戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話   作:エルカス

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61瀕死の病人から世界第二位の列強へ

かつての10月では、夏の残暑がまだ感じられる日があるものの、成長した葉が色づく。

そして過ぎ行く時の過程で枯れ落ちてゆく、変化の季節。

最も当に四季などなくなってしまった場所にはあまり馴染みない話だ。

 

 

 

「第13師団長が戦死しました!部隊は敗走を始めています!」

 

「予備兵力を投入し戦線の穴を塞げ!今右翼が崩れれば踏ん張っている左翼が包囲される!何としても敵の進軍を阻止せよ!」

 

 

「繰り返す、人間が七分に大地が三分!敵は凄い数だ、弾薬類の欠乏も酷い、補給輸送を早めてくれ!」

 

「こちら補給所!敵爆撃機の襲来により補給は到底届けられそうに―――――――――」

 

「弾薬庫に着弾したぞ!逃げろぉおおお!!」

 

 

「進め、敵は脆弱で我々は強い!敵を討ち取り止まるな!」

 

「これは連邦の趨勢を決める一大決戦だ!明日の未来の為に進め!」

 

「敵の砲撃が落ちる前に走り抜け!不退転の構えで前に、前に!」

 

 

 

月替わりの数日前に多量の煙幕と共に肉の津波がブルガリア国を襲った。

一方的に無防備な敵を蹂躙できるはずの機関銃陣地は、撃つ敵の多さのあまり銃身が灼けて変形し故障した。

屍の山を積み重ねながらも衰える事のない進撃を続けるバルカン連邦。

 

縦深防御により何層もの防衛戦線を有していたブルガリア国だが、突き破られるように一枚、二枚、三枚と守りの壁は決壊する。

鉄と血の嵐が吹き荒れた。

多くの人間が泥の大地に倒れ、想い馳せる人の名前を呼びながら息を引き取った。

 

 

 

「敵は第6防衛戦線にまで到達、たった一日で10kmもの前進をしました。攻勢は30時間経過した今でも続いています」

 

「鋭い打撃なら誘引して受け流す事ができるが全戦線でこのような力技に出るとは・・・・」

 

「バルカン連邦は決戦を挑んできました、この攻勢を耐え凌げば政治的勝利が確約されたも同然です」

 

「後方の予備兵力の2割を投入しろ、縦深防御の再構築し―――――」

 

「ボン!」

 

「何だ?何の音だ」

 

「まさか敵がもう首都に・・・・」

 

「そんな訳があるか!前線まで100kmは余裕がある!」

 

「た、大変です!バルカン連邦の爆撃隊が市内に爆弾を投下しています!街は火の海です!」

 

「何だと!?軍事施設などないのに!あっても落とすならこの場所だぞ!」

 

「申し訳ありませんが参謀会議は中止にし地下に避難してください!」

 

「下劣な野蛮人め!なりふり構わないのか!」

 

「阻害気球を運ばせろ!奴らの爆撃機の侵入を防げ!」

 

「しかしそれでは低空爆撃を予防するしか効果が・・・・」

 

「何もやらないよりはマシだ、さっさとしろ!前線に出ている航空隊も引き抜け!」

 

 

控えられていた都市への無差別爆撃も解禁され、特に備えをしていなかった諸都市では多くの民間人が爆撃に晒され住居を喪失した。

住民が燃え広がる火災を消火しようと所に夜間爆撃が実行され、燃える火を目印に爆弾が投下され、多くの犠牲者が発生した。

これを受けブルガリア国はなけなしの航空隊を都市防空に割く事になり、前線の制空権を完全に喪失した。

戦争が始まっても風貌はそのまま都市からは多くの気球が浮かび上がり、随所に禍々しい銃口を二つ四つ揃えた対空砲が配置される事となった。

 

 

 

「くぅう・・・・!!死ね死ね!全員死んでくれ!」

 

「バン!ババババン!」

 

「落ち着け!撃ち続ければ故障するぞ!冷静に銃身焼けに注意して・・・・」

 

「分かってる!分かってるよ畜生!」

 

「ヒュウウン」

 

「何の音、・・・爆撃だ!伏せろ!」

 

「ボォオン」

 

 

その近辺を破壊しつくす殺人的な爆発は地面を数メートルも抉り土の雨を降らせる。

爆撃を免れた兵士はその雨に濡れ不快なざらつきを感じながらも戦闘を続けなければならない。

首から運悪く入った砂の気持ち悪い感触を気にしている時間などないのだ。

 

 

「っぷ!うぅ・・・あぁああ!!!クソォ!こんな所もう嫌だ!嫌なんだぁ・・・・」

 

「しっかりしろクソ!もういい代われ!」

 

 

死への恐怖とあまりに多すぎるその前触れに気が触れて発狂してしまう者も少なくはない。

砲弾の飛び交う音、銃声、爆発、泣き言、呻き声、敵の国の言葉、プロペラの音、エンジン音。

戦場のオーケストラが24時間続く。休みなく葬送曲が奏でられる。

 

 

最初の一週間の戦いは特に酷かった。

たった一日で両軍合わせて1万人を超える屍を容易に積み上げた、軍人だけでこの数を築き上げた。

一週間も過ぎれば死者の山は10万まで膨れ上がる、一体彼らを待つ何百万の家族や知人が咽び泣くのか。

あるいは咽び泣く家族も瓦礫の山に押しつぶされ、吹き飛び、火に巻かれて灰になったか。

 

 

 

「イオニア駐屯軍は壊滅しました、同州は完全にオスマン帝国により占領されました」

 

「・・・・・」

 

「敗因としては海上封鎖の突破に失敗し補給を絶たれたのが最たる原因と考えられまた中央政府の―――――」

 

「もういい」

 

「はい」

 

「エディルネ地方は?」

 

「オスマン帝国軍はブルガリア領域への侵入を避けて我々の州境を律儀に厳守し進軍を続けています」

 

「狭い戦線だ、防衛は難しいか?」

 

「非常に。敵の航空隊は我々とは比にならない程に精強でありまた艦砲射撃による援護を受けられます、我々の半壊した海軍ではとても・・・・・」

 

「海軍再建を急がせると共に航空隊の拡充を急げ」

 

 

国境紛争の開始から4週間でイズミル州は陥落しギリシャ地方政府海軍はオスマン帝国軍のスレイマン栄光艦隊に敗北を喫し、海上輸送網を遮断された。

更にオスマン帝国空軍から繰り出された一枚羽の高速戦闘機に地方政府の航空隊は半壊にまで追い込まれ制空、制海権を失っていた。

またそれによる影響でエディルネ地方での防衛戦線構築に失敗し後退を続けていた。

 

 

「第三国を通した休戦協議はどれも我々に対して重荷の内容ばかり・・・・・」

 

 

一人執務室で頭を悩ませていたギリシャ地方政府代表者は、各国を通じて届けられた和平条件を見て絶望する。

傀儡国と形容するには大袈裟すぎるが、限りなく主権と領土を剝ぎ取られる事が書かれており経済的な支配を受ける事は間違いなかった。

 

 

「願わくば時間が40年ほど巻き戻って奴らをそのまま病死させてやればよかったな」

 

「失礼します」

 

「ん?どうした、報告漏れがあったか?」

 

「いえ、まだ確定情報ではありませんが・・・・・・オスマン帝国と山岳共和国が交戦状態に突入したとの知らせが」

 

「・・・・・・・・何と!」

 

 

意気消沈していた筈の代表は目を見開いて立った。

そのあまりの豹変ぶりに報告者は少し気圧される・・・・事はなく笑顔がこぼれている。

ウキウキで報告を聞き返す代表と、これまた嬉しさを滲みだしながら報告をする報告者。

彼らにとって10月は、吉報で始まった。

 

 

 

「第14次露土戦争・・・・う~ん、一体あと何度続ければ気が済むのか」

 

「どちらかが滅亡するまででしょう」

 

「しかし名前がどうにも、これでは我々が過去の帝国の後継者の様に思われてしまう」

 

「過敏な憂慮だと思いますが」

 

「同志リステューカ」

 

「は、失礼しました」

 

 

煙草を吹かして寛いでいる上司の隣でリステューカは敬礼をして不機嫌さを露わにした上司の怒りを誤魔化す。

咄嗟の身のこなしに思わず笑ってしまう上司だがやはり彼は名称が気にいらないようだ。

 

 

「変わる・・・こう戦争意欲を書き立てる格好いい呼び方を考えてみようじゃないか、ここらの地名は何だったか?」

 

「かつてあった国の名前ですとグルジア、アルメニア、アゼルバイジャン、地図に乗る地名や名称はカフカース、バクー、ソチなどがあります」

 

「バクー戦争、ソチ戦争・・・・かつてあった国は良くないな・・・・祖国を背負って立つ若人と感性が近い貴官は何か良い呼称は思いつかないか?」

 

「大北方戦争に倣って大カフカース戦争、どこか大きいのかは知りませんが」

 

「ほほう、他には?」

 

「カフカース継承戦争、山岳戦争、・・・・祖国戦争」

 

「同志リステューカ、プラウダに移籍したまえ」

 

「こんなの歴史の教科書からの翻案ですよ、自分の言葉ではありません」

 

「自惚れるな、そこまで褒めていない、歴史の使い回しでも果たしてこの極貧国にそれを見破れる識者は何人いるのか」

 

「・・・・・・・失礼しました」

 

 

上げて落とされたリステューカは若干眉を顰める、彼の上司は相変わらず酒を飲んで気だるげに書類に目を通していた。

後でこの悪性腫瘍が党批判したと報告しようと心に決めた彼であった。

実際に声は記録されているから言い逃れは出来ない。

 

 

「ふぅ~・・・・・今頃南方では戦争か、・・・・・・世界第二位の経済大国に勝てるのか?祖国が」

 

 

一向に仕事が進まないので退屈したリステューカは、外に出て厳しい寒さに包まれている極寒の大地の彼方を見る。

地平線を見る事は出来ず、降雪による遠方は靄がかっている。

 

 

「・・・・戦争、早く終わればいいな」

 

 

歴史的な観点から見たら通算で14回目となるオスマン帝国との戦争は山岳共和国の奇襲侵攻から始まった。

両軍の装備を比べるとオスマン帝国軍が大きく近代化されていたが山岳共和国の純『兵士』部隊の設立とその集中運用により、従来では全く実現できない進軍と戦闘を可能にした。

兵士用のライフルを背負った兵士たちは断崖絶壁の山肌を重力に逆らって駆け上がって敵軍の意表を突くのが基本的戦術となった。

初動の攻撃では山岳共和国側が優勢を誇ったが、時間の経過と共に世界第二位の経済大国の意地と諸外国の援護に苦しむことになるのはまだ先の話であったが大方の想定はされている。

 

 

「平和になったらアズ姉も帰って来て・・・・・ずっと一緒にいて・・・・はぁ・・・」

 

 

あまり実現しそうにない理想に思いを馳せて溜息をつく。

特に熱くなどないと言うのにリステューカの頬が赤く染まる。

彼は中に着ている服の胸ポケットから、正方形の箱を取り出してみる。

 

 

「・・・・・・姉みたいな君も好きだけど・・・・それ以上の君を見たい、とか・・・何言ってんだ俺・・・」

 

 

ぶんぶんと頭を振って外の空気で頭を冷やす。

恥ずかしくなってさっさと箱を元あった場所に戻す。

しかし結局しばらく恍惚とした表情で上の空になっていた。




この世界のロシア内戦は中途半端なまま終わってしまったのでコーカサス地域は独立勢力でした。
その中でプロテイン(戦争特需)をキメた元病人が勢力圏拡大の為に進出したんですね。
山岳共和国君は眼前の謎戦争に手を焼いて勢力圏拡大してる場合じゃなかったんすよ。
という事で今までカフカース地域はオスマン帝国の勢力圏だったんですけど・・・・
冬眠明けの熊と病み上がりの病人、どちらが勝つかな?
ちなみに兵士(スレッシャー)は何故かスノース(30年近く続いた)戦争の交戦国にしか生息していないのでオスマン帝国はパンピー集団で素手で車持ち上げる人達と戦う事になるんですよね。
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