戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話   作:エルカス

57 / 97
57立ち入り禁止看板なき危険地帯

「水源までの」

 

「道路開通を祝して」

 

「「「「乾杯!!!」」」」

 

 

ジョッキ風の木製コップを持った皆が、お酒を飲むかの如く蒸留水を一斉に飲み干す。私も同じように飲み干し、乾いた喉が潤った。

 

 

「アルデアル山道第一号の開通だぜぇ!」

 

 

多分ここら辺りの土地に名前は付いているだろうけれど、私達以外に住んでいる人は見受けられないので勝手に他の居住地の人達と相談して呼び方を決める事にした。

他にも居住地同士の協力とか色々話し合いになって、居住地ごとに番地を振り分けることになったのだが、私達の所が一番地となった。

元々ローンおじさんが、集落ごとではなくもっと広い範囲で連携をしようと声かけをした中心人物だったからと、他の人達に勧められていた。

おじさんが照れながら喜んでいた。

この地域は聞くところによると元々は戦争の影響で避難指定されていた地域であり、昔は軍の演習場だったのだが10年ぐらい前から無人地帯になっていたらしい。

文句を言う人とか因縁をつけてくる人が本当に少ないから、最近はここでの暮らしも悪くないんじゃないかって思う人も増えてきた、私達の一番地以外にも他の居住区の人達が。

 

 

「道が出来たからこれで水の運搬も楽になるな。人間の体一つしか通れない場所が横に寝そべっても余裕な幅になったんだからな」

 

「荷車を使えるようになったのがいいわね、でも馬は農耕用だから結局人力で引っ張る事になるけれどね」

 

「僭越ながら小生が馬役を務めさせて頂くであります!ぶひぶひ!」

 

「それは豚だろうがッ!」

 

「「「あははは」」」

 

 

場酔いで愉快になっている人もいる。皆とっても楽しそうだ、私はそんな暖かな場所からは離れて見守る。

距離感は大事だ、少し離れていた方が安心するし寧ろ私はその方が幸せかもしれない。

そんな外れた所にいる私の隣に人がやって来る。

 

 

「カフカちゃん、楽しんでる?」

 

「はい、もうとっても、嬉しいですよ。皆さんの喜ぶ顔見ていたらそれだけでお腹いっぱいです」

 

「ご飯はちゃんと食べなきゃダメだよ、成長期なんだから。はいこれ4番地の人達からお祝いの鳥串」

 

「はいはい分かってます、一つ大きな仕事が終わりましたけど今後はどうする予定ですか?」

 

「個人個人の家屋建造かな、水路工事はうちの人達だけだと無理だと分かったし、他の居住地の人達が一息ついたら協力して水路を作っていく予定だ」

 

「私は今の少し狭いけど皆が寝そべるスペースがあるお家も好きですけどね・・・」

 

「おや、そうなのか?てっきりお年頃だから一人部屋とか欲しいな~って内心思ってそうとばかり」

 

「皆も一緒にするのは失礼かもしれませんけど兵隊になる過程でそういう欲求はなくなっちゃったので、今後いつか復活するかもしれませんけど」

 

「あぁ・・・・そっか、・・・・まあ今住んでいる仮設家屋は倉庫とか収穫した作物の下ごしらえ作業場所にする予定だから」

 

「ふふ、下ごしらえと言うより、出荷準備場所、と言った方が知的なおじさんらしいですよ」

 

「はは、そうだね、疎い方面はどうにも。分からない事だらけで皆の中心に立つときは恐ろしく緊張するよ、出来れば誰か代わりにやって欲しいって思うけれど」

 

「十分に上手ですよ、私よりも、多分ここにいる誰にも変わりは務まりません」

 

「そう言ってくれると明日も頑張れるよ」

 

 

何てことない会話で笑顔になる、こういう感情を抱くのが軽薄で不孝者と自己否定したくなるけど、ローンおじさんは家族のように思う。

おじさんだけじゃない、砲兵観測のお姉さん、何故か大釜を持ちこんでた料理人のおじさん、冗談とかおバカキャラで皆を笑わせてくる自称お兄さん。

 

 

「・・・・・・」

 

 

長らく考えないようにしていたけど・・・・・・・・・今もあんまり考えたくないけれど。

リーリス達は元気なのかな。アレンは性格が災いして酷い目に合ってないかな・・・・そもそも生きているのかな。

探そうとか事の真相を問いただそうとか、気力はない。知らない方が幸せな結末を想像したら知りたくない。

どういう結末であれ私の血のつながった家族はもう一人残らず死んで私はこの世にたった一人だ。

 

 

「でも皆がいるから・・・」

 

 

皆がいるから今日もこうやって笑って、明日も頑張って生きようかなって気持ちにさせてくれる。

これ以上悪い事を知ってしまったら、割れたガラスや卵の様に、取り返しのつかない壊れ方をしてしまうに違いないから。

記憶の隅でそっとしておくことにしたけれど・・・やっぱり、気になってしまう。

 

 

 

 

「よし、じゃあ今日は14番地の人達が依頼して来た地域の測量やってこっか!」

 

「頑張りましょう」

 

 

居住地での私の役割は普通に水汲みか多少知識のある農業関連の仕事に割り振られるけれど、今は測量のお手伝いを継続中だ。

どうやら居住地を探しても地図作成能力のある人は、傷痍で指が多少吹っ飛んでも数えれる程度しかいない。

だからこうやってアリンシャスお姉さんと一緒に遠出して関係ない場所の測量をしている。

ローンおじさんの方針で対価とか貰ってないけど、感謝がてらに色々そこの居住地の人から貰ったりする。ガムとかチョコとか煙草、色々な豆、大体は嗜好品で・・・他には新鮮な花飾りとか。

 

 

「ふぅ、よしここは終わり!」

 

「では次に行きましょうか」

 

「そうだな、あれ?今日は獲物ゼロ?珍しいね、カフカちゃん今日は本調子じゃない?」

 

「ここら辺あんまり・・いえ、殆ど動物いないんですよね」

 

「森とか自然には詳しくないが偏りとかあるのか?」

 

「ない事もないですけど・・・14番地の人達大変なんじゃないかって」

 

「あぁ・・・居住地会議に出てたけど隣接居住地の奴らと狩場が被って若干揉めてたな」

 

「やっぱり・・・・・」

 

「まあ私らが地図作ったら活用して活路を見出すだろ、あんまり気にすんなって、ね?」

 

「はい、・・・はい」

 

 

顔に出ていたのか心配気味に励まされる。

地図を作っているのは私ではないのに一緒に含んでくれる何気ない言葉で少し嬉しくなる。

いつも通り歩き通しで何か所も回ったけれど野生動物か全くいなかった。

 

 

「何でこんなに何もいないんだろう・・・ここからは木の生え方とかもおかしいし・・・向こうは人でもいるのかな、木が全然ないし・・・」

 

「お、怪しげな場所に迷い込んだと来たら怖いお化けがつきものだな、わぁ~がぉ~食べちゃうぞ?」

 

「っふ、揶揄わないでくださいよ」

 

「あ、びびらないんだ・・・・私実は結構・・・・やばい苦手・・・」

 

「あれ?・・・・だ、大丈夫ですよアリンシャスお姉さん!森の神様とか迷信ですしこの世に神様なんていませんよ!」

 

「いやぁちょっと・・・何か寒気もしてきたし、怖いせいか息も・・・・う、あ、あれちょっと待って本当に・・・」

 

 

岩の上に乗って遠くを見渡していた私は気付くのが遅れたけどお姉さんが小刻みに震えて膝を折っている。

まるで普通の人が冬に裸で放り出されたように寒そうにしていたけど次の瞬間。

 

 

「お、おぇ゛・・・・!!」

 

 

嘔吐をして悶え苦しみ始めた。

 

 

「え、え?だ、大丈夫!?」

 

「だいじょ・・・うぅ゛・・・何か変、体が・・・おかしい」

 

「と、とにかくこんなんじゃ測量してる場合じゃない、一回戻ります!」

 

「うぅ゛・・・」

 

「ほら頑張って立って、肩貸す・・・・う゛!?」

 

 

登っていた岩から降りてしゃがんだ瞬間、肌を不快な空気に撫でられた。

吸い込んだ空気は肺と気道を焼くように浸透する。私は咄嗟に口を押えた。

 

 

「ごめん!緊急です!」

 

 

私は慌ててぐったいりしているお姉さんを強引に背負ってその場から走り去った。

少し前まで喋っていたのにお姉さんは咳とか異常を来した呼吸だけしかしないようになった。

一瞬、気付くのが遅れた。私は全速力で森が途切れている反対の方向に走った。

 

 

「チュン・・・チュン」

 

「はぁ・・・・はぁ、おえ゛・・・うぅ・・・」

 

 

多分あそこ一帯は毒ガス地帯だ。前にリッペ船長に聞いて私も酷い目にあった・・・・。

となると私達が追いやられたこの土地はかなり北になる、現地住民がいないからまあ北かなぁと判然とした感想しか抱かなかったけど、どうしてあの段階で気付けなかったのだ。

 

 

「大丈夫・・・ですか?」

 

「ああ、少しは・・・・気分は最悪だけど・・・・・・・あれは森の呪いか何か?」

 

「戦争の呪いです」

 

「悪霊にでも憑かれたのかなぁ?」

 

「知らない、ですか?」

 

「何を?」

 

「・・・・・・・戦争に負けた時の為にガス散布したって、毒ガスです」

 

「毒ガス?・・・聞いた事ないかなぁ、分からない」

 

「毒の、ガスですよ、吸うと死んじゃう空気です」

 

「そんなのを私らの!うぇ、げほっ!?」

 

「む、無理に声を出さないでください!何でも吸ってから気付くまで結構時間がかかって重症な事が多いんです」

 

「ふざけ、・・・・真面目に戦ってる私らの背後に通れない壁とか・・・ぬぅ・・・・はぁ、でも助かった、馬鹿みたいに軍用教典読んでも・・・・知識負けしちゃったなぁ・・・」

 

 

寝そべるお姉さんは少し声を押し殺して言い切る。毒のカーテンの存在がそんなにショックだったのか私から顔を背けてしまった。

私は少し焼ける感覚がまだ残っている喉の感触を紛らわせようと水筒から水を一飲みする。

本当に皆、何も知らないんだなって、思う。何も知らなくていつも突然に酷い目に合う。

少し持つ手に力が入ってしまった。

 

 

 

「―――との報告がありました、皆さんの今後の為にも立ち入り禁止区域の明確な策定と事実の周知、注意看板の設置などを提案しますが如何でしょうか?」

 

「毒ガス・・・と言ったかな?それは所詮空気の塊なら、風が吹けば離散して問題なくなるのではないか?」

 

「確かに不審な体調不良者の続出はあったけど立ち入り禁止にする程ですかね?」

 

「するべきでしょう!それにこれらを考慮してこちらの居住地の狩猟可能地域拡大も考慮して欲しいのですが」

 

「目下の問題は私達を含めて皆さん全体の安全です。提案を受け入れてくださらずとも今日の事は各々の居住地全員に周知して頂きたい。」

 

 

隙間風が良い空調になっている、間に合わせの建物で机を囲って30数名の代表が話をしている。

座りきれない者達は壁際に50数名、外には同伴者100名、今はアルデアル居住地会議が行われている。

今日は初の緊急招集であり出席者の面々も、寝不足とか急な呼び出しのストレスで険しい物となっていた。

 

 

「まぁ安全の為なら異論なく賛成なのですが禁止区域の策定などはどう・・・こう、人を立たせて気分が悪くなったとかの手法を用いるのですか?」

 

「一度はこの追放政策の管理人に話を通す予定ですが・・・・」

 

「真面目に取り合ってくれるとは思えないね・・・ああ、先程の提案にはこちらも賛成だ。」

 

「もし相手にされなかった場合はどうするんですか?」

 

「・・・・・その時はまた考えます」

 

「まずは皆さんの集落でその・・・・毒ガスなるモノの知識を有している人員の確認ですね」

 

「パーペン議長に報告をあげた者には頼れないのですか?」

 

「過去に詳しい人から聞き齧った程度らしいので期待は出来ません」

 

「まぁ無学が災いしてありもしない天災とか厄災だと騒ぎ立ててパニックになる事は回避できただけよしとしましょう」

 

「言われてみればそうですね」

 

「では会議はこれにて終了とします、早急な集合をしてくださりありがとうございました」

 

 

終了の合図が出され各員が一斉に退出する。

残されたパーペン議長、ローンは背伸びをして疲れを解す、そして溜息をつく。

少し掃除とか片づけを終えた彼は建物を出た。

 

 

「いや~各所から人が来るのは圧巻だったな!前より人も増えたし」

 

「それだけうちの頼れるパーペン議長様が作った協力体制は魅力的なんでしょう!」

 

「この分だと北に来た人達みんなここに集結する日も遠くないな」

 

 

家屋から少し離れた農耕地を耕している住民は各方面に散る来訪者を見て未だに圧倒されていた。

せいぜい100人単位の集落で細々と暮らしていくんだろう、ぐらいの認識だったのが現実は想像以上に輪が広くやる事も盛大だったため、良い意味で彼は裏切らていた。

興奮冷めぬままに将来の展望や、到来するであろうより良い暮らしを夢見ながら彼らはしばしばの休息をした。

 

 

 

 

『戦争反対!』

 

『息子を帰して!』

 

『無能ウォーロックは責任を取れ!』

 

 

政府省庁の前で抗議をする市民は日に日に増加していた。今はまだ穏健な抗議で済んでいるがこの調子で戦争が続けば再来月には官公庁が暴徒に襲撃されるのも夢ではない。

一向に上がらぬ戦果と、無駄に上がってくる物的、人的喪失の報告に政府の役人はうんざりとしていた。

皆が思う、今日は一体誰がこの不幸な知らせを首相に伝えて暴力的な目にあいに行くのだろうと。辟易としているのだ。

 

 

「ルセ市での戦闘はひと段落付きました、鉄橋の修復が完了し物資の搬入も容易に可能になり高度な防衛陣地の構築も進んでいます」

 

「また先週みたく敵に飛行スケジュールの穴を突かれて橋を爆撃で破壊されなければいいがね」

 

「対空砲の配備も万全です、問題はないでしょう」

 

「それで、被害は?」

 

「3週間の攻防で我が方は2308名の死者、4000名近い負傷者を」

 

「全く情けない・・・」

 

 

どうやら今日は戦果が比較的穏当な上に首相の機嫌も大して悪くなかったので溜息以外が報告者に飛んでくることはなかった。

最近は軍上層部と共同で作戦に関して議論を重ねていたウォーロックだったが本職は政治家なので一先ずそちらに専念するという事で久しぶりに自身の執務室に戻っているのだ。

ぶつくさと文句を言う首相からさっさと遠ざかりたい報告者は間髪入れずに次の報告を始めた。

 

 

「続いての報告ですが、ギリシャ地方政府の便宜的海外領土のイズミル州でオスマン帝国軍との大規模な軍事衝突が発生しました」

 

「・・・海を渡って攻めて来たのか?」

 

「イズミル州はアナトリア半島の地域です」

 

「そ、そんな事は分かっている!」

 

 

心底呆れた視線を送りそうになった報告者はすぐに体裁を整えて近辺地図を首相に譲渡する。

地図にはここ数日首相が呆れる程に見て来た自国領内・・・ではなくそこから南東方向に少し視点を変えた物だった。

アナトリア半島からシナイ半島、ペルシャ湾、アラル海までと広大な版図を誇るオスマン帝国が今回、バルカン連邦と相対する当事者である。

 

 

「オスマン帝国軍の動きは事前の兆候からギリシャの地方政府が感知し、イズミル州の防衛戦力強化に努めていたため最悪の事態は先送りに出来たそうです」

 

「それで、猫の手すら足りない現状で面倒ごとを増やす無能な味方に私は何を求められている」

 

「意思表示です、オスマン帝国の『侵略行為』を非難しそれが継続した場合の報復措置を提示する事をギリシャの地方政府は求めています」

 

「私は外国など行った事がないから知らんが、我が国の出来損ない軍隊に務まる相手なのかね?」

 

「不可能でしょう、取るに足らない内患の争いですら後れを取っている我々に世界第二位の経済大国を敵に回す事は出来ません」

 

「奴らの争いに関知しないとして我々がアナトリアの・・・・海外領土を見捨てる判断をして奴らは更なる介入を続けると思うか?」

 

「続けたとすれば反乱者たるブルガリア国を背後から突き殺してくれるでしょう、まあ若干ギリシャ地方政府の領土失陥はありますが許容範囲内です」

 

「それは良い、ではこの件は無視だ、地方政府の対応に一任する、元より戦力にならない地方政府だ、負けようと勝とうと我々には関わりない」

 

 

バルカン戦争の長期化を見たオスマン帝国はセーブル条約により割譲を余儀なくされた最後の帝国領土の奪還を開始した。

9月初旬からギリシャ地方政府に『不当占拠』されているイズミル州への進撃を開始し大きな抵抗を受ける事となる。

また国境地帯の不安定化を理由にエディルネへの進駐も行われ現地の守備隊と交戦を開始した。

外交上は戦争とは呼ばれない小競り合いに過ぎなかったが過去に行われた国境紛争と比べるとその本気具合が伺えるだろう。




国は内戦と戦争に突入したけどカフカちゃんは楽しそうに街づくりシムしてるのでヨシッ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。