦めなければいつかはその夢に裏切られます。


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