戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話   作:エルカス

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本作は前中後編の三部構成でやる予定です。
今はまだ「前」の部分で凡そ100話までには終わらせる予定です。
中後編の「中」は中身までしっかりプロットが決まってるから良いんですけど・・・
後編は始まりと終わりしか内容が決まっていません
なので本作が何話までかかるとかいつ終わるとかは作者にも全く分かりません!



62生きる権利は乞わない、勝ち取るだけ

「よい、しょ」

 

 

雪に埋もれた茎をがっちりと掴んで地中から引き出す。

1株当たり10片前後の実りを見せているからまずまずの成果と言って良い。

肥料もなく農業なんてまるでやった事ない人たちと一緒に急ぎで切り拓いた土地で育てたにしては。

 

 

「10年の軍隊生活で家庭菜園をしている仲間はよく見たけど・・・そこにカフカちゃんが居てくれれば皆もっと沢山色々食べれたのかな」

 

「自分たちで育てていたんですか?」

 

「最初の内は戦う事で必死で何も考えられなくなったけど、2年3年過ぎると馬鹿らしくなって・・・・何ていうかこう、趣味とかを探し始めたの」

 

「アリンシャスお姉さんは何か趣味が?」

 

「私は・・・・特に、砲兵隊に残り続けようと必死に好感度稼ぎ、それで忙殺されてた」

 

「じゃあ今から趣味を見つけましょうよ」

 

「こんな何もない場所で?」

 

「見つけられたらきっとここでの暮らしがもっと楽しくなりますよ、っと!」

 

「手際良いなぁ・・・私が引っ張ると途中で茎がちぎれるんだけど・・・」

 

「慣れですよ」

 

 

土を掃って収穫したジャガイモを木製バスケットに放り込む。

道沿いには同じように満たされた物が数十個も積み上がっている。

季節はもう10月末でこの場所にやってきてから3ヵ月が立っている。

 

 

「こんなに大量に収穫してるのに国が納めろって分にはまだ足りないの?」

 

「冬は動物が減りますから・・・・作物を備蓄して食べ繋ぐのが良いんですけど、この量じゃ手元には1・・・・2か月分ぐらいしか量が残りません、食べる量を減らせば何とか春を迎えられるかなって・・・・ぐらいです」

 

「へぇ~考えた事なかったそんなの・・・・・食べ物を作らない人の為にはもっと沢山必要なんだ・・・・」

 

 

思ったよりもアリンシャスお姉さんは感じ入っている。

何年もただ戦争にだけ従事して来たからこういう、見えてなかった裏方の仕事とか役割の必要性に感心しているのかな。

だとしたら農家冥利に尽きる、戦争に参加した人はどんなに小さな戦いだって大きな一枚絵で描いて貰えるけど、それを支える人達は誰も描こうとしないし見られることもない。

だからこうして一人でも多く、私達の頑張りを知って貰えただけで嬉しい。

 

 

「お~いカフカちゃん!」

 

「あ、は~いどうしたんですか!」

 

「役人さんが納品受け取りに来たって!今収穫出来てるのだけでも運んで来てだって!これ運んでおくよ!」

 

「ありがとうございます!すぐに行きます」

 

「・・・・急に来るね、国の人」

 

「おかしいな・・・予定じゃ11月に入ってから来るって聞いてたのに、まだ収穫も終わってないから納品出来ないや・・・・面倒くさい事にならないと良いけど」

 

「面倒くさい事って?」

 

「例えば100t納めたのに次来るときは50tしかなかったぞって言われたりとか」

 

「面倒くさ・・・・・」

 

 

呼ばれたので畑から一端引き上げて収穫できた分だけ荷車に積み込んで引っ張っていく。

一気に運べるのはとっても楽だし何回も往復しなくて良いのは革命だと思う。

心配なのは沢山詰め込んで怖い軋み方をする荷車だけど何とか壊れずに目的地に到着した。

 

 

「ふぅ~・・・・遅いじゃないか土人共、身分に似合って良い土汚れをしているな、ずっとそのままで居てくれ」

 

「・・・・・」

 

「どうした?さっさと動け、収穫した作物をトラックに詰め込め、待たせるな」

 

 

顔が張り詰める。

眼前にいるのは怠惰な役人ではなく銃で武装した警察・・・軍隊の人だ。

皆腕っぷしは良さそうなのに私達が作った椅子とかに我が物顔で座って休憩している。

気に入らない。

 

 

「分かっています、でも収穫量を測る前に詰め込むんですか?」

 

「っち、また説明かよ面倒くさい、お前の所のお偉い奴に聞け、おい出せ」

 

 

リーダー格の男は部下に顎で命令をして倉庫の方に入っていく。

しかし私達の偉い人とは一体誰・・・・

 

 

「ほら、立って歩かないかこの役立たず!」

 

「う、ぐぅ・・」

 

「ローンおじさん!?ど、どうしてこんな・・・・け、怪我を!?」

 

「騒ぐな耳が痛え、ちょっと俺達と軽く遊んだだけだよ、大袈裟だな」

 

「どういうつもり?この人は普通の人間だって見て分からないの?」

 

 

私はうずくまって倒れるローンおじさんに駆け寄る。

アリンシャスお姉さんは偉そうな奴に真正面から相対する。

頭が真っ白になる、おじさん血を流してて・・・・意識は上の空で・・・・銃を持った人たちが・・敵が囲んでいる。私達を、囲んでいる。

 

 

「頼む・・・全部はやめてくれ・・残さないと・・冬が、越せないんだ・・」

 

「おじさん!無理して喋らなくて良いから!す、すぐにお医者さんに・・・・!」

 

「お~っと待ちな嬢ちゃん、俺達をこ~んな寒い中待たせるなんて殺人だぜ?仕事してからそいつと一緒にラブラブチュッチュッしな」

 

 

じゃれる様な軽い口調で馬鹿にされながら道を遮られる。

遊ばれている、私はこの状況を知っている。

 

 

「お願いします、退いてください・・・!」

 

「さっさと、詰め込め」

 

「っ・・・このっ・・・!」

 

 

歯を食いしばるけど私には我慢する事なんて出来なかった。

私の邪魔をする敵を排除しようと飛び出し・・・・・飛び出す私の腕をローンおじさんが掴んだ。

 

 

「おじさん・・・・!」

 

「ダメだ・・・!」

 

 

怪我をしているおじさんに、力強い眼差しで見つめられる。

内なる怒りを抑え込む、握りしめた手を地面に押し付ける。

 

 

「そこのお前、なに突っ立ってんだ、さっさと動け」

 

「全部、奪うの?」

 

「なんて?」

 

「私達が育てた食べ物を全部持っていくの?あなた達」

 

「おうそうだぜ、国がそう決めた、俺もお前達もそれに従うだけだ」

 

 

やはり、おじさんが譫言半分に言っていたから分かっていたけど。

この人達は全部持っていくつもりなんだ、全部。

アリンシャスお姉さんは詰め込めという命令を無視して話を続ける。

 

 

「何故?あなた達と国は動物を狩るだけで冬が越せると言いたいの?全部持って行ったら私達が餓死することぐらい分からない?」

 

「知らねえな、お前たちの事情なんて」

 

「人が死ぬかもしれないのに、よくにやつけるね、あなた」

 

「っふ、とっとと手を動かせよ、『兵士』」

 

「カチ」

 

 

険しい顔で非難したアリンシャスお姉さんの言葉が図星だったのか徴収人の一人が話を強制的に終わらせた。

銃口を向けて脅したことによって。

ここにきてトラブルを見ないふりをして動いていた他の人も動きを止めた。

 

 

「ど、どうしたら・・・・」

 

「パーペンさん・・・・!私達はど、どうすれば・・・」

 

 

一触即発の状況で他の皆も委縮してどうしたらいいのか分からなくなって恐々としている。

徴収人は銃口を向けている仲間の動向を面白半分に見守っている。

銃を構えている奴は、下種な顔をしている。見た事のある、顔だ。

 

 

「ほら、びびって動けねえのか兵士?さっさと働けって言ってんだよ、こっちは寒くてしょうがねえんだ」

 

「寒いなら自分で詰め込んだらどう?無駄に鍛えたその体はベッドの上で腰を振るためだけにあるの?」

 

「ブハハハ!言われてんぞ!」

 

「全くお笑いだ!これは一本取られた!」

 

「ッ、舐めやがって!」

 

 

アリンシャスお姉さんの皮肉が銃を構えた奴に炸裂して仲間内に笑われている。

こっちとしては全く面白くないし、自尊心を傷つけられたそいつは立ち上がって本当にしっかりと銃を構えた。

 

 

「俺を舐めるなよスレッシャー!最後にもう一回言ってやる、さっさと、荷物を、詰め込め!」

 

「気が短いのね、ベッドの上でも短いのかしら?」

 

「俺は、・・・・俺を馬鹿にすんじゃねええ!このクソ兵士がぁああああ!!」

 

「おい馬鹿やめろ新入り――――――――――」

 

「パァン」

 

 

銃を向けられながらも堂々とした佇まいで相手に言いなりにならなかったアリンシャスお姉さんはとっても格好良かった。

でも、激情したその男は銃の引き金を引いて、お姉さんは血を流して雪の上に倒れた。

 

 

「きゃああぁあ!?」

 

「う、撃ったぞ!?」

 

「おい何やってんだ新入り!」

 

「俺を馬鹿にしやがって!ぶっ殺してやる!」

 

「やめろバカおい!ってここ雪が深ぇ!?」

 

 

倒れて蹲っているお姉さん、コッキングをして排出された薬莢が雪を焦がす音が聞こえる。

殺人をしようとしている兵隊を仲間が止めようとしているけれど、雪に足を取られたりじっとして体が冷えていたのか禄に歩けていない。

たぶん彼らは間に合わない。間に合ったとしても私が走り出さない理由にはならなかっただろう。

 

 

「クソ女のクソ脳みそをぶち抜けば少しは可愛い顔をするようになるんだろうなぁ!くたばれ!」

 

「やめ、ろぉおおおおお!!!」

 

 

全速力で、出せる力の全てを足に込めて雪の上を走り、アリンシャスお姉さんを殺そうとする奴を突き飛ばした。

力の加減なんて考えずに、ただ誰かが死ぬかもしれない現実を回避するために、私は・・・・私はやってしまったのだ。

 

 

ゴキ」「あ・・・・ガ・・・ッ!?」

 

 

私が自分のしでかした事に気付いた時には遅かった。

突き飛ばした人は首が胴体に対して90度以上曲がって、痙攣して吐血をしていた。

立ち上がろうとしているのか痛みに悶えているのか、雪の上でじたばたするその風体は気味が悪かった。

 

 

「し、新入り・・・お、おいしっかりしろ新入り!」

 

「テメエ!」

 

「あ、・・・え・・・私・・・」

 

「カチ」「カチ」「カチ」

 

「見える所に手を上げて膝まづけ!」

 

 

銃を向ける人間を一人排除したら三人に増えた。

頭が真っ白になる、私に突き飛ばされた人はもう痙攣は収まって目を開けたまま動かなくなった。

死んでいる、と思う。私が殺した、・・・私が?

 

 

「この人殺し!おい聞いてんのか、本当に撃つぞ!?」

 

「人、殺し?・・・私、が?・・・え?」

 

「そうだお前だ!さっさと手を上げて膝まづけ!早くしろ!」

 

 

足取りが覚束ない。

これは本当に現実なのか、私は何をしているのか。

私に向けられた声が泡沫の様に消えて何も聞こえなくなる。

 

 

「最後の警告だ!撃つ―――――痛ってえ!?」

 

「で、出て行け!お前等なんか」

 

「そう、そうだこれは正当防衛だ!」

 

「俺達の食料を全部持っていくお前らは人殺しだ!」

 

「そうよ!で、出て行け!」

 

「貴様ら正気か!?俺達に石を投げる事は国に石を投げている事と同じなんだぞ!」

 

「隊長どうしますか!?撃ちます―――――あ、が!?」

 

「う、うわああ!?殺される!」「バン!」

 

「馬鹿!何を撃っている!?射撃許可は出してないぞ!」

 

「あ、ああああ!撃たれたぁ!!う、撃たれたぁあああ!!」

 

「パァン、パァン!」

 

 

揺れる視界の中で私を現実に引き戻したのは争いの音だった。

世界がとてもゆっくりと見える。

石を投げて戦う皆、銃で応戦して一人、また一人と殺していく簒奪者。

私は、考えてもいないのに何故か、手が動いた。

 

しゃがみ込み、足元に転がっていた、武器を手に取る。

そしてそれを、人に向ける。

 

「生きる権利は乞わない、勝ち取る、だけ」

 

そう自分に嘯いて私は引き金に手をかけて―――――――

 

「――――――――バァン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

厳しい寒さに体が凍えながらも私は目の前で怒っている惨状に胸がしめつけられ、焼けるような痛みに悶えていた。

投石で指や顔を破壊されて悶える兵隊、銃撃にやられて痛みに悶える居住区の皆。

何よりも、守ろうと決めたあの子が銃を持ち、一人、二人と人間の頭を撃ち抜いて血に濡れる姿は、見るに堪えなかった。

 

 

「後退だ!森の中に・・・に、逃げこめ!」

 

「森に逃げ込んでどうするんだよ!?」

 

「車で逃げようにもあいつらに占拠されて・・・・!」

 

「し、死ねこのクソ野郎共が!!」

 

「うわぁああああ!?」

 

 

40人くらいいた筈の兵隊たちは10人足らずの『兵士』に負けて森に逃げ出そうとしていた。

だけど恐ろしく早い追撃により追いつかれ殴り殺され、運が良ければ満身創痍で地面に蹲っていた。

 

 

「う、撃て!撃ち返―――キィン、あ、お・・・」

 

 

金属板を高速で射出された金属の塊が砕き通り過ぎる音は知らない人が聞くと良い音に聞こえるかもしれない。

だけどこの音が人の死を知らせる物だと分かれば最悪な耳障りに様変わりする。

 

 

「た、隊長ぉおぉ!?」

 

「あ、あいつら銃を奪って・・・・!も、もうダメだ!降参だ、俺は降参す――――」

 

「バァン!」

 

「キィン」

 

 

ヘルメットを被っていたのにも関わらず脳まで銃弾が達しヘルメットの穴から血を噴き出しながら倒れた光景は嫌に目に焼き付く。

銃撃したのがあの子だからなのかは分からない。

射線上に出て来た瞬間に頭が撃ち抜かれていき、ついには・・・・こちらの勝利で終わった。

戦場には痛みに悶え苦しむ生者と死者の狭間にいる負傷者の声だけが木霊する。

 

 

 

 

 

 

「ローンおじさん、痛くない?」

 

「あ、ああ・・・・痛くないよ・・・痛っ・・・!」

 

「・・・・・」

 

「いや、あ・・・・痛いけど、我慢しなきゃさ?」

 

「・・・・・ごめんなさい」

 

 

今、自分の体に触れているこの柔らかで優しい手は、先程まで人を葬るために在ったのだと思うと恐ろしく感じる。

こちら側は銃なんて何も持っていなかったのに死者はたったの2人で、残った人は全員、命に差し支えない怪我で済んだ。

大して銃を持った兵隊で生き残ったのは4、5人らしい。

 

 

「ごめんなさい、私が・・・・私のせいで・・・・」

 

「・・・・・・・」

 

 

何も言えない、あの兵隊たちは素行こそ悪かったが一応の最低限の良識は持ち合わせていたように思える。

だけれど余裕がない緊迫した状況が不幸な出来事に繋がり、殺し合いに発展したのだと思う。

カフカちゃんが、あの激昂した男をもう少し穏便に無力化出来たのなら、違った結末があったのかもしれない。

そう思ってしまったから、この子の言葉には何も返せない。

 

 

「ごめんなさい、ごめんなさい・・・・私のせいで、私の、せいで・・・私がいて、ごめんなさい」

 

「・・・・・・」

 

「何言ってんだカフカちゃん!」

 

 

鈍重な雰囲気だったのに隣にいた別の負傷者、・・・この子はよく伐採を担当してくれていた子で、胴体に四発も銃撃されていた筈だ。

まだ1時間しか立ってないのに元気に喋って歩いている。

 

 

「俺達は何も悪くねえ!悪いのはあいつらだ!力が強いとかで暴力の指標が変わるのはおかしいだろ!俺達に限って銃を向けられても殺人じゃないなんてあり得ない!あそこでアリンシャスの姉御を助けに行ったのは、正しい!」

 

「でも、私・・・・・」

 

「そうだよ!こいつの言う通りだ、言う通りだからカフカちゃん・・・・そんなに悲しまないでくれよ」

 

「私、カフカちゃんが敵を銃で撃ち殺してくれてなかったら、今頃多分生きてないよ」

 

「この先どうなるとか考えたくもないけどよ!でも、ここは俺達の居場所だ、絶対に除け者になんてしない!またあいつらが攻め込んで来たら一緒に戦う、今度はもっと沢山の仲間もいる!」

 

「ッ、ごめんなさい私・・・・」

 

「あ、おい!」

 

「・・・・しばらくそっとしておこう」

 

「そう、だね」

 

 

見当違いな励ましはカフカちゃんを良い方向に向かわせることはなかった。

逃げるように走り去った。追いかけたかったけれど体は追いつかずにそこに横たわったままだ。

あの子を助けると決めたはずなのに、・・・一体私は何をしているのだろう。

 

 

 

 

『徴用暴動』

バルカン連邦が設置した兵士居住区、同地が生産して農作物が徴用される際に、住人達との間で衝突が発生した。

徴収には地方の守備隊一個大隊が担当したが、派遣された人員1000人の内、7割近くが暴動で殺害ないしは監禁される事となった。

連邦はただちに鎮圧部隊を派遣し秩序回復をすると宣言した。

バルカンの秩序が日に日になくなっていく。

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