戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話 作:エルカス
「ちょっと!支給品が弾丸一つってどういう事よ!」
「弾丸は一つじゃないぞ、五発ある」
「知らないわよそんな事!私の質問に答えなさいよ!」
「知らないからそれ一つなんだ、当然知っている奴に貴重な武器やモノを渡す」
「まだ子供だからって馬鹿にしてるの!」
「学が浅いから言っているんだ」
「馬鹿にして!」
毎日のように畑を耕して耕して、耕して耕して・・・そんな生活はもうまっぴらごめんだった。
どこに行っても兵士は爪弾き者で苦を強いられる、周りはこんな未開地に来て「自分たちの居場所を作れる!自由だ!」と息巻いていたけど私に言わせれば勘違いも甚だしい。
ただ箱庭を与えられてそこに動物の様に放逐されるこの現状の何処が自由だというのか。
「ジュリー、だ、大丈夫?」
「これが大丈夫に見える!?心配する心があったら私が戦ってる時にどうして加勢しなかったの!だからあんたはいつまでもグースなのよ!」
「ご、ごめん・・・」
「それでどうするんだ?今からでも畑を耕しに帰るか?」
私の正当な抗議は、それを煩わしく思った矮小な男に平手打ちによって黙殺された。
もちろん反撃をして顔に一発拳をお見舞いしたけれど。
でも結局のところ、貰えた物は弾丸五発だけだ。
「帰る訳ないでしょ!取り敢えずは生意気にも私達の隊長になる奴と合流よ!」
私達の上にいる人だからきっと権限とか偉さ度合いが高いからもしかしたらその人から良いように融通して貰えるかもしれないと期待したけれど。
探し出した結果、私達の隊長は日陰で本と向き合ってそうな根暗な女だった。
お洒落とかまるで知らなさそうに、今にも壊れそうな、というか殆ど壊れているボロボロの髪留めで、可愛げなく雑に束ねて猫背で銃をカチカチとしている姿はダサかった。
「幾らなんでもアレはないんじゃない」
「でもそれらしい人はあの人以外にいないよ・・・?」
「伝達ミスの可能性はないのか?」
「すぅ・・・・プラチナブロンド髪で身長は145cm、そこの辛気臭い顔してるあんたがまさか私達の隊長って訳ないわよね?」
「ちょっとジュリー、し、失礼だよそれは・・・」
「うるさいわねグース!分かってんのアンタ!?私達こんなのに命預ける可能性があるのよ!今まで散々コケにしてきた奴らにかましてやれるってノリノリで来たのに銃の一つすら渡されないのよ!」
「二人とも、まだこの人が僕達の探してる人かも分からないんだから、少し黙ろう」
「「・・・・」」
「プラチナブロンドで身長145cmはここら辺りには私しかしないように見えますね、えっと、頼りなくてごめんなさい」
私の声に気付いて少し遅れて振り向いたダサい隊長はまるで覇気を感じず、私の勝手なイメージ通りの気弱な声と腑抜けた顔つきだった。
これから戦おうって時にこの頼りのなさは犯罪的と言わせてもらいたいぐらいに。
だからもう一度正当な抗議をした、幸いにも一回目と違って目の前に説得力のある証拠があったので要求は通ってあの根暗から隊長権限と銃を剥奪できた。
「さぁ隊長の私に銃を渡しなさい、部下!」
「はい、分かりました」
顔色を変えずに大人しく私に銃を返却した時に私は勝利の余韻に浸った、実際はまだ何も勝っていないのだけど私の身の丈に合う環境に一歩近づいたという事で勝利とした。
グリースとシャルが何も武器を持っていないのは気がかりだけど私が敵を何人も倒して武器をゲットすればすぐにでも解消されるから問題じゃない。
しかし私達は銃弾5発なのにどうしてこの根暗には15発と銃が貰えたのか理解できない。
大人に取り入るのが上手なぶりっ子なのだろうか、だとしたらそれを下した今は気分がいい。
多少の問題はあれど私達は任務を与えられてそれを果たすために下山して居住地から十数km離れた所までやって来た。
もっとこう胸躍る冒険とかを期待していたけど現実はずっと続く同じような景色をひたすら眺めるだけ。
探せど探せど人っ子一人いない。
「あ~歩くの疲れた、休みましょ!」
「賛成ぃ・・・・ふぅ、足が棒になっちゃうよ」
真っ先に座るグリース、先程からフラフラと歩いていたからまさかとは思っていたけど体力的に厳しかったのだろう。
情けなさを感じつつ私も足の疲れを癒すために座る、シャルも口数が少ないのは変わらないけど息遣いから察するに少し疲れたのだろう。
懸念事項といえばあのいけ好かない根暗が座らずにわざとらしく遠くを見ている事だ。
「どうしたのアナタ、座らないの?」
「敵が隠れて来ていたら怖いですから」
「だから私達も座ってないで立てって?」
「まあ視線が低ければ遠くは見えませんから立っている方が良いですよ」
「冗談じゃないわ、アナタ一人で立ってなさい馬鹿々々しい」
「・・・・・」
「モグ・・・モグ、このパンぱさついてる・・・みず・・・」
きょとんと間抜け面をした根暗は溜息をついて道の向こうに行ってしまった。
視界から消えたら気分が良くなったので今後も出来るだけ喋らずに端っこにいて欲しいものだ。
他の二人と同じように携帯していた食べ物を頬張ってみるけど確かに水分が持っていかれる不味いパンだ。
「ゴク、ゴク・・・・ぷはぁ・・・あ、・・・もう水なくなっちゃった」
「えぇグースあんた馬鹿ァ!?来て戻る事を考えて飲みなさいよ!?」
「あ、そっか・・・・ごめん」
「俺の分を少し分けようか?」
「ありがとう・・・シャル」
「しょうがないわね!私も・・・あ、」
「どうしたのジュリー?む、無理に僕に分けなくてもいいんだよ、元はと言えば僕が悪いんだし・・・・」
「ち、違うわよ馬鹿!・・・こ、これはそう!わざわざ分けなくても火を焚いて雪を融かせば水なんて幾らでも手に入るから分ける必要はない事を思いついただけよ!」
本当は嘘だけど咄嗟に上手い誤魔化しが出来たのは不幸中の幸いだ。
グリースに渡しかけた水筒を引っ込めて中身を見る。
少し傾けただけで底の金属板が光って見える。
「そっか!雪を溶かせば水になるからね!早速やろうよ!あ、でも・・・入れ物とかは・・・?」
「鍋なら持っている」
「シャルあんた何で鍋なんて持ってきたのよ・・・」
「上手い物を焼いて食べるためだ、まあうん・・・悪いか?」
「悪くないわよ!さっすがね!」
思わぬ幸運に助けられて水を確保できる算段が付いた。
鍋に沢山の雪を盛って、雪の積もった地面を掘り返して貰えそうな枝とか落ち葉を集めてマッチで火をつけた。
「水が確保出来たらまた出発しましょう」
「そ、それであとどれくらい歩くの?帰る時ちゃんと迷わずに帰れるの?」
「大丈夫、コンパスも持ってきた」
「さ、流石ねシャル・・・」
グリースに言われてどきっとしてしまったけどコンパスがあるならきっと迷わずに帰れる事、間違いなしだろう。
鍋に盛った雪が下か溶けて水の膜を形成してどんどんと出来上がっていく。
こうして私達三人全員の気が鍋に向いている時に、事件は起こった。
「何をしているの!?」
「え、あ、ど、どうかしたの!?」
「何をしていると言っているんです!」
何故か猛烈な勢いでこちらにあの根暗が走って来て意味の分からない事を喚いている。
あまりにの豹変ぶりに怖くなる。
「何で火なんてつけてるの!」
「シュゥウ・・・・」
「あ゛」
「ひ、火を、消しちゃった・・・」
動揺している内に根暗女が鍋の中身を逆さにして火にぶちまけた。
一瞬大きく燃え上がった炎はそれ以降燃えることなく鎮火された。
「ちょ・・・ちょっと何してくれんのアンタ!折角水を確保しようとしたのに――」
「パシッ」
「え―――」
突然の奇行に抗議の声を上げようとしたら有無を言わさず平手打ちをされた。
鋭い痛みに悶えながらも私は怯まずにこの暴力女と相対した。
「何を考えているんですか!?こんな誰もいない所で・・・・!!皆の命を危険に晒して!」
「わ、私達は水がなくなったから雪を溶かして水を作ろうとしただけよ!」
「じゃあ雪を食べれば良いじゃないですか!!何で溶かしてるんですか火をつけて!」
「そ、そりゃぁ・・・雪なんて食べたくないからで・・・・あ、え、ご、ごめんな――――――」
「パシッ」
「い、痛っ・・・いたぁ・・・い、いたぁぃ・・・・」
もう誰彼構わないのかこの暴力女はグリースも引っぱたいた。
この勢いだとシャルも暴力も振るわれる事間違いないから私はもう一回この暴力女の進路を塞ぐように立った。
「口では勝てないから暴力で私達を支配するの、だっさいわねアンタ」
「口で言っても分からないなら他にどうすれば良いんですか!?悪びれもなく被害者面をして反吐が出ます!」
「一体何が気に入らないんだお前は」
「まだ分からないんですか!?私の話を聞いていないんですか!?火を起こせば煙が出る!今日は曇りでもなければ豪雪でもない!こんな快晴の日に立ち昇る煙なんて見つけやすい事この上ない!」
「・・・・敵に私達の存在が丸わかりって事・・・・?」
「そうですよこの馬鹿共!」
「「「・・・・・」」」
「分かっているの・・・・?これはピクニックじゃない、戦争なんですよ・・・?」
暴力を振るった次は同意を求めるように馴れ馴れしい手つきで私の肩を叩く。
説教まがいのその立ち振る舞いに少し苛立ちを覚えたから私はその手を振り払った。
「っ、分かってるわよそんな事!でも飲んで食べなきゃ誰であれ死ぬのよ!実際問題どこに敵がいるのよ、もう少しで雪が溶けて水になったのにあんたが鍋をひっくり返したせいでやり直しじゃない!どうしてくれんのよ!」
「は?・・・ッ、・・・・もういいです、私の水をあげますから」
「あ、ちょ」
観念したように見えた暴力女は有無を言わさず私が持っていた水筒を奪い取る。
水は私なんかよりもグリースの方が必要だからそっちを優先するべきなのに人の話も聞かずに勝手な事を・・・。
苛立ちが溜まっていたので力任せに水筒を奪い返した。
「勝手に取らないでよ!」
「パシン」
「あ」
「あ、水が・・・・」
この馬鹿女がちゃんと自分の水筒を持っていなかったせいで私がちょっと手にあたっただけで落として地面に水を撒いた。
雪が水を吸ってしぼんでいく。
「・・・・・・」
「な、何よ!あんたがちゃんと持っていないのが悪いんでしょ!」
「そう、・・・ですね」
「私の分はあげないから!あ、雪を食べろって言ってたしそうしたらどう?人に言っておいて自分が出来ない筈ないわよね?」
図星だったのか馬鹿女の顔から怒りが消えて冴えない顔に戻った。
緩慢な動きでしゃがんで水がしみ込んだ雪を見つめている、食べるのを躊躇しているんだろう。
正直に自分の間違いを認めれば皆で仲良く水を分けて何とかさせてやろうかと思ったけど・・・・。
「モグ、・・・モグ」
「え、本当に食べるの?」
「マジかよ・・・」
あろうことか本当に雪を食べていた。
というか結構深い所まで・・・たぶん地面の土とかよく分からないゴミとか小さい虫も潜んでいる物関係なく食べた。
水が染みついた場所は地面が見えるまで雪が減っていた。
予想だにしない行動に私はただ立ち尽くしてみている事しか出来なかった。
「・・・・な、なによ!」
「雪、食べないんですね」
「そ、そうよ悪い!?」
「なら、どうぞ、三人で仲良く飲み回してください」
そう言うとこの雪食い女は自分が持っていた水筒を私に差し出して来た。
一体どういう事なのか理解が追いつかない。
「どういう意味よ」
「無理なら強要はしません、私は喉が渇いたら雪を食べればいい、水なんか必要ないですよ。だからあげます」
「・・・・・?」
「どうぞ」
やはり理解できないが私を待つ気なんてないらしく、無理に手を掴まれて水筒を受け取らされた。
結構零れたように見えたけど水筒はずっしりとした重さをしていた。
この分だと多分、一口も飲んでいないのだろう。
きゅっとなった喉の不快さを紛らわせるために私は自分の水筒を飲み干した。
休憩は終わりにして再び出発して敵を探し始めた。
何だか屈辱的な敗北を味わったようで悔しかった。
今日も健やかに生きてるニキネキは間違っても雪なんて食べるんじゃないゾ