戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話   作:エルカス

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64一般的なちびっ子兵士が仲間になった

「敵の防衛網を突破した我が軍の右翼はソフィア市8km手前まで肉薄しています」

 

「予定より遅れているな」

 

「敵は私服の民兵まで駆り出して決死の防衛をしている為、進軍が停滞し・・・・占領地域ではパルチザンにより補給部隊の襲撃と鉄道網の爆破事件が相次いでおり・・・・」

 

「何故訓練も受けていない匹夫如きに手間取っているのだ」

 

「それは・・・やはり見た目からは敵と判断が難しく・・・・・」

 

「近づいてくる敵国住民は全て敵だ、容赦ない射殺をすれば良い、補給部隊とて銃ぐらいは持っているだろう!」

 

「そうですが・・・それはあまりにも・・・・」

 

 

1952年11月初頭、銀狼作戦の開始から約1カ月、バルカン連邦軍の無停止攻勢によりついに国家基盤が貧弱なブルガリア軍を各所で敗走させる事に成功していた。

作戦開始当初は計画された防衛線による遅滞戦闘を続けていたブルガリア軍だがあまりの損耗の激しさと全土の生産工場が爆撃を受け物資の供給が遅れついに国土の4割をバルカン連邦軍に占領される事となった。

だが依然としてブルガリア国首都ソフィア近辺では熾烈な抵抗が行われており首都占領に拘るウォーロック首相の戦略目標と真っ向から衝突し両軍に損害を発生させていた。

 

 

「こちらは先月末までの戦闘報告書です」

 

「ふん・・・」

 

「そ、それと再定住委員会からの報告書です・・・・」

 

「・・・・・・・」

 

「ゴクリ」

 

「どうなっている、徴収するべき食料が予定数に全く届いていないではないか!」

 

「わ、私には管轄外ですので担当の者に詳しい話を伺って貰うとしか・・・・」

 

「この役立たずの風見鶏!もういい出て行け!」

 

「し、失礼します!」

 

 

嬉々として報告者は部屋を飛び出した。不機嫌そうなウォーロック首相は黒電話にダイヤルし部署の責任者を呼び出す。

来るまで時間があったので少ししか見ていない報告書の続きを読めば読むほどに怒りが沸き上がって来た。

今の段階で確保できている筈の量の9%前後しか作物の徴収が出来ていなかったからだ。

これでは冬を越す食料の十全な確保は到底不可能だからだ。

 

 

「これでは軍隊の食料備蓄1か月分を1週間分に修正する必要があるではないか!あの無能共はあと1週間で戦争を終わらせられるのか!?」

 

例え1週間で終わらせたとしても再び食料生産を回復させたり輸入を再開させたりする上で経過する時間を加味すればこのままだと再び飢餓が発生するのは自明であった。

一体この怠慢を責任者はどう釈明するのか見物だと鼻で笑って、ウォーロックは扉から現れる戦犯を待った。

 

 

「お、お呼びでしょうか主席宰相閣下・・・・」

 

「呼ばれないと思ったか、何故呼ばれたのかも分かっていないか?」

 

「いえ閣下、私共は・・・・いえ私は誠心誠意職務を遂行しましたが、他の者の失態によりこのような結果に・・・・!」

 

「君の間違いは二つある、一つは君自身の失態でなくとも君は君の命令下に入っている全ての人間の行動の責任を負う立場にある、よって君の失態だ」

 

「閣下、閣下どうか・・・・!どうか今しばらくのご猶予を!」

 

「二つ、君は私に呼び出されるまでのこの失態を報告しなかった、私の信頼できる監査官が君の部署の怠慢を発見しなければ・・・・君は知らん顔をして私を裏切り続けていただろう」

 

「それは・・・それは・・・・」

 

「君は解任だ」

 

「お待ちくだ――――――」

 

「パン!!」

 

 

顔面蒼白な責任者は永久にその顔色を好転させることはない。

岩になったかのように硬直して地面に倒れ伏した。

銃口からはまだ煙が出ていた。

 

 

「首相閣下、何事で――――」

 

「パン!」

 

「―――閣下」

 

「ああ、すまない生死確認だ、そのゴミを捨てておいてくれ」

 

「了解です、それとすぐに掃除の者を」

 

「頼むよ、はぁ・・・どうにも激情的だ、面倒な仕事を増やしてしまう、大人しく執行部屋で解雇をすればよかったか、いけないな」

 

 

部屋からはあまりいい匂いがしなかったのでウォーロックは寒いのを承知で窓を開けて外の風を浴びた。

吸い込むだけで肺が凍るような殺人的な寒さだったが彼にとっては吸い慣れた空気だった。

 

 

「徴収の遅れは挽回しなければダメだな、・・・・確か左翼は快進撃と言っていたか、幾らか人員を引き抜いて徴収部隊を編成するのも良いか・・・・1師団も投入したら流石に速やかに終わるだろう」

 

 

窓の外から見える景色を眺める。

美しく煌びやかな街、兵士一人いない完成された国民、全てが自分の美しい国家設計の元に構築された崇高な物であると感じた瞬間、彼は至福に満たされる。

 

 

「クリスマスには、戦争も終わるだろう。そうすればまた・・・・・ふふ」

 

 

遠くばかりを見ているせいで、ウォーロックは眼前にあった木から最後の葉っぱが落ちる光景は見えていなかった。

全てを枯れ落とした木に彼はいつになったら気付くのだろうか。

 

 

 

 

敵が攻めて来ると言う事が殆ど確定した為、居住区は不眠不休で動いていた。

分散を避け、戦力統一を図るために半分以上の居住区は放棄してひとまとまりになる措置が取られた。

かつて住処を追われたように再び長蛇の移動列が出来上がっていたが前回と違い、彼らの顔は決意に満ちていた。

 

 

「第六、七班は地点Cに布陣、第八班は後方に待機」

 

「りょ、了解です・・・・司令!」

 

 

居住区の生活のためにあった議場は戦争の遂行に不適格と判断され、代わりに軍事作戦を司る本部が設置された。

名称などを考えている暇はなかったので単純に司令部と呼ばれている。

そしてそこにいる知識や経験を持っている人達の指示に従って私達は動く事になる。

 

 

「アルデアル居住地一番地在住、チェルナー・カフカです」

 

「確認する・・・・君は、こっちの猟銃と弾薬は3クリップだ、何かも足りていないから一発一発を慎重に使うんだぞ」

 

「狩人に二発は必要ない。なんて、大丈夫ですよ、分かってます」

 

「・・・・自信家だね、思わず格好いいと思ってしまったよ」

 

「私に狩りを教えてくれた人の言葉です、そんな・・・・格好いいんですか?」

 

 

一度居住区の武器とか戦える道具は全て集めて、それを再配分する事になった。

そして装備の受領の為にやって来たけど、一般的な猟銃とポケットが少し膨らむ程度の弾丸しか貰えなかった。

貰った銃には何も装填されてないので手持ちの3クリップ15発で最大15人は葬れる。

少ないと感じ心細く思う自分が怖い、狩りに出る時はこれだけあれば十分に心強く感じたのに。

 

 

「戦いの時も活躍すれば間違いなく。それと記章だ。見えやすい場所につけておけ、味方に間違えて撃たれたくなかったらな」

 

 

渡す物を渡された後は何か指示があるまで待機場所でずっと待つことになる。

だけど忙しく人が動いているのを見るに、長い時間待たされる事はないだろう。

こちらとしても呑気に休んでいる暇がない事は分かっているので長くは待ちたくない。

 

 

「24番地出身のハーバーはいるか!」

 

「君が隊長を務めて他の隊員の指揮を執るんだ」

 

「作業領域は渡した地図の点から点まで」

 

「お前達は撤収が遅れている居住区の手伝いに走れ!」

 

 

部隊単位として動くためにメンバーの終結を待っている人達。

隊に与えられる指示を待っている人達。

あんまり頼りなさそうで雑務に駆り出されている人達。

果たして私はどんな役目を与えられて、どんな仲間とこの戦争に挑むのだろうか。

恐ろしくも、新しい出会いを少し楽しみにしてしまった怠慢な心を戒めて、貰った小銃の動作確認をした。

 

 

「カチ、カチ」

 

 

多くの有名なライフルと違いこの銃のコッキングはただ単純に手前に引き、戻すだけの動作なので、手が思うように動かない昨今の寒さでは頼りになる、とおばあちゃんはよく言っていた。

横に動かす動作が加わると何かに引っかかったりして手間取ってしまうから二匹目を逃すとも言っていたのを覚えている。

代わりに強度が他よりないので大切に扱うようにと、よく叱られていた事も。

 

 

「・・・・・・」

 

「プラチナブロンド髪で身長は145cm、そこの辛気臭い顔してるあんたがまさか私達の隊長って訳ないわよね?」

 

「・・・・カチ」

 

 

コッキングレバーを押して何も装填されていないライフルの薬室を閉鎖する。

後ろからする元気な声を辿ると、まだ子供の様な可愛らしい顔の割には、私と同じぐらいの背丈のガタイの良い子とその連れがいた。

 

 

「ちょっとジュリー、し、失礼だよそれは・・・」

 

「うるさいわねグース!分かってんのアンタ!?私達こんなのに命預ける可能性があるのよ!今まで散々コケにしてきた奴らにかましてやれるってノリノリで来たのに銃の一つすら渡されないのよ!」

 

「二人とも、まだこの人が僕達の探してる人かも分からないんだから、少し黙ろう」

 

「「・・・・」」

 

「プラチナブロンドで身長145cmはここら辺りには私しかしないように見えますね、えっと、頼りなくてごめんなさい」

 

「ほらこの人じゃん!あーもうやだやだ!何で弾一個分だけなの!指で突っついて点火しろとでも言うの!?」

 

「まだ頼りないと決まった訳じゃ・・・・うぅ・・・本当に他にいないんですか・・・・」

 

 

元気な女の子のストッパーに思える男の子は口では理論的な事を言っているけど、私の風貌が情けないせいか感情に負けて不安になって唸っている。

幸いにも終始冷静な男の子が一人いるので彼とはスムーズな意思疎通が出来そうだ。

 

 

「私はチェルナー・カフカと言います、皆さんの名前を聞かせて貰えませんか?」

 

「俺はシャルロット・インサート、こっちの騒がしいのがジュリー・ヴォアナ、唸っているのはダルマン・グリース、皆同じ番地の出身だ」

 

「私は認めないわよアンタ見ないな根暗女が隊長だなんて!だからこの隊長の腕章も渡さない!」

 

「そんな事よりも三人はどうして銃を持っていないんですか?」

 

「そんな事・・・?」

 

「そんなのも分からないの!?私達があんたより弱いって思われて武器を渡されなかったのよ、ナイフの一本でさえ!」

 

「足りないんだ、優先的に渡される人は決まってる、チェルナーさんは運が良かったのか何なのかは知りませんけど」

 

 

冷静な子は大丈夫かなと淡い期待を抱いていたけど、口調からして内心三人全員同じぐらいの印象を私に抱いている感じだろう。

しかし銃を持っていない件、確かに少し考えれば分かった。

例えば一つの居住区から50人程の戦う人たちが名乗りをあげるとすれば、居住区が例え200個でも必要な銃は1万丁になる。

だからなのだろう、武器すら持てずに戦う事を強いられる人が出てくるのは。

 

 

「文句ばっかりを言うなお前等、部隊全員揃ったようだな、ではこれから命令を出す」

 

「ちょっとこの人が隊長とか嫌なんですけど!人変えても貰えません!?」

 

「馬鹿な事を言うな、何もかも精いっぱいで足りてないんだ」

 

「足らぬ足らぬは工夫が足りないのよ!何処かの誰かの怠慢で私達が苦労をするなんてごめんよ!」

 

 

さっきまで休みなく走り回って指示を出していた人が可哀想な事に、困った事を言われて固まっている。

元気な女の子、ジェリーはお手本の様に生意気で自己中心的な兵士のイメージ像を体現したような性格をしている事が分かった。

 

 

「何が不満なんだね君は?」

 

「武器がない事!こんな頼りない隊長がいる事!」

 

「・・・・・そっちの君、少し相談だけど・・・」

 

「あ、はい」

 

「銃持ちはあの子に変えて貰えないか?ついでに隊長職も」

 

「はい・・・」

 

「よし、君を隊長に任命すると共に小銃を与える、これで問題はないか?」

 

「最初からこうしなさいよ馬鹿!」

 

「ッ・・・ん、ンン!・・・君達には偵察に出て貰う、危険な役割だが任務が成功したのなら本隊の効果的な運用が――――――――」

 

 

ジェリーの態度に怒りだしそうになりながらも指示を出す人はそれを抑え込んで苛立ちを含んだ声色で指示を出した。

軍隊と言われる集団に所属するための訓練を1年してきたのだが、その時の敵は偵察など必要ない知性体だったので私も実質何も知らない素人同然と言って良い。

だから分からないなりに仲間の三人と協力して役割を果たしていきたいけれど・・・。

 

 

「さあジェリー小隊行くわよ!私に付いて来なさい!」

 

 

少し高い場所に陣取って御山のガキ大将のような挙動を見せながらジェリーは後も見ずに走り出した。

こんな体たらくの集団ばかりでない事を願うが、もし願いが届かない場合は間違いなく戦いに負けるだろうと私は固唾を呑んだ。

置いていかれる前に私は進む彼女たちを追いかけた。

 

 

「なぁおいアンタ、偵察ってあんな素人集団に出来んのかよ?」

 

「ああいう歩調を乱す無能は誰にも迷惑の掛からない所でへまをして死んでもらうに限る」

 

「うっはぁ、手厳しいなあ」

 

 

先を急ぐ私は、愚痴るように吐き出される真実を聞く事はなかった。

 

 

 

 

「所で偵察って具体的に何をすればいいんだろ?」

 

「そりゃ敵の数と進んでいる方向に決まってるでしょ!」

 

「じゃあすっごく沢山いたら全員数えるまで帰れないの・・・!?」

 

「馬鹿か?大体で良いに決まってるだろ」

 

 

山中を進みながら仲良し三人組は固まって自分たちに与えられた任務について話し合っている。

私は、まあ蚊帳の外と言って良い。

 

 

「それにしてもアレ、役に立つのかしらねえ」

 

「弓矢も・・・ないよりは?」

 

「弱いだろ、無駄に大きいし目立つ」

 

 

銃一つですら心細かったのにそれすらもなくなったので普段使っている弓矢を持ってきたら何故か嘲笑されているのは納得できない。

仲良し同士で仲良くするのは勝手だけどそれが誰かを阻害する集団戦法として用いるのは卑怯だし最低だ。

 

 

「皆さんは普段狩りをする時に何を使っているんですか?私はコレを使っていますけど案外頼りになるんですよ」

 

「っぷ、その手作り感満載の木の枝が役に立つの?」

 

「少なくとも銃を持った相手に馬鹿みたいに走って近づいてハチの巣にされる前に頭に木の枝を突き刺せます」

 

「「・・・・・・・・・」」

 

「私はてっきり何かしら皆さん武器を持ってくると思ったんですけど、石なり何なり、でも手ぶらに見えますけど大丈夫ですか?」

 

「任務は偵察だろ?武器なんてあっても邪魔だ」

 

「そ、そうだよ!戦うより逃げた方が良い!」

 

「さっきは『かましてやる!』って息巻いてたのに随分と逃げ腰ですね」

 

「それはジェリーの話で僕は別に・・・・」

 

「ちょっと何なのよアンタ!黙ってついて来ればいいのに言葉攻めにして嫌がらせか何か!?」

 

 

ここに鏡があれば堂々と提出したいぐらいにどの口がと言える状況になってしまった。

先に喧嘩売った・・・というか水掛け論以前に私に非があるとは思えない。

 

 

「私は弓矢が頼りないと憂慮していた皆さんに素晴らしさを説いただけですよ、それと嫌がらせじゃなくて心配してるんです、死なないか」

 

「陰鬱なアンタに心配されるほど私は弱くない!」

 

「そうですか、では隣のお二人は?」

 

「二人は今関係ないでしょう!!」

 

「・・・・んっ?」

 

 

ダメだ会話が成り立たない、こんなだから「兵士は・・・」って言われるんだ、情けない。

私が何も言わないから勝ち誇ったような笑みを浮かべてまた歩き始めているからまあ・・うん、気にするのはやめよう。

大人しく静かに付いて行って身内の事より何処に潜んでいるかも分からない敵に注意を向けよう。

今になって矢数に不安を覚えたので道すがら人に投げたら痛そうな石を何個か拾う事にした。

 

 




ウォーロック首相「君は(この世から)解任だ」
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